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洩(技術のスピルオーバー)による完全子会社の生産性の増加を戦略的に予想する要因 になる.そのことがFDIの投資水準に影響することによって,MNEが市場参入に関す る所有権構造を選択する根拠になり得る.

但し,本章のモデル設定では,FDI 受入国の技術水準(労働者の技能水準)が MNE のそれよりも低いことを想定していない.むしろ,本章では,FDI受入国の技術水準に 関して,最終財生産にとって理想的な技術水準との距離を問題にしている.

したがって,人的資本投資コストをかけて,最終財企業は,高いスキルをもつ労働者 に高賃金を支払い,技術水準のスピルオーバーを防止することと,高スキル労働者に高 賃金を支払わずに技術のスピルオーバーを許し,現地企業とのアウトソーシングを行っ て最終財の生産を行うケースの選択等,既存研究の問題は,労働力移転が生じた後の事 後的議論である.

この点の分析には,MNEのFDI水準を内生的に決定した上での動学的な分析が有効 だと思われる.また,外部委託契約以外で,ライセンス契約等の非統合的なMNEの物 的所有権構造によるMNEの参入形態の吟味の他,一般均衡論的な分析は今後の課題に したい.その他,多国籍企業のFDIが現地の経済厚生を改善するならば,FDIの投資は 現地政府とMNEによるものとで,どちらが現地にとって望ましいか等は,企業誘致に 関わる問題であり,今後議論の余地がある問題である.

第4章では,労働者のスキル習得の事前の意思決定と,事後的なMNEの生産方法と の関係について議論した.その結果,最終財の資本集約度の大きさが,労働者の事前の スキル習得の意思決定に影響を及ぼす結果,MNE の利潤は最終財の資本集約度の大き さの影響を受けることになる.従って,労働者の事前のスキル習得の有無は,均衡にお いて外部委託の交渉力の大きさに間接的に影響を及ぼす結果,MNE の市場参入形態に 影響を及ぼす.先行研究との違いは,スキル習得の人的資本形成の条件を内生的に導出 し,その結果,最終財の生産企業の生産地域の意思決定にこれが影響を及ぼす点である.

しかしながら,本章のモデルでは,中間財を外部委託で調達した場合の輸送コストを 無視できるほど小さいものと捉えている.そのため海外アウトソーシングと本国での垂 直統合生産の企業利潤の比較で,輸送コストの影響が考慮されていない.また,労働者 が職業訓練に参加するための意思決定が,MNE が海外アウトソーシングを行うために 必要な参加条件に影響を及ぼさないモデルなっている.従って,海外での外部委託生産 に輸送コストを導入することによって,均衡における企業組織は異なる可能性がある.

更に,競争均衡の条件を利用して,賃金率の内生化を行えば,財市場と労働市場の一般 均衡論的な分析が可能になる.このとき,最終財が外国でも消費される場合に関税等の 輸送費をモデルに導入し外国の経済厚生を検討した上で,外国政府の海外企業誘致をす べきかどうか等の分析が可能になる.これらの点は今後の課題にしたい.

第5章では,寡占市場,特に複占市場を分析して,企業内部組織の意思決定が戦略的 行動となり,アウトソーシングの上流企業と下流企業の交渉力格差を通して,競合企業

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の参入形態の意思決定に及ぼす影響を議論した.アウトソーシングの本社企業の交渉力 増加は,中間財価格を低下させ,上流の部品サプライヤーの投資を減退させる.しかし,

企業間競争が中間財需要を増加させる結果,部品サプライヤーの投資が促され,本社企 業の限界費用を低減させる効果がある.その結果,競合関係にある本社企業同士の交渉 力格差は,単一の非対称均衡の発生を促す効果がある.

しかしながら,本章のモデルでは,アウトソーシングにおける本社企業の交渉力は企 業間競争を通じて,常に当該企業の利潤(=レント)の増加をもたらす.一般的なケー スでは,下流の本社企業の交渉力の増加は,上流の部品サプライヤーの投資水準の減少 を通し,中間財の低品質化を招き,限界費用を増加させる場合もある.この点を考慮し たモデル設計による参入形態の均衡分析は今後の課題にしたい.

第6章では,第5章に引き続いて,複占市場を分析して,MNEの市場参入を議論し た.特に,市場規模が小さいとき,MNEの最適参入形態を分析した結果,外部委託の事 後的な交渉配分が,市場構造の形成と事前の投資水準に影響を及ぼすことが示された.

分析結果として,本社企業とサプライヤーの交渉格差が極端に大きいとき,FDIが選択 されるが,ライバル企業の生産性が高いとき,投資水準が大きくなり,独占市場が形成 される.一方,ライバル企業の生産性が低いとき,投資水準が低下し,複占市場が形成 されるが,交渉格差が極端に大きくない場合,外部委託下が選択される.その際,特に 交渉力が小さい場合,独占市場が形成され,交渉力が大きい場合は複占市場が形成され ることを確認した.

本章の課題として,MNE の参入に対する現地ライバル企業の戦略的な対応である.

本章のモデルでは,ライバル企業の生産性は外生であったが,投資の増加等,ライバル 企業の戦略的な事前対応をモデルに取り込み,自国企業とライバル企業の生産性を内生 化すると,参入形態の均衡は異なる可能性がある.実際,外国のライバル企業が既に市 場に参入しているケースでは,外国企業は市場への供給を増やすことにより,MNE の 新規参入を阻止することも可能である.この点は,今後の課題である.

第7章では,途上国から先進国への対外投資をテーマに,途上国企業の市場参入と 受入国(先進国)の経済厚生を分析した.分析結果として,最終財の資本集約度の大き さが,スキル習得の努力水準を向上させる結果,垂直統合下での限界費用に影響を及ぼ し,本社企業の交渉力が大きくない場合,労働集約的な最終財では,垂直統合が選ばれ るが,最終財が資本集約的な場合と本社企業の交渉力が大きい場合に,外部委託が選択 されることが分かった.

本章の分析結果は,労働集約的な最終財を外国に外部委託し,資本集約的な財を自国 で垂直統合的に生産することを導出した,Antràs (2003,2005) [1][2]とは逆の結論であ る.また,資本集約度と企業の交渉力を基に比較静学を行い,社会厚生の観点で参入形 態の検討した結果,本社企業が垂直統合を選択する場合でも,外部委託が社会厚生の観 点から望ましいケースと,本社企業が外部委託を選択する場合でも,垂直統合が社会厚

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 174-177)