九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
論説文におけるテクスト構造の日中対照研究 : 新聞 社説を分析資料として
単, 艾婷
https://doi.org/10.15017/1931980
出版情報:九州大学, 2017, 博士(学術), 課程博士 バージョン:
権利関係:
論説文におけるテクスト構造の日中対照研究
―新聞社説を分析資料として―
卖 艾婷
要 旨
本論文は、日本語と中国語の論説文の典型とされる新聞社説を取りあげ、日本語学 の文章論及びテクスト言語学の観点から、両言語における文章・テクスト構造を体系 的に比較対照したものである。「段落構成(一貫性 coherence、統一性unity)」という マクロ構造と、「文相互の関係(結束性cohesion)」というミクロ構造を総合して分析 を行った。マクロ構造では「題材の配列」及び「統括機能」の観点から、ミクロ構造 では「指示」「接続」「反復」「省略」といった形態的指標を手掛かりとした。これら を総合することによって、テクスト構造を立体的に捉えることを目指した。本論文の 構成は以下の通りである。
本論文は第1 章~第 14章からなり、【第Ⅰ部 研究の現状と本論文の目的】【第Ⅱ 部 新聞社説におけるマクロ構造の日中対照】【第Ⅲ部 新聞社説におけるミクロ構 造の日中対照】【第Ⅳ部 総合的な考察】に分けて考察を行った。
第1章~第3章は【第Ⅰ部】である。第1章では、本論文の目的、背景を述べ、論 文全体の構成を紹介した。第2章では、先行研究の概観と本論文の位置付けを示した。
第3章では、本論文の理論上の枞組み及び研究方法を提示し、本論文で使用した分析 資料について説明した。
第4章~第8章は【第Ⅱ部】である。新聞社説におけるマクロ構造を主に段落構成 に注目して分析を行った。第4章では、新聞社説の構成の一部である「見出し」につ いて、第5章では、段落の捉え方及び段落の間の連接関係について分析を行った。第 6章では、「題材の配列」の観点から、新聞社説がどのような論理展開をなしているか、
どのような「一貫性(coherence)」を備えているのかということについて分析した。
日本語の新聞社説の論理展開は「解説→見解→解説→見解→…(A→B→A→B…)」
のように、論を進めていくのに対し、中国語の新聞社説は「見解→解説→見解→解説
…(B→A→B→A…)」のように展開していくという点で相違が見られた。
第7 章では、「統括段落の位置」の観点から、新聞社説の統括段落がどのように位 置するか、どのような「統一性(unity)」を備えているのかということについて分析 した。「見出しの本文中の反復」及び「变述表現」という二つの指標を手掛かりに主 題文の認定を行い、主題文の位置によるテクスト構造の類型を検討した。従来言われ てきた通り、日中両言語ともに結論が文章・テクストの最後に出現する傾向があるが、
实際に社説のような論説文では、本文の最後1ヶ所だけではなく、2ヶ所または3ヶ 所にも書き手の主張や結論が出現することが確認された。第8章では、新聞社説のテ クスト構造において重要である冒頭文及び末尾文にどのような工夫が施されている のかを分析した。
第9章~第12章は【第Ⅲ部】である。「文相互の関係」に注目したミクロ構造の日 中対照研究を行った。第9 章では(a)「指示表現」、第 10章では(b)「接続表現」、 第11 章では(c)「反復表現」、第 12章では(d)「省略表現」という四つの形態的指 標を手掛かりとして、文章・テクストの文脈がどのように形成されるのか、どのよう
な「結束性(cohesion)」を備えているのかということについて分析した。まず全体的 に見ると、日本語は中国語と比べて、結束性の表示が低く、文と文を明示的につなぐ ことが尐ないことが分かった。次に、日中両言語の相違点として、日本語の新聞社説 は、主に(c)「反復表現」(関連語句)と(d)「省略表現」の結束手段を用いて文相 互のつながりを保つことが挙げられる。一方、中国語の新聞社説は、主に(c)「反復 表現」(同一語句)、(a)「指示表現」及び(b)「接続表現」の結束手段を通じて文相 互の関係性を示すことが明らかになった。
第13章及び第14章は【第Ⅳ部】である。第13 章では、マクロ構造とミクロ構造 についての総合的な記述・考察を行った。第 14 章では、本論文の結論、研究意義及 び今後の課題について述べた。日中両言語の新聞社説におけるテクスト構造の相違は、
「読み手」/「書き手」の主体性の違いにあるとの結論に至った。日本語の新聞社説 は「読み手中心の説明テクスト」であるのに対し、中国語の新聞社説は「書き手中心 の説得テクスト」であると言える。日本語の新聞社説では、読み手が書き手の主張や 意見を理解して読むことが期待される。一方、中国語の新聞社説では、書き手が自分 の解釈を読み手に提示し、読み手には書き手の提示通りに読むことが期待される。こ のような「読み手」/「書き手」の主体性の違いが、文章・テクスト構造に反映され ている。
本論文は、文章・テクスト構造をマクロ構造とミクロ構造の二側面から体系的な分 析を行った。「一貫性(coherence)」「統一性(unity)」「結束性(cohesion)」という三 つの観点から多面的なアプローチを試み、総合的に捉えて検討し日中両言語の新聞社 説の文章・テクスト構造及び社説のテクストジャンルの特性を解明した。これまで主 な研究対象とされてきた語彙や文のレベルを超え、段落や文章・テクスト全体を扱っ た独自性の高い論文である。特に関連研究が尐ない中国語の社説についても詳細な分 析を行っており、今後の新たな展開可能性を示唆することができた。
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目 次
【第Ⅰ部 研究の現状と本論文の目的】 ... 1
第1章 序論 ... 1
1.1研究の目的と背景 ... 1
1.2本論文の構成 ... 2
第2章 先行研究の概観と本論文の位置付け ... 4
2.1文章論・テクスト分析に関する先行研究 ... 4
2.2文章・テクストの定義・分類・卖位 ... 14
2.3文章・テクスト構造に関する先行研究 ... 20
2.4先行研究のまとめ及び本論文の位置付け ... 39
第3章 本論文の理論的枞組み及び分析資料 ... 41
3.1理論的枞組み ... 41
3.2分析資料 ... 44
【第Ⅱ部 新聞社説におけるマクロ構造の日中対照研究】 ... 49
第4章 見出しについて ... 49
4.1はじめに ... 49
4.2見出しの構成 ... 49
4.3見出しのレトリック表現 ... 52
4.4見出しの機能 ... 55
4.5まとめ ... 59
第5章 段落とは ... 60
5.1はじめに ... 60
5.2段落に関する先行研究 ... 60
5.3段落の捉え方 ... 63
5.4段落間の連接 ... 71
5.5分析結果 ... 75
5.6まとめ ... 76
第6章 題材の配列 ... 78
6.1はじめに ... 78
6.2題材の配列に関する先行研究 ... 78
6.3分析方法 ... 83
6.4分析 ... 84
6.5分析結果と考察 ... 96
6.6まとめ ... 99
第7章 統括段落の位置 ... 100
7.1はじめに ... 100
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7.2統括段落の位置に関する先行研究 ... 100
7.3分析方法 ... 101
7.4主題文の認定手法 ... 102
7.5主題文による統括段落の位置 ... 106
7.6分析結果と考察 ... 116
7.7まとめ ... 117
第8章 冒頭文・末尾文について ... 119
8.1はじめに ... 119
