第 7 章 統括段落の位置
7.4 主題文の認定手法
7.4.1 主題文の認定手法1:見出しの本文中の反復
見出しの本文中の反復には、見出しとまったく同じ表現だけではなく、見出しと似 たような表現も含まれる。また、見出しの機能が異なると、見出しの本文中における 反復様相も異なることが想定される。そのため本論文は、4.4 節で分類した見出しの 機能を考慮しつつ、主題文の認定を行う。なお以下、4.4 節で分類した見出しの機能 を再度提示する。
(i)話題提示(実体的事象の变述)
(ⅱ)意見表明((a)主体的立場の陳述、(b)読み手への働きかけ)
7.4.2 主題文の認定方法2:变述表現
本節では、具体的にどのような变述表現を用いて分析するのかを示す。
主題文には書き手の意見・見解を表す文が多いため、「变述表現」を分析の視点と して見るのが有効だと思われる。日本語学や国語学で「变述表現」と言えば、文末表 現を指すのが一般的である。しかし中国語のSVO構造では、日本語のSOV構造とは 異なり、变述表現は文末に位置しない。また、中国語には動詞や形容詞の活用が存在 しないため、日本語のように文末表現による判断はできない。
45 「变述表現」とは、佐久間(1986)の「提題表現」に対応する「説述表現」を改称した用語で、提題 表現は「トピック(topic)」、变述表現は「コメント(comment)」にほぼ相当する(佐久間2010:77)。 本論文もこの定義に従う。
そこで新たな比較基準を設ける必要がある。ここでまず、中国語では、意見や見解 など主観態度がどのように表現されるのかを見ておきたい。
徐(2008:19-20)は、話し手の主観態度を表す言語形式として以下のようなもの を挙げている。
A. 句类(sentence type)和语气(mood):“陈述句/祈使句、直陈语气/祈使语气”
等
文の種類とムード:「陳述文/命令文、陳述のムード/命令のムード」など B. 语气助词:“吧、呢、嘛、啊”等
語気助詞:「吧(推測、勧誘を表す)、呢(確認を表す)、嘛(当然の理を 表す)、啊(質問、詰問、催促、説明、注意喚起、感慨、躊躇な どを表す)」46など
C. 情态助动词:“可能、可以、能、应该”等
主観を表す助動詞:「~かもしれない、~してもよい、~することができる、
べきだ」など
D. 情态副词:“必须、一定、也许、千万”等
主観を表す副詞:「必ず、もしかしたら、くれぐれも」など E. 名词:“可能性 必然性”等
名詞:「可能性、必然性」など
F. 情态实义动词:“知道、相信、希望、怀疑、猜测、推断、肯定”等
主観を表す動詞:「知る(分かる)、信じる、希望する、疑う、推測する、
推断する、肯定する」など G. 连词:“如果/要是/假如、即使/即便/就是”等
接続詞:「もし/もしも/もし…ならば、たとえ…だとしても/たとえ…として も/たとえ…であっても」など
H. 否定副词和频度副词:“不、没,又、再”等
否定の副詞と頻度の副詞:「打ち消す(~ない)、また・再び」など
(徐2008:19-20)
徐はさらに、上記のA~Dの4種類は系統的で主な主観を表す言語形式であると指 摘した。一方、張(2014:64-65)は、中国語のモダリティについて、以下のように 述べている。
中国語のモダリティ表現は、助動詞(“情态动词”“能愿动词”など)を中心 とし、副詞(“语气副词”“情态副词”など)と尐数の文末助詞(“语气助词”)
によって表されるが、助動詞類が文末に近い位置にくる日本語と違って、中国語
46 「吧」と「呢」の解釈は、王ほか(2006:143)を参照。「嘛」と「啊」は、劉ほか(1988:341)を 参照した。
は助動詞だけでなく、多くの“语气副词”“情态副词”などの文副詞も動詞の前 に位置して、命題の間に割りこむ構造になるのである。
(張2014:64-65)
