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モデル

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 44-48)

第 3 章 労働力移転と FDI

3.2 モデル

ある二つの国を想定する.一つは,MNEの本拠地(先進国)で,もう一つは開発途上 国である.MNE はこの開発途上国市場に新規参入することを計画している.この途上 国では,MNE の生産する差別化財に競合する産業は存在せずに,外国企業による FDI の受入れに伴う部品の受託生産を行う企業群から産業が成り立っているものとする32. MNE は,この途上国の差別化財に関する独占的競争市場において,現地で生産要素と して労働を投入し,関係特殊な中間財33の生産により,最終財の生産・販売を潜在的に 行うことを想定する.

MNEは海外市場への参入に際して,事前に海外直接投資(=FDI)を行い,生産活動 を行うためには,事前に,生産要素として,現地の労働者を雇用する必要がある.中間 財の調達方法として,二通りを想定する.一つは,中間財を現地の完全子会社で生産す る場合(=垂直統合)であり,もう一つは現地部品会社を通して生産する場合(=外部 委託)である.この二つの参入形態において,事前のFDIの投資水準は異なり,前者が 高く後者は低いと仮定している.前者の垂直統合の場合,FDIはプラント建設等の設備

31 Hart and Moore(1990)によると,関係特殊な中間財とそのためのFDI投資では,中間財を外部

委託すると部品の下請け企業(サプライヤー)と本社企業の双方にとって有利な事前契約

(enforceable contract)を結ぶことは不可能である.こうした不完備契約の理由には,契約第三者 に対する中間財やFDIの立証不可能性が背景にある.契約不履行が行われ契約が決裂し,サンク・

コストの一部を,不正行為を行った契約相手から回収しようとしても,裁判所は中間財やFDI投資 の属性が判断できないために,契約決裂による損失額を見積もることができない.また,仮に契約に 定めることが出来ても,双方にとって著しく高い立証コストが生じる.

32 本章では,簡略化のためにこの企業群を一つの代表的企業で表現する.

33 特定の使用目的以外に転用できない特殊な部品を表す.

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投資等の物的資本投資に加えて,労働者のスキル習得のための人的資本投資を含む.こ こで物的資本投資は固定費用であるが,人的資本投資は現地の労働者の技能水準に依存 する.一方,後者の外部委託の場合のFDIは基礎的投資のみである.しかし,二つの中 間財の生産方法において,中間財の生産要素は労働のみである点は共通である.

MNE が垂直統合生産を参入形態に選択する場合,労働力を確保する必要がある.そ のため,MNE は現地労働者に現地の平均的賃金と MNE の賃金格差に相当する賃金を 現地の平均的賃金に上乗せし,現地企業よりも高い賃金でMNE子会社への労働力の移 転を図る.その賃金格差は,MNE の二つの異なる市場参入形態における利潤から決定 し,参入企業数や市場規模,労働者の技能水準などの市場環境によって変化する.そし て,MNE で労働し高い賃金を得る引き替えに,労働者は職業能力開発のための努力コ ストを支払うことになる.したがって,労働者は努力コストと高賃金の便益を判断し,

現地の部品会社に留まるかMNEで労働するかを決定する.

MNE は現地市場で労働力移転ができない場合,現地サプライヤーと中間財の生産に 関する外部委託契約を結ぶ.但し,ここでの契約の取り決めは中間財の関係特殊性によ り,交渉段階での取り決めは両社間での収益分配率に関するものに限られる.契約が成 立するとMNEは部品を入手後,現地のプラントで最終財の生産を行う.最終財の販売 により実現した売上は両者で余剰配分率に従い分配される.しかし,契約が決裂すれば,

両者の外部機会は存在せず,両者の利潤はゼロになり,MNE は市場からの撤退を余儀 なくされる.

タイム・ライン

第1段階 参入形態の選択

第2段階 参入の固定費(セットアップ費用)の実現

第3段階 労働者の労働力供給の選択(MNE完全子会社 or 現地サプライヤー)

第4段階 中間財生産量の決定

第5段階 最終財販売の収益配分の交渉(アウトソーシング)

第6段階 最終財の生産量と収益配分の実現

3.2.1 消費者行動

代表的消費者の効用関数を次のように仮定する.

u = (∫ 𝑞(𝑖)𝜌

𝑁

0

𝑑𝑖)

1 𝜌

where 𝜌 ∈ (0,1) (3.1)

ここで,𝑞(𝑖)は最終財(第i差別化財)の消費量,ρは差別化の程度を表し,Nは最終財 の製品バラエティ数である.消費者の予算制約は,

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∫ 𝑝(𝑖)𝑞(𝑖)

𝑁

0

𝑑𝑖 = 𝑌 (3.2)

ここで,𝑝(𝑖)は最終財の価格を表し,Yは最終財の消費国の所得である.次に,代表的消

費者の効用関数を予算制約の下での最適化問題を解くと,次の需要関数が得られる.

𝑞(𝑖) = 𝑌

𝑃1−𝜎𝑝(𝑖)−𝜎 𝑤ℎ𝑒𝑟𝑒 𝜎 = 1

1 − 𝜌 (3.3)

σ > 1は代替の弾力性を表し,0 < ρ < 1は差別化の度合いを表す.そして,Pは価格指数 であり,

𝑃 ≡ (∫ 𝑝(𝑖)1−𝜌

𝑁

0

𝑑𝑖)

1 1−𝜎

(3.4)

である.以下需要関数を,

𝑞 = 𝐴𝑝−𝜎 𝑤ℎ𝑒𝑟𝑒 𝐴 ≡ 𝑌

𝑃1−𝜎 (3.5)

と簡略に表現し,Aを(差別化財の総合的な)市場規模と呼ぶ.

