第 6 章 題材の配列
6.5 分析結果と考察
6.5.1 分析結果
前節は新聞社説を、Ⅰ見出し(リード文)、Ⅱ導入部、Ⅲ展開部、Ⅳ終結部の 4 つ の部分に分けて題材の配列を検討した。それぞれの基本的パターンを見ると、次のよ うなものが挙げられる。
日本語の新聞社説 中国語の新聞社説
Ⅰ 見出し
意見表明:『朝日』87.50%
『読売』88.89%
『西日本』91.67%
意見表明:『新京報』100%
『北青報』95.08%
リード文付き
Ⅱ 導入部
(1) 時事問題を紹介する。
(2) 問題や課題を提起する。
(3) 主張を述べる。
(4) 用語や概念を定義する。
(5) 引用する。
(6) 問い掛け、自問自答する。
(7) 感想を述べる。
(1) 時事問題を紹介する。
(2) 引用する。
(3) 問い掛けする。
(4) 感想を述べる。
Ⅲ 展開部
(1) 時事問題や話題に対する評価 を述べる。
(2) 問題提起や問題の指摘をする。
(3) 時事問題や話題の背景または 詳しい内容を解説する。
(4) 具体例などの資料を挙げる。
(5) 見解を述べる。
(1) 時事問題や話題に対する評価 を述べる。
(2) 問題提起や問題の指摘をする。
(3) 時事問題や話題の背景または 詳しい内容を解説する。
(4) 具体例などの資料を挙げる。
(5) 見解を述べる。
Ⅳ 終結部
(1) 主張を述べる。
(2) 結論を述べる。
(1) 主張を述べる。
(2) 結論を述べる。
(3) 結論と主張以外のものを付け 加える。
また、日中両言語の新聞社説における論理展開は、次のようにまとめられる。
Ⅰ見出し Ⅱ導入部 Ⅲ展開部 Ⅳ終結部
日 意見
(ほぼ)
話題導入
議論
解説→見解→解説→見解→……
(A→B→A→B→……)
主張・結論 主張 話題導入→議論 結論確認
中 意見
(100%) 話題導入
議論
見解→解説→見解→解説→……
(B→A→B→A→……)41
主張・結論
Ⅰ見出しの部分では、日本語は9割ほどが意見表明であり、中国語はリード文が付 いているため、すべて意見表明となる。つまり日中両言語の新聞社説ともに、本文の 記述に入る前に、社説の主張や要点が示されている。「報道記事で述べたように『結 論から先に書く』ことであるが、これは論説記事にもあてはまる。ただ、新聞では、
論説の結論である主旨を見出しで明示するのが普通なので、一般の論説文と同じ構成 でも不都合はない」と大楽(1973:185)が指摘した通りに、日中両言語の新聞社説 ともにこのような特徴が見られた。
次に、日中両言語の新聞社説は、本文のⅡ導入部では話題を導入し、Ⅲ展開部では 議論を行い、Ⅳ終結部では主張や結論と導く。導入部では、日本語の新聞社説は、「時 事問題の紹介」、「問題や課題の提起」、「主張の提示」、「用語や概念の定義」、「引用」、
「問い掛け、自問自答」、「感想の提示」というように非常に多様な手段を用いて話題 導入を行う。一方、中国語の新聞社説の導入部は、報道記事のように時事問題のニュ ース及びその背景を紹介するのがほとんどである。
また、Ⅲ展開部において日中両言語の新聞社説ともに、解説と見解を繰り返して議 論する形を取っている点では共通している。しかしながら、日本語の新聞社説は「解 説→見解→解説→見解…」と繰り返すのに対し、中国語の新聞社説は「見解→解説→
見解→解説…」と反復する傾向が見られる。日本語の新聞社説の展開部では、まず導 入部で導入した話題の具体的な内容または背景について解説を行い、その後見解を述 べ、資料補足などを解説しながら、また見解を述べるという繰り返しである。一方、
中国語の新聞社説は、導入部で話題の内容や背景をすでに紹介しているため、展開部
41 中国語の新聞社説は、基本的に段落の冒頭でトピック・センテンスのような見解が来るが、「橋渡し・
つなぎ(bridge)」のような文は、段落の冒頭に立つ場合もある。その場合は、見解が2番目に来ること が多い。なお、平井(1969:295)では「橋渡しの段落」、森岡(1995:78)は「つなぎの段落」と呼ん でいる。
では、論点つまり見解を提示し、その後資料補足として論点を裏付けるという「見解
→解説→見解→解説…」のように反復する。なお、日本語の新聞社説における展開部 では、最初に話題導入をしてから、議論に入るパターンも見られた。
最後に、Ⅳ終結部では、日中両言語の新聞社説は、展開部の議論を経て、結論また は主張が導かれるが、書き手の意見の表明や読み手に対する行動の呼び掛けなどが述 べられることが一般的である。ただ、中国語の新聞社説の終わりには、結論と主張以 外に、その結論または主張を实行した後の意義まで述べる。これは日本語の新聞社説 では見られなかった特徴である。