8.2冒頭文・末尾文に関する先行研究 ... 119
8.3分析方法 ... 123
8.4冒頭文・末尾文の機能及び表現 ... 124
8.5冒頭文・末尾文の呼応状況 ... 128
8.6冒頭文・末尾文と見出しとの関連性 ... 131
8.7分析結果と考察 ... 136
8.8まとめ ... 144
【第Ⅲ部 新聞社説におけるミクロ構造の日中対照研究】 ... 147
第9章 ミクロ構造の形態指標(a):指示表現 ... 148
9.1指示表現に関する先行研究 ... 148
9.2日本語の新聞社説における指示表現 ... 150
9.3中国語の新聞社説における指示表現 ... 152
9.4『朝日新聞』の中国語版から見た指示表現 ... 154
9.5分析結果と考察 ... 158
9.6まとめ ... 161
第10章 ミクロ構造の形態指標(b):接続表現 ... 163
10.1 接続表現に関する先行研究 ... 163
10.2 日本語の新聞社説における接続表現 ... 166
10.3 中国語の新聞社説における接続表現 ... 167
10.4 『朝日新聞』の中国語版から見た接続表現 ... 169
10.5 分析結果と考察 ... 170
10.6 まとめ ... 176
第11章 ミクロ構造の形態指標(c):反復表現 ... 177
11.1 反復表現に関する先行研究 ... 177
11.2 反復表現における分析対象と方法 ... 180
11.3 形態の観点:同一語句・関連語句の反復 ... 181
11.4 機能の観点:同一語句・関連語句の反復と社説全体との関連性... 186
11.5 まとめ ... 193
第12章 ミクロ構造の形態指標(d):省略表現 ... 197
12.1 省略表現に関する先行研究 ... 197
12.2 日本語の新聞社説における省略表現 ... 198
iii
12.3 中国語の新聞社説における省略表現 ... 202
12.4 『朝日新聞』の中国語版から見た省略表現 ... 202
12.5 分析結果と考察 ... 207
12.6 まとめ ... 208
【第Ⅳ部 総合的な考察】 ... 211
第13章 総合的な記述及び考察 ... 211
13.1 総合的な記述 ... 211
13.2 総合的な考察 ... 220
第14章 結論 ... 224
14.1 本論文の要約 ... 224
14.2 研究意義 ... 225
14.3 今後の課題 ... 226
【参考文献】 ... 227
【付録資料】 ... 240
Ⅰ各新聞社説の見出しデータ ... 240
Ⅱ題材の配列における社説例 ... 250
【謝辞】 ... 261
iv
表目次
表1 テクストに関する定義 ... 16
表2 日本語の文章における文章構造の類型 ... 28
表3 説明文における文章構造の「配列」 ... 28
表4 分析資料の内訳 ... 45
表5 日本語の新聞社説における「完全文」・「不完全文」の割合 ... 51
表6 新聞社説の見出しにおけるレトリック表現の使用率 ... 55
表7 新聞社説における見出し機能の分析結果 ... 58
表8 新聞社説の1文章あたりにおける平均段落数の割合 ... 63
表9 各社説における段落間の連接の分析結果 ... 75
表10 本論文での配列の分類 ... 84
表11 日中両言語の新聞社説における題材の配列の分析結果... 85
表12 日本語の变述表現の分類及び語例 ... 104
表13 中国語の变述表現の分類及び語例 ... 105
表14 社説例13の見出しの反復及び变述表現の分析 ... 107
表15 社説例14の見出しの反復及び变述表現の分析 ... 112
表16 社説例15の見出しの反復及び变述表現の分析 ... 115
表17 見出しの反復表現及び变述表現から見たテクスト構造類型 ... 116
表18 冒頭文・末尾文の機能と表現 ... 123
表19 日中の新聞社説における冒頭文の機能 ... 136
表20 日中の新聞社説における末尾文の機能 ... 136
表21 日中の新聞社説における冒頭文の表現 ... 137
表22 日中の新聞社説における末尾文の表現 ... 138
表23 日中の新聞社説における冒頭文・末尾文と見出しとの関連性 ... 139
表24 日中の新聞社説における指示表現の使用 ... 158
表25 中国語の新聞社説における指示表現の内訳 ... 158
表26 『朝日』原文と中国語訳文の対応状況 ... 159
表27 文の連接型における日本語と中国語の対応 ... 164
表28 文の連接関係の基本的類型 ... 164
表29 新聞社説における接続表現の割合と平均段落数 ... 171
表30 日中の新聞社説における各接続表現の出現率 ... 171
表31 『朝日新聞』における接続表現の内訳 ... 172
表32 『新京報』における接続表現の内訳 ... 173
表33 『朝日新聞』の原文とその中国語版における接続表現の出現率 ... 174
表34 語彙的結束性の分類(Halliday and Hasan 1976) ... 177
表35 語彙的手段(池上1983) ... 178
表36 反復表現における分析資料の内訳 ... 180
表37 「原爆ドーム 100年に考える役割」における類義語の使用 ... 184
表38 「検定発表 教科書はだれのものか」における類義語の使用 ... 184
表39 中国語の新聞社説における同一語句の使用 ... 185
表40 同一語句と社説全体との関連性 ... 193
表41 マクロ構造の具体的な分析内容 ... 211
表42 ミクロ構造の形態指標及びその具体的な分析内容 ... 215
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図目次
図1 本論文の構成 ... 3
図2 中国語の文章学における研究範囲(鄭2000:51の図を引用) ... 31
図3世界各言語の論理構造のパターン(Kaplan 1966:14の図を引用) ... 34
図4『朝日新聞』 『読売新聞』 『西日本新聞』 ... 45
図5『新京報』 『北京青年報』 ... 46
図6 『朝日新聞』 『読売新聞』 『西日本新聞』 ... 50
図7『新京報』 『北京青年報』 ... 50
図8 各社説における段落間の連接の分析結果 ... 76
図9 本論文で分析する新聞社説の構成部分 ... 83
図10 社説例7の配列 ... 86
図11 社説例8の配列 ... 88
図12 社説例9の配列 ... 90
図13 社説例10の配列 ... 92
図14 社説例11の配列 ... 94
図15 社説例12の配列 ... 95
図16 見出しの反復表現及び变述表現から見た文章構造類型 ... 117
図17 指示(ハリディ・ハサン[著];安藤他[訳]1997:40による) ... 148
図18 日中の新聞社説における指示詞の使用 ... 158
図19 『朝日』原文と中国語訳文の対応状況 ... 159
図20 日中の新聞社説における各接続表現の出現率 ... 171
図21 日中両言語の表現形式における特徴(新里(1974:10)を改変) ... 208
図22 日仏の言語の相違(高垣2003:8の図を引用) ... 218
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【第Ⅰ部 研究の現状と本論文の目的】
第 1 章 序論
本章では、本論文の研究目的と背景について述べ、論文の全体的な構成を提示する。
1.1 研究の目的と背景
本論文は、日本語と中国語の論説文の典型とされる新聞社説を取りあげ、日本語学 の文章論及びテクスト言語学の観点から、両言語における文章・テクスト構造を体系 的に比較対照し、その共通点と相違点を明らかにすること及び新聞社説のジャンル・
