第 8 章 冒頭文・末尾文について
8.2 冒頭文・末尾文に関する先行研究
8.2.1 日本語の冒頭文・末尾文に関する先行研究
(1)冒頭(書き出し)のみに着目した研究
時枝(1977)は文章表現の機構を論じる立場から、文章における冒頭の機能を次の 5種に分類している。
一、全体の輪郭・枞の設定で、時・処・登場人物が提示される。
二、作者の口上執筆の態度を述べたもの。
三、全体の要旨・筋書・概要を、本文と同一次元において述べる。
四、作品展開の種子或は前提となる事柄の提示。
56 時枝は例として、「虞美人草」やトルストイの「アンナ・カレーニナ」などを冒頭の無い小説として 挙げている。冒頭と書き出しとを区別して、前者を帽子に例え、後者を頭に例えている(時枝1977:63)。
五、作者の主題の表白。
(時枝1977:58-62)
長坂(1994)は、冒頭の重要性について、「文章の冒頭に置かれる文は、先行する 文脈を持たず、文章の展開の出発点になり、文脈中にある他の文とは異なった特別な 機能を担うと考えられる」(p.14)と述べ、論説文、論文、評論文、意見文などの論 理的文章の冒頭第1文を調査し、その内容の特徴を考察した上で、冒頭文の機能を(1)
「話題に関する背景知識を提示する」、(2)「読むものの便宜を考えて論述の立場、
展開方向を示す」、(3)「論述の課題が、取り上げるに足る有意味な事柄だという ことを示す」、(4)「読者を引きつけ論述の内容に関わる情報性の高い事柄を提示 する」の4点にまとめている。
李(2001)は、日韓の新聞社説における書き出しの類型を形式と内容の両面から分 析を行った。『朝日新聞』、『毎日新聞』、そして、『朝鮮日報』、『東亜日報』の 日韓の4社の新聞の社説を調査対象として、内容について「事实」、「意見」、「準 意見」、「その他」に分け、形式について「推量」、「断定」、「願望」、「当為」
に分類し、分析を行った。その結果、書き出しの方法における日韓の違いとして、次 の2点を挙げている。
1) 内容の面では、日本語の新聞の社説が、書き手の事柄に対する実観的な態度を表 す「事实」から書き出す傾向があるのに対し、韓国語は書き手の事柄に対する判 断や見解などの主観的な態度を表す「意見」から書き出す傾向がある。
2) 形式の面では、「意見」を表す文末述部を中心としてみた場合、日本語は「断定」
表現をあまり使用しない傾向が強いが、韓国語は大部分が「断定」表現で書き出 される傾向が強い。また、日本語では見られなかった主張の度合いが最も強いと される当為表現が韓国語の書き出しには見られる。
(2)冒頭(書き出し)と末尾(結び)に着目した研究
市川(1978)は、内容の観点から、文章の冒頭の型を「变述内容の集約としての冒 頭」、「本題に対する前書き・導入としての冒頭」、「本題を構成する一部としての冒頭」
の 3 類(9 種)に分類している57。さらに冒頭の型に合わせ、結尾の型を「变述内容 の集約としての結尾」、「本題に対するつけたしとしての結尾」、「本題を構成する一部
57 Ⅰ变述内容の集約としての冒頭:(a)主題・要旨・結論・提案などを述べる。(b)主要な題材・話題 について述べる。(c)あら筋・筋書きを述べる。Ⅱ 本題に対する前書き・導入としての冒頭:(a)筆 者の立場・意向・執筆態度などを述べる。(b)本題の内容を規定し、本題に枞をはめる。(c)導入とし て、時・所・登場人物を紹介する。(d)本題に入る前に「まくら」を置く。(e)本題に対して対比的な 内容を述べる。Ⅲ 本題を構成する一部としての冒頭。
としての結尾」の 3 類(7 種)に分けて示している58。林(1983)は「起筆の型」と して、「即題法」「題言法」「破題法」の3つを挙げている59。市川の3類にそれぞれ該 当する。相原(1984:141)は、「書き出しは、その筆者と読者とが初めて顔を合わせ る場面であるから、その意味でも重要であろう。ただし、その重要性は、文章の規模、
種類、目的などによって差がある」と述べ、冒頭と末尾の持つ意義と機能を、小説、
評論・説明、随筆のジャンルごとに論じている。鈴木(1989:105)は、書き出しと 結びについて、「文章の骨組みができても、すぐに文章を書きあげることができるわ けではない。实際に筆を執るとなると、書き出しと結びに特に苦労する」と述べ、日 本語の文章構成の観点から、論文、評論、感想文・随筆のジャンルごとに分析してい る。
木坂(1990)は、従来の冒頭・書き出し論の諸説を紹介し、新聞の随想的文章「天 声人語」の書き出しと結びとを取り上げ、次の 6 つのパターンを示した。(1)「書き 出し(口上)、結び(概要と感想)」、(2)「書き出し(枕としての歌の引用)、結び(枕 に対応した結尾としての唱歌の引用)」、(3)「書き出し(話題・課題)、結び(話題・
意見)」、(4)「書き出し(枕としての物語の引用)、結び(感想)」、(5)「書き出し(話 題提起)、結び(意見)」、(6)「書き出し(枕としての唱歌の引用)、結び(結論)」で ある。新聞随想のような整った結構における書き出しと結びとは、文章技法の練磨に 大いに参考になる。
