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文章・テクスト構造に関する先行研究

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 31-50)

第 2 章 先行研究の概観と本論文の位置付け

2.3 文章・テクスト構造に関する先行研究

文章・テクスト構造に関する先行研究を概観する前に、まず「構想」「構成」「構造」

という三つの概念について整理しておきたい。

永野(1986)は、文章の組み立てについて論ずるのに、「構想」「構成」「構造」の 用語を次のように規定して使い分けている。

(1)文章の構想

主題または題材を、どのような文章の構造で变述しようとするかを、文章の構想 という。文章全体をどのような形で述べようかという、文章を組み立てる前の段 階での目論見である。たとえば、主題を最初の段落に出すとか、中ほどの段落に 出すとか、最後の段落に置くとかいうようなのが、その例である。

(2)文章の構成

構想にもとづいて实際に書き進めて行く続きを、文章の構成という。作成の概念 に近いが、内容よりも、言語形式に力点を置いて、書き上げて行く段階における 諸問題を処理することであり、推敲・添削などを含む。

(3)文章の構造

構想にもとづき、構成することによってできあがった文章を、全体として眺め渡 したときに見られる結構を、文章の構造という。文章の構造はきわめて多様であ り、文法論的文章論は、究極において文章の構造の解明を目的とする。

(永野1986:79)

また、相原(1984)は、「構想」「構成」「構造」について次のように説明している。

構想というのは、「構想は雄大だが实現性に乏しい」などというように、でき あがったものの姿形を事前に思い描いて、それを实現するための方法をあれこれ と考えることをさす。また構成は、「点と線で構成された抽象絵画」「会議の構成 員」のように使われる語で、材料を組織して实際に何かを作ってゆく過程、もし くは、その具体的な手順をさすものと思われる。(中略)これに対して、「構造」

という語は、「建物の構造」「分子の構造」「構造化する」のように用いられる。「構 成」とは違い、動詞語基としては機能しないことでも知られるように、主として 出来あがったもの、すでに存在するものについて言う語である。

(相原1984:34)

相原は、まず实際の表現行為に移る前に構想を立て、それに従って書いたりしなが ら文章を構成していき、その結果ある構造を持った文章ができあがると、文章表現の 場に即してまとめる。表現の行為ないし過程を問題にする場合は、「構想」や「構成」

が取り上げられ、すでに作られた文章を研究する立場からは、「構造」がその対象と なると整理している。

永野(1986)と相原(1984)によれば、構想に基づいて構成することによってでき あがった文章を、全体として眺め渡したときに見られる結構を文章の構造という。本 論文は、このようなすでに作られた文章・テクストを分析する立場を取るために、「構 造」という用語を用いる。次節では、文章・テクスト構造に関する先行研究について 言及する。

2.3.1 日本語の文章・テクスト構造

文章・テクスト構造について、主に以下の三つの観点から分析が行われてきた。

(1) 「序論・本論・結論」「起・承・転・結」「序・破・急」など文章・テクスト の「展開形態」7の観点。

(2) 「統括型(冒頭型・尾括型など)」「非統括型」など文章・テクストの「統括 機能」の観点。

(3) 「問題提起―解決」など「題材の配列」の観点。

このうち、(2)「統括機能」の観点及び(3)「題材の配列」の観点からの分析が多 い。(2)「統括機能」の観点からの研究として、永野(1986)、市川(1978)、佐久間

(1999、2000)などが挙げられる。(3)「題材の配列」の観点からの分析については 森岡(1995)、市川(1978)を例に挙げる。また「統括機能」の観点と「題材の配列」

の観点を融合した分析に、立川(2011)が見られる。このほかに、談話構造の分析を

7 市川(1978)では「運び」の形式と呼んでいる。

扱ったメイナード(1997、2004)、テクスト構造について言及した池上(1983、1985)

などの研究も見られる。以下順に見ていく。

永野(1986)

文章の構造については、全体として眺め渡したときに見られる結構と定義し、文法 論的文章論は、究極において文章の構造の解明を目的とするものであると述べている。

文章構造を解明するにあたって、「連接論」、「連鎖論」、「統括論」という三つの観点 を提出し、文の連接と連鎖との観点を踏まえて「統括論」によって文章としての統一 性と完結性とを最終的に確認している。なお、「統括」について次のように定義して いる。

「統括」とは、文章を構成する文の連続において、一つの文が意味の上で文章 全体を締めくくる役割を果たしていることが言語形式の上でも確認される場合、

その文の意味上形態上の特徴をとらえて文章の全体構造における統一性と完結 性とを根拠づけようとする文法論的観点である。 (永野1986:315)

永野(1986)は、統括機能を果たす言語形式が文章中にいかなる位置を占めるかに よって、(1)冒頭統括、(2)末尾統括、(3)冒頭末尾統括、(4)中間統括、(5)

零記号統括の五種の類型を立てている。さらに、統括の形態的特徴に着目し、連接・

連鎖関係の観点から見いだされる「統括の原則」として、次のようにまとめている。

(一) 位置による統括(連接関係による統括)

(1) 展開型・反対型・累加型………末尾統括

(2) 同格型・補足型………冒頭統括

(3) 対比型・転換型………零記号統括

(二) 文法的特徴をもつ言語形式による統括(連鎖関係による統括)

