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企業の意思決定

ドキュメント内 多国籍企業の所有権構造と参入戦略 (ページ 68-73)

第 4 章 スキル習得のインセンティブと市場構造

4.4 企業の意思決定

59

60

と定義する.ここで,ωは契約相手の収益分配率で測った南北賃金比率を意味してい る.

4.4.2 MNEの交渉力が大きいケース

本社企業の交渉配分𝜙が十分大きいとき,

𝜙 1 − 𝜙

𝑤𝑁

𝑤𝑆 > 1 ⟺ 𝜙 > 𝑤𝑆 𝑤𝑁+ 𝑤𝑆 が成立する.このとき(4.23)は正になる.η <1

𝛼に注意すると,このとき(4.23)の第 1 項は増加関数であるから,MNE の交渉力が大きいとき, 𝑓𝑀𝑁𝐸(η)は単調に増加する.

以下では,ωに関する値の大きさに基づき,3 つの場合に分類することで,𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(η)の グラフ形状を考察する.

(4.25)の大括弧内の第一項は𝜂の減少関数であり,第二項は𝜂の増加関数であること に注意すると,

𝜕𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝

𝜕𝜂 |

𝜂=0

> 0, 𝜕𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝

𝜕𝜂 |

𝜂=1

< 0 すなわち,

𝜙𝛼

(𝜀 − 1)(1 − 2𝜙𝛼)< 𝑙𝑜𝑔ω < 𝜙𝛼

(𝜀 − 1)(1 − 𝜙𝛼) (4.27)

が成立するとき,すなわち,ωが中程度のとき,𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(η)は,η ∈ (0,1)で下に凸の関数に なる.

ここで,

𝑓𝑀𝑁𝐸(1)= 1 1 − 𝛼( 1

1 − 𝜙)

𝜀−1

> 𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(1) = 1

1 − 𝜙𝛼( 1 1 − 𝜙)

𝜀−1

𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(0) = 1

1 − 2𝜙𝛼( 1 𝜔(1 − 𝜙))

𝜖−1

> 𝑓𝑀𝑁𝐸(0)=( 1 𝜔(1 − 𝜙))

𝜖−1

𝜂̂ ≡ 1 − 2𝛼𝜙

𝛼(1 − 𝜙)⟹ 𝑓𝑀𝑁𝐸=𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝 であることに注意すると,以下のグラフを得る.

61

図4.1:資本集約度と参入形態(ωが中規程度のケース)

同様に,

𝜕𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝

𝜕𝜂 |

𝜂=0

< 0 が成り立つとき,すなわち,

𝑙𝑜𝑔ω < 𝜙𝛼

(𝜀 − 1)(1 − 2𝜙𝛼) (4.28)

となるとき.𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(η)は,η ∈ (0,1)で単調な減少関数になる.

したがって,(4.27),(4.28)より,

𝑚𝑎𝑥 { 𝜙𝛼

(𝜀 − 1)(1 − 2𝜙𝛼), 𝑙𝑜𝑔ω} < 𝜙𝛼

(𝜀 − 1)(1 − 𝜙𝛼) (4.29)

が成り立つとき,最終財の資本集約度が,𝜂𝐿< 𝜂 < 𝜂𝐻の中程度の範囲で,MNE は海外 アウトソーシングを選択し,それ以外の範囲でMNEは北で垂直統合を選択する.この ケースでは資本集約度が小さいとき,交渉の主導権は,サプライヤーにあるが,資本集 約度が大きい場合,交渉の主導権は本社企業にある.

一方,次の関係が成り立つとき,

𝜕𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝

𝜕𝜂 |

𝜂=1

> 0 ⟺ 𝑙𝑜𝑔ω > 𝜙𝛼 (𝜀 − 1)(1 − 𝜙𝛼)

𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(η)は,η ∈ (0,1)で単調な増加関数になる.したがって,ωの値が大きい場合, 0 < 𝜂 <

𝜂𝐻の範囲で,MNE は海外アウトソーシングを選択し,それ以外の範囲で MNEは垂直 統合を選択する.このケースでは,参入形態の選択は,本社企業MNEの条件のみで決 まり,サプライヤーの意思決定に依存しない.

