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はじめに

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 110-113)

第 6 章 企業の戦略的参入形態

6.1 はじめに

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Helpman (2002)は, Grossman and Hart (1986),Hart and Moore(1999)で指摘さ れた中間財の関係特殊な事前投資を仮定の下,独占的競争モデルを用いて,市場規模の 大きさに基づいて,FDI的生産と中間財の外部委託を通した生産を比較し,企業の国内 市場への参入形態とその安定的均衡を理論的に分析している.Antràs (2003) では,企 業内貿易に関する研究として最終財の部品に関する要素集約度に基づく企業の市場参入 形態の分析が理論と実証の両面で行われている.そして分析の結果,労働集約的な中間 財は,FDI的な生産下では,部品の過少生産を招き,非系列サプライヤーによる中間財 の調達(=外部委託)が望ましいことが述べられている.同様のモデルを用いて,企業 の市場参入形態としての動学的な部分均衡を議論したものが Antràs (2005)である.し かし,これらの研究は,独占的競争モデルを用いた分析であり,競合する企業間の戦略 的な相互依存性が及ぼす影響が捨象されている.寡占市場に基づく,企業の参入形態を 分析した文献は少数であるが,以下のものが存在する.

次に,寡占モデルを用いた既存の理論研究を振り返る.Chen, Ishikawa, and Yu(2004) では,寡占市場における企業の戦略的な参入形態が理論的に分析されている.この論文 では,企業の新規市場参入に際して,外国のライバル企業から中間財を購入(=外部委 託)し,最終財を生産するか,それとも垂直統合的に上流と下流の全工程を自企業内部 で一貫して行うかに関する,企業の選択の意思決定が分析されている.しかし中間財の 同質性(=汎用性)が仮定されており,外部委託生産に伴う中間財の関係特殊性が考慮 されていない.この点は,汎用部品を上流企業から購入する最終財企業を想定し,外部 委託を寡占モデルで議論した,Nickerson and Vanden Bergh(1999)も同様である.

伝統的に独占的競争モデルで用いられてきた,中間財や投資の関係特殊性の仮定を寡 占 モ デ ル に 適 用 し て , 企 業 の 参 入 形 態 を 議 論 し た 研 究 と し て ,Leahy and

Montagna(2009)がある.この研究は,Grossman and Helpman (2002),Antràs (2003,

2005),等の不完備契約論的アプローチ(=GHAアプローチ)を寡占モデルに適用した

ジャーナルとして最初の理論研究である84.この文献では,企業内部の垂直的なエージ ェンシー関係と企業外部の数量競争が構築する戦略的環境が及ぼす企業間の複雑な相互 依存性を考慮し,関係特殊な部品を完全子会社により垂直統合的に生産する(=FDI)

か,サプライヤーから外部委託により中間財を調達する(=アウトソーシング)かの経 営形態(=mode of operation)の選択が議論されている.主要な分析結果として,市場 参入の固定費が大きいほど,両企業とも中間財の外部委託が最適であり,逆に,参入の 固定費が小さいほど,海外の完全子会社によるFDI が行われることが最適であること.

更に,参入の固定費が中規模であれば,自国とライバル企業間のコスト構造が同質であ るにも拘らず,営業形態が両企業の間で分離するというものである.先行するLeahy and Montagna(2007)では,同様のモデルを用いて,アウトソーシングにおいて,本社企業と

84 Leahy and Montagna(2009)を参照

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サプライヤーの交渉配分が一般化されたナッシュ交渉問題を解くことで,企業の市場参 入形態の均衡が議論されている.

