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参入形態の均衡

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 89-94)

第 5 章 企業の参入戦略と交渉力

5.4 参入形態の均衡

80 の投資量は増える.

命題 5.1

ライバル企業のFDIの選択は,自企業の投資水準の増加を招き,企業競争を激化させ る.

5.3.4 ステージ1

ゲームの第1ステージにおいて,各企業は参入形態を選択する.企業がFDIとアウト ソーシングのどちらの参入形態を選択するかを決定するために,各参入形態の利潤を比 較する.(5.6)式を用いると,FDIとアウトソーシングの各利潤は,

𝜋𝑖𝐼𝑘 = (𝛾𝑖𝐼𝑘)2[1 − (θ𝐼𝑘)2] − 𝐹 (5.16)

𝜋𝑖𝑂𝑘= (𝛾𝑖𝑂𝑘)2 (5.17)

となる.したがって,𝜋𝑖𝑂𝑘> 𝜋𝑖𝐼𝑘となるための十分条件は,𝛾𝑖𝑂𝑘> 𝛾𝑖𝐼𝑘となるので,供給量 が FDI のケースよりも大きい場合,常にアウトソーシングが選択される.このことは

Northの両企業が事前に対称的で,かつ,中間財の生産において上流企業に生産性の優

位性がなければ(𝑟 = 𝑟𝑚),ライバル企業の参入形態の選択に依存せず,FDI が選択され ることを意味する.

Kの投資水準は,FDIよりもアウトソーシングの方が小さいので,部品サプライヤー の投資意欲の低下によって中間財の低品質化が起こり,最終財生産の限界費用が増加す る.更に,部品サプライヤーの投資量の低下は,最終財生産の限界費用の増加を通して,

供給量の減少を招くのである.

命題 5.2

本社企業の交渉力の増加は,部品サプライヤーの投資水準を低下させるが,中間財価 格を低下させ,利潤の増加を促す78

本社企業の交渉力の増加は,直接的に,部品サプライヤーの投資量を下げるが,間接 的に,企業間競争を通した生産量の増加により,部品サプライヤーの投資が促され,結 果的に本社企業の限界費用の低下と利潤の増加につながる.

81 論する79

5.4.1 交渉力が変化する場合の利潤とその領域

Fが(無視できるほど)小さいケース(F ≒ 0)では,

𝜋𝑖𝐼𝑘 > 𝜋𝑖𝑂𝑘⟺ (𝛾𝑖𝐼𝑘)2[1 − (𝜃𝐼𝑘)2] > (𝛾𝑖𝑂𝑘)2

が成立する.故に,ライバル企業がアウトソーシング(O)を選択れば,企業 i は FDI

(I)を選択し,ライバル企業jがIを選択すれば,自企業はOを選択するのが効率的に なる.

故に,Fがある程度大きな: F > 0のケースで,

(𝛾𝑖𝐼𝐼)2[1 − (𝜃𝐼𝐼)2] − (𝛾𝑖𝑂𝐼)2< 𝐹 < (𝛾𝑖𝐼𝑂)2[1 − (𝜃𝐼𝑂)2] − (𝛾𝑖𝑂𝑂)2

となるF(=中位のF)が存在する.故に次の結果が得られる.

図5.1:利潤の領域

図5.1,領域ABCは𝜋𝑖𝐼𝑂 = 𝜋𝑖𝑂𝑂となる領域,領域 ADEは𝜋𝑖𝐼𝐼= 𝜋𝑖𝑂𝐼となる領域を表す.

線分ABの右上で,𝜋𝑖𝐼𝑂 < 𝜋𝑖𝑂𝑂となり,線分ACの左下で,𝜋𝑖𝐼𝑂 > 𝜋𝑖𝑂𝑂となる.一方,線分 AEの左下で,𝜋𝑖𝐼𝐼> 𝜋𝑖𝑂𝐼となり,線分ADの右上で,𝜋𝑖𝐼𝐼 < 𝜋𝑖𝑂𝐼となる.故に,領域ACD では, 𝜋𝑖𝐼𝑂= 𝜋𝑖𝑂𝐼となる.

