第 4 章 当事者団体による障害者運動 ———「一加一」と「瓷娃娃自立生活項目」を例
2.4 社会への影響
2.3.3.3 情報サービス提供
一加一は、2008 年に障害者権利条約が批准された後に、国際機関における条約の普及 に関連するトレーニングに参加した。そして、「私たち抜きに私たちのことを決めるな
(Nothing about us without us)」という権利条約の策定過程においてすべての障害のある 人びとに共通する考え方を理解し、それをきっかけに権利擁護活動を行う必要性をさら に意識するようになった。それ以降、一加一は障害のある人びとへの情報サービスの提供 を通じて、権利擁護、障害意識に関連する啓発教育などの運動を実現することができた。
一加一が実現させたことを、以下の節で詳しく述べる。
2013 年に視覚障害を持っている李さんは、大学入試試験に申し込んだ後に、「点字試 験用紙がない」という理由で地元の教育部門に拒否された。それをきっかけに、一加一を はじめ多くの障害者団体が権利擁護活動を行い、マスコミやメディアでこのような差別 的な行為を報道し、社会からの注目を集めるようになった。その後、当地の教育部門が李 さんの入試資格を承認し、試験の登録期間の最終日に李さんは受験許可を与えられ、点字 で大学入試試験に参加した最初の学生となった。また、2014年3月に教育部が「2014年 普通大学の入学に関連する通知」の第6条において、各地方や関連機関が障害のある人び とが平等に試験に参加できるよう、合理的配慮の提供を義務づけることが規定されてい る。そのために、視覚障害のある李さんが普通大学の入試試験を受ける時に、視覚障害の ための点字用紙の提供や、特別支援者の配置が可能となった。一方、社会に注目されてい る李さんは、二科目の試験で白紙答案を提出した。その理由については、「点字用紙だと 答えるスピードが遅くなる。問題を理解したばかりだが、もう時間になってしまった」と 報道された10。この事件は当時、一時的に社会の大きな話題となり、「資源の無駄だ」な どの声も出てきたが、障害のある人びとにとって2014年は視覚障害のある人の「入学試 験元年11」と呼ばれる。
そのほか、一加一は研究者や公益法律支援機構などと連携して、障害のある人びとが平 等に大学入試試験に参加するための施策提案書を作成した。2008 年の『障害者保障法』
と2012年の「バリアフリー環境建設条例」の中に既に障害のある人のための合理的配慮 の提供が要求されているが、障害のある人の入試受験資格の正当性がなかなか認められ ず、ようやく2015年5月に『障害者の普通大学への参加に関する全国統一試験の管理に 関する規則(暫定)』が公布され、それによって障害のある人の普通学校の入試受験資格 が認可され、試験中の合理的配慮の提供が規定されるようになった。
「障害当事者が何か重要な権利が侵害されたら、例えば、普通の人と同じように大学入 学試験を受験できなかったり、就職や職場の中で差別的に扱われたり、ローンの申請を拒 否されるならば、私たちはネットやメディアを通じてこれらの事件を報道し、社会の話題 になるよう努める。社会の世論の影響で関連する部門はこの問題に気づくことができ、問 題に対応するための行動が期待できる。また、他の専門家などと連携して、このような既 に発生した人権侵害事件を利用して、今後の関連する法律や政策の制定に影響を与える」
(対象者A、B)。
2.4.2 就業形式の多様化の促進
一加一は「障害を持っていても無能ではない。誰でも特有の価値がある」という価値観 に基づき、従来の集合就業や割当就業の形式を変え、障害のある人の就業形式の多様化を 促進することに強い願望を示した。
「大事なのは、障害のある人が自らの一番適しているところで働くことだ。ある企業は 障害のある人を雇用しても、役に立たないと思って実際の仕事を配分しない場合も多い。
または企業が多くの障害のある人を採用したが、適切な合理的配慮を提供せず、障害のあ る人が大変な環境で働くことも多い。私たちはこのような現状を変えたい。だから、障害 のある人に職業訓練を実施するとともに、企業側に対しても適切な職場環境を提供する ことを支援する」(対象者A)。
