第 4 章 見出しについて
4.3 見出しのレトリック表現
(9)~(11)は完全文の見出し例である。完全文の特徴として、「主谓句(主述文)」が 多く見られるという点が挙げられる。主述文とは、主述述語文であり、一つの文(主 語+述語=主述)が主語の後ろに置かれて述語となる文のことである23。事实や意見 を最も表現・説明しやすいと考えられる24。一方、不完全文の見出し例は非常に尐な い。
(12) a.速度与激情与玩命(北青報2015/04/13)
b.速度と熱意と命遊び
(13) a. “不合理低价”是旅游业乱象(的)根源(新京報2015/05/16)
b.「不合理な低価格」は観光業の乱れ(の)根源だ
(12)(13)は不完全文の見出し例である。(12)は名詞句の例であり、(13)は「助詞」「的
(の)」の省略が見られた。中国語では「助詞」のような「虚詞」(function words)が 省略されても意味の理解に支障を与えないため、見出しの中で省略現象が生じている と思われる。
(15) 酒の安売り規制 消費者の利益を損なわないか(読売2015/04/26-2)
(16) 電源構成比率 誰が国民を説得するのか(西日本2015/04/10-2)
(17) 全中会長辞仸 言いたいことを言ったか(西日本2015/04/16-1)
(b)置換(比喩、擬人)
(18) 温暖化対策 地球益に背を向けるな(朝日2015/04/12-1)
(19) 成田LCC拡大 航空旅実を増やす起爆剤に(読売2015/04/11-1)
(20) 低調な地方選 すくむ政党、細る自治(朝日2015/04/13-1)
(21) 日米首脳会談 日本が背負う重いリスク(西日本2015/04/30)
(c)多重(引用、掛詞)
(22) 菅・翁長会談 「粛々と」ではすまない(朝日2015/04/06-2)
(23) 日米首脳会談 「和解の力」を礎にして(朝日2015/04/30-2)
(24) アジア投資銀 「日米孤立」の批判は的外れだ(読売2015/04/03-1)
(25) ヤフー削除基準 「知る権利」に配慮した判断を(読売2015/04/05-1)
(14)~(17)のいずれも、反問や修辞疑問を用いて間接的に書き手の意見や主張を表 している。(18)(19)は比喩の例である。(18)の「背を向ける」は慣用句であり、「相手 にしない、無関心な態度を取る」などの意味で用いられる。また(19)の「起爆剤」は 本来「起爆薬」を意味するが、ここでは「ある事態を引き起こすきっかけとなるもの」
の意味で捉えられている。(20)(21)は擬人法の例である。政党が「すくむ」、自治が「細 る」、日本が「リスクを背負う」など、いずれも擬人の用法となる。(22)~(25)はカギ 括弧「」を用いて直接引用を示している。
4.3.2 中国語の新聞社説における見出しのレトリック表現
(a)間接(反語法、修辞疑問)
(26) a.出租车市场化改革有什么难的(新京報2015/05/14)
b.タクシーの市場化の改革の何が困難か。
(27) a.提网速降网费,高校可以例外?(新京報2015/05/17)
b.インターネットのスピード上げ・料金下げについて、大学は例外にできる?
(28) a.我的存款能否更安全(北青報2015/04/01)
b.私の預金はより安全にすることができる?