徐(2008)が述べたBCDの種類と、張(2014)が述べた「助動詞」「副詞」「文末 助詞」は重なることが分かる。つまり中国語では主観を表す表現として、主にモダリ ティ表現が用いられるということである。ただ社説のような書かれた媒体に「文末助 詞」の出現は非常に尐なく、今回の分析資料のなかでは、「吧」(勧誘を表す)の一例 しかなかったため、「文末助詞」は分析対象から外した。
そこで本論文は、主に主観的な態度を表す助動詞や副詞などがつくか否かによって 中国語の变述表現を判定し、またより正確に主題文を認定するために徐(2008)が述 べたFGHの種類も参照する。以下表12と表13は、日中両言語の变述表現を対照さ せるため、「品詞」の観点から变述表現の分類及び語例を示したものである。
表12 日本語の变述表現の分類及び語例47
品詞/言語 日本語
a. 助動詞
(1)可能を表す:だろう、かもしれない、はずだなど
(2)願望を表す:~たい、~てほしいなど
(3)必要を表す:すべきだ、なければならないなど
b. 副詞48
(1)意外:まさか、あいにくなど
(2)推測:たぶん、おそらく、ひょっとしたら、たしか、さぞ、ど うも、どうやら、きっと、かならず、ぜったい、たしか に、しょせん、けっきょく、やはりなど
(3)その他:さいわい、あきらかに、どうせ、どうか、どうぞ、じ つは、ぜひ、事实、もちろん、とうぜん、しょうじき、
寛容にも、賢明にもなど c. 接続詞 が、だが、ならば、たら、ても、のでなど
d. 動詞 思う、感じる、考える、気がする、言える、困るなど
e. 形容詞 難しい、厳しい、ありえない、仕方ない、もっとも、明らかなど
47 助動詞と副詞の分類にあたって、日本語記述文法研究会(2003)及び王ほか(2006:126、132)を参 照した。
48 ここで挙げた29の副詞は、森本(1994:26)を参照した。森本は、話し手が自分の言うことに対し て主観的/心理的態度を表す副詞をSSA副詞(a speaker’s subjective attitude)と呼んでいる。
表13 中国語の变述表現の分類及び語例
品詞/言語 中国語
a. 助動詞
(1)可能を表す:会,能,可能,等
だろう、~だろう、~かもしれないなど
(2)願望を表す:想,肯,愿意,乐意,等
~したい、進んで~する、~したい、喜んで~するなど
(3)必要を表す:应该,应当,应,要,得,等
すべきだ、…するのが当然だ、すべきだ、~なければ ならない、~なければならないなど
b. 副詞
(1)意外:难道,莫非,居然,竟然,岂,等
まさか…ではあるまい、まさか…ではなかろう、意外にも、
なんと意外にも、どうして…だろうか(反語を表す)など
(2)推測:也许,大概,大约,果然,难怪,到底,究竟,恰恰,必定,
的确,准,是否,恐怕,等
もしかしたら、たぶん…だろう、おそらく…だろう、はた して、どうりで…だ、やはり、結局のところ、確かに、間 違いなく、確かに、必ず、であるかどうか、おそらくなど
(3)その他:索性,简直,幸而,幸亏,何尝,其实,反正,明明,何必,
只好,不妨,必须,不必,等
いっそのこと、まったく…だ、幸い、幸いなことに、どう して…であるものか、实際には、いずれにせよ、明らかに、
わざわざ…する必要はない、…するよりほかない、…して 差し支えない、必ず…しなければならない、…の必要はな いなど
(4)否定:不,没
打ち消す(~ない)
c. 接続詞
如果,要是,假如,即使,即便,就是,等
もし、もしも、もし…ならば、たとえ…だとしても、たとえ…としても、
たとえ…であってもなど d. 動詞
知道,相信,希望,怀疑,猜测,推断,等。肯定判断动词“是”
知る・分かる、信じる、希望する、疑う、推測する、推断する、肯定す るなど。判断動詞「だ・である」
e. 形容詞 显然,重要,容易,等 明らか、重要、容易など