テクスト特性を解明することを研究目的とする。
日本語学習者は、日本語の読解や作文の難しさにたびたび直面する。その中で筆者 は、効率的な文章の読み方や論理的な文章の書き方とはどのようなものかを考えるよ うになった。例えば一篇の文章・テクストがどのようにして組み立てられているのか は読解にも作文にも必要な論理であり、その仕組みやあり方を理解するために日本語 の文章・テクスト構造の分析は必須であろう。また、筆者の母語である中国語の文章・
テクスト構造との相違点を究明することで、中国人日本語学習者への読解・作文指導 の一助となり得ると考え、対照研究を目指した。また、「言語によって、話の運び方、
説得のための技巧が違うということがあるとすれば、文章構造の対照研究は、異なる 言語を使う民族の物の考え方の違い、文化の違いを実観的に認識し、国際的な相互理 解に役立てることも期待できよう」(寺村他1990:11)と指摘されているように、日 本語と中国語の文章・テクスト構造を比較対照することによって、両言語の類似点と 相違点を解明することができ、さらには異なる言語を使用する社会の文化的な違いな どを理解しあうことが期待される。
永野(1986:79)は、日本語の文章論の中心的な課題を、「究極において文章の構 造の解明」と述べている。また佐久間他[編](1997)は、文章・談話の主な目的は、
文章・談話そのものの構造を解明することにあると述べ、さらに構造とは、表現され た結果としての文章・談話のまとまりということであり、そのまとまりがどのような しくみによって成り立っているかを明らかにしようということであると指摘してい る。このほかに、テクストの研究課題として、池上(1983)は「結束性(cohesion)」、
「卓立性(prominence)」及び「全体的構造(macrostructure)」をなすテクスト構造の 解明を挙げている。つまり、文章論及びテクスト分析において、「文章・テクスト構 造」の解明こそが最も中心的な研究課題となる。一つの意味的まとまりのある言語表 現としての文章・テクストが、どのように全体として一つの統一体を形成しているの かを解明するということである。
文章・テクスト構造と言えば、古来漢詩の作法に由来する「起・承・転・結」や能 楽論に基づく「序・破・急」、西洋修辞学による「序論・本論・結論」などが一般的
であるとされている。しかし、「テクストのジャンルを限定して考えるならば、この おおまかな一般的な構造がもう尐し明確な形で存在しており、時にはそれを満たすこ とが期待されている場合も見出される」(池上1983:37)。例えば、長尾(1992)は、
従来の「起・承・転・結」や「序・破・急」「序論・本論・結論」などは文章構成を 十分に説明できないと指摘し、論理展開の型をいくつかのパターンとして提示してい る。そのうち、「具体事例―問題点指摘―資料補足―結論」という型が、「ルポタージ ュや新聞の論説などに頻出する形式で、書きやすく、しかも効果的な型でもある」
(p.31)と説明している。つまり、文章・テクスト全般ではなく、ジャンルを限定し てみることで、そのジャンル特有の構造を見出すことができるのではないかと考えら れる。
文章論では、文章構造の主に「統括機能」の観点からの研究(永野1986、市川1978、
佐久間 1999、2000 など)が行われ、そのうち佐久間の論考は示唆に富んでいる。佐
久間は、「頭括型」、「尾括型」、「中括型」、「両括型」、「分括型」、「潜括型」の 6 種類 は、現代日本語の「文章構造類型」とされ、「接続・指示・提題・变述・反復・省略 表現」などの形態的よる構造分析が可能であると指摘している。しかし、主題文の位 置から上記の類型を抽出するだけでは、文章・テクスト構造がどのように構成される か、すなわち文章・テクストの論理展開を把握することは困難である。
また、「日本語の文章論における構造分析では、主語や陳述の連鎖、反復語句や指 示語、省略、連接・接続関係などをそれぞれ卖独の項目として扱うのが大部分であっ
た」(立川2011:92)と指摘されるように、卖独の分析観点を用いた分析方法によっ
て文章構造を把握する傾向にあり、総合的な構造を把握する手法など解明すべき点は まだ多く残されていると言える。
そこで本論文は、文章・テクストの構造を解明するにあたり、まず文章・テクスト のジャンルを限定した。次に、統括機能の観点だけではなく、文章・テクストの論理 展開の把握も考慮する。また、卖独の分析観点を避け、複合的な視点から文章・テク ストの分析を行う。これらを踏まえて日中両言語における文章・テクスト構造類型を 比較対照し、その共通点や相違点を明らかにする。
本論文は、主に日本語学の文章論及びテクスト言語学の観点を援用する。段落構成
(一貫性coherence、統一性unity)というマクロ構造と、文相互の関係(結束性cohesion)
というミクロ構造を総合して分析する。具体的には、前者では「題材の配列」(一貫
性coherence)及び「統括機能」(統一性unity)の観点から、後者では「指示」「接続」
「反復」「省略」といった形態的指標を手掛かりとする。マクロ構造とミクロ構造の 相関関係を総合することによって、テクスト構造を立体的につかむことを目指す。
1.2 本論文の構成
本論文は四部(14章)から構成される。ここでは各部分の内容を提示する。
第1章~第3章が【第Ⅰ部】である。第1章では、本論文の目的、背景を述べ、論 文全体の構成を紹介する。第 2 章では、先行研究の概観と本論文の位置付けを示す。
まず、文章論・テクスト分析に関する先行研究、主に国語学・日本語学の文章論及び、
欧米のテクスト分析について概観する。次に、文章論・テクストの定義・分類・卖位 などについて解説する。さらに、文章・テクスト構造に関する先行研究を整理したう えで、最後に、先行研究の問題点及び本論文の位置付けについて述べる。第3章では、
本論文の理論上の枞組み及び研究方法について記述する。加えて、本論文で使用した 分析資料について説明する。
第4章~第8章は【第Ⅱ部】である。段落構成に注目したマクロ構造の日中対照研 究を行う。第4章では、新聞社説の構成の一部である「見出し」について、第5章で は、段落の捉え方及び段落の間の連接関係について分析を行う。第 6 章では、「題材 の配列」の観点から、新聞社説がどのような論理展開をなしているか、どのような「一 貫性(coherence)」を備えているのかということについて検討する。第7章では、「統 括段落の位置」の観点から、新聞社説の統括段落がどのように位置するか、どのよう な「統一性(unity)」を備えているのかということについて検討する。第 8 章では、
新聞社説のテクスト構造において、重要である冒頭文及び末尾文にどのような工夫が 施されているのかを示す。
第9 章~第 12章は【第Ⅲ部】である。文相互の関係に注目したミクロ構造の日中 対照研究を行う。第9章では(a)「指示表現」、第10章では(b)「接続表現」、第11 章では(c)「反復表現」、第12章では(d)「省略表現」といった形態的指標を手掛か りとして、文章・テクストの文脈がどのように形成されるのか、どのような「結束性
(cohesion)」を備えているのか、について検討する。
第13章及び第14章は【第Ⅳ部】である。第13 章では、マクロ構造とミクロ構造 についての総合的な記述・考察を行う。マクロ構造とミクロ構造の相関関係を検討し、
社説の文章・テクスト構造の全体像を捉える。最後に第 14 章では、本論文の結論、
研究意義及び今後の課題について述べる。
本論文の全体構成は以下の図1に示す通りである。
図1 本論文の構成
第 2 章 先行研究の概観と本論文の位置付け
