第 3 章 本論文の理論的枞組み及び分析資料
3.1 理論的枞組み
本論文は、主に日本語学の文章論及びテクスト言語学の観点を援用し、永野(1986)、
市川(1978)、佐久間(1999、2000、2002、2003、2009)、立川(2011)及びHalliday and
Hasan(1976)、糸井(2003)を分析の理論的枞組みとする。まず先行研究をもとに、
文章・テクスト構造を大きくマクロ構造とミクロ構造という二つの観点に設定した
(池上1985、野村2000、高垣2003、李2008、立川2011、Didik Nurhadi 2014など)15。 文章・テクスト構造の主要な研究内容について、佐久間(2009)は、文章・テクス トを構成する複数の文の間に見られる意味の「つながり」と「まとまり」を解明する ことにあると指摘している。佐久間の言う「つながり」は、文相互の関係を指すミク ロ構造、「まとまり」は段落構成を指すマクロ構造に相当すると考えられる。また、
立川(2011)では、説明文の分析にあたり、文相互の関係(ミクロ)と段落構成(マ クロ)の両方を取りあげ、前者では言語的な指標(実観的要素)を手掛かりとし、後 者ではそれに加えて人間の推論形式や読みの方策(主観的要素)とを併用している。
本論文は、佐久間と立川の立場に従い、マクロ構造を段落構成(まとまり)、ミクロ 構造を文相互の関係(つながり)という観点から分析していく。
永野(1986)は、文章構造を解明するために、「連接論」「連鎖論」「統括論」を取 りあげ、市川(1978)は、「文脈展開の形態」「段落の連接と配列」「文章の構成形式」
を提案している。また、糸井(2003)は、文章の本質を「展開」と捉え、これまで文 章についてなされてきた研究課題を次のように、大きく三つの分野にまとめている。
(1) 継時的に前後に連なる文と文の意味的連なりに関する研究。最も局部的な部 分のあり方に関するもので、(結束性)というテクスト性を明らかにする。
(2) 連ねられていく文の連続に、意味的まとまりを乱さずに、文脈がどのように 形成されているか、に関する研究。文(情報)の流れに関するもので、(一貫 性(整合性とも))というテクスト性を明らかにする。
(3) 連ねられた文の集まり全体が、一つの意味的まとまりをどのように形成して いるかの研究。意味的まとまりとして文章が一つであることに関するもので、
15 このうち野村(2000:112)は、テクストのサイズを次の「a.マイクロのレベル」、「b.メゾのレベル」
「c.マクロのレベル」という3つのレベルに設定し、それぞれ次のように定義している。a.マイクロのレ ベル:形式的な特徴や語の意味、統語論の範疇を指標として、発話や文相互の関係性を規定する。b.メ ゾのレベル:発話や文の意味・機能あるいは表現類型の範疇を指標としてテクスト及び部分テクストの まとまりの組織を規定する。c.マクロのレベル:テクスト及び部分テクストの組織や類型性を指標とし てテクストを文化的・社会的あるいは制度的に規定する。また、Didik Nurhadi(2014)は野村を参照し
「マクロレベル」と「ミクロレベル」と名付けている。
(全一体性)というテクスト性を明らかにする。
(糸井2003:282-283、下線は筆者による)
本論文は、これらの先行研究を踏まえ、マクロ構造では(1)「題材の配列」及び(2)
「統括機能」の観点から、ミクロ構造では(3)「文相互の関係」の観点から解明する。
具体的に、まず(1)「題材の配列」では、文章・テクストがどのような論理展開を なしているか、どのような「一貫性(coherence)」を備えているのか、について検討 する。次に(2)「統括機能」では、文章・テクストの統括段落がどのように配置され るのか、どのような「統一性(unity)」を備えているのか、について検討する16。最後 に、(3)「文相互の関係」では、文章・テクストの文脈がどのように形成されるのか、
どのような「結束性(cohesion)」を備えているのか、について検討する。以下、(1)
から(3)の順に見ていく。
(1)「題材の配列」について、市川(1978)は、段落の内容を踏まえてその配置の あり方を問題とする立場を「段落の配列」と呼び、(a)内容の性質面から見た配列と
(b)内容の相互関係から見た配列の二側面から論じている。そのうち(a)内容の性 質面から見た配列については、段落の内容の質的相違に着目して「事实を述べた段落」
