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バリアフリー環境について

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第 2 章 中国における障害のある人びとの実態

3.4 バリアフリー環境について

障害のある人びとや、高齢者、乳幼児などの外的環境に対する障壁を配慮することはイ ンクルーシブ社会にとって非常に重要である。障害とバリアフリー環境の関係について は、時代の社会的、経済的諸条件によって様々な分野と関連しているが、大きく分けて移 動、情報、そして動作巧緻障害を軽減する必要があると指摘されている(野村 1993: 129)。

以下の表 2.16 では障害とバリアフリー環境の関係について、バリアフリー建設の必要性 を示している。

表2.16 障害とバリアフリー環境の関係 Disability

Impairment

情報障害 移動障害 動作巧緻障害

視覚障害 ● ○ ○

聴覚障害 ● ○

触覚障害 ○ ○

言語障害 ○

上肢障害 ●

下肢障害 ●

精神障害22 ○ ○

出典:野村(1993)

注:Impairment:臓器レベルの機能障害

Disability:Impairmentによってもたらされる人間レベルの能力障害 Handicap: ImpairmentやDisabilityによってもたらされる社会的不利

●:Handicapを軽減するバリアフリー建設の必要性が極めて大きい

○:Handicapを軽減するバリアフリー建設の必要性がかなり大きい

ヨーロッパの高福祉国家では、1960 年代からバリアフリー建設が始まり、東アジアに おける日本でも1973年の身体障害者福祉モデル都市制度の発足とともに、公共的施設を 中心にバリアフリー環境の整備が進んでいる。バリアフリー環境の整備は、様々な分野と 関わっており、教育、医療などの専門的活動での外的環境だけでなく、現代社会の多様な ニーズも及び、特に情報バリアフリー化を構築していくことが求められている。以下では、

近年の中国政府による障害のある人びとのバリアフリー環境の整備に関する取り組みに ついて検討する。

3.4.1 政府の取り組み

中国は1990年の「中華人民共和国障害者保障法」の公表から、政府部門の住建部、民 政部、障害連合会をはじめとして、バリアフリー環境の推進を図っている。2010 年から 政府は一連のバリアフリー環境建設に関する一連の規定や計画を制定した。2010 年に、

障害者連合会、教育部、民政部を代表とする16の政府部門では、「障害者社会保障体系 とサービス体系建設の指導意見」が作成され、「意見」の中で地方政府が障害のある人の 居宅環境のバリアフリー改造に補助金を出すべきだと提出された。また、都市部の道路、

公共施設、居住環境、公園などのバリアフリー化の推進を行うために、バリアフリー建設 の規範、標準、実施管理に関する規定を作成する必要があると示された。この「意見」を 促進するために、2012年度に、国務院が「バリアフリー環境建設条例」を公表し、バリア フリー環境の建設、情報交流、コミュニティーでのサービス供給、法律などについての規 定を提示した。そして、2013年に国務院が「国民旅行休暇概要(2013〜2020)」の中で、

各地方の公共施設のバリアフリー化、観光地の情報交流のバリアフリー化を要請した。

2015 年に民政部、障害者連合会などの部門が連携して「農村部のバリアフリー環境建設 の指導意見」を提出し、それをきっかけに中国のバリアフリー環境の建設が都市部から農 村部に及び、2020年までに明確に改善される目標が提出された。さらに、2016年に公表 された「中華人民共和国国民経済と社会発展第13つの5年(2016〜2020)」(略称十三 五計画)において、障害のある人びとの権利を保障するために、バリアフリー建設の促進 が必要となり、同年の「バリアフリー環境建設の十三五実施法案」では、公共交通機関の 設備のバリアフリー化、居宅のバリアフリーデザインの促進、インターネット情報のバリ アフリー化に重点を置くことが示された。

このように、中国政府は徐々にバリアフリー環境を整備する動きを示しているが、バリ アフリー建設に関する規則の内容は曖昧であり、実際の効果には疑問がある(沈ほか 2018)。

3.4.2 統計データから見る現状

「バリアフリー環境建設条例」の公表をうけて、各政府部門と社会は、環境施設、情 報交流、コミュニティーサービスという3つの分野のバリアフリー化を図っている23。 以下の内容は『中国障害者バリアフリー施設および環境建設報告(2018)』24

2012年から全国における650あまりの都市、1,600以上の県において環境が改善されて いる。また、農村部や古い町における障害のある人の居宅にまでバリアフリー改造が進め られている25。公共交通機関については、交通部門が「バス停の級別と建築要請」、「タ クシー運営規範」、「港の設計規範」、「障害者航空運送管理方法」などの規則を出し、