故に,輸送費tを所与とすると,ガバナンス・コストFが小さい場合,ライバル企業 jの戦略に依らず,企業i はFDI を選択し,Fが大きい場合はアウトソーシングを選択 する.したがって, F が小さい場合の最適反応は,ライバル企業の戦略に依らず,常に Iである.一方でFが大きい場合の最適反応は,ライバル企業の戦略に依らず,常に O である.しかし,中位のFでは,Leahy & Montagna (2009)と異なり,複数の最適反応

79 上流企業と下流企業の生産性が事前に異なるケースが後で議論される.

t F

0

𝜋𝑖𝐼𝐼= 𝜋𝑖𝑂𝐼の領域 𝜋𝑖𝐼𝑂 = 𝜋𝑖𝑂𝑂の領域

0.19 0.18

1 0.086

0.062

A B

C D

E

82 が存在する.

5.4.2 ナッシュ均衡

ライバル企業jの最適反応を踏まえ,ナッシュ均衡を導出する.そこで以下では,𝛽𝑖 >

𝛽𝑗のケース80に限って,参入形態の均衡を考察する.均衡は明らかに4つのタイプ:(II),

(IO),(OI),(OO)から成る.最初の文字は企業 i の参入形態を表し,2 番目の文字 は,企業jの参入形態を表す.

図5.2:均衡:𝛽𝑖 > 𝛽𝑗のケース

図5.2の領域ABC内では,企業jがIを選択すると企業iはOを選択し,企業jがO を選択すると企業iは I を選択する.一方,企業jは常に O を選択し,均衡はIO にな る.領域ACD内では,企業 jがI を選択すると企業iはOを選択し,企業jがOを選 択すると企業i はIを選択する.一方,企業i がIを選択すると企業 jは Oを選択し,

企業iがOを選択すると企業jはIを選択する.すなわち,相手企業と異なる戦略がナ ッシュ均衡である.領域ADE内では,企業 jがI を選択すると企業 iはO を選択し,

企業jがOを選択すると企業 iはI を選択する.一方,企業jは常にIを選択し,均衡 はOIになる.

80 𝛽𝑖 < 𝛽𝑗のケースでは,均衡(IO)が(OI),均衡(OI)が(IO)となるだけである.故にこのケ

ースの分析は一般性を失わない.

t F

0

𝜋𝑖𝐼𝐼 = 𝜋𝑖𝑂𝐼 𝜋𝑖𝐼𝑂= 𝜋𝑖𝑂𝑂

1 𝜋j𝐼𝑂 = 𝜋j𝑂𝑂

𝜋j𝐼𝐼= 𝜋j𝑂𝐼 IO

OO

IO,OI OI

II A

B

C

D E

83

<参考>利得表とナッシュ均衡

① 領域ABC内の利得表:

j

i I O

I II IO

O OI OO

② 領域ACD内の利得表 j

i I O

I II IO

O OI OO

③ 領域ADE内の利得表:

j

i I O

I II IO

O OI OO

命題 5.3

本社企業の交渉力の増加は,アウトソーシングの選択を促し,FDIの選択を抑制する 結果,競合企業間の交渉力格差の増加は,単一非対称均衡を促す.

均衡における参入形態を分類すると,次のようになる.