このような理念に基づき、一加一は2014年8月に元の研究部門と技術部門によって「其 实咨询」という社会的企業を創設した。その主な事業内容は、障害のある人の新しいキャ
リアの開発と障害者雇用の促進、および企業側の障害者雇用の支援が含まれ、さらに中国 の障害分野におけるデータ情報サービスにも焦点を当てている。2016 年末までに上海と 北京の二ヶ所に事業運営センターを設立した。DPO として障害当事者の情報やニーズを 十分に把握することができるので、IT 技術を活用しながら、現在中国の障害分野におけ る情報とビッグデータの統合者として大きな影響があると思われる。
2.4.3 地方DPO発展の促進とネットワークの形成
一加一は最も早く創設されたDPOとして、積極的に地方の障害者組織にこれまでの経 験を共有し、資金援助を提供することで、全国各地のネットワークを築くことができた。
これらの組織の中に、政府に正式に登録されている組織もあるが、正式に登録されておら ず、「隠されたアドボカシー」を行う組織も存在している。また、関連担当者が、「各々 のDPOが一加一の資金を利用して実現したことを観察して、それを通じて能力のある活 動家を発見することができる。それによって全国の障害者リーダーとのネットワークも 形成されるようになる」と語ってくれた。このように、一加一は地方DPO発展を促進し、
資金援助と連携活動を通じて地方組織や当地の障害者リーダーとのネットワークを築く ことができる。
2.4.4 政策制度への影響
第2章の中国における障害政策の内容から、中国の障害政策は障害のある人びとの権 利を保障することに対する効果は小さく、むしろ慈善に基づく福祉救済の一種と捉えた れてきたことが分かる。また、中国の政府が清政府から中華人民共和国に至る過程にお いて、政府の役割が徐々に大きくなり、最終的に、政府が強大な力を持つ「全能主義国 家(total state)」になったと指摘した(邹 1986)。中国は改革開放以降、多くの研究者 が政府の役割を弱める「小政府、大社会」という考えを提示したが、今になっても政府 が方針の提示や政策の推進の主導権を持っている(葛 2015)。こうした社会環境での障 害者自助団体による政策提唱は、権利擁護運動よりさらに困難であると考えられる。
これに対して、一加一は政策制定の提案についてこれらの戦略を用意している。具体的 には、①メディアを通しての社会話題の普及、②市民への調査活動、③連盟の提案書、④ 法律訴訟などが含まれる。
「メディアやネットの影響力を活用することにより、障害のある人の差別事件に対す る注目度が高まると思われる。人権侵害の程度が高いなら、社会の話題になり、関連部門 はその問題に対応しなければならない。また、法律訴訟も権利擁護の方法の一つだ。例え ば、外出する時にバリアフリー施設の不備や差別を受けたことをきっかけに、地下鉄、鉄 道部などの交通部門に訴え、公益性に基づく訴訟も提起された。これらの訴訟の多くは、
常に成功するとは限らないが、関連部門の注目を引くことができると考える。そして、私 たちはよく研究者と連携し、障害のある人とのネットワークを使って調査活動を行って おり、客観的なデータや事例を使用しながら連盟の提案書を提出する。そのほか、一加一 の組織担当者の 1 人が障害者事業発展研究会のメンバーで、政策研究の会議で私たちの 意見を発表することも可能だ。障害者連合会との協力の過程で、不適切なことや提言を相 手に伝えることも時々ある」(対象者A)。
このように、一加一は積極的に政策に関する提案書や発言を発表し、中国の政策条例の 執行を促進する。2013年8月に、一加一は武漢大学公益と発展法律研究センターなどと 連携して「障害のある人の融合教育と平等就業に関する宣言」を発表した。これは初めて の障害に関する中国国内の市民組織からの発言である。また、障害のある人とのネットワ ークを活用し、調査活動を通じて障害のある人びとの意見を効果的に統合し、適切な問題 の提示と提案を作成しており、関係者の注意をひくことに効果があった。2016年12月に、
「障害当事者の参加を促進する文書・中国障害者団体の提案」という提案書を出し、初め て中国社会に対して「障害当事者の視角」という概念を提出し、これからの政策作成の方