第 8 章 企業の参入形態と輸出補助金
8.4 補助金率と参入形態
ここでは,自国市場と第三国市場の二つの参入形態の内,自国企業にとって望ましい 参入形態を調べるために,補助金率の大きさに基づいて,各参入形態の利潤を分析する.
8.4.1 低い補助金率のケース
国内の利潤が生産性に依らず,輸出の利潤よりも常に大きくなる条件は,国内の利潤 の傾きが,輸出の利潤の傾きよりも大きいことである.この条件は,
𝑑𝜋𝑑
𝑑𝜃𝜀−1> 𝑑𝜋𝑒
𝑑𝜃𝜀−1⟺ [𝑤(1 + 𝑟)
𝛼 ]
1−𝜀
> [(1 − 𝑡) (𝑤 + 𝑟 𝛼𝜏 )]
1−𝜀
となる.これを整理すると,下記の低い補助金率として,次の条件が得られる.
0 < 𝑡 < 1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟
0 𝑎 θd θe θ
𝑔(θ) = 𝑧 𝑎𝑧 θz+1
撤退 国内 海外
153
図8.3:補助金率と市場参入(低い補助金率)
したがって,図8.3 より,補助金率が小さい状況下では,常に国内生産が海外輸出よ りも利潤の観点から望ましい.また,生産性が,𝜃𝑑< 𝜃 < 𝜃𝑒のとき,自国企業は国内市 場に参入する.生産性が,𝜃𝑒< 𝜃のとき,自国企業は国内と第三国の両市場に参入する.
したがって,国内参入企業の中でも生産性の高い企業が第三国市場に参入することにな る.
8.4.2 中位の補助金率のケース
国内の利潤関数(8.5)と輸出の利潤関数(8.6)の交点を満たす生産性の値を求める と,国内と海外の利潤が無差別になるような,生産性水準θ̂が以下のように求まる.
θ̂𝜀−1= 𝑓𝑒− 𝑓𝑑
𝐴(1 − 𝛼)𝛼𝜀−1{[ 1 1 − 𝑡 (
𝜏 𝑤 + 𝑟)]
𝜀−1
− [ 1 𝑤(1 + 𝑟)]
𝜀−1
} (8.7)
ここで国内生産の利潤関数の傾きが輸出の利潤関数の傾き以下となり,かつ,θ̂のとき の利潤が非負となる場合を考察する.(8.5)式と(8.6)式より,
𝑑𝜋𝑑
𝑑𝜃𝜀−1≤ 𝑑𝜋𝑒
𝑑𝜃𝜀−1⟺ 𝑡 ≥ 1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟 ここで, 𝜃̂のときの利潤が正となる条件,
𝜋𝑑(𝜃̂) = 𝐴(1 − 𝛼) [𝑤(1 + 𝑟) 𝛼𝜃̂ ]
1−𝜀
> 𝑓𝑑 ⟺ 1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟 (𝑓𝑑
𝑓𝑒)
1 𝜀−1> 𝑡 を組み合わせると,次式を得る
1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟)
𝑤 + 𝑟 ≤ 𝑡 < 1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟 (𝑓𝑑
𝑓𝑒)
1
𝜀−1 (8.8)
したがって,上記の中位の補助金率の範囲のとき,次の図8.4の状況が得られる.
θd𝜀−1 0
𝜋d, πe 𝜋d
𝜋e
θe1−𝜀
fd fe
𝑎𝜀−1
撤退 国内 国内・海外
θ𝜀−1
154
図8.4:補助金率と市場参入(中位の補助金率)
したがって,中位の補助金率ケースでは,𝜃𝑑 < 𝜃 < 𝜃𝑒のとき,企業は国内市場に専念 するが,𝜃𝑒 < 𝜃 < 𝜃̂のとき,企業は国内と海外の両市場に参入する.しかし,𝜃̂ < 𝜃では,
海外市場での利潤が国内市場の利潤を上回る.そのため,輸出企業数が国内企業数を上 回ることになる.
8.4.3 高い補助金率のケース
国内生産の利潤関数の傾きが輸出の利潤関数の傾きよりも小さく,かつ,𝜃̂のときの利 潤が負となる場合を考察する.
中位の補助金率のケースと同様の計算により,以下の条件が得られる.
𝑑𝜋𝑑
𝑑𝜃𝜀−1≤ 𝑑𝜋𝑒
𝑑𝜃𝜀−1⟺ 𝑡 ≥ 1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟 かつ,次の条件,
𝜋𝑑(𝜃̂) = 𝐴(1 − 𝛼) (𝑤 𝜃̂𝛼)
1−𝜀
< 𝑓𝑑 を同時に満たす条件は,𝑓𝑑< 𝑓𝑒に注意すると次のようになる.
1 −𝜏𝑤(1 + 𝑟) 𝑤 + 𝑟 (𝑓𝑑
𝑓𝑒)
1
𝜀−1< t < 1 (8.9)
したがって,(8.9)式を満たすような高い補助金率のとき,以下の図が得られる.
θd𝜀−1 0
𝜋d, πe
𝜋d 𝜋e
θe𝜀−1 fd
fe
𝑎𝜀−1
撤退 国内 国内・海外
θ𝜀−1 θ̂𝜀−1
155
図8.5:補助金率と市場参入(高い補助金率)
したがって,高い補助金率のケースでは,上記の低率と中位率の補助金のケースとは 異なり,𝜃𝑒 < 𝜃 < 𝜃𝑑のとき,企業は第三国市場に参入するが,𝜃𝑑 < 𝜃のとき,輸出企業 の一部が国内市場に参入することになる.高い補助金率は,元来,生産性の高い企業が 第三国市場から自国市場への進出転換(=自国市場への回帰)を促す効果がある.