6.5.2 考察
導入部で話題を導入し、展開部で議論を行い、終結部で主張・結論と導くというの は、「人間の思考の順序に一致させた機能的な組み立て方であり、論理がスムーズに 流れていく」(森岡1995:193)と考えられる。ここまでは日中両言語の共通点である が、相違点としては、展開部での議論の仕方が異なる点が挙げられる。日本語の新聞 社説における題材の配列(1)「提示―根拠」型及び(3)「主張―結論確認」型は、展 開の部分でともに「解説→見解→解説→見解→…(A→B→A→B…)」のように、論 を進めていく。一方、中国語の新聞社説における題材の配列(1)「提示―根拠」型及
び(2)「特殊―一般」型は、展開の部分でともに「見解→解説→見解→解説…
(B→A→B→A…)」のように展開していく。
日本語の新聞社説において「解説→見解→解説→見解…(A→B→A→B…)」と事 实を出しながら、見解を提示すれば、書き手が読み手に対して解釈をゆだね、最終的 に読み手自身に書き手の主張や意見を捉えさせることが可能になるであろう。書き手 が事实を先に提示することによって、読み手が別の異なる意見を持ちうる余地が残さ れるためである。この点から見ると、日本語の新聞社説は「説明のテクスト」と言え る。
一方、中国語の新聞社説は、「見解→解説→見解→解説…(B→A→B→A…)」と論 点つまり見解を提示し、その後資料補足として論拠を裏付ける。書き手が自分の解釈 を読み手に提示し、そして書き手の提示通りに読むことを期待する。また終結部にお いて中国語の新聞社説は、主張や結論以外に、その結論また主張を实行した後の意義 まで付け加える。読み手に書き手の考えを理解させ支持してもらう。書き手が主張を 示したうえで再度その主張を評価することによって、読み手に訴えかける効果が考え られる。この点から見ると、中国語の新聞社説は「説得のテクスト」と言える42。
例えば、同じネパール大地震の新聞社説であるが、日本語の場合はまず、地震によ る死者の数、被害が甚大な首都カトマンズの状況、人々の避難生活、水や食糧、医薬
42 「説明のテクスト」「説得のテクスト」という用語は石黒(2014)を参照した。石黒(2014:52-54)
は、文章の終わり方を大きくいくつかのタイプに分けているが、そのうち、(1)要旨型:文章の終わり でそれまで述べてきた内容をまとめる結末で、読者に知らない内容を理解してもらうことを目的とする 説明の文章に見られる、(2)表明型:文章の終わりで筆者の考えを表明する結末で、読者に筆者の考え を理解し支持してもらうことを目的とする説得の文章に見られる、と述べている。
品不足、交通や通信網が寸断、ヒマラヤ山系での影響など、地震による被害などの事 实を詳しく解説したうえで、地震発生後の 72 時間がカギであり、被災者を助けるこ とと、他国チームとの連携することが不可欠であると見解を述べる。また続く展開部 の後半でも、まずネパールの周辺は地震多発地帯であり、ネパールの地形・環境、建 物などにより地震対策が遅れている事实を解説したあと、減災対策を進めることが重 要であり、各国には救助活動の後も、復旧・復興へ向けた息の長い支援が求められる との見解を示す。このように、「解説→見解→解説→見解…(A→B→A→B…)」と事 实を出しながら、見解を示す。
一方、中国語の場合は、「予期せぬ災害の前で、すべての人は小さくて弱い存在で ある。しかし災害の前だからこそ、人間社会の運命共同体を証明する最も良い機会で ある」とまず見解を述べ、その後中国政府及び民間レベルの援助、または他国の行動 を解説する。続く展開部の後半では、「現在国際一体化の流れのなかで、『地球村』は もはやただの概念ではなくなり、ネパールの地震は、地元の人々に巨額の損失を引き 起こしただけでなく、全世界に大きな衝撃をもたらしたとも言える」、また「ネパー ルの隣国である中国はネパールのためにできることはまだ多い」など、書き手の見解 をまず示し、その後中国は何度も震災を経た結果から得た経験の内容を解説する。こ のように、「見解→解説→見解→解説…(B→A→B→A…)」とまず見解を提示し、そ の後解説を行う。
まとめると、日本語の新聞社説ではネパール地震後の現地の惨状及びネパールの地 形や地震対策が遅れているなどの事实を提示したあとに、支援の呼び掛けと主張を述 べる。一方、中国語の新聞社説ではまず支援の呼び掛けをする。その後、支援の理由 や意義などを述べている。