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モデル

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 61-64)

第 4 章 スキル習得のインセンティブと市場構造

4.2 モデル

本節では,モデル設定と,生産要素としての労働者の意思決定を説明する.

4.2.1 生産の条件

世界は南北で構成され,北は先進国であり,南は開発途上国とする.北に位置する企 業(潜在的な多国籍企業=MNE)は,差別化された最終財の生産を独占的に行っている.

この最終財は本国(北)でのみ消費され,海外(南)へは輸出されないものとする.こ こで北の消費者の需要関数を,

𝑦=𝜆𝑝−𝜀 (4.1)

とする.ここで,𝑦は最終財の生産量,pは最終財の価格,λは市場規模を表す.εは代替 の弾力性を意味しており,

44 財にはライフサイクルがあり,財は円熟期になるに従い標準化され,賃金の低い国で生産される 傾向にあるが,非標準的な新製品は賃金の高い国で生産される傾向があるとする理論

53 𝜀 = 1

1 − 𝛼 (0 < 𝛼 < 1)

である.ここで,αは製品差別化の度合を表している.故に,ε > 1が成立する.

最終財の生産要素である中間財は資本集約的ハイテク部品と労働集約的ローテク部品 から構成される.生産関数を次のように設定する45

y = (1 𝜂)

𝜂

( 1 1 − 𝜂)

1−𝜂

h𝜂𝑚1−𝜂 (4.2)

ここで, hは資本集約的なハイテク部品の投入量,mは労働集約的なローテク部品の投 入量である.そして,η ∈ (0,1)は最終財の資本集約度の大きさを決める,外生的パラメ ータである.

MNE は最終財の生産に要する資本集約的なハイテク部品は本国(北)から必ず調達 する.しかし,労働集約的なローテク部品は北の完全子会社から垂直統合的に調達する か,南に位置するMNEの非系列の部品サプライヤーから調達することが出来る46

図4.1:部品調達の形態

MNE が南から部品調達する場合,部品サプライヤーが当該中間財の生産費用を負担 することになる.しかし,この場合,契約決裂時の当該部品の所有権は部品サプライヤ ーに帰属するものとする.また,部品サプライヤーとの部品調達では,地域間の情報の 不完全性により,当該部品の品質を第三者は判別できない.そのため,事前に契約当事 者間で有利になるように,当該部品の生産量や価格に関する効率的な契約を事前に書く ことができない.事前に契約当事者間で分かっていることは,両者の事後的な収益配分

45 Antràs(2003, 2005),Antràs and Helpman (2004)と同様の設定である.

46 ここでは,分析を簡略化するために,MNEが南で中間財を外部委託する場合は,関税や輸送コス ト等の貿易に関する費用を考慮しない.例えば,ソフトウェア開発産業では,プログラムのコーディ ング作業等でインターネット等,通信技術を利用した外部委託が広く行われており,この場合,電機 産業や自動車産業等に比べて,外部委託に伴う輸送費は極めて小さい.また,中間財の輸入に関わる 為替レートの大きさも影響しないものとする.

ロ ー テ ク 部 品

北(完全子会社)

南(サプライヤー)

部品h,部品m 北(完全子会社)

<外部委託>

<垂直統合>

ハイテク部品h

54

のみである47.当事者案で契約が決裂すると,資本集約的なハイテク部品と労働集約的 ローテク部品の間に関係特殊性が存在するため,部品サプライヤーは,ローテク部品の 所有権財を保有しているにも拘らず,部品の生産コストを回収できない.そのため,両 者間で部品の生産に関する過少生産(=ホールドアップ問題)が発生する.しかし,契 約が決裂する場合,最終財生産するMNEは本国(北)で,系列子会社による垂直統合 的な部品調達という外部機会がある.系列子会社による部品調達では,部品サプライヤ ーは,MNE の部局という位置づけであり,情報の完全性により部品の品質が明らかで ある.そのため契約の不完備性は発生しない.

