第 4 章 見出しについて
4.4 見出しの機能
表6 新聞社説の見出しにおけるレトリック表現の使用率
日本語 中国語
朝日 56(100%)
読売 54(100%)
西日本 48(100%)
新京報 61(100%)
北青報 61(100%)
a.間接 4
(6.90%)
7
(12.28%)
8
(15.69%)
5
(8.20%)
7
(11.48%)
b.置換 5
(8.62%)
8
(14.04%)
3
(5.88%)
20
(32.79%)
15
(24.59%)
c.多重 7
(12.07%)
4
(7.02%)
0
(0.00%)
6
(9.84%)
12
(19.67%)
2種 1
(1.72%)
1
(1.75%)
0
(0.00%)
5
(8.20%)
9
(14.75%)
合計 17
(29.31%)
20
(35.09%)
11
(21.57%)
36
(59.02%)
43
(70.49%)
表 6 から分かるように、『朝日』『読売』『西日本』の新聞社説の見出しにおけるレ トリック表現の使用率は全体の29.31%、35.09%、21.57%を占めるのに対し、『新京報』
『北青報』はそれぞれ 59.02%、70.49%である。中国語の新聞社説の見出しにおける レトリック表現の使用率は日本語の新聞社説より高いことが分かる。
レトリック表現の調査項目のうち、「間接」と「多重」について見ると、日中両言 語には顕著な差異は見られなかった。しかし「置換」については、日本語の新聞社説 の使用率がそれぞれ 8.62%、14.04%、5.88%であるのに対し、中国語の新聞社説は
32.79%、24.59%であった。比喩や擬人法などの置換レトリック表現が、中国語の新聞
社説では日本語より多く用いられる点が特徴である。例えば4.2.2.2節で挙げた、(29) 总理喝的“创业咖啡”别有一番味道(総理が飲んだ「創業コーヒー」は違った味があ る)、(30)人民开始“点菜”了(人民は「料理を注文」し始めた)、(31)进京大货车这 个“霾凶”该治治了(北京行きの大型トラック、この「スモッグ犯人」を退治せよ)
などの見出し例は、いずれも書き手の意見や主張を直接に表現せず、比喩や擬人の用 法によって読み手に分かりやすいようにしたり、表現の卖調さを回避して読み手の注 意を引いたり、あるいはほかのものに置換するという言語的手続きを行っている。
このように、中国語の見出しは比喩や擬人法などの置換レトリック表現の多用によ って、内容をそのまま提示するより、インパクトを重視して読者の興味を引き付ける 形式が多い傾向にある。一方、日本語の新聞社説の見出しはレトリックの使用率が低 く、内容をありのままに提示する傾向が見られる。
る分類」(実体的事象の变述、主体的立場の陳述、読み手への働きかけ)及び、李(2008)
の見出しの機能((1)「主張表明」、(2)「話題提示」、(3)「その他」)の分類を参考に、
見出しの機能を(i)話題提示(実体的事象の变述)、(ⅱ)意見表明((a)主体的立場 の陳述、(b)読み手への働きかけ)に分類し、日中両言語の新聞社説における見出し の機能について分析を行う。
4.4.1 日本語の新聞社説における見出しの機能について
(i)話題提示(実体的事象の变述)
(37) 原爆ドーム 100年に考える役割(朝日2015/04/05-2)
(38) 与党安保協議 巨大法案で見失うこと(朝日2015/04/16-2)
(39) 親の監督責仸 最高裁が免除基準を示した(読売2015/04/11-2)
(40) ドローン侵入 官邸警備の盲点を突かれた(読売2015/04/24-2)
(ⅱ)意見表明
(a)主体的立場の陳述
(41) 地中海の難民 救難と安定化が急務だ(朝日2015/04/25-2)
(42) 「政治とカネ」再発防止を徹底すべきだ(西日本2015/04/12)
(43) 指定医の不正 患者は「数」ではない(朝日2015/04/18-2)
(44) 安保与党協議 歯止めの論議まだ足りぬ(西日本2015/04/22-2)
(45) 日中韓観光会合 訪問実拡大へ協調を深めたい(読売2015/04/14-2)