本章では、まず文章論・テクスト分析に関する先行研究を概観し、文章・テクスト の分析成分について説明する。次に、本論文で扱う文章・テクスト構造に関する先行 研究の成果と問題点をまとめ、本論文の位置付けを示す。
2.1 文章論・テクスト分析に関する先行研究
2.1.1 国語学・日本語学の文章論
山口・秋本[編]『日本語文法大辞典』(2001:705)の中で、「文章論」については 以下のように記述されている。
文章に関する研究の意。「文章」という語の理解の仕方によって、(1)文法論 における文の構造の研究つまり構文論、(2)修辞学における文章の作り方の研究 つまり文章作法、(3)作品研究の一種としての作家や作品の文体に関する研究、
などの意で用いられてきたが、(4)時枝誠記が文章を語・文とともに言語卖位の 一つとし、文章を文法研究の対象として、語論・文論とともに文章論を提唱(『日 本文法口語篇』昭和25)して以来、文章についての国語学的あるいは文法論的研 究が文章論と呼ばれるようになってきた。
国語学の研究において最初に文章論を文法論の中に位置づけて提唱したのは時枝
(1950)である。それまでの「文章論」は、主に「文体論」や「修辞学」などに関す る研究であったが、時枝は、語・文・文章のすべてが言語研究上の卖位として認定さ れ、語論・文論と並んで文章論も文法論の一部とすべきであると主張し、その必要性 を説いた。なかでも時枝は、「文法論」の射程を「語」・「文」から、その上位にある
「文章」という最大の言語卖位を規定したことが非常に興味深い。メイナード(1997)
は、時枝(1950)の主張については、具体的文章分析例が皆無であり、文章論と文法 論の関係、文章論の必要を説くのみに留まっていると指摘している。しかしその後、
文法論として文章論の具体的な研究が次々に積み重ねられてきた。代表的な研究とし て、永野(1986)、市川(1978)、佐久間(1999、2000、2003)などが挙げられる。
永野(1986)
永野は、時枝(1950)の文章論を受け継ぎ、「文法論的文章」の観点から、「連接論」、
「連鎖論」、「統括論」という三つの観点を設定し、文章分析を行った。「連接論」と は、隣り合った二個の文の連続の関係を考えるものであり、「連鎖論」とは、文の連 続における一つ一つの文を鎖の輪に見立てて、文が鎖状に連なることによって文章が 成り立つとする見方である。また「統括論」とは、連接論と連鎖論とを踏まえて文章 内の特定の文が全体を統括するものとし、文章の統一を確かめるものである。
以下、「連接論」、「連鎖論」「統括論」についてそれぞれ簡卖に紹介する。
まず「連接論」については、連接関係を示す言語形式として以下の5種類を挙げて いる。(1)接続語句、(2)指示語、(3)助詞・助動詞など、(4)同語反覆・言い換え など、(5)応答詞など。また、言語形式による2つの文の連接関係の類型として以下 の9種類を挙げている。(1)展開型、(2)反対型、(3)累加型、(4)同格型、(5)
補足型、(6)対比型、(7)転換型、(8)飛石型、(9)積石型である。
次に「連鎖論」に関しては、主語の連鎖、陳述の連鎖、主要語句の連鎖の3種類が ある。「主語の連鎖」では、主語のあり方の違いによって、文の性格も違ってくる。
現象文(「が」の主語)、判断文(「は」の主語)、述語文(主語のもともとない文)、
準判断文(「は」の主語の省略された文)の 4 種類に分類し、主語の連鎖からみた文 章の典型として、(1)現象文の連鎖を基調とする文章、(2)現象文と判断文との交 錯を基調とする文章、(3)判断文の連鎖を基調とする文章、を挙げている。陳述の 連鎖では、「詞」(実体的事物:事物・事柄)と「辞」(主体的立場:実体的事物に ついての表現者の立場・考え方・情感)を区別し、「辞に関する分類語例表」を作成 している。また主語の連鎖では、文章の主題やモチーフに関わりの深い中核となる語 句を取りあげて分析を行った。
最後に「統括論」では、統括の機能を果たす言語形式が文章中に占める位置によっ て、(1)冒頭統括、(2)末尾統括、(3)冒頭末尾統括、(4)中間統括、(5)零 記号統括の五種の類型を立てた。
「連接論」によって文脈展開の流れをたどり、「連鎖論」によって全体の結構を把 握し、「統括論」によって統一と完結とを最終的に確認するわけである(p.120)。永野 は、時枝の研究を踏まえ具体性に富み、「連接論」「連鎖論」「統括論」の三つの観点 の分析に加えて、連接論では「文連接図」と「段落連接図」、連鎖論では「主語連鎖 図」、「陳述連鎖図」、「主要語句連鎖図」、また統括論では「文章統括図」を作成して いる。これは文章の分析及び理解に非常に役立つものと考えられる。
しかしながら永野は、形式を重視するあまり、意味や機能に関する配慮に欠けるこ とが課題であると考えられる。市川(1978)は永野について、文レベルの相互関係の 考察(文連接論)は実観的な指標に基づいて捉えることが可能であるが、段落レベル の相互関係は実観的な指標だけに基づいて捉えることが非常に困難であると述べて いる。つまり、文レベルまでは文法論的に考察できる分野であり、段落相互の関係を 論ずる段落関係論や、文章全体の構成を論ずる文章構成論などは文章論として重要で あるが、文法論的な考察には適さないということである。
市川(1978)
市川(1978:11)は、文章論の研究内容として、以下の事項を挙げている。
(1)文章とは何か。
(2)文章はどのように分類されるか。
(3)文と文とは、どのような語句で関係づけられるか。
(4)文と文とのつながり方には、どんな類型があるか。
(5)段落はどのようにして成立するか。
(6)段落と段落とのつながり方には、どんな類型があるか。
(7)文章全体はどのようにして構成されるか。
市川はまず、文章の文脈展開の形態を「文をつなぐ形式」と呼び、以下のように分 類している。
(a)前後の文(あるいは節)相互を直接、論理的に関係づける形式 1)接続詞
2)接続詞的機能をもつ語句(副詞・名詞・連語)
3)接続助詞
4)接続助詞的機能をもつ語句
(b)前文(あるいは前節)の内容を、後文(後節)の中に持ち込んで、前後を 内容的に関係づける形式
5)指示語
6)前文の語句と同一の語句
7)前文の語句に対して同義あるいは類義の語句
(c)その他の形式
8)前後関係を説明する表現
9)前文の表現を(要約して)接続語的に繰り返す 10)特殊な文末表現
11)なんらかの意味で前後関係を表す語(もしくは記号)
12)特殊な活用形(連用形中止法・仮定形)
(市川1978:52-56)
接続詞や指示語、繰り返し語句などを形態指標として、文章の全体的構造における 文の連接と配列を考察し、文の連接関係の基本的類型として、(1)順接型、(2)逆 接型、(3)添加型、(4)対比型、(5)転換型、(6)同列型、(7)補足型、(8)
連鎖型の 8 種類を挙げている。また、「文」の連接と配列を活用して「段落」の連接 と配列を示すことによって、文章の構造を分析している。
このほか、文章の内部構成に関しては、何らかの意味で文章の内容を支配し、また は文章の内容に関与することによって、文章全体をくくりまとめる「統括」という機 能を用いて文章の構成を以下のように類別している。
(a) 全体を統括する(大)段落をもつもの(統括型)
(ア) 冒頭で統括する(頭括式)
(イ) 結尾で統括する(尾括式)
(ウ) 冒頭と結尾とで統括するもの(双括式)
(エ) 中ほどで統括するもの(中括式)
(b) 全体を統括する(大)段落をもたない(非統括型)
(市川1978:156-157)
一方、上に挙げたものとは別に、段数によって次のように類別している。
一段式(文章全体が段落に区分されないもの)
二段式:統括型(頭括式・尾括式)、非統括型 三段式:統括型(双括式・中括式)、非統括型 多段式:非統括型
このほか、文章の「運び」(進行)の形式として、「冒頭・展開部・結尾」という三 部形式が紹介されている。
佐久間(2003)
