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交渉配分と参入形態

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 118-121)

第 6 章 企業の戦略的参入形態

6.4 交渉配分と参入形態

ここでは事前の投資水準を所与として,交渉配分に基づいて,参入形態と市場構造を 考察する.

6.4.1 生産性と市場規模

外部委託とFDIの選択を決める交渉配分の境界値は,競合企業間の相対的な競争力に よって影響を受ける.ここでは,MNE の外部委託の選択に必要な交渉配分の境界値に 及ぼすライバル企業の影響を考察する.

まず(6.8)式より,MNEの生産量とライバル企業の生産量の符号がそれぞれ同時に プラスになる交渉配分の条件を考慮する.ここで,β > 0に注意すると,

𝑚𝑎𝑥 {1 − 1 𝐼 (2

𝜃 − 𝑎)

, 0} < β < 1 − 2 𝐼 (𝑎 +1

𝜃)

(6.13)

となる.(6.13)式の左の不等式はライバル企業の生産量がプラスになる条件で,右の不 等式の上限値はMNEの生産量がプラスになる境界値を意味している.

以下の議論では,分析の簡略化を図るために,事前の投資水準が十分大きいケース:

2 𝑎 +1

𝜃

< 𝐼 (6.14)

を仮定する.このとき,(6.13)式の上限値の符号はプラスになる.同様に下限値の符号

110 も,

𝑚𝑎𝑥 {1 − 1 𝐼 (2

𝜃 − 𝑎)

, 0} = 1 − 1 𝐼 (2

𝜃 − 𝑎)

> 0

となる.

ここで,市場規模が十分大きく,

2 𝜃≤ 𝑎

を満たすとき(6.13)式を満たす交渉配分βは存在しない92.このとき任意の交渉配分β の値で,常にライバル企業の供給量が,y𝐵𝑂 > 0となり,市場は複占化される.

一方,市場規模が小さく,

1

𝜃< 𝑎 <2

𝜃 (6.15)

を満たすとき,(6.13)式を満たすβが存在する93.このとき MNE が外部委託下で市場 を独占するような交渉配分β ∈ (0, 1)の値が存在する.したがって,以下の議論では,任 意の交渉配分βの値で,市場の複占や MNE による市場の独占が実現するケースを排除 するために,(6.15)式を前提にして議論する.

ここで,ライバル企業の供給が,y𝐵𝑂= 0となり,MNEが市場を独占する交渉配分の値 を,

β̂ = 1 − 1 𝐼 (2

𝜃 − 𝑎)

複占市場の下で,外部委託が選択されるための交渉配分の境界値94: β𝑖∈ 𝑎𝑟𝑔{𝜋𝑂(β) = 𝜋𝐹} 𝑖 ∈ {1,2}

と定義すると,

0 < β1< β2< 1 − 2 𝐼 (𝑎 +1

𝜃)

が成立する.市場規模が小さい場合,交渉配分𝛽の範囲に依存して,外部委託下でMNE が市場を独占するケースが存在する.

β̂ < β1となるとき,外部委託下でMNEによる市場の独占化が起こらないが,

β1< β̂ < β2 (6.16)

となるとき,交渉配分が,β1< β < β̂の範囲で,MNEによる市場の独占化が起こるケー スが存在する.

92 証明については本章末の付録を参照.

93 証明については本章末の付録を参照.

94 ここでは交渉配分に依らず,𝜋𝑂(β) < 𝜋𝐹となるケースを想定しない.また,ライバル企業の生産性 が小さいとき,交渉配分の大きさに依存して,独占利潤(6.16)は(6.10)式の複占利潤よりも小さ くなる図6.1のケースが存在する.

111 一方,

β2< β̂ < 1 − 2 𝐼 (𝑎 +1

𝜃)

となるとき,交渉配分に依存せず,MNEによる市場の独占化が常に起こる.

6.4.2 交渉配分と参入形態

以下,分析の簡便化を図るため,(6.16)式が成立するケースに絞って,交渉配分と市 場構造の関係を議論する95

𝛽̂は𝜋𝑀𝑂の値と𝜋𝑂の値が無差別になる交渉配分の値である.故に外部委託の独占利潤は,

𝜋𝑀𝑂 =𝛽

4[𝑎2− ( 1 (1 − 𝛽)𝐼)

2

] − ε𝐼 − 𝑓 (6.17)

となる.ここで交渉配分の値に応じて実現する利潤曲線を描くと,

図6.2:交渉配分と参入形態および市場構造

となる.独占市場における外部委託が選択されるための交渉配分の境界値をβ1𝑀, β2𝑀とす ると,交渉配分がβ1< 𝛽 < β2𝑀となるとき,外部委託が選択される.

投資水準を所与とすると,交渉配分がβ1𝑀< 𝛽 < 𝛽̂で,独占市場の下で外部委託が選択 される.一方,交渉配分が𝛽̂ < 𝛽 < β2では,複占市場の下で外部委託が選択される.また

β1< 𝛽 < β1𝑀の交渉範囲では,複占市場の下で外部委託が選択されるが,独占市場の下で

FDIが選択される.交渉範囲β2< 𝛽 < β2𝑀では,独占市場の下で外部委託が選択されるが,

複占市場の下でFDIが選択される.

本社企業の交渉配分が小さいとき中間財の生産が増加し,最終財の供給が増加する.

そのため,交渉配分の小ささは,戦略効果を通して,間接的にライバル企業との数量競

95 市場規模が大きいケースでは常に独占収入が複占収入を上回るが,市場規模が小さい(6.15)を満 たすケースで,図6.3のような状況が存在する.詳細は本章末の付録を参照.

β 1

𝑅𝑀𝑂(β)

(y𝐴𝐹(𝐼))2

1 − 2

𝐼 (𝑎 +1 𝜃)

β1 β2

𝑅𝐷𝑂(β)

𝛽̂

β1𝑀 β2𝑀

𝑅𝑀𝑂(β), 𝑅𝐷𝑂(β)

独占

複占

112

争に有利に働く.本社企業は小さな交渉配分で独占を形成することが戦略的に有利なる.

一方,交渉配分が大きいと,中間財の生産減少し,最終財の供給量が減少する.そのた め交渉配分の大きさは数量競争に不利に働く.本社企業はマーケット・シェアの縮小か ら生じる利潤減少を直接的に補うため,高い交渉配分で複占を維持することが戦略的に 有利に働くのである.

外部委託が選択されるための交渉配分の境界値が独占市場で大きくなる理由は,独占 市場を形成することによって,ライバル企業との競争から生じる戦略的影響を軽減する ことが出来き,独占市場では,本社企業はサプライヤーに対して交渉優位になるからで ある.

命題 6.1

事前の投資水準を所与として,外部委託が選択される場合,小さい交渉配分(β1𝑀< 𝛽 <

β1)では,独占市場が形成され,大きい交渉配分(𝛽̂ < 𝛽 < β2)では,複占市場が形成さ れる.

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