(b)読み手への働きかけ
(46) パイロット不足 安全第一を徹底せよ(朝日2015/04/08-1)
(47) ネパール大地震 国際的な救援態勢を急げ(西日本2015/04/28-1)
(48) 日銀異次元緩和 「物価2%」の達成を焦るな(読売2015/04/09-1)
(49) 電力広域機関 自由化促す役割を(朝日2015/04/02-2)
(50) 医療事故調査 教訓を現場で生かせる制度に(読売2015/04/13-1)
(51) 酒の安売り規制 消費者の利益を損なわないか(読売2015/04/26-2)
(52) 尐子化対策大綱 男性の育児参加を促進しよう(読売2015/04/06-2)
(37)~(40)は(i)「話題提示(実体的事象の变述)」の見出し例である。(37)(38)「名
詞句」の例であり、(39)(40)は「動詞の過去形(た)」を用いて話題を提示している。
これから社説本文で何について論じるのかを知らせる役割を果たしている。(41)~
能の卖複による分類」「C 志向による分類」「D 態度による分類」の4種類に分類している。「A 辞の四 分類」は「变述辞(関係辞、統一辞)」、「述定辞」、「伝達辞」である。「B 機能の卖複による分類」には 以下の7種類が見られる。①関係辞のみの機能をもつもの、②関係辞と統一辞との両方の機能をもつも の、③統一辞のみの機能をもつもの、④統一辞と述定辞との両方の機能をもつもの、⑤述定辞のみの機 能をもつもの、⑥述定辞と伝達辞との両方の機能をもつもの、⑦伝達辞のみの機能をもつもの。「C 志 向による分類」は「話材志向」、「話材→自分志向」、「自分志向、自分→相手志向」であり、「D 態度に よる分類」には、「実体的事象の变述」、「主体的立場陳述」、「読み手への働きかけ」がある。
(45)は(ⅱ)「意見表明」の下位区分の(a)「主体的立場の陳述」の見出し例である。
(41)判断表現の「だ」、(42)義務表現の「すべきだ」、(43)(44)否定表現の「ない・ぬ」、
(45)希望表現の「~たい」などを用いて、社説の書き手の判断や見解また評価を表し ている。一方、(46)~(52)は(ⅱ)「意見表明」の下位区分の(b)「読み手への働きか け」の見出し例である。(46)~(48)「せよ」、「するな」などの命令・禁止表現、(49)(50) 助詞の「ヲ止め」や「ニ止め」の省略表現28、また(51)反問表現、(52)「~よう」の勧 誘・意志表現などを用いて、読み手へ働きかけている。
4.4.2 中国語の新聞社説における見出しの機能について
(i)話題提示(実体的事象の变述)
(53) a.速度与激情与玩命(北青報2015/04/13)
b.速度と熱意と命遊び29
(ⅱ)意見表明
(a)主体的立場の陳述
(54) a.进京大货车这个“霾凶”该治治了(新京報2015/04/02)
b.北京行きの大型トラックという「スモッグ犯人」を退治すべきだ
(55) a.虐童案警示:应对收养人做心理评估(新京報2015/04/05)
b.児童虐待事件の警告:引取り人の心理評価をすべきだ
(56) a.远离腐败暴力,殡葬才能“清明”(新京報2015/04/04)
b.汚職暴力から離れてこそ、葬儀と埋葬は「清明」になれる
(b)読み手への働きかけ
(57) a.别把旅游变成一场“对赌”(北京青年報2015/05/03)
b.旅行を「賭け合い」にするな
(58) a.让孩子免于家暴恐惧,不要只靠学校(新京報2015/04/06)
b.子供を家庭内暴力から守るのに、学校だけに頼るな
(59) a.出租车市场化改革有什么难的(新京報2015/05/14)
b.タクシーの市場化の改革に何の困難か。
(60) a.城市里为何总有噬人的深井(新京報2015/05/23)
b.都市になぜいつも人間を飲む深い井戸があるのか
中国語の新聞社説には(i)「話題提示(実体的事象の变述)」の見出し例はほとん ど見られなかった。(53)は「名詞句」を用いて話題を提示している。(54)~(56)は(ⅱ)
「意見表明」の下位区分の(a)「主体的立場の陳述」の見出し例である。助動詞の「该・