佐久間(2003)では、「卖独の1文が文章全体を統括することはむしろ尐なく、(中 略)文章・談話における複数の「段」が相互に統括関係を形成し、より高次元の「連 段」を成立させ、最終的に、最大の統括力を有する「中心段」が他のすべての連段を まとめ上げて、完結統一体としての文章・談話を成立させる」(p.95)と述べ、「段」
は「文」よりも上位の言語卖位であり、文章構造を解明する上で必要な「文章」と「文」
の中間的卖位であるとし、その「段」の統括機能の観点から文章・談話の構造を検討 している。その結果、中心段の統括機能の配列位置及び配置度数による基本的な文章 構造類型として、「冒頭型」、「尾括型」、「両括型」、「中括型」、「分括型」、「潜括型」
の6つの文章型を設定している。
また佐久間(1999)は、文や段の統括力を示す言語形式を「文脈展開形態」と呼び、
文章の主要な文脈展開形態として、a.接続表現、b.指示表現、c.反復表現、d.省略表現、
e.提題表現、f.变述表現の6項目を挙げている。
このほかに、独自の新たな見解を用いて文章論を考えたものに、長田(1984、1995)
と森岡(1995)がある。
長田(1984)は、意義のつながりを持った二つ以上の文の連続体を「連文」とし、
さらに言語の内面的意義が連文における意義のつながりをつけているときの各種の 役割を総称して「連文的職能」と名付けて考察を行っている。また長田(1995)は、
「文章はその文章の作り手の文字言語による一つの答えである」とし、「答えである 文章」に対応する「文章を成立させる問」を考えることができると述べ、「問答体」
と呼ばれる表現形式を検討している。森岡(1995)は、西洋の「コンポジション」理 論を日本語の文章で实現しようという目的で「文章構成法」の観点から文章作法につ いて論じ、主題、材料、構成、段落、文といった文章論研究と関連する事項を多く取 り上げている。
2.1.2 欧米のテクスト分析
欧米におけるテクスト分析では、テクスト言語学や談話分析として、テクストのま とまりを示す結束性(cohesion)1や一貫性(coherence)2を取り上げた研究が多く見ら れる。
Halliday and Hasan(1976)
結束性(cohesion)の先駆的な研究は、Halliday and Hasan(1976)である。
結束性とは、文章・談話に内在する意味的なつながりであり、言語の表層的な形式 によって明示されるものである。Halliday and Hasan(1976:4)では以下のような指 摘がある。
The concept of cohesion is a semantic one; it refers to relations of meaning that exist within the text, and that define it as a text.
Cohesion occurs where the INTERPRETATION of some element in the discourse is dependent on that of another.
つ ま り 結 束 性 (cohesion) が 生 じ る の は 、 テ ク ス ト の あ る 要 素 の 解 釈
(INTERPRETATION)が別の要素の解釈に依存し、テクストの一つの部分を他の部 分と結びつける場合である。
Halliday and Hasanは結束性が文法的卖位を超えた意味的まとまりの概念であるこ
と、さらに、その概念を言語的に表出する手段として、(1)「指示(reference)」、(2)
「代用(substitution)」、(3)「省略(ellipsis)」、(4)「接続(conjunction)」3の A.「文 法的結束性(grammatical cohesion)」、(1)再变(reiteration)」、(2)「コロケーション
(collocation)」のB.「語彙的結束性(lexical cohesion)があることを提案している。
具体例については以下A、Bを参照されたい。
A. 文法的結束性
(1) 指示
人称詞:That new house is John’s. —He had it built last year.
指示詞:Pick these up!
比較語:I was expecting someone different.
(2) 代用
名詞の代用:These biscuits are stable, Get some fresh ones.
動詞の代用:Does she sing? —No, but Mary does.
1 「文をつなぐ形式」(市川1978)、「文の連接関係」(永野1986)、「連文」(長田1984)などとほぼ同じ 概念であると考えられる。
2 これらの述語の日本語訳は一定しておらず、例えばcohesionに対して「結束性」や「結束構造」、coherence に対しては「(首尾)一貫性」や「結束性」「整合性」などの訳語がある(高崎・立川2010:11)。
3 「接続」は「文法的結束性」と「語彙的結束性」のボーダーラインに存在するとされている。
節の代用:Will John come today? —I hope so/ not.
(3) 省略
名詞句の省略:The men got back at midnight. —Both ∅ were tired out.
動詞句の省略:Have you been swimming? —Yes, I have ∅.
節の省略:Who killed Cock Robin? —The sparrow ∅.
(4) 接続
付加的:and, furthermore, that is, in the same way, etc.
反意的:yet, but, however, actually, on the contrary, etc.
因果的:so, hence, therefore, in that case, etc.
時間的:then, after that, previously, in the end, etc.
B. 語彙的結束性
(1) 再变
同一語:a cat—the cat, etc.
(近似)同義語:dismal—gloomy; sword—brand, etc.
上位語:a car—the vehicle, etc.
一般語:the ascent—the thing
(2) コロケーション:poetry—literature—reader—writer —style, etc.
(ハリディ・ハサン[著];安藤他[訳]1997:ⅰ-ⅱ)
さらに、ハリディ・ハサン[著];安藤他[訳](1997:398)では、(1)形式の関 連性、(2)指示の関連性、(3)意味的関係という三種類を認めることができると述べ、
それぞれは様々なタイプの結束性と以下のように対応すると説明している。
結束的関係の性質 結束性のタイプ
形式の関連性 代用と省略、語彙的コロケーション 指示の関連 指示、語彙的再变
意味の関係 接続
最後に、こういった理論的枞組みに沿って結束性(cohesion)を符号化組織として 提示し、物語、会話、ソネット、自伝、劇の対話、略式体のインタビューなど様々の 具体例の分析を行っている。
Halliday and Hasan(1976)において、結束性(cohesion)はテクストの一般的構造 を探るための鍵概念の一つであり、またテクスト分析の方法論を具体的に示したもの として、非常に高い理論的価値を持つものである。しかし、Hasan(1984)がのちに 認めているように、十分なテクストが成立するためには、さらにマクロなレベルで、
「首尾一貫性(coherence)」が備わっていなければならないのである。例えば、
Clare loves potatoes. She was born in Ireland.
