第 2 章 中国における障害のある人びとの実態
3.2 就労について
3.2.1 統計データや施策から
中国政府は2016年から1年ごとに「中国障害者事業発展統計公報」を発表し、障害に 関連する各データを示している。公報の資料によると、障害のある人びとの就労の現状に ついては、2016 年に全国に障害者登録数は 3219.4 万人であり、そのうち就労した数は
896.1 万人であり、就労率は48.3%である。これに対して全国人口の就労率は 77.4%であ
り、障害のある人びとの就労率の低さが明らかである。2017年には46万人が増加し、就
労率は5.13%増えた。
表2.13 登録された障害のある人びとの就労状況
年 全国障害者登録人数(万人) 就労人数(万人)
2016 3219.4 896.1
2017 3404.0 942.1
出典:2016年、2017年の『中国障害者事業発展統計公報』に基づき筆者作成
現在中国における障害のある人びとの就業は、「集中」と「分散」を相互に結びつける 方針をもとに実行され、その就労形式は主に集中就業、分散就業(割当雇用制度)、補助 型就業、公益性就業、個人営業などが挙げられる。障害者保障法によると、集中就業とは、
「政府または社会が設立した障害者福祉企業、盲人マッサージ機構およびその他の福祉 的企業に障害のある人びとを集めて就業させること」と規定され(第32条)、すなわち 福祉的企業に集中して就労する形式である。しかしながら、改革以降の経済改革にともな って福祉企業の減少により、過去の長期にわたって主な就業ルートとして扱われていた 形式が徐々に主流から脱落している。
これに対し、分散就業とは、障害者雇用率に基づいて国家機関、社会団体、企業事業な どに就業したり(第33条)、障害のある人びとが起業して自営業を営んだり(第34条)、
手工業、養殖などに従事したりすることであると決められた(第35条)。このような分 散就業は、企業が一定の比率に基づいて障害のある人びとの就労を手配することを指し、
この具体的な比率は、省、自治区、直轄市の政府が当地の実際状況に応じて規定すること になっている。したがって、全国統一的な基準は存在しない。
そのほか、補助型就業に関しては、強い就労意欲を持っているが、労働市場から排除さ れる知的障害、精神障害や重度障害のある人びとの就労を促進するために、集中的に生産 労働の場で組織され、自由な労働時間や労働強度で働く形式である。公益性就業は、非営 利組織などの社会サービスを提供するところで働くことである。例えば、公共施設の掃除、
駐車所管理などが挙げられる。さらに、友人や自らの力で自営業や、農業、手作業などの 仕事に従事している障害のある人びとも少なくない。
表 2.14から現在の中国における就労した障害のある人びとのうち、農業に従事してい る人がほぼ半数を占めていることがわかる。農村部と都市部の社会政策や福祉サービス は異なる環境のもとにあり、農村部における障害のある人びとの就労状況は相変わらず 農業に集中し、就労形式は多様ではない。
表2.14 近年登録された障害のある人びとの就労形式の状況
出典:2016年、2017年、2018年の『中国障害者事業発展統計公報』に基づき筆者作成
現在、中国における障害のある人びとの就労に関連する政策や法律は、憲法(1982)、
労働法(1994)、就業促進法(2007)、障害者保障法(1990)、および障害者就業条例(2007)
が挙げられる。
憲法第45条第3項は「国家および社会は、盲聾唖その他身体障害の公民の仕事、生活 および教育について手配し、援助する」と定めている。これは、障害のある人びとを含め て公民が労働の権利を有していることを保障するものであり、これに基づき、障害者保障 法、障害者就業条例などに特別な規定が定められている。
2007 年に中国政府は障害のある人びとの就労を促進するために、「障害者就業条例」
を公布した。この条例は障害のある人びとの就労や雇用に対する中央と地方自治体政府、
関連部門の責任を明確化し、障害のある人びとの就職支援の内容を提示している。国家は 障害のある人びとの就労を促進する政策および具体的な支援措置を制定し、各地方自治 体の政府も障害のある人びとに対する責任を持ち福祉政策を実施する責任があると示し た。また、障害者連合会は法律や法規、または政府委託を受け、障害のある人びとの就労 や雇用の具体的な実施状況を監督する責任が強調され、そのほかの関連する社会団体、例 えば、労働組合、婦女連合会なども障害のある人びとの就労促進業務を遂行することが規 定された。
年 就労形式
2016 2017 2018
総就労人数17(万人) 896.1 942.1 948.4 分散就業18(万人) 66.9 72.7 81.3 集中就業(万人) 29.3 30.2 33.1 自営業者(万人) 63.9 70.6 71.4 補助型就業(万人) 13.9 14.4 14.8 公益性就業(万人) 7.9 9.0 13.1 農業(万人) 451.3 472.5 480.1 パートタイム(万人) 262.919 145.8 254.620 コミュニティ就業(万人) ---- 8.0 ---- 居宅就業(万人) ---- 118.9 ----