(1) 主語の連鎖の観点から見いだされる統括

(i)現象文による統括………末尾統括

(ii)判断文による統括………冒頭統括・末尾統括・冒頭末尾統括

(iii)述語文による統括………冒頭統括・末尾統括

(2) 陳述の連鎖の観点から見いだされる統括

(i)陳述部の重層構造における統括…变述辞は述定辞に、述定辞は伝達辞に 統括される

(ii)陳述部の同位の層における統括…歴史的現在は過去形によって統括さ れる”の”を含む辞はそれ以外の辞を統括する

(iii)零記号の辞によって統括されるものがある

(永野1986:327-328)

永野の研究は、文章構造が体系的に類型化されている点で示唆に富むものであるが、

着眼の基本的卖位は「文」にとどまっているため、分析する観点・基準が一面的であ るところに難点があると言えよう。

市川(1978)

「統括」という概念を「なんらかの意味で、文章の内容を支配し、または、文章の 内容に関与することによって、文章全体をくくりまとめる機能をいう」(p.157)と規 定し、文章の構成を捉える重要な観点として、文章全体を統括する段落の有無及びい くつかの(大)段落に区分されるかによって、文章の構成を以下のように類別してい る8

(a)全体を統括する(大)段落をもつもの(統括型)。

(ア)冒頭で統括するもの(頭括式)。――全体は二段に分かれる。

(イ)結尾で統括するもの(尾括式)。――全体は二段に分かれる。

(ウ)冒頭と結尾で統括するもの(双括式)。――全体は三段に分かれる。

(エ)中ほどで統括するもの(中括式)。――全体は三段に分かれる。

(b)全体を統括する(大)段落をもたないもの(非統括型)。

(オ)冒頭・結尾があっても、それが統括機能をもたないもの。――全体は、

二段・三段・多段(四段以上)、などに分かれる。

(市川1978:156-157、太字は原文ママ)

文章中のある部分が統括機能をもつことによって、その文章全体は、二段また三 段に大きくまとめられている。上に挙げた類別とは別に、段数によって類別すると、

次のようになる。

一段式(文章全体が段落に区分されないもの。)

統括型 冒頭で統括(頭括式)

二段式 結尾で統括(尾括式)

非統括型

統括型 冒頭と結尾とで統括(双括式)

三段式 中ほどで統括(中括式)

非統括型

8 市川(1978)は、統括のしかたとしては、次のようないろいろな場合があると述べ、以下のような統 括のしかたを補足している。〔集約的統括〕(a)主題・要旨・結論・提案などを述べる。(b)主要な題材・

話題について述べる。(c)あら筋・筋書きを述べる。〔付属的統括〕(a)筆者の立場・意向・執筆態度な どを述べる。(b)本題の内容を規定し、本題に枞をはめる。(c)導入として、時・所・登場人物を紹介 する。(冒頭だけに)(d)本題に入る前に「まくら」を置く。(冒頭だけに)(e)本題とは対比的な内容 を述べる。(主として、冒頭に)(f)本題と関連のある事柄や感想などを、つけたりとして添える。(結 尾だけに)(p.158)

多段式(四段以上)―非統括型

(市川1978:157)

このほかに市川は、文章構成の把握の方法として、「文章の運び(進行)の形式」

を取り上げて論じている。例えば、論説文などでは、「序論」「本論」「結論」(あるい は、「序論」「総論」「各論」「結論」に分けるのが一般的であるが、その形式を抽象化 すると、

冒 頭――文章の初めに位置する部分。

展開部――文章の中核を形作る部分。

結 尾――文章の終わりに位置する部分。

という三部形式として考えることができると述べ、これらに加えて(大)段落相互の 関係を「連接」的観点及び「配列」の観点から考察することも必要であると指摘して いる。なお、「配列」の観点からの考察については後述する。

佐久間(1999、2000)

佐久間(1999、2000)は文章型を論じる際に、その主要な構想要素である「文章の 成分」を規定する必要があると述べている。従来の「段落」については、改行一字下 げを必須要件とするが、ここには現代日本語の段落表示における恣意性が含まれるこ とから、内容上の相対的な区分による「文段」、さらに談話における「文段」相当の 卖位として「話段」を合わせて「段」という言語卖位を設けた。「段」を、「内容上、

一まとまりの話題を現し、形式上、その一くぎりを示す統括機能を有する言語形態的 指標をもつ言語卖位である」(1999:14)と規定し、また永野の「統括」の定義に従 い、文章の主題をまとめて一編を完結させる統括機能を有する段を「中心段」と呼び、

中心段が他の段を同じ主題を支える一まとまりの表現として統括すると捉えている。

中心段の統括機能の配列位置と配置頻度による基本的な文章構造の類型として、以下 の六つの型を設定している。

ア. 冒頭型(文章の冒頭部に中心段が位置するもの)

イ. 尾括型(文章の結尾部に中心段が位置するもの)

ウ. 両括型(文章の冒頭部と結尾部に中心段が位置するもの)

エ. 中括型(文章の展開部に中心段が位置するもの)

オ. 分括型(文章の2か所以上に複数の中心段が分散して位置するもの)

カ. 潜括型(文章中に中心段がなく、主題が背後に潜在するもの)

(佐久間1999:14、2000:134)

さらに文章型については、言語形態面の特徴から裏付けられ、主題文を含む「中心 段」がほかの段をまとめて文章を成立させる「統括力」には、相対的な大きさの違い

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 31-50)