(b)置換(比喩、擬人)
(29) a.总理喝的“创业咖啡”别有一番味道(新京報2015/05/08)
b.総理が飲んだ「創業コーヒー」は違った味がある
(30) a.人民开始“点菜”了(北青報2015/05/18)
b.人民は「料理を注文」し始めた
(31) a.进京大货车这个“霾凶”该治治了(新京報2015/04/02)
b.北京行きの大型トラックという「スモッグ犯人」を退治せよ
(c)多重(引用、掛詞)
(32) a.粮仓“硕鼠”无食我黍(北青報2015/04/22)
b.穀物倉庫「大きな野ネズミ」我がキビを食べるな
(33) a.不合理低价”是旅游业乱象根源(新京報2015/05/03)
b.「不合理な低価格」は観光業の乱れの根源だ
(34) a.远离腐败暴力,殡葬才能“清明”(新京報2015/04/04)
b.汚職暴力から離れてこそ、葬儀と埋葬は「清明」になれる
(26)~(28)のいずれも、反問や修辞疑問を用いて間接的に書き手の意見や主張を示 している。(29)(30)は比喩の例である。(29)は实際の「コーヒー」ではなく「創業モデ ル」のことを指している。(30)の“点菜”は、本来「料理を注文する」という意味であ るが、ここは人民が政府に「意見・要求を言い出す」という意味で用いられている。
(31)は擬人法の例である。北京のPM2.5の原因である大型貨物車を管理すべきだとい
う直接的な表現ではなく、大型貨物車を PM2.5 の「犯人」だと言っている。(32)(33) は引用の例である。(32)は中国の「诗经(詩経)」26の中の一節である“硕鼠硕鼠,无食 我黍”を引用し、ここで「不法な穀物商人、わが国のキビなどを触るな」の意味で用 いられている。(33)は直接引用である。また(34)の“清明”は掛詞の例である。4月5日 は中国の「清明節」であり、汚職や暴力から離れてこそ、葬儀と埋葬は清く明るくな る。「清明節」の「清明」と「清く明るい」が掛詞として用いられている。
このほか中国語の新聞社説の見出しには、2種のレトリックを用いた例も見られた。
(35) a.城市里为何总有噬人的深井(新京報2015/05/23)
b.都市になぜいつも人間を飲む深い井戸があるのか
(36) a.风雨之后,股民能否见彩虹(北青報2015/05/08)
b.嵐の後、投資家には虹が見えるのか?
(35)(36)は2種の修辞レトリックが用いられている。(35)は擬人法と修辞疑問を用い
て、都市の中にまだ深くて危ない井戸があることを批判している。(36)は比喩と修辞 疑問を用いて、荒れ狂う嵐のあと株投資家が理性的になることを要望している。
4.3.3 分析結果とまとめ
各新聞社説の見出しにおけるレトリック表現の使用率は、以下の表6に示される。
26 詩経(しきょう)、中国最古の詩集、西周から春秋時代の歌謡を収録。
表6 新聞社説の見出しにおけるレトリック表現の使用率
日本語 中国語
朝日 56(100%)
読売 54(100%)
西日本 48(100%)
新京報 61(100%)
北青報 61(100%)
a.間接 4
(6.90%)
7
(12.28%)
8
(15.69%)
5
(8.20%)
7
(11.48%)
b.置換 5
(8.62%)
8
(14.04%)
3
(5.88%)
20
(32.79%)
15
(24.59%)
c.多重 7
(12.07%)
4
(7.02%)
0
(0.00%)
6
(9.84%)
12
(19.67%)
2種 1
(1.72%)
1
(1.75%)
0
(0.00%)
5
(8.20%)
9
(14.75%)
合計 17
(29.31%)
20
(35.09%)
11
(21.57%)
36
(59.02%)
43
(70.49%)
表 6 から分かるように、『朝日』『読売』『西日本』の新聞社説の見出しにおけるレ トリック表現の使用率は全体の29.31%、35.09%、21.57%を占めるのに対し、『新京報』
『北青報』はそれぞれ 59.02%、70.49%である。中国語の新聞社説の見出しにおける レトリック表現の使用率は日本語の新聞社説より高いことが分かる。
レトリック表現の調査項目のうち、「間接」と「多重」について見ると、日中両言 語には顕著な差異は見られなかった。しかし「置換」については、日本語の新聞社説 の使用率がそれぞれ 8.62%、14.04%、5.88%であるのに対し、中国語の新聞社説は
32.79%、24.59%であった。比喩や擬人法などの置換レトリック表現が、中国語の新聞
社説では日本語より多く用いられる点が特徴である。例えば4.2.2.2節で挙げた、(29) 总理喝的“创业咖啡”别有一番味道(総理が飲んだ「創業コーヒー」は違った味があ る)、(30)人民开始“点菜”了(人民は「料理を注文」し始めた)、(31)进京大货车这 个“霾凶”该治治了(北京行きの大型トラック、この「スモッグ犯人」を退治せよ)
などの見出し例は、いずれも書き手の意見や主張を直接に表現せず、比喩や擬人の用 法によって読み手に分かりやすいようにしたり、表現の卖調さを回避して読み手の注 意を引いたり、あるいはほかのものに置換するという言語的手続きを行っている。
このように、中国語の見出しは比喩や擬人法などの置換レトリック表現の多用によ って、内容をそのまま提示するより、インパクトを重視して読者の興味を引き付ける 形式が多い傾向にある。一方、日本語の新聞社説の見出しはレトリックの使用率が低 く、内容をありのままに提示する傾向が見られる。