西田(1992)は、「書き出しの類型」を「1. 主題や内容と書き出しとの関係という 観点」「2. 書き出しにどんな文体を用いるかという観点」「3. 書き出しの表現にどん な文を用いるかという観点」から捉えている。そのうち観点1は、林(1983)の「即 題法」「題言法」「破題法」と同様であり、観点 3 は表現型(文の種類)「(1)判断表 現による書き出し」「(2)疑問表現による書き出し」「(3)伝聞表現による書き出し」
「(4)呼びかけ表現による書き出し」「(5)現在形、過去形による書き出し」によっ て分析されている。「結びの型」に関しては、論理的に展開される文章では、結論や 全体のまとめが文章の結びとして置かれるのが普通であり、結びの型として、①全体 のまとめのある結びと、②全体のまとめのない結びとを立てることができると主張し ている。
メイナード(2004)は、意見文としてのコラムである「直言」の構成を観察するた めに、冒頭段落と末尾段落がどのような要素を提示しているかに焦点を当て分析を行 った。冒頭段落は<問題提起>、またはそれに関連した<時事問題>を提示すること が多く、末尾段落は、<要旨>および要旨を強調して繰り返す<繰り返し要旨>の機
58 Ⅰ变述内容の集約としての結尾:(a)主題・要旨・結論・提案などを述べる。(b)主要な題材・話題 について述べる。(c)あら筋・筋書きを述べる。Ⅱ本題に対するつけたりとしての結尾:(a)筆者の立 場・意向・執筆態度などを述べる。(b)本題の内容を規定し、本題に枞をはめる。(c)本題と関連のあ る事柄や感想などを、つけたりとして添える。Ⅲ本題を構成する一部としての結尾。市川(1978:161-166)
を参照。
59 「即題法」は、題目に即して述べたり、結論を述べるものである。「題言法」は、直ちに主題目に入 るのではなく、時候の挨拶など主題目とは無関係な語りかけによって、読み手との場を整える。「破題法」
は、いきなり話を始める方法である。
能を果たしていると結論付けている。
石黒(2004)は、文章表現の技術において、文章の典型的な終わり方の一つに書き 出しの内容に戻るものがあると言う。この終わり方は、忘れかけていた書き出しを思 い起こさせ、文章全体にまとまりを与えるという点でたいへん優れた終わり方である と述べ、志賀直哉『城の崎にて』の冒頭と結末を分析し、冒頭と結末を呼応させるこ とは、文章全体のまとまりを感じさせ、その文章の構成と内容を読者に最後にもう一 度かみしめさせることになり、有効な文章構成法の一つであると指摘している。さら に対応関係については、「似たような文型、似たような形式の語彙、似たような概念 の語彙によって保証される。似た部分が多いほど、強い対応関係が意識される」(p.80)
と主張している。また、冒頭とテーマとの関連性についての研究として永野(1983)
がある。永野(1983)では、冒頭とその展開の観点から見たテレビコラムの变述の類 型を「冒頭にテーマの明示されているもの」と「冒頭にテーマの明示されぬもの」に 大別し、さらに「冒頭にテーマの明示されているもの」の下位区分を「列挙型」、「対 比型」、「展開型」、「演繹型」、「補足型」に分類し、また「冒頭にテーマの明示されぬ もの」の下位区分を「枕型」、「落ち型」に分類して、テレビコラムの展開方法を分析 している。
8.2.2 中国語の冒頭文・末尾文に関する先行研究
中国語の冒頭と末尾に関する研究のほとんどは、作文技術論の観点からのものであ る。そのうち評論文冒頭について、王(1992:8)は、「好的评论开头应具备三个特点,
一是能吸引读者,二是要很快切题,三是短而精」(良い評論の冒頭は 3 つの特徴を備 えるべきであり、1つ目は読者を惹きつける、2つ目はすぐ本題に入る、3つ目は短く、
精密にすることである)と述べ、「设问式,叙述式,描写式,对比式」(自問自答型、
变述型、描写型、対比型)などの書き方を挙げている。馬(2005:43)は、「从传播 效率的角度,新闻评论的开头应该开门见山,显摆出论点结论。新闻评论中的叙事本身,
不可能像消息中那样吸引人,因为它们往往是已经报道过,读者已经看过的事实。这就 需要尽可能地叙事这种客观性信息转入主观性信息:论点、判断」(マスメディアの角 度から見ると、新聞評論の冒頭は卖刀直入で、論点や結論を明示すべきである。新聞 評論の中の变述部分は報道記事のように読者を惹き付けることは尐ない。既に報道さ れ、読者が見たことのある事实である。そのため、冒頭では実観的な情報より、主観 的な情報:論点・判断を最初に提示したほうが良い)と指摘している。また劉(2000)
は、冒頭について、王と似たような説明している。末尾については、「总收式」「首尾 呼应」「延伸式」(結論型、文末文頭呼応型、補足型)の書き方を提案し、さらに「应 该指出的是,在当代社论的写作中,结尾是一个薄弱环节,这表现在:运用号召式的结 尾太多,号召的语言和方式雷同者太多,特别是老话、空话、套话太多,读之令人乏味」
(p.228)(指摘すべきことは、現代の社説の作成において、末尾は特に弱いところで ある。例えば、呼びかけ式(スローガン)が多く、呼びかけの言葉や方法も同じもの が多い。どこにでもあるような言葉、空論や決まり文句などである。とても退屈に感 じてしまう)と批判している。