(クレアはじゃがいもが大好きだ。アイルランド生まれだから)
(ハリディ・ハサン[著];安藤他[訳]1997:ⅱの例を引用)
という2つの文がテクストとしてのまとまりを持つためには、Clare-Sheという人 称詞指示による「結束性(cohesion)」だけではなく、アイルランド人はじゃがいも好 きであるという民族文化的な知識があるか、それとも、この2つの文の間に因果関係 を読み取る用意ができていなければならないのであるという。
また庵(1999、2007)では、Halliday and Hasan(1976)の結束性について、最大の 問題点はテキストの形成に際して、語彙・文法的な手段である「結束性」しか考慮し ていないということを指摘し、以下のWiddowson(1978)の例を引用しながら、表層 に何ら結束性に関わる要素が存在しない文連鎖がテキストになっていることも多く、
つまりテキストの構成にかかわるものには、「結束性」だけではなく、推論に基づく
「一貫性」といったレベルのものも存在すると主張している。
(9)A:電話だよ。
B:今風呂に入ってんだ。
A:分かった。(cf. Widdowson(1978))
(9’)A:電話だよ。
B:[電話に出るべきなんだが]今風呂に入ってんだ。[だから電話に は出られない]
A:わかった。[じゃあ、僕が電話に出るよ]
(庵2007:11-12)
Beaugrande and Dressler(1981)
テクスト言語学では、テクストとはコミュニケーションのための出来事であり、テ クスト性(textuality)の 7 つの基準を満たすものであると考える。また、「テクスト が人間的な相互作用の中でいかに機能するか」(p.6)を主な問題とする。以下、その 7種類のテクスト性(textuality)を提示しておく。
(1)結束構造(cohesion):表層テクストの言語形式のつながり
(2)結束性(coherence):表層テクストの背後にある概念と関係の結合
(3)意図性(intentionality):生産者側の態度
(4)容認性(acceptability):受容者側の態度
(5)情報性(informativity):テクストにおける情報が予想可能か否か
(6)場面性(situationality):テクストが適切な場面で表現されているか
(7)テクスト間相互関連性(intertextuality):ほかの既存テクストとの相互関連
テクスト性(textuality)にはまず、テクスト内部の整合性に関わる(1)「結束構造
(cohesion)」と(2)「結束性(coherence)」があり、前者は表層テクストの言語形式 のつながりを、後者は表層テクストの背後にある概念と関係を結合して得られる意義 の連続性(frame、scheme、plan、script)を示す。これらに加えて、使用者中心の概 念である生産者側の態度に関する(3)「意図性(intentionality)」及び受容者側の態度 に関する(4)「容認性(acceptability)」が挙げられる。また、テクストにおける情報 が予想可能か否かに関わる(5)「情報性(informativity)」、テクストが適切な場面で 表現されているかに関わる(6)「場面性(situationality)」、他の既存テクストとの相互 関連を示す(7)「テクスト間相互関連性(intertextuality)」がある。
Beaugrande and Dresslerは、「(1)「結束構造(cohesion)」と(2)「結束性(coherence)」 はテクスト中心の概念であって、テクストの題材に対して課せられる操作を表してい る」(p.11)と述べている。
池上(1983、1985)
池上によれば、「テクスト」とは、いくつかの「文」からなるまとまりであり、ま たテクストたらしめるものを「テクスト性(textuality)」という4。
テクスト構造に関しては、池上(1983)では「テクスト性(textuality)」を支える 構造的な要因として、「結束性(cohesion)」、「卓立性(prominence)」、「全体的構造
(macrostructure)」の三つが考えられると述べ、文と文の間の続き具合を問題とする
「結束性」、どの部分を特に目立たせて提示するかという「卓立性」及びテクスト全 体を覆う枞に相当する「全体的構造」と説明し、テクストの研究課題として挙げた。
池上(1985)は、テクスト構造を「ミクロ構造(microstructure)」と「マクロ構造
(macrostructure)」の観点から考察している。このうち、「ミクロ構造(microstructure)」 とは、「先行する文と後続する文の間のつながりの関係である。このつながりは、基 本的には、先行する文から後続する文への情報の連続性ということであり、表層的に はそれを表示するような言語的手段の使用ということによって示される」(p.64)。こ こで、池上は「結束性(coherence)」と「結束構造(cohesion)」の二つの概念を示し た。前者は、文の連鎖がテクストをなしている場合、ばらばらの文の集まりではない ということを保証する情報の連続性を示すものであり、後者は、テクストの「結束性
(coherence)」の表示のため、いくつの文法的または語彙的な手段を有しているもの であると区別している。
一方、テクストを「マクロ構造」の観点から見ると、「文から文への情報のつなが り(つまり、「結束性」)は十分であるのに、全体としてテクストとしてのまとまりを
4 「文」を超えた言語的構成体を指して、「テクスト」(text)あるいは「談話」(discourse)という述語 が用いられることがある(従来、どちらかと言うと「テクスト」はヨーロッパ系の学者によって、一方
「談話」はアメリカ系の学者によって好まれるという傾向があった。ここでは、ニュアンスがより中立 的な「テクスト」を用いることにする。人によっては、両者を区別して双方用いる場合もある)(池上 1985:61)。
なしていないということがある。たとえば「尻切れとんぼである」と感じられるよう な場合で、このような場合には、完結したテクストとして期待されるような全体的な 構成を欠いているということになる」(p.73)。池上は、このようなテクストとしての 全体的なまとまりの構造を「マクロ構造」と呼び、<序論>―<本論>―<結論>、
<発端><展開><結末>などといったテクストの構造を紹介し、ジャンルを限定し て考えるならば、もう尐し明確な形で「マクロ構造」が規定できることがあると指摘 している。
例えば、英語に関して一定のグループの話し手に「生命の危険を感じたような経験」
を語らせるというものでは、次のような「マクロ構造」が抽出されている。
<導入> I met a guy in the park. 公園デヒドイ奴ト出会ッタ
<展開> He hit me. 奴ハオレヲナグッタ
<評価> It was so painful. トテモ痛カッタ
<解決> I hit him back. オレモナグリ返シテヤッタ
<終結> That’s the end of it. ソレデオシマイサ
(池上1985:74(英文)、1983:37-38(和文)の例を引用)
このように池上は、英語に研究の中心を据えながら、欧米のテクスト分析の理論を 踏まえたテクスト研究を行っている。これは日本語テクスト分析へも援用が期待され る。しかし、池上(1983、1985)では、「結束性」について定義の相違が見られる。
例えば池上(1983)ではcoherence について触れていなかったが、池上(1985)では テクスト構造分析する際に、coherence も配慮するようになった。また、日本語のテ クストに関する分析は尐ない。
日本語の結束性について論じたのは庵(2007)である。庵は、Halliday and Hasan
(1976)の研究を踏まえ、まず「テキスト(text)」5「結束性(cohesion)」について 規定を行った。テキストを「意味的にまとまりをなす文(連続)」と定義し、次に文 連続がテキストを構成するときに生じる「つながり」に、文法的依存関係によるもの と、推論によるものがあることを指摘し、各々におけるつながりを「結束性(cohesion)」