3.2.2 垂直統合(FDI)

先ず,垂直統合(FDI)が選択される場合,多国籍企業の利潤(営業余剰)は,

𝜋𝑉 = 𝑝𝑞 −w𝑙 (3.6)

となる.ここで,多国籍企業の生産費用34は変動費と固定費から成り,最終財1単位あ たりl人の労働者を必要とする.最終財は1単位の中間財の生産から 1単位生産される ものとする.MNEの労働投入量は,

𝑙 =𝑞

𝜑+ 𝑓𝑉 (3.7)

となる.ここで,固定費𝑓𝑉を,

𝑓𝑉 = 𝑓 + 𝜀(𝜑)

と仮定する.これはMNEが現地子会社との最終財の垂直統合生産を行うに際して負担 するFDIの投資水準を表す.𝑓 > 0は固定的FDIの水準であり,外生変数である.一方,

𝜀(𝜑)は現地労働者の努力水準であり,FDIのスキル習得コストである.スキル習得コス

トは,現地労働者の潜在的技能水準φ ≥ 0の減少関数である.これは最終財の生産に必要 な中間財の開発において,求められる理想的な労働者の技能水準と現地労働者の技能水 準の近接度を表現している.従って,潜在的技能水準φの値が大きい程,労働者の技術水 準は理想的水準に近いと言える.そのため,MNE の教育的投資は低くなる.言い換え

34 最終財の生産要素は労働のみである.よって限界費用は最終財1単位当りの労働投入量である.

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ると,労働者に求めるスキル習得の努力水準は少なくて済む.このことを定式化すると,

𝑑𝜀(𝜑)

𝑑𝜑 < 0, 𝑑2𝜀(𝜑)

𝑑𝜑2 > 0, 𝑙𝑖𝑚

𝜑→0𝜀(𝜑) = +∞ , 𝑙𝑖𝑚

𝜑→∞𝜀(𝜑) = 0

MNE の利潤最大化問題を解くと,次のように垂直統合における価格と生産量が求まる

35

p𝑉 = 𝑤

𝜌𝜑, 𝑞𝑉= 𝐴 (𝑤 𝜌𝜑)

−𝜎

(3.8)

故に,MNEの利潤は,

𝜋𝑉= 𝐴(1 − 𝜌) (𝑤 𝜌𝜑)

1−𝜎

− 𝑤𝑓𝑉 (3.9)

3.2.3 外部委託(アウトソーシング)

次に,アウトソーシングが参入形態として選択される場合の当事者利潤を考察する.

𝑅 = 𝑝𝑂𝑞𝑂をアウトソーシングによる総収益であり,𝑝𝑂はアウトソーシングが選択される

場合の価格,𝑞𝑂はそのときの生産量,β ∈ (0,1)を本社企業(=MNE)の収益配分率とす る.

収益分配段階の問題は,以下の問題をMNEの収益R𝑀𝑁𝐸に関して最大化することであ る.

Rmax𝑀𝑁𝐸(R𝑀𝑁𝐸)𝛽(𝑅 − R𝑀𝑁𝐸)1−𝛽 𝑤ℎ𝑒𝑟𝑒 R𝑆𝑢𝑝𝑝= 𝑅 − R𝑀𝑁𝐸 (3.10) ここで,サプライヤーの収益をR𝑆𝑢𝑝𝑝とすると,MNEと現地サプライヤーの収益は,そ れぞれ次のようになる.

𝑅𝑀𝑁𝐸= 𝛽𝑅, 𝑅𝑆𝑢𝑝𝑝= (1 − 𝛽)𝑅 (3.11) アウトソーシングでは,生産の変動費はサプライヤーの負担がすることから現地サプ ライヤーの問題は,

max𝑞 𝑅𝑆𝑢𝑝𝑝− 𝑤𝑞

𝜑 (3.12)

となる.ここで𝑤 > 0は現地市場の賃金率である.この利潤最大化問題を解くと,最終財 価格𝑝𝑂と,その生産量𝑞𝑂が次のように求まる.

𝑝𝑂= 1 1 − 𝛽∙ 𝑤

𝜌𝜑, 𝑞𝑂= 𝐴 ( 1 1 − 𝛽∙ 𝑤

𝜌𝜑)

−𝜌

(3.13)

となる.

35 チェンバレン(Chamberlin(1962))の独占的競争モデルに従い,最終財企業(MNE)は無数に 存在し,ある企業は他企業の決定を考慮せずに意思決定を行い,市場規模に影響を及ぼすことはで きないものとする.また,企業は自由に海外市場への参入と退出が可能である.但し,本章では短期 的な市場均衡を想定している.

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このことから垂直統合生産の場合と比較して,アウトソーシングの下では,労働投入 量が減少するため,過少生産(ホールド・アップ問題)が発生し,最終財価格の上昇を 招くことになる.

ここで(3.13)より,総収益Rは,

𝑅 = 𝑝𝑂𝑞𝑂= 𝐴 ( 1 1 − 𝛽∙ 𝑤

𝜌𝜑)

1−𝜌

(3.14) となる.固定費は本社企業である MNE が負担するので,MNE の利潤(=営業余剰)

は,

𝜋𝑂= 𝐴𝛽(1 − 𝜌) ( 1 1 − 𝛽∙ 𝑤

𝜌𝜑)

1−𝜌

− 𝑤𝑓 (3.15)

となる.一方,サプライヤーの利潤は,次のようになる.

𝜋𝑆𝑢𝑝𝑝= (1 − 𝛽)𝜌(1 − 𝜌)𝐴 (𝑤 𝜌𝜑)

1−𝜌 (3.16)

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