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社会厚生

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 147-151)

第 7 章 リバース・イノベーションと参入形態

7.5 社会厚生

ここでは,上記の企業の参入形態の選択に関する分析を踏まえて,本国の社会厚生の 資本集約度に関する比較静学を行う.

7.5.1 企業利潤と社会厚生 垂直統合の消費者余剰𝐶𝑆𝑉は,

𝐶𝑆𝑣= ∫ (𝑝 − 𝑝𝑣)

𝑦𝑣

0

𝑑𝑦 = 𝜆𝜀

𝜀 − 1(𝑝𝑣)1−𝜀 (7.15)

このとき社会的余剰をSW𝑣と定義すると,

SW𝑣 = 𝐶𝑆𝑣+ π𝑣

故に,

SW𝑣= 𝜆 ( 𝜀 𝜀 − 1+1

𝜀) (𝑝𝑣)1−𝜀 (7.16)

一方,外部委託の消費者余剰CS𝑂は,

𝐶𝑆𝑂= ∫ (𝑝 − 𝑝𝑂)

𝑦𝑂

0

𝑑𝑦 = 𝜆𝜀

𝜀 − 1(𝑝𝑂)1−𝜀 (7.17)

139 このとき社会的余剰𝑆𝑊𝑂は,次のようになる.

𝑆𝑊𝑂= 𝜆 [ 𝜀

𝜀 − 1+ 𝜙 (𝜂 +1 − 𝜂

𝜀 )] (𝑝𝑂)1−𝜀 (7.18)

したがって,SW𝑣と,CS𝑂が無差別になる条件は,

𝑆𝑊𝑉= 𝑆𝑊𝑂⟺ 1/𝛼 + 1 − 𝛼

1/𝛼 + 𝜙[1 − α(1 − η)]= [𝜙 (1 − 𝜙 𝜙

𝑤𝑠

𝑤𝑓)

𝜂

]

𝜀−1

(7.19)

(7.19)式を満たす,ηをη̂と定義する.ここで (7.19)式の左辺と(7.14)式の左辺が等 しい条件を考察する.(7.19)式の右辺と(7.14)式の右辺が等しいので,この条件は,

1 − 𝛼

𝜙[1 − 𝛼(1 − 𝜂)]= 1/𝛼 + 1 − 𝛼

1/𝛼 + 𝜙[1 − α(1 − η)] (7.20)

となる.(7.20)式を満たす,ηをη̅と定義すると,

𝜂̅ = 1 𝜀 − 1(1

𝜙− 1)

と一意に求められ, (14)式の右辺と(19)式の右辺は一点で交わる.𝜂̅は,各参入形態 に応じた利潤と社会厚生を等しくする資本集約度を意味する.

7.5.2 交渉配分が小さいケース 本社企業の交渉力が,

(𝑎) 0 < 𝜙 < 𝑚𝑖𝑛 {1 − 𝛼, 𝑤s

𝑤f+ 𝑤s} (7.21)

を満たすとき(7.14)・(7.19)式の右辺は,ηの増加関数になる.

図7.7:資本集約度と社会厚生(𝜙が小さいケース)

η = 1が図7.7(a)の位置にある,本社企業の交渉力が小さいケースでは資本集約度が

小さいケースでは,0 < η < η̂で,

SW𝑉 > SW𝑂, π𝑉 > π𝑂

0 1 η η

(7.14)左辺 (7.14)・(7.20)右

𝜙𝜀−1 1 𝜙

η̅

(7.20)左辺

η̂

1/𝛼 + 1 − 𝛼 1/𝛼 + 𝜙(1 − α)

(a) (b)

1

140

が成立する.この場合,垂直統合が選択され,それは社会厚生の上でも最適になる.一 方,資本集約度が小さくないη̂ < η < 1では,

SW𝑉 < SW𝑂, π𝑉 > π𝑂

が成立する.したがって,垂直統合が選択されるが,社会厚生の上では外部委託が最適 になる(図7.7を参照114).

7.5.3 交渉配分が中位のケース 本社企業の交渉力が,

(𝑏) 0 < 𝜙 < | 𝑤s

𝑤f+ 𝑤s− (1 − 𝛼)| (7.22)

を満たすとき(7.14)・(7.19)式の右辺は,ηの増加関数になる.このときη = 1のとき,

(7.14)式の左辺は,(7.19)式の左辺よりも小さい.このときη = 1が図 7.7(b)の位 置にある,本社企業の交渉力が大きいケースでは,資本集約度が小さい0 < η < η̂で,

SW𝑉 > SW𝑂, π𝑉 > π𝑂

が成立する(図7.7を参照).この場合,垂直統合が選択され,それは社会厚生の上でも 最適になる.