I. Fが大:線分ABの右上領域⇒両企業ともOを選択(OO)

II. Fが中:領域ABC内⇒(IO)

III. Fが中:領域ACD内⇒複合的非対称均衡(IO And OI)

IV. Fが中:領域ADE内⇒(OI)

V. Fが小:領域AE0内⇒両企業ともIを選択(II)

ここでは,𝛽𝑖 > 𝛽𝑗のケースで均衡を考察する.領域ADE内では,企業jはOを選択す ると,中間財価格が低下し,限界費用が低下するが,収益(=レント)の大部分をサプ ライヤーに収奪される.したがって,固定費Fが比較的小さいため,企業jは常にIを選 択する.一方,自企業(=企業i)にとって,相手企業(=企業j)がI を選択する限り,

Oの選択は,投資を減少させ,投資の効率性(=投資・産出比)を減少させるが,数量

84

競争を通して中間財価格が低下し,供給量を増加させる.自己の交渉力の大きさは,こ の効果を増幅させる.そのため,レントの観点からOの選択する方が有利になる.

領域ABC内では,固定費Fが比較的大きく,企業jはIを選択すればレントの低下を 招くため,企業jは常にOを選択する.一方,自企業(=企業i)にとって,相手企業(=

企業j)がOを選択する限り,Oの選択は数量競争を不利にさせる.

その理由は,自己の交渉力の大きさが,中間財価格を低下させ,投資を減少させる結 果,投資の効率(=投資・産出比)が減少するからである.相手企業の交渉力が小さい 場合,このマイナス効果は増幅される.同時に,自己の交渉力の大きさは,自企業のみ ならず,相手企業の限界費用(=中間財価格)をも減少させ,競争を緩和させる効果が ある.このように,本社企業(=最終財企業)間の数量競争が,本社企業とサプライヤ ー間の中間財価格の交渉に戦略的影響を及ぼす.したがって,自企業のOの選択は,投 資効率を悪化させ,レントの減少を招く結果になる.

他方,自企業はIを選択すれば,投資の効率は高まる.また,自企業の投資の増加は,

相手企業の限界費用を低下させるが,この戦略効果は,相手企業の交渉力が低いほど大 きく働く.それ故,自企業のI の選択は,相手企業の O の選択を補強する効果をもつ.

したがって,相手企業よりも交渉優位にある,自企業のIの選択は,Oの選択よりも投 資費用の低下を通じて,レントの増加を促す.この結果,相手企業がOを選択するとき,

自企業はIを選択するのである81

5.4.3 貿易自由化

ここでは,tの大きさの比較静学により,貿易自由化の均衡への影響を考察する.結 論として貿易の自由化は,Fの大きさに関する企業の参入形態の選択に影響しないが,

与えられた輸送費に対するFDIとアウトソーシングの選択に影響する.

分析結果として,以下の項目が得られる.

A) 競合する本社企業間で交渉力が等しい場合,貿易自由化は,FDIに有利に働く一 方,アウトソーシングに不利に働く.

B) 競合する本社企業間で交渉力が異なる場合,本社企業の交渉力の増加は,貿易自由 化によるFDIの限界費用の低下を緩和させ,アウトソーシングの選択を促す.

輸送費が下がれば,FDIを選択により,供給量の増加が促される.したがって,輸送 費の低下は,限界費用の低下を通してFDIの利潤の増加を促す.また,貿易の自由化は 企業レントの増加を促す.アウトソーシングを選択すると,下流の本社企業はレントを 部分的に上流企業(部品サプライヤー)に奪われるが,輸送費の低下は,レントの増加

81 𝛽𝑖= 𝛽𝑗のケース81では,Fが中程度の大きさ(領域ACD内)で,(IO)と(OI)の二つの非対称 均衡が存在する.企業jIを選択する場合,企業iIを選択すれば,投資コストKが増加し,供 給量が減少し,企業iOを選択する.一方,企業jOを選択する場合,企業iOを選択すれ ば,部品サプライヤーの投資意欲の低下によって限界費用が増加し,企業iIを選択する.

85

を通してFDIの利潤増加を促す.本社企業の交渉力が大きな場合,ライバル企業との競 争を通じて,中間財価格が低下する.この中間財価格の低下は,交渉力の大きさによる,

部品サプライヤーの投資意欲の減少を相殺する.したがって,交渉力の増加は,輸送費 低下によるFDIの限界費用の低下を緩和させるのである.

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