障害のある人びとの外出を保障する意向が明確になっている。そのほか、障害のある人び との専用座席や、盲導犬の乗車許可、バスや列車のバリアフリー改造などの取組みを行な っている26。情報交流に関しては、工信部の「盲人ネット情報サービスシステムの技術要 求」、「盲人用マルチメディア情報システム技術要求」などの基準や規則の推進により、

全国の 300 以上の政府部門や主流メディアの情報バリアフリー化の建設が完了している

27。そして、障害のある人びとの居宅環境のバリアフリー改造については、以下の表のよ うに示されている。この表から見ると、現在、中国では一部の障害者世帯の居宅環境が改

善されている一方で、「障害者事業発展統計公報」のデータによると、354万の貧困状態 にある障害者世帯がまだ改善に至っていないことが示されている。

表2.17 住宅のバリアフリー改造状況

年 バリアフリー改造を実施した障害者世帯数(万)

2013 13.6

2014 14.9

2015 14.7

2016 93.0

2017 89.2

出典:中国障害者連合会による『中国障害者事業発展統計公報』(2013〜2017)のデー タに基づき筆者作成

2017年度に中国消費者協会、障害者連合会が連携して、31の省、自治市、直轄市にお ける102の主要都市を対象に調査を実施した28。調査方法は、障害者ボランティア、消費 権利擁護ボランティアおよび専門の調査員を組織し、各地の公共施設(商業センター、飲 食店、ホテル、銀行などの金融サービスを提供する場所、観光地、モバイルサービス店、

ガス電力店、政府部門の窓口、医療衛生の場所など)に実地体験度と感知度をめぐり、ア ンケート調査を実施したものである。以下ではこの調査結果から、バリアフリー環境整備 に関する取組み状況を考察してみる。

まず、バリアフリー施設の整備状況については、病院、公共交通機関、政府部門の窓口 のバリアフリー環境の普及率は、それぞれ、67.4%、49.8%、44.5%だった。飲食店、ホテ ル、商業センターのバリアフリー環境整備の普及率は低く、33.3%、31.7%、31.2%を示し ていた。また、地域によって普及率は違っているが、西北、東北地方の普及率は 40%以 下を示し、他のところよりバリアフリー化の整備が遅れている傾向が見られる。そして、

バリアフリー環境に対する満足度の結果から、使用者は現在のバリアフリー環境にあま り満足していない状態が見られるが、平均点は 63.8 点であり、合格水準には達している ことがわかる。エレベーターや出入り口のバリアフリー化に対する満足度は一番高く、80 点以上であるのに対し、トイレに対する満足度は低く、60点ぐらいを示している。

一方、実際に多くのバリアフリー施設が不正利用や、破壊されており、その原因は、バ リアフリーデザインの不合理や、修理保全の遅れなどが挙げられる。また、バリアフリー 施設が整備されても、使用禁止になっている場合もある。例えば、昆明や青島の公園など

のバリアフリー化された出入り口が閉鎖されている現象がある。その他、視覚障害のある 人の専用路の不正占有の現象も珍しくない。

こうしたバリアフリー環境の現状から、中国政府は近年、積極的にバリアフリー化を推 進する意向が見られるが、現段階ではまだ十分に整備されていないと考えている。

1989 年にバリアフリー環境の建設に関連する規定「障害者のための都市部の道路と建 築物のデザイン規範」が施行され、1999年に「都市部道路と建築物のバリアフリー規範」

に改定されたが、その内容は曖昧であり、具体的な指導意見や規則については言及されな かった(呂 2013)。そして、2012年に「バリアフリー環境建設条例」が公表されてから、

中国のバリアフリー環境建設が真の始まりを迎えた。それ以前にできた施設は、本当に障 害のある人びとに利便性を提供するという視点に立っておらず、「坂道の長さが足りな い」、「電柱が視覚障害のある人の専用道路を占める」、「公共場所のバリアフリー化さ れたエスカレーターの中に、視覚障害のある人のための文字が存在しない」などの事例が 度々発生した。また、一部の古い所は改造する際に、大量の資金や人力が必要なので、バ リアフリー化が進んでいない状況もしばしば見られる(沈ほか 2018)。

現在の中国におけるバリアフリー環境に対する意識はまだ弱く、環境建設に関連する 教育項目の整備も十分になされてはいない。当事者たちも長い間社会から排除されたこ とにより外出する意向が弱く、公共施設に行って不合理的なところや、不便なところに出 会っても我慢する人が多い。また、農村部ではバリアフリー環境はまだ始まったばかりで あり、政府が提出した全社会の「平等、参与、享受」というスローガンを実現するには、

まだ程遠いと考える。

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