一方,資本集約度が中位のη̂ < η < η では,

SW𝑉 < SW𝑂, π𝑉 > π𝑂

が成立する.したがって,利潤の観点から垂直統合が選択されるが,社会厚生の上では 外部委託が最適になる.資本集約度が大きいη < η < 1で,

SW𝑉 < SW𝑂, π𝑉 < π𝑂

が成立する.この場合,外部委託が選択され,それは社会厚生の上でも最適になる.

7.5.4 交渉配分が大きいケース

本社企業の交渉力が,

(c) 𝑚𝑎𝑥 {1 − 𝛼, 𝑤s

𝑤f+ 𝑤s} < 𝜙 < 1 (7.23) を満たすとき(7.14)・(7.19)式の右辺は,ηの減少関数になる.このときη = 1で(7.14)

式の左辺は,(7.19)式の左辺よりも小さい.

114 η = 1の(7.14)式の左辺は,(7.19)式の左辺よりも大きい.η = 0のとき, 𝜙 ∈ (0,1)の任意の値で,

(7.14)式の左辺は(20)式の左辺の値よりも大きく,η = 0のとき, 𝜙 ∈ (0,1)の任意の値で,(7.19)式 の左辺は,(7.14)・(7.19)式の右辺よりも大きい.

141

図7.8:資本集約度と社会厚生(𝜙が大きいケース)

このとき資本集約度が0 < η < 𝜂 で,

SW𝑉 > SW𝑂, π𝑉 > π𝑂

が成立する(図7.8を参照).したがって,利潤の観点から垂直統合が選択されるが,本 社企業の垂直統合の選択は,利潤の観点でも社会的にも最適になる.

一方,資本集約度が𝜂 < η < 1で,

SW𝑉 > SW𝑂, π𝑉 < π𝑂

が成立する.したがって,利潤の観点から外部委託が選択されるが,それは社会的に最 適ではなく,垂直統合が社会的に最適になる.

命題 7.2

(1) 本社企業の交渉力が小さいが,最終財の資本集約度が大きい場合,垂直統合が選択 されるが,社会厚生の上では外部委託が最適になる.

(2) 本社企業の交渉力と最終財の資本集約度がともに中位の場合,垂直統合が選択され るが,社会厚生の上では外部委託が最適になる.

(3) 本社企業の交渉力と最終財の資本集約度が,ともに大きい場合,外部委託が選択さ れるが,社会厚生の上では垂直統合が最適になる.

本社企業の利潤と社会厚生との間で,最適な参入形態の選択に乖離が生じる理由は,

資本集約度ηと交渉配分𝜙のバランスが消費者余剰に及ぼす影響力にある.本社企業の交 渉力と最終財の資本集約度がともに小さい場合,垂直統合の選択は,本社企業にとって も,最終財価格においても有利に働く.部品hの生産の限界費用が小さいため,外部委託 は生産の限界費用を増加させ,最終財価格を増加させることになるからである.

一方,本社企業の交渉力が小さく,最終財の資本集約度が小さくない場合,垂直統合 の選択は,本社企業にとって有利に働くが,最終財価格を上昇させ,消費者余剰の悪化

0 η (7.14)左辺 η

(7.14)・(7.20)右 𝜙𝜀−1

1 𝜙

η̅

(7.20)左辺 η̂

1/𝛼 + 1 − 𝛼 1/𝛼 + 𝜙(1 − α)

1 (c)

142

につながる.資本集約度ηの大きさが,部品hの要素需要を増加させ,その効果が限界費 用を押し上げ,企業利潤の増加以上に最終財価格を上昇させるからである.

同様に,本社企業の交渉力と最終財の資本集約度がともに中位の場合,資本集約度の 上昇による限界費用の増加は,最終財価格の上昇を通して,外部委託の場合より垂直統 合の方が強く働く.外部委託下で,本社企業の交渉力は,サプライヤーの過少生産を招 くため,本社企業の収益を減少させるが,社会厚生の上では外部委託が最適になる.

本社企業の交渉力と最終財の資本集約度がともに大きい場合,外部委託の選択は,サ プライヤーの過少生産を招き,本社企業の収益を減少させる115が,垂直統合では,生産 の限界費用が大きく,外部委託を選択した場合の収益減少の以上の効果を及ぼす.その ため本社企業は,外部委託を選択する.しかし外部委託よりも垂直統合を選択する方が,

最終財価格の上昇が緩和されるため,社会厚生の上では垂直統合が最適になる.本社企 業の交渉力の高さが,最終財価格の上昇に強い影響を及ぼすからである.

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