「一貫性(coherence)」と称した。「文脈」「定、不定、定情報」「結束装置」などの諸 概念を規定したうえで、指示表現と語彙的結束性について詳しく分析している。
このほか、高崎・新屋・立川(2007)は、随筆というジャンルの日本語のテクスト について、指示語・文末表現・語彙・引用表現・名詞述語文などの出現傾向の諸相や 使用实態を調査し、随筆のジャンルとしての位置付けを行っている。
結束性(cohesion)と一貫性(coherence)については、ほかにも数多く議論されて きた。例えば田窪他(2004)、高崎・立川(2010)などである。
田窪他(2004)では、結束性(cohesion)と整合性(coherence)6に関して、それぞ
5 庵(2007)はtextを「テキスト」と呼んでいる。
6 coherenceに対して、「整合性」という訳語が用いられている。
れを以下のように規定している。
結束性(cohesion)は、様々な言語手段を使っての談話の言語的つながりを指 す。具体的には指示表現、代用表現、接続表現などが用いられる。それに対して 整合性(coherence)は、談話全体の「自然さ」あるいは「すわりのよさ」という ような広い意味で使われる。整合性を求めるのは言語的要素に限らず、常識、推 論、連想など、非言語的要素も含めて整合性は談話の意味的つながりの善し悪し を指す。
(田窪他2004:97)
さらに田窪他は、言語的つながりは意味的つながりに通じることから、結束性
(cohesion)は談話全体の整合性(coherence)に影響せざるを得ないため、両者は独 立した概念ではなく、密接に関連すると論じている。
高崎・立川(2010)は、テクストとは、实際に運用される言語表現上の意味的な卖 位であり、完結性・統一性を持つ文集合であり、「テクスト性」を備えていることが 必須条件であると述べる。さらにテクスト性の中心的な性質にはcohesionとcoherence があり、前者はテクスト表層上の文相互のつながり、後者はテクスト意味上の連続性 としてのつながりであると述べている。つまり、意味的関係である coherence が具体 的な言語形式として顕現化したものがcohesionとなる。
また高崎・立川によれば、文章やテクスト分析では、これらの性質に基づいて文間 に発生する部分的な関係であるミクロ構造分析や、それらによって構成される文章構 成や思考構造といったマクロ構造分析、コンテクストや人間の心理・認知的な活動な どを視野に入れた機能的観点からの動的な研究が行われているという。
2.1.3 文章論・テクスト分析の研究課題
本節では、文章論・テクスト分析の研究課題を明確にする。
時枝(1950)は、国語学の「文章論」において究極の課題は言語過程説に基づく文 章の展開的構造の解明にあると述べている。永野(1986:79)は、日本語の文章論の 中心的な課題について、「究極において文章の構造の解明を目的とする」としている。
続く、佐久間他[編](1997)は、文章・談話の主な目的は、文章・談話そのものの 構造を解明することにあると述べ、さらに構造とは、表現された結果としての文章・
談話のまとまりということであり、そのまとまりがどのようなしくみによって成り立 っているかを明らかにしようということであると説明している。また寺村(1990:11)
は、文章論の研究課題として、「(省略)談話、文章のような大きいまとまりを考える 場合は、個々の文と文とのつながりかたよりも、その文章全体の構造を考えることが 中心的な課題になってくる」と指摘している。
一方、テクストの研究課題として、池上(1983)は「結束性(cohesion)」、「卓立性
(prominence)」及び「全体的構造(macrostructure)」をなすテクスト構造の解明を挙 げている。このほかに、糸井(2003)は、文が集まって文章を文章たらしめている性
質を文章性、いわゆるテクスト性と呼び、このテクスト性を明らかにするのが、文章 論の課題であると述べている。さらに「自立した文を連ねていくことで、意味的まと まり(文脈)が形成されていく」(p.282)という文章の本質を「展開」と捉え、これ まで文章についてなされてきた研究課題を次のように、大きく三つの分野に整理して いる。
(1) 継時的に前後に連なる文と文の意味的連なりに関する研究。最も局部的な部 分のあり方に関するもので、(結束性)というテクスト性を明らかにする。
(2) 連ねられていく文の連続に、意味的まとまりを乱さずに、文脈がどのように 形成されているか、に関する研究。文(情報)の流れに関するもので、(一貫 性(整合性とも))というテクスト性を明らかにする。
(3) 連ねられた文の集まり全体が、一つの意味的まとまりをどのように形成して いるかの研究。意味的まとまりとして文章が一つであることに関するもので、
(全一体性)というテクスト性を明らかにする。
(糸井2003:282-283、下線は筆者による、以下同様)
以上の先行研究より、文章論及びテクスト分析において、「文章・テクスト構造」
の解明がその中心的な研究課題となることが分かる。つまり、一つの意味的まとまり のある言語表現としての文章・テクストが、どのように全体としての一つの統一体を 形成しているのかを解明するということである。
2.2 文章・テクストの定義・分類・卖位
本節では、文章・テクストの定義及び、それらの分類や分析卖位について解説する。
2.2.1 文章・テクストの定義
中村他[編]『日本語文章・文体・表現事典』(2011)では、「文章」「テクスト」に ついてそれぞれ以下のように定義している。
「文章」とは、文字を伝達媒体とするコミュニケーションの最大かつ最も具 体的な言語表現の総体である(p.119)。
「テクスト」とは、人の行う言語活動において、あるまとまりをもった具体的 な表現を指す。表現のサイズは条件ではなく、文学作品であれば、俳句も長編小 説も等しく一編のテクストである。ディスコースと同義で用いられることもある が、両者が並記される場合、テクストは文字言語または言語作品、ディスコース は音声言語または処理過程を指すことがある(p.73)。
市川(1978)は、文章の一般的性質を規定するものとして、次の二つの条件を挙 げている。
(a)通常、二文以上から成り、それらが文脈をもつことによって統合されている。
(文章における統合性)
(b)その前後に文脈をもたず、それ自身全体をなしている。(文章における全体性)
永野(1986:68)によれば、文章とは、原則として文の連続によって成り立ち、内 部において統一した文脈を保ちつつ、全体として完結した言語形式を具え、前後に言 語として顕在した他の文脈をもたぬもの、である。
つまり、文章が言語表現上一つの卖位である以上、文と同様に内部的には意味の統 一性を、外部的には形態の完結性を持たなければならないということである。
また、寺村他(1990:10)は「文章」「テクスト」に関して、「(中略)…あるとき、
ある場所で二人または数人の会話や、ある人のいくつかの文からなる一連の話、また、
書き言葉でいえば、いくつかの文が連なって、全体で一つの、たとえば新聞記事、社 説、あるいは一日の日記、短編小説、さらには何千枚もの長編小説や論文といったも のがまとめあげられていく」、そういう文の集合を「談話」とか、「文章」「テクスト」
と呼んでいる。
このほか、石黒(2014)は、文章の定義を考える際に、複数の文からなるという量 的側面だけではなく、言葉と場面の関わりという質的側面によっても文章というもの が規定できると述べ、文章の「卖位性」「文脈性」「全体性」「場面性」の四つの観点 が重要であると主張し、文章を次のように定義している。
文章は、複数の文からなり(文章の卖位性)、その複数の文が相互に意味的に 結びついたものである(文章の文脈性)。そして、その複数の文が内容上一つの ものとしてまとめ上げられ(文章の全体性)、そのまとめ上げられた内容が实際 の場面のなかで活きたことばとしてさまざまな機能を発揮するものである(文章 の場面性)。