28 野口(2002)によると、助詞止め「~を・~を…に」は「~よう」勧誘、「~てほしい」要望、「~た い」希望、「~べきだ」当然・適当などの意味があるが、本論文は王(2005)を参考に、「~を・~を…
に」を「~せよ」に統一し、「命令・禁止」に分類した。
29 命を賭けた遊びのことである。
应(すべきだ)」、また可能を表す「能」を用いて、社説の書き手の判断や見解を表現 している。一方、(57)~(60)は(ⅱ)「意見表明」の下位区分の(b)「読み手への働き かけ」の見出し例である。(57)(58)は命令を表す「别・不要(するな)」、(59)(60)は反 語を表す「有什么难的(何か困難か)」「为何(なぜ…か)」などを用いて、読み手へ の働きかけを示している。
4.4.3 分析結果
各新聞社説における見出しの機能に関する分析結果は、以下の表7に示す通りであ る。
表7 新聞社説における見出し機能の分析結果
日本語 中国語
朝日 読売 西日本 新京報 北青報
(i)話題提示 7
(12.50%)
6
(11.11%)
4
(8.33%)
0
(0.00%)
3
(4.92%)
(ⅱ)
意 見 表 明
(a)主体 的立場の
陳述
15
(26.79%)
23
(42.59%)
16
(33.33%)
45
(73.77%)
32
(52.46%)
(b)読み 手への働
きかけ
34
(60.71%)
25
(46.30%)
28
(58.33%)
16
(26.23%)
26
(42.62%)
小計 49
(87.50%)
48
(88.89%)
44
(91.67%)
61
(100.00%)
58
(95.08%)
合計 56(100%) 54(100%) 48(100%) 61(100%) 61(100%)
表7からまず日中両言語ともに、(i)「話題提示(実体的事象の变述)」はわずかで、
(ⅱ)「意見表明」が圧倒的に多いことが分かった。(i)「話題提示(実体的事象の变 述)」について、『朝日』『読売』『西日本』の割合はそれぞれ全体の12.50%、11.11%、
8.33%であり、『新京報』『北青報』は0%、4.92%である。(ⅱ)「意見表明」における
全体の割合は、日本語は8割強で、中国語は9割強であった。
次に(ⅱ)「意見表明」の下位区分の(a)「主体的立場の陳述」については、日本 語の社説の見出しはそれぞれ 26.79%、42.59%、33.33%の割合を占めており、中国語
では 73.77%、52.46%であった。中国語の社説の見出しでは「主体的立場の陳述」の
表現を多用する傾向が見られた。一方(ⅱ)「意見表明」の下位区分の(b)「読み手 への働きかけ」に関しては、日本語の社説の見出しにおける割合がそれぞれ60.71%、
46.30%、58.33%であり、中国語では 26.23%、42.62%であった。日本語の社説の見出
しでは「読み手への働きかけ」の表現が多用されていた。
日中両言語ともに「話題提示」はわずかで、「意見表明」に関する表現がほとんど であった。これは新聞社説というジャンルの特徴でもあると思われる。社説は時事問
題に関する新聞社の意見表明欄であり、読み手を説得するという強い目的を持つ論説 文である。この目的を果たすにあたって、社説そのものに加え、見出しも大きな役割 を果たしていることがうかがえる。「意見表明」の下位区分として、日本語の新聞社 説の見出しでは「~せよ・するな」などの「命令・禁止」の表現を多用し、読み手へ の働きかけが強い傾向が見られる。これは後藤(1998:38)で「社説は、新聞社の意 見として、当事者をはじめ、広く一般読者に訴えかけることを目的としているので、
見出しは、命令・禁止の表現を用いて、相手に行動を要求するような強い働きかけの 機能を持つものが多い」とした指摘を支持する結果でもある。書き手は読み手へ働き かけることを通して社説の主張を示す。一方、中国語の新聞社説の見出しでは「見解・
評価・判断」を表す(是(だ)・应该(すべきだ))などの「主体的な立場の陳述」の 表現を多用し、はっきりと自分の主張を提示する傾向が見られた。書き手は主体的立 場の陳述を通して社説の主張を示す。