既存研究:Leahy and Montagna(2007, 2009)と本章の違いを述べる.Leahy and Montagna(2009)では,競争する二企業は,本国(North)の企業同士である.この二企 業は,同時に外国(South)で中間財の品質に影響するコスト削減投資を行い,現地で最 終財を生産し,本国に輸送する.その際,FDIが選択される場合,投資を行うのは本社 企業であるが,アウトソーシング(=外部委託)が選択される場合,投資を行うのは外 国のサプライヤーである.一方,本章のモデル設定では,競争する企業は,本国(North)

と市場が位置する外国(South)の二企業である.本国の企業は,外国の現地市場でコス ト削減投資を行った後,中間財の生産を完全子会社で行う(=垂直統合的FDI)か,そ れとも現地サプライヤーに中間財の生産委託(外部委託)をするかを選択する.したが って,Leahy and Montagna(2009)では,参入形態の違いに応じて,コスト削減投資の 分権化が議論されている.また,Leahy and Montagna(2009)では,アウトソーシング において,本社企業とサプライヤーの交渉配分が等しいことが前提とされおり,エージ ェンシー関係の交渉配分の違いが参入形態に及ぼす影響が分析されていない .更に Leahy and Montagna(2007)では,アウトソーシングにおいて,本社企業とサプライヤ ーの交渉配分が一般化されたケースで,企業の市場参入形態の均衡の議論がなされてい るが,本社企業とサプライヤーの交渉力の格差(=収益配分)が,参入形態の均衡に及 ぼす影響が議論されていない.

本章はLeahy and Montagna(2007,2009)に倣い,水平的に最終財が差別化された市

場ではなく,垂直的に中間財が差別化された市場を想定する.すなわち,中間財が関係 特殊である,同質的最終財の寡占市場85(=複占市場)を想定する.それによって独占的 競争モデルにおいて捨象されてきた企業間の戦略的行動が潜在的参入企業の参入形態に 影響を及ぼす影響を分析する.その際,単純化の仮定として,ライバルの外国企業の参 入形態を固定し,自国企業(以下,MNE(=多国籍企業)と呼ぶ)の参入形態として,

垂直統合的 FDI86と外部委託の二種類の中間財調達方法を想定し,参入形態としての均 衡に及ぼす戦略的影響を分析する.

本章は,参入形態の違いに応じた投資の分権化ではなく,本社企業の集権化された事 前の投資水準を用いて,参入形態と市場構造の均衡を分析する.その際,本章は,アウ トソーシングにおいて本社企業とサプライヤーの交渉パラメータを導入し,最終財販売 の収益配分(=交渉配分)が及ぼす本社企業のコスト削減投資への影響とそのときの参 入形態を分析し,企業の参入形態だけではなく,事前の投資水準と外部委託の事後的交 渉配分に基づいて,市場構造(複占市場と独占市場)を内生的に分析している.

85 デザインや性能・機能を考慮しなければ,自動車やパソコンの特殊部品(例えば自動車のワイパ ーやパソコンのプリンターのインク)などが良い例である.

86 以下では,単にFDIと呼ぶ.

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本章のモデル設定の下では,外部委託の事後的な収益配分は,ライバル企業の生産性 を通して,事前のコスト削減投資の水準に影響を及ぼす.したがって,事前のコスト削 減投資の水準は外部委託が選択されるような事後的な交渉配分の境界値に影響を及ぼす ことになる.

不完備契約の下ではサプライヤーは本社企業(MNE)の収益配分が増加すると,中間 財生産のインセンティブが低下するため,MNE は交渉配分をある程度小さくする必要 がある.過度な交渉配分の増加は,中間財の生産減少を招く.更に,市場占有率(マー ケットシェア)の低下を通して,MNEの利潤を減少させるからである.

本章の主要結果として,市場規模が小さく,ライバル企業の生産性が小さい[大きい]

場合,市場の複占化[独占化]が実現し,独占市場[複占市場]の場合よりも小さな[大きな]

交渉配分で外部委託が選択されること.また,交渉配分が大きな本社企業は,サプライ ヤーの過少な中間財生産に備えて,事前の投資を大きくする結果,市場の独占化が促進 されることが示される.

最後に本章の構成を述べる.6.2節ではモデル設定に関する詳細が述べられる.6.3節 では,ゲームの各段階を踏まえて,逆向き推論法により,参入形態の違いに応じて,価 格および生産量,投資水準,利潤が導出される.6.4節では,外部委託での参入の条件が 述べられる.6.5節と6.6節では,MNEの最適参入形態が吟味される.そして,最終節 では本章のまとめが述べられる.

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