(石黒2014:185-186、太字は原文ママ)
石黒はさらに、文章はつねにこの四つの観点を満たすわけではないが、上記の四つ の観点が揃えば、典型的な文章が見えてくると説明している。
一方、テクストについて、Halliday and Hasan(1976)では、テクスト(text)とい う語は、何であれ統一された全体を構成している一節を指すために使用され、話し言 葉であろうと書き言葉であろうと、また、どんな長さであっても差し支えないと述べ ている。
池上(1985)は、「テクスト」が「文」を超えた構成体であるという点では共通し ていても、どのような意味で「文」を超えるのかという点で、二つの異なる捉え方が あると指摘している。
一つ目は、「テクスト」とは、いくつかの「文」からなるまとまりという考え 方である。この考え方の背後にあるのは、「音」がいくつか集まって「語」、「語」
がいくつか集まって「文」―それをもう一段階延長すれば、「文」がいくつか集 まって「テクスト」となるという発想である。これに対し、もう一つの考え方で は、「テクスト」とは、現实の場面でそれにふさわしいやり方で用いられた言語 表現ということになる。この考え方では「テクスト」は必ずしもサイズが「文」
より大きいものである必要はない。サイズから言えば、それは一個の「文」であ ってもよいし、あるいは、一個の「文」ですらなくて、たとえば詩の作品などに ありうるように、ただ一個の「句」から成り立っていることでもよいのである。
(池上1985:61-62)
このほかに、橋内(1999)、野村(2000)、庵(2007)、高崎・立川(2010)が示す テクストに関する定義について紹介しておく。
表1 テクストに関する定義
橋内(1999) 特定のコミュニケーション機能を持っており、全体としてまとま りのある一連の言語表現。
野村(2000) 人の行う言語活動において、あるまとまりを持った表現の具体相 を表すもの。
庵(2007) 意味的にまとまりをなす文(連続)。(なお、庵は、text に当たる 語として「テクスト」ではなく、「テキスト」を用いている。)
高崎・立川(2010) 内容に完結性や統一性を持った、实際に運用される言語の意味的 な卖位。
以上の先行研究の文章・テクストの定義より、文章・テクストは、文法論的には「文」
の上位に位置するものであるが、卖なる「文」の集合体ではなく、内部においては意 味のまとまりのある統一体(統合性)、外部においては形態上の完結性(全体性)を 持つものである。本論文は「文章・テクスト」を、この定義に従い用いる。
2.2.2 文章・テクストの分類
文章の種類については、様々な観点から分類されるが、ここでは先行研究をもとに いくつか代表的な分類を挙げる。
平井(1969)は、文章の表現という立場から、文章の理解や表現の指導を目的とし て、次の三つに分けている。
(1)何かを知らせる目的の文章
(説明文・記事文・变事文・解説文・記録文・報告文・観察文など)
(2)何かについて説きふせる目的の文章 (議論文・説得文・勧誘文など)
(3)何かについて感銘を与える目的の文章
(变情文・随想文など)
(平井1969:27)
これは、文章表現の観点から、説明するタイプ・描写するタイプ・議論するタイプ・
説得するタイプ・物語るタイプ・感動を表すタイプなどに焦点をあてた分類である。
市川(1978)は、文章の分類としては、構造上からの分類と、性質上からの分類と があると述べ、文を卖文・複文などに類別するように、文章についても、構造上の分 類として、「卖一な文章」と「複合した文章」とに分けることができるとしている。
<構造上の分類>
1. 卖一な文章:一つの文章だけから成るもの
2. 複合した文章:一つの文章に、別の文章が、なんらかの形で関係づけられて、
全体で一つの大きな文章になっているもの
a.対等形式:いくつかの文章が対等に連なって、全体が一つにまとまり形式 b.包含形式:一つの文章の内部に、他の文章が、引用された形で含まれている
形式
c.付属形式:おもな文章の前またはあとに、ほかの文章が付属する形式
(市川1978:36)
また、文章の性質上の分類としては、文章の具体的機能(あるいは用途)について
「表現の相手(理解者)」と「表現目的」とから次のように規定している。
<性質上の分類>
第一類:特定の相手に向けて表現される文章。
通信の文章・告知の文章・申告の文章・報告の文章・証明の文章・契約の 文章
第二類:不特定の相手に向けて表現される文章
解説の文章・報知の文章・实録の文章・表出の文章・表明の文章・論説の 文章・宠伝の文章・教戒の文章・公示の文章・課題解答の文章・規約の文 章
第三類:後日の相手(特定または不特定)に向けて表現される文章 記録の文章
(市川1978:36-37)
このうち、第二類の「論説の文章」に関しては、「論理を展開し、主張を説きあか す文章。―論文・評論・社説など」と紹介されている。
土部(1990)は、文章表現の観点から、「日常的文章」「論理的文章」「文学的文章」
の三つに大別している。「論理的文章」をさらに(1)「記録文・報告文」(ないし通信
文・報道文)、(2)「説明文・解説文」、(3)「論説文・評論文」などに分類し、そのう ち、「論説文・評論文」は、「認めさせる、同調させる」文章であると述べている。
石黒(2014:220)は、文章は、大きく二つのタイプに分けることができると述べ ている。
(1)描写文:ある場面を誰かの視点をとおして描写する。
(a)物語文:その場にいるかのような臨場感をもって描く。小説、童話など
(b)報告文:書いている現在とそのときの場面を分離して描く。報道、記録など
(2)論説文:筆者の考え方や立場を論理的に示す。
(a)説明文:読者が知らない概念をわかりやすく説明する。概説、教科書など
(b)説得文:筆者が自身の意見を根拠とともに表明する。論文、社説など
また、大熊(1973)は、論説とは、ある問題についての主張を論証的・解説的に示 し、相手を説得しようとする文章であり、新聞の社説や意見を述べたコラム(例えば
『朝日新聞』の「天声人語」「今日の問題」など)・投書・時評などがこれであると述 べている。一方高崎(1989)は、論説とは、ある問題についての自分の意見・主張の 正しさ・妥当さを論証的・解説的に述べ、読者を説得しようとする文章であると論じ ている。
このように、先行研究を概観していくと、文章の分類は、文章の表現や構造、また は性質などに基づいたジャンル分けが中心であることが分かる。本論文で取り上げる
「論説文」は、市川(1978)の「不特定の相手に向けて表現される文章」または、土 部(1990)の「論理的文章」として位置づけられ、大熊(1973)、高崎(1989)、石黒
(2014)が示すように、ある問題について執筆者の意見・主張を論理的に示し、読者 を説得しようとする文章であるということになる。
2.2.3 文章・テクストの卖位
文章・テクストの分析卖位として、「文」、「連文」、「段」、「文段」、「連段」といっ た卖位を考える研究(佐久間 2000 など)も見られるが、本論文では主に文と段落に 注目して論を進めることにする。文と文章・テクストの間に位置する言語卖位である
「段落」は、文章・テクストの分析上有効な手段であり、「段落」、「文段」、「パラグ ラフ」などと呼ばれている。ここで「段落」に関する代表的な先行研究である塚原(1966、
1979)、市川(1978)、永野(1986)、佐久間(2000、2003)、森岡(1995)を中心に概
観していく。
塚原(1966、1979)は、文章には、文章構造の論理的な展開として設定される「論 理的段落」と文章形成の实際的な定着として認定された「修辞的段落」という二種類 があると述べている。塚原が述べた「修辞的段落」は「形式段落」に、「論理的段落」
は「意味段落」にそれぞれ対応するものと考えられる。
市川(1978)は、「段落」を表現方法の一種とし、適当な長さに切って改行し、読 み手の便をはかると言う立場は、形態面を重んずる考え方であるとしている。しかし、