第 4 章 当事者団体による障害者運動 ———「一加一」と「瓷娃娃自立生活項目」を例
3.1 調査の概要
筆者は2018年7月に北京市「瓷娃娃」事務室で3人の組織参加者を対象に、インタビ ュー調査を実施した。本節では、個人インタビューの事例のほかに、組織から取得した内 部資料や、Webサイトの説明、組織および創設者のソーシャルメディア、ブログの内容か ら収集されたデータも使用している。調査対象者には、自立生活項目の創設者、ピアカウ ンセリングの担当者、業務運営のスタッフが含まれている。対象者の具体的な状況を表4.4 に示した。
表4.4 対象者のプロフィール
年代 性別 障害種別 最高学歴 職位 F 20 女 不明 大学 組織管理者 G 20 女 身体障害 不明 ピアカウンセリング H 20 男 身体障害 大学 業務運営
調査の具体的内容は、二つの面に分けられる。一つは、自立生活項目の展開をめぐり、
その創設経緯、国際機関とのネットワーク、運営体系、政府との関わり、社会の影響力、
知的・精神・重度障害を持っている人の自立に関する考え方、今まで展開された項目の内 容と課題、展開方法、政策制定の参加および将来の計画についてである。もう一つは、こ の自立生活項目に参加した当事者に対するものであり、自立生活をめぐって、生活のスト ーリー、自立への意識の変化、「共生社会」についての理解、および自立生活を達成する ための条件についての考え方などに関するものである。
表4.5 調査項目
① 基本属性に関する質問
性別/年齢/障害種類/学歴/担当する仕事の内容
② IL項目の展開方法
創設経緯/国際機関との連携状況/資金援助の状況
③ 今まで展開された活動の内容と課題
活動の内容/これからの方向性/地方DPOに対する支援状況/政府の支持状況
④ 社会の影響力
項目の規模/地方との連携/社会に対する影響
⑤ 将来の方向性
これまでの課題/将来の計画
⑥ 自立生活についての考え方
3.2 「瓷娃娃」自立生活項目の概要
「瓷娃娃」は2008年に骨形成不全などの原因による希少疾患の当事者によって設立さ れた中国北京市に位置するDPOである。最初は脆性骨疾患などの希少疾患に起因する障 害のある人を対象に、主にケアサービスの提供、希少疾患に関する啓蒙活動や権利保障の 普及に努めていた。その後、障害のある人びとの自立生活と平等な権利の実現、共生社会 の啓発活動を進めており、就労支援やIL項目などの様々な活動も行っている。
3.2.1 創設経緯
中国における多くの障害のある人びとは、従来から家庭から過度な保護を受け続けて おり、家族や周りの人に依存的になっていた。そのため、いかに自分の考え方を適切に家 族や社会の他者に伝え、当事者の自らの時間を自分のペースで使って自己管理ができる か、といった自立生活の技能と意識が不足していた。こうした状況から脱出するのを期待 することをもとに、アメリカに留学して帰国した調査参加者Fが、同じくアメリカの自立 生活理念に影響された「瓷娃娃」の創設者である王奕鷗との協力で、「瓷娃娃自立生活項 目」を始めた。
「私はアメリカでリハビリテーションカウンセリングを学び、アメリカの自立生活セン ターの影響を受けて、中国でもこのようなことを実施しようと思っていた。2013 年帰国 した時に、「瓷娃娃」の王奕鷗と出会って、彼女もアメリカの自立生活思想を知り、そし
て一緒に中国の自立生活を推進しようと思い、この項目を共同設立した。項目を開始する 前に、私たちは多くの障害活動家と相談した。そして、中国の状況はアメリカや日本と異 なることを理解して、最初に何ヶ月間の講義を行うことを計画した。障害のある人におけ る自立生活上の問題の解決や、障害意識に関連するものだ。多くの障害者リーダーを招い て参加者に自分の経験を共有したり、どのように家族から離れて自立生活をするのかに ついてのストーリーを教えた」(対象者F)。
このように、アメリカ自立生活運動の影響を受けており、自立生活センターで展開され ている自立生活技能項目を、中国の実情に合った形式で展開し、自立生活の意識を中国に 広げることを目的に事業を始めた。障害のある人びとの技能中心とする自立生活訓練で はなく、従来の意識を変化させ、自らの障害をありのままに受け入れ、アイデンティティ ーの確立や自信を身につけることや、自らの生活に対する意欲向上と自己決定などの意 識の転換に重点を置く項目を作成した。この考え方に基づき、自立生活の思想と技能に関 する知識のレッスン、ロールプレイング、コミュニティへの参加、外出行動、ピアカウン セリングなどの活動を行い、さらに障害のある人だけでなく、障害を持っていない人びと に対しても自立生活への意識の変化に取り組んでいる。現段階において主な参加者は、16
〜35 歳までの一定程度の自立意識を持っている障害のある人である。また、参加者の中 に何人も、家族から離れて実際に自立生活を始めた人が現れており、またかつての参加者 であったが、現在はピアカウンセリングを務める人もいる(調査参加者G)。
3.2.2 連携機関と資金援助
自立生活項目の発足当初は社会からの寄付や、基金会からの援助を受けたことがある。