そして、就業条例により、雇用事業所は総勤労者の 1.5%以上の障害のある人を雇用す る責任があり、それができない場合障害者就職報償金を納付しなければならないと規定 されている。ただし、具体的な雇用率は省級政府により決められる。障害のある人びとを 集中的に雇用するところは、総勤労者の 25%以上を全日制勤務の人とし、障害のある人 びとに適合した労働条件と保護を提供する義務や、昇進、社会保険などで差別しないこと を規定している。
政府は障害のある人びとの就労を促進するために、以下のような措置を行っている。ま ず、障害のある人びとを一定の比率に基づいて雇用する義務が規定されているが、この比 率が達成できない場合、報償金を支払わなければならず、その報償金は、障害のある人び との職業訓練や、就職サービス、就職支援などに使用することが明記されている。また、
障害のある人びとを集中的に雇用する事業所に対し、税制上の優遇のほか、生産技術や、
経営、資金などの支援も図ることが示されている。そして、障害のある人びとの創業、自 営を支援するために、税金免除や、貸付金の給付などのサービスが制定されている。さら に、農村部における障害のある人びとは主に農業栽培業、養殖業、手工業などに従事する ので、技術指導、物資供給、貸付金などの支援を提供している。そのほか、職業訓練、就 職サービスの紹介や、法律援助などのサービスが強調された。
3.2.2 実際の社会状況
3.2.2.1 差別・排除されている状態
働くということは、人びとが社会の中で人間らしく生きていく上で非常に重要な権利 であり、その影響は生活を維持するための収入を得ることだけでなく、社会参加、社会か らの承認や自己実現等の様々な側面を持っている。この意味では、障害のある人びとの自 立生活を実現するために、就労の保障は、自己決定権を行使できる条件でもある。しかし ながら、数多くの障害のある人びとは、「障害を持っているので働けない」という偏見や 誤解を受け、職場から差別され、健常者と同様な機会が得られず、社会から排除されてし まっている。その結果として、家族や友人等の支援に頼って在宅し、または友人のネット ワークで職業を紹介してもらうような事情がしばしば発生し、障害のある人びとの自立 生活の実現を妨げている。
事例3 対象者は3歳の時病気が原因で障害のある人になった。左手が使えないこと以 外に、他の面では問題なく自立した生活ができる。中学校卒業の教育程度だが、彼女の母 は小学校の教師として働いているので、わりとよい家庭教育を受けていた。今は無職の状 態にある。彼女によると、「かつてアルバイトをしたことがある。友達を通じてパチンコ
屋で二年間働いていた。その後兄が新聞を配達する仕事を紹介してくれて、一時的に生活 費を稼ぐことができた。今は失業してからもう長い時間が経ている。ホテルの清掃員のよ うな仕事に応募することも何回あったが、担当者に障害のことがわかったらすぐ断られ る。あるホテルの担当者にこんなふうに言われた。「われわれの業界はいろいろなことを 考えなければなりません。お客さんがうちの清掃員が障害のある人だということを知っ たら、多くの人が他のホテルを選んでしまうことが想像できるだろう。そうしたら、うち のホテルはどのように生き残ることができるのか?私たちの立場に立って考えてみろよ ー!」
また、現行の障害のある人びとの就労を支援するための政策は、「心身に不備があるの で、特に配慮すべきだ」や、「労働能力不足」という考え方のもとに、障害のある人びと を援助し、各種のサービスを提供するものである。このように、障害のある人びとを「別 のグループの人だ」、「特別な人たち」だとする偏見がいまだに根強く、インクルーシブ 社会への道はまだ遠いと考える。この強い偏見の影響で、企業が障害のある人びとを雇用 するのは「一種の社会責任」によるものだと認識することができる。
事例4 数百人の規模の企業で、労働法律に従って企業と従業員は全員労働契約書を交 わしたが、この会社の中に障害のある人は一人もいない。政策によってこの会社は障害の ある人を6人雇用しなければならないが、毎年約11万元の障害者就業報酬金を支払い、
障害者を一人も雇用しようとしない。その原因について、担当者は「障害のある人を雇用 するより納金の方がもっと割りがいいのだ。社員の平均年収は1.4万元で、社会保険、住 宅積立金等を加えれば、障害のある人を雇う費用と障害者報酬金はだいたい一緒になる。
その他に企業は障害のある人のために仕事の分配とか、生活補助とか様々な考慮しなけ ればならないことがあるので、うちの企業のようにお金を払ってでもそんな人を雇いた くないところがたくさんある」と言った。
事例5 この工場は2002年から国家の政策である法規の障害者を雇用することの呼び かけに積極的に応じている。しかし、障害のない人と同様に働いている人は一人しかおら ず、障害のある人びとが働いているのはあまり見られない。この会社の従業員(聴覚障害 三級)によると、「この仕事への意欲はとても高く、私の障害の状態で問題なく対応でき るが、分配された仕事は非常に簡単で、もっと給料が高くて技術的な仕事はどうしても任 せてもらえない。実は、他の障害のない人よりよくうまくできるという自信を持っている。