第 4 章 当事者団体による障害者運動 ———「一加一」と「瓷娃娃自立生活項目」を例
2.3 行政側から評価を得る戦略
2012 年、一加一は、障害者権利条約の履行状況に関して国連障害者権利条約特別委員 会が審査を行った際にシャドーレポートを提出した。このレポートは、イネーブル障害学 研究所と連携し、政府の報告書において触れられていない問題や当時中国の様々な権利 条約を満たしていない現状を説明し、さらに、国連に提出すると同時に、中国政府にも同 じ内容のものを送った。これは国際条約を利用して政策的提言を行う一つの手法だと考 えられる。
このレポートを作成するにあたって、当事者団体として障害関連の国際的事業に対す る参加の意欲が示され、中国国内の状況改善の促進と権利保障の視点から、当事者からの 声を世界に出すことができた。そして、メディアを活用して影響力を拡大し、政府から団 体への圧力を軽減させるものとなった。
さらに重要な戦略としては、シャドーレポートに引用されたデータは客観的であり、中 国政府に対する批判的な表現や子供の喧嘩のような表現を避けるものであった。組織担 当者からの話によると、他の苦情申し立て者との最大の違いは、彼らが提出したものは、
問題指摘だけでなく、障害のある人びとが望んでいるニーズと解決策も提案したことで ある。また、「普通に政府部門にこのような報告書を提出しても無視される可能性が高い ので、国際機構の圧力で中国政府もこれらの問題に注目するようになると考える」と語っ てくれた。
その後、中国政府は一加一に対して積極的に受け入れる態度を示し、組織関連者が障害 者会議に招待された。このことをきっかけに、一加一は政府側と特別な交流ルートを築い た。政府による民間団体に対する制限は相変わらず存在しているが、一加一は他の非政府 主導組織より発言権を持つことができるようになった。
「中国の社会環境でこのようなことをするなど、相当難しいと思うけど、その後、政府 からの処分など何もなく、逆に全国の障害者会議に招待してくれました。最も興味深いこ とは、非政府組織からこのようなレポートを提出できたことを褒められたことです」(対 象者A)。
2.3.2 障害者連合会との協力
現在の中国社会において、障害者連合会に代表される政府部門は、民間の障害者自助団 体との関わりが非常に重要である。障害者連合会の態度や支持状況は、自助団体の発展や
資源などをある程度決めている。しかしながら、現在の状況において、政府部門と自助団 体の双方に確かな信頼感が築かれていないことによる問題が現れている。
例えば、一加一にインタビューした際に、対象者Aは以下のように述べていた。
「市民組織として連合会の資源を奪うなどということはないのだが、もちろん連合会は 自助団体を認めようとはしません。実のところ、もし連合会がリハビリやいろいろな活動 や資源を私たちのような組織に任せたら、多分もっとよい効果が得られるでしょう。しか も彼ら(連合会)はもっと仕事が楽になると思います。しかし、これには意識の転換が必 要で、今の段階では少し難しいでしょう。とはいえ、いまの状況は数年前よりは良くなり ました。また、連合会や国内のある基金会からの資金を援助してもらったら、自由に活動 を行うことが難しくなります。彼らの指示に従わなければならないからです」。
このインタビューからも、障害者連合会はいまだ自助団体の機能や性質を十分に認識 せず、多くの場合は政府側の立場に立って、自助団体を一種の圧力だと考えていること、
そしてまた、障害者自助団体は連合会からの基金を受給して活動を行うと、自主性を失っ てしまう可能性もあるという、政府部門と自助団体の間に存在する難しい関係が明らか になった。
一方、一加一はこのような状況を変え、「自分の理念に一致していることだけを受け取 る」という戦略で連合会と協力していこうとしている。また、この過程において、連合会 の人にも影響を与え、両方の理解が高まった。さらに、連合会との協力を行政側との一種 の接続点だと考え、それを通じて行政と関わることができる。
「過去に政府からのサービス購買がなかった時、私たちがやりたかったことは彼らと話 し合って、彼らの尊敬を勝ち取ることでしたが、サービス購買するようになった後は、生 き残るために彼らに依存しなければならなくなりました。また、連合会も私たちの組織に 対する認可の程度が減少したと思います。ですから、私たちは自分たちの道に戻らなけれ ばならず、自分でやらなければならないと思っています。政府が私たちのやりたいことと 一致したら、協力してやります。また、この過程の中で、彼らに影響を与えることができ ることも発見しました。個々の政府職員に影響力を持っていることは、非常にありがたい と思います」(対象者A)。
2.3.3 政府が管理する範囲内での行動 2.3.3.1 障害分野に専念
一加一が中国の権利擁護活動が非常に制限されている環境の中で、近年、障害のある人 びとに大きな影響を与えているのは、「障害分野に専念する」という戦略によるものと指 摘することができる。前述のように、「障害」のある人は「社会の弱いグループに位置付 けられる」という偏見が強いが、この偏見をうまく利用して、中国の社会環境で権利擁護 主張の活動を行っても、「慈善的なもの」と見なされるので、特に抑圧されているわけで はない。また、最初の段階では、他の人権運動とあまり関わっておらず、障害に関連する 分野の範囲で活動を行っている。
「まず障害についての活動は、政府から見ればそんなに敏感になるようなものではない。
だから、この意識のもとで当事者としても私たちは何をしてもただ慈善的な行為だと見 なされ、社会を変えるなんて政府はそう考えていないのです。また、他の団体は、障害の ことを借りて人権運動とかを行う意欲がありますが、私たちは彼らと接触することをけ っこう気をつけています。彼らの考え方に反対するわけではないのですが、もし人権運動 を一緒に行えば、政府側は一緒に抑圧する可能性が高いですから」(対象者A)。
2.3.3.2 海外からの基金に対するやり方
一加一は創設期からイギリスからの資金援助を受けていたが、2016 年から中国政府は 海外からの資金を受けることを厳しく制限している。そのため、海外の資金を受けて活動 を行う非営利組織は、政府から正当性を認められることが困難である。この点について、
一加一は、接触した海外の組織や人、そして資金の用途などの情報を政府に公開し、隠さ ない方法で行政と交渉している。
「海外の資金援助や組織などと接触することは、もちろん政府は望まないのです。私た ちは、これに対して、向こうの情報を政府に公開することで、誰と接触するのかなどを政 府が把握することができるようにしています。また、この資金を受けて何をするのかにつ いての情報も公開されており、それによって政府はコントロール可能だと考えるでしょ う。この前のシャドーレポートの提出もこのようなやり方で、特に政府を批判するわけで はなく、ただ事実をいうだけで、さらに政府にも同様な内容を送っており、政府が予測可 能な範囲で活動を行うなら、特に問題はないのです」(対象者A)。
2.3.3.3 情報サービス提供
一加一は、2008 年に障害者権利条約が批准された後に、国際機関における条約の普及 に関連するトレーニングに参加した。そして、「私たち抜きに私たちのことを決めるな
(Nothing about us without us)」という権利条約の策定過程においてすべての障害のある 人びとに共通する考え方を理解し、それをきっかけに権利擁護活動を行う必要性をさら に意識するようになった。それ以降、一加一は障害のある人びとへの情報サービスの提供 を通じて、権利擁護、障害意識に関連する啓発教育などの運動を実現することができた。
一加一が実現させたことを、以下の節で詳しく述べる。