二種類の中間財の部品を投入して,最終財を生産する際,1 単位の中間財の生産には 1 単位の労働投入が必要であるものとする.但し,本章のモデルでは,簡便化のため中 間財の投入によって,最終財は自動的に生産されるものと考え,中間財の組立,最終財 の生産工程では別途追加的コストは発生しないものとする.また,中間財の生産は労働 投入によってのみ行われるとし,設備投資等の事前の固定費を想定しない.従って,最 終財の生産費用に関して,中間財の入手地域の賃金率が限界費用になる.このことは,

部品サプライヤーが部品を外部委託生産する場合にいても同様である.ここで,北の平 均的な賃金率を𝑤𝑁,南の平均的な賃金率を𝑤𝑆とし,前者は後者よりも高い水準にあるも のとする.したがって,𝑤𝑁> 𝑤𝑆となる.

4.2.2 労働者のスキル習得

MNEの生産活動に際して,本国(北)の労働者に関して,事前に当初スキルが平均的 な労働者が存在する.しかし,それらの労働者はスキル習得訓練により,高いスキルを もつ労働者になることが出来ると仮定する.このような労働者を高スキル労働者と呼ぶ ことにする.スキル習得の実施主体は本国の政府によるものか,本社企業である MNE によるものかは本章では問題にしない48.このスキル習得のコストは訓練に参加する労 働者が負うものとする.その際,本国の労働者がスキル習得をするか否かは,MNE の 参入形態に依存して決定されるものとする.

本章では労働者が事前の職業訓練により高いスキルを身に付けた結果,事後的に得ら れる総労働所得に基づいて,労働者が職業訓練に参加する条件を求める49.そこで,労 働者のスキル習得のコストを,最終財の資本集約度の関数C(η)とし,次のように定める.

47 Hart and Moore (1990) ,Grossman, Sanford, and Hart (1986)等を参照せよ.

48 簡便化のために,主催者の職業訓練の実施コストに関する条件を捨象する.

49 労働者個人が,事後的な総労働所得に基づいて,事前にスキル習得の意思決定を行うという状況 は,多少奇異に感じられる.しかし,労働者個人がスキル習得を行う動機付けは,労働者個人が単に 高賃金で,特定の企業に雇用されるということではない.スキル習得を行う動機付けは,スキル習得 によって市場全体で雇用が新規にどの程度生み出され,労働者の総所得がどれ程増加するかに依存す ると考えるのが自然である.労働者の総所得の増加は,産業全体の経営業績が好調であることのシグ ナルと考えられるからである.

55

𝜕𝐶(𝜂)

𝜕𝜂 > 0 𝐶(0)=0

故に,最終財の資本集約度は,労働者のスキル習得の努力水準の決定要因になる.ここ で,モデル分析の簡略化のために,このコスト関数を線形関数であるとし,次のように

C(η)=𝑐0∙ 𝜂

とする.ここで 𝑐0> 0は定数とする.MNEが中間財を調達するとき,労働者が訓練に参 加すれば本国である北には高スキル労働者と平均スキル労働者の二種類の労働者が存在 することになり,国内の部品会社は高スキル労働者に高賃金𝑤𝐻を支払い,ハイテク部品 を完全子会社で生産する.ローテク部品を本国で調達する場合,平均スキル労働者に低 賃金𝑤𝑁を支払い,ローテク部品を完全子会社で生産する.

一方,労働者が訓練に参加しない場合は,本国には平均的な労働者のみが存在し,ハ イテク部品もローテク部品も平均的労働者が依然として生産を行うことになる.そして,

北の労働者が訓練に参加すれば,中間財の投入 1 単位あたり最終財の生産量がθ > 1で あると仮定する.また賃金率の大きさの序列を,次のように定める.

𝑤𝑆 < 𝑤𝑁< 𝑤𝐻

最後に,タイム・ラインについて言及する.第0段階では,労働者は職業訓練を受け るか否かの決定を行う.第2段階でMNEは労働集約的中間財(ローテク部品)の調達 地域の選択を行う.MNEが第1段階で,中間財の本国での調達を選択した場合50,第3 段階では,中間財の生産量・価格および労働需要が決定される.そして,第4段階で最 終財の価格,生産量および収益が決定する.MNEが第 1 段階で,中間財の海外調達を 選択した場合51,第2段階で中間財の生産量と価格が決定され,第3段階で中間財の生 産量が,第4段階で最終財の生産量と価格が,第5段階で契約当事者間での収益配分が それぞれ決定される.

本章では,以上の流れをゲーム理論の逆向き推論法(backward induction)によって,

最終段階から逐次的に処理して,第一段階における部分ゲーム完全均衡を求める.

図4.2:タイム・ライン

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