対象者Fの話によると、「項目の運営資金源は毎回異なり、政府によるサービス購入から の資金もあるが、ほとんどの支援は基金会や、公益組織、社会からの寄付だ」ということ がわかった。また、2016 年から中国政府による海外からの資金に対する審査が厳しくな り、その影響で現在では海外からの支援を受けていない。
項目の運営以外に、多くの公益組織と連携して障害のある人の自立生活を推進してい る。そして、メディアの支援を通じて社会に宣伝することによって、多くの機関が自立生 活体験の場所を提供している。連携機関と資金の詳細は以下の表4.6の通りである。
表4.6 「瓷娃娃」の支援機関 支持内容 援助機関
資金援助 北京市宝くじチャリティー、Tencent Le Donation、ME公益財団法人 イノベーションファンドプログラム、「镐娃娃李敏镐」公益団体 項目連携 北京「瓷娃娃」ケアセンター、北京疾病挑戦公益基金会、済南「瓷
娃娃」ケアセンター、北京利智リハビリテーションセンター 北京融 愛融楽知的障害者家族支援センター、ワンプラスワン障害者団体、
北京大学医学部障害予防管理協会、女性障害者支援団体 等 場所提供 障害者活動センター、王府井新東安、希少疾病開発センター、「居
然之家」赤木ホール、北京和睦家リハビリテーション病院、東城区 コミュニティサービスセンター、Home、北京朝陽区挚爱職業技能訓 練学校、中関村学院調理学校、東城区天壇青少年活動センター 等 メディア支持 Tencentニュース、Youku公益、愛ライブ、公益巷、NGOCN、中国
発展報告
個人支持 獅子会—韓润峰 等の11人
出典:「瓷娃娃」自立生活項目の情報資料に基づき筆者作成
3.2.3 理念と目標
「瓷娃娃」自立生活項目は、障害のある人びとの生活問題の解決方法の指導、社会参加 の促進、自立生活意識の向上、そして自らの価値を認めるための支援に取り組んでいる。
その主な理念や目標については、以下のインタビュー内容から考察することができる。
まず、障害のある人びとの職業支援と社会参加の促進については、「地域の社会生活に 平等に参加できるよう、障害のある人びとの自己決定権の向上に努めている」という考え 方を示した。
「確かに就職支援のためのコースや活動が含まれているが、技能訓練に重点を置くもの ではなく、障害のある人びとの精神面での就職意欲も支援する。例えば、私たちはいかに して自らのことを受け入れるか、どのように家族や周りの人、社会に自分の意思を伝える のかに関する意識の構築を支援する。これらの理解も障害のある人びとの職業発展とつ ながっていると考えている。私たちの自立生活の理念の1つとしては、個人の自主的な意 識と能力を向上させることが、障害のある人びとの可能性を伸ばすことにつながり、それ によってさらに積極的に社会に参加できるようになると考えている」(対象者F)。
また、自立の意味については、すべてのことを自分で処理するというわけではないとい うことが強調された。「世の中の人は誰でも何らかの支援によって生活している。障害は 一種の特徴であると考えており、治療すべきものではない」という観点から、従来の障害 観を打ち破ろうとしていることがわかった。そして、家族に過保護にされてきた障害のあ る人が、より自立した生活を過ごせる力を習得できるように努める目標が示された。
「実は、世の中にいる人は誰でも障害を持っている。例えば、上に行く時に、階段が必 要となる、遠いところに行く時にバスや電車がなければ行けないし、普段の生活はたくさ んの人の支えで成り立っているし、他のメンバーがいないと生きられない、というものだ。
私たちは社会の一員として、いつでも誰でも何かのツールか、他人の助けを借りて「障害」
を克服して生活している。障害は欠陥ではなく、一種の特徴だと考える。重要なのは、そ れを治療するのではなく、それと共に世の中で生きるのだ。自立生活は、すべてのことを 自分で負担するのではなく、家族と一緒に従来の障害意識を克服し、自分の望む人生を実 現し、そしてそれも自己の責任でできることを意味していると考える」(対象者H)。
そして、「自分の人生をコントロールし、自分の生活に関わることに声をあげる権利が ある。簡単に言えば、自己選択、自己決定、自己の責任でできる」という話から、誰でも 自由に選択し、自分の生活をコントロールする能力と権利を持っていることを強調して いることが分かる。さらに、参加者の中で最も多いのは身体障害のある人であるが、知的 障害のある人もいる。担当者はこれについて「特定の障害種に拘らず、多元化の理念」を 強調した。
こうした理念のもとに、自立生活項目は、社会モデルの視角に立ち、障害のある人びと へのエンパワーメントを重視し、講義とピアカウンセリングを主要な方法として行われ ている。
3.2.4 自立生活項目の展開 3.2.4.1 主な展開活動
この項目は2014年に創設されてから、調査実施当時までに5回開催された。各回約8 ヵ月間続き、毎週末に集中講座を実施する。2017年は2回行われ、1回が3ヶ月続いた。
参加者は肢体障害が大多数であるが、視覚障害や知的障害もいた。主な内容は、教育、自 立生活体験、およびカウンセリングという三つの部分に分けられる。期間中は合宿形式で 実施されるので、参加者同士の互いの刺激や助けになると同時に、実際にグループでの外