「見解を述べた段落」「事实と見解を交えた段落」の三つに分けた上で、段落の配置 される方式を説明している。(b)内容の相互関係から見た配列については、「対置的 関係(列挙、対照)」「相対的関係(卖純―複雑、既知―未知、漸減、漸増)」「対応的 関係(原因―結果、提示―根拠、課題―解決、原理―適用、全体―部分、一般―特殊、
主要―付加、目的・手順・結果)」に分類している。
また立川(2011)は、説明文における文章構造の「配列」を以下のように整理して いる。
文章構造の型 下位分類 具体的な「配列」関係の例 拡張型 ――― 列挙・対照・対比
進展型
相 対 的
時空間 時間・空間 内容の密度
(濃度)
漸増・漸減・連想・既知—未知 重要さ・身近さ、役立ち度
包摂 全体―部分・一般―特殊・主要―付加 抽象―具体・上位―下位
論 理 的
因果 原因―結果・原理―適応・提示―根拠 問題—解決 問題―解決・疑問―解決
論理 仮説―事实・主張―反主張
(立川2011:188)
16 unityの日本語訳として、「全一体性」(糸井2003)と「統一性」(橋内1995)が見られるが、本論文は
「統一性」を用いる。
本論文は、先行研究を検討したうえで、論説文によく見られる「提示―根拠型」「特 殊―一般型」「主張―結論確認型」の三種類を中心に、文章・テクストがどのような 論理展開をなしているか、どのような「一貫性(coherence)」を備えているのか、に ついて検討する。
(2)「統括機能」について、佐久間(1999、2000、2003)は、文段(文章)と話段
(会話)を合わせて新たな「段」を設定し、その中心段の統括機能の配列位置と配置 頻度によって、文章構造を「冒頭型」、「尾括型」、「両括型」、「中括型」、「分括型」、「潜 括型」の六つに分類している。李(2008)は、新聞社説を分析対象として韓日両言語 間の主張のストラテジーを考察し、見出しの反復、提題表現及び变述表現の複合の観 点から、主題文を認定したうえで、文章構造の類型化を行っている。本論文は、主に 李(2008)をもとに、見出しの本文中の反復表現及び变述表現という二つの手法から、
主題文と統括段落の認定を行う。文章・テクストの統括段落がどのように配置される のか、どのような「統一性(unity)」を備えているのか、について検討する。また、
新聞社説の最初の1文である冒頭文及び最後の1文である末尾文にも焦点をあて、社 説において非常に重要となる冒頭文と末尾文にどのような工夫が施されているのか を解明する。
(3)「文相互の関係」については、主に結束性(cohesion)を示した先駆的な研究
であるHalliday and Hasan(1976)を枞組みとする。Halliday and Hasanは、結束性が
文法的卖位を超えた意味的まとまりの概念であること及びその概念を言語的に表出 する手段として、(a)指示(reference)、(b)省略(ellipsis)、(c)代用(substitution)、
(d)接続(conjunction)などの文法的手段と、(e)語彙的手段(lexical cohesion)が あることを提示している。しかし、Halliday and Hasan(1976)は英語を分析対象とし ているため、日本語と中国語を比較対照するために、市川(1978)や寺村他[編](1990)
の観点も援用した。以下Halliday and Hasan(1976)による結束性の分析観点の各項目 の→印の横に、日本語の文章・談話論における用語(寺村他編1990)と市川(1978)
の「文の連接関係の類型」を記した(佐久間2002:158)。
(Ⅰ)指示(reference) →指示表現
(Ⅱ)代用(substitution) →反復表現
(Ⅲ)省略(ellipsis) →省略表現
(Ⅳ)接続(conjunction) →接続表現
(Ⅴ)語彙的結束性(lexical cohesion) →反復表現
(佐久間2002:159)
これらの先行研究を踏まえ、本論文は(a)「指示」、(b)「接続」、(c)「反復」、(d)
「省略」の四つの形態的指標に絞って分析を進める。
まとめると、本論文では、段落構成(一貫性coherence、統一性unity)というマク ロ構造と、文相互の関係(結束性cohesion)というミクロ構造を総合して文章・テク スト構造を解明する。前者では「題材の配列」及び「統括機能」の観点に立ち、後者
では「指示」「接続」「反復」「省略」といった形態的指標を手掛かりとする。マクロ 構造とミクロ構造の二つの側面から体系的な分析を行い、文章・テクスト構造の全体 像を捉える。総合的な考察として、日本語の新聞社説と中国語の新聞社説における文 章・テクスト構造を解明したうえで、日中両言語の社説のジャンルにおける特性を明 らかにする。