ε = 1 1 − 𝛼

0 1

f𝑀𝑁𝐸

f𝑆𝑢𝑝𝑝

η𝐿 𝜂̂ η𝐻 η

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図4.2:資本集約度と参入形態(ωが大きいケース)

4.4.3 MNEの交渉力が大きくないケース

本社企業の交渉配分𝜙が大きくないとき,

𝜔 = 𝜙 1 − 𝜙

𝑤𝑁

𝑤𝑆 < 1 ⟺ 𝜙 < 𝑤𝑆

𝑤𝑁+ 𝑤𝑆

が成り立つ.このとき(4.25)より,𝑓𝑆𝑢𝑝𝑝(η)は単調な減少関数になる.以下,ωに関す る値の大きさに基づき,2つのケースに分類し,𝑓𝑀𝑁𝐸(η)のグラフ形状を考察する.

本社企業の交渉配分𝜙が大きくないとき,(4.23)の第2項は負になる.η <𝛼1に注意す ると,(4.23)の第1項は増加関数である.故に,𝑒を自然対数の底=ネーピア数≒2.759 とすると,

𝑙𝑜𝑔 ( 𝜙 1 − 𝜙

𝑤𝑁

𝑤𝑆) > −1 ⟺1 𝑒< 𝜔 が成り立つ場合,

𝑙𝑜𝑔 ( 𝜙 1 − 𝜙

𝑤𝑁

𝑤𝑆) < 𝜀 ⟺ 𝜔 < 𝑒𝜀 故に,

1

𝑒< 𝜔 < 𝑒𝜀 (4.30)

が成り立つとき,η ∈ (0,1)で下に凸の関数になる.

59 eはネーピア数:e=1.7182818282…である.

ε = 1 1 − 𝛼

0 1

f𝑀𝑁𝐸

f𝑆𝑢𝑝𝑝

η𝐻 η 𝜂̂

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図4.3:資本集約度と参入形態(ωが中程度のケース)

このとき,最終財の資本集約度が,𝜂𝐿< 𝜂 < 𝜂𝐻の中程度の範囲で,MNE は海外アウ トソーシングを選択し,それ以外の範囲でMNEは北で垂直統合を選択する.このとき 賃金比率ωは中程度の水準であることが必要である.このケースでは資本集約度が小さ いとき,交渉の主導権は,サプライヤーにあるが,資本集約度が大きい場合,交渉の主 導権は本社企業にある.一方,

𝑙𝑜𝑔 ( 𝜙 1 − 𝜙

𝑤𝑁

𝑤𝑆) < −1 ⟺ 𝜔 <1

𝑒 (4.31)

が成り立つとき,η ∈ (0,1)で 𝑓𝑀𝑁𝐸(η)のグラフは単調に減少する.

図4.4:資本集約度と参入形態(ωが小さいケース)

したがって,ωの値が小さい場合, η𝐿< 𝜂 < 1の範囲で,MNEは海外アウトソーシン グを行い,それ以外の範囲でMNEは垂直統合を選択する.このケースでは,参入形態 の選択は,サプライヤーの条件のみで決まり,本社企業MNEの意思決定に依存しない.

ε= 1 1 − 𝛼

0 𝜂̂ 1

f𝑀𝑁𝐸 f𝑆𝑢𝑝𝑝

η𝐿 η𝐻 η

ε= 1 1 − 𝛼

0 𝜂̂ 1

f𝑀𝑁𝐸 f𝑆𝑢𝑝𝑝

η𝐿 η

64 命題 4.1

(1) 最終財の資本・労働集約度が中程度で,海外アウトソーシングが選択され,それ以 外の水準のとき,垂直統合が選択される.

(2) 本社企業の交渉配分ϕが大きい[小さい]場合,南北の賃金格差ωが中程度以下[大きい 水準]のとき,海外アウトソーシングが選択され,ωがそれ以外の水準のとき,垂直 統合が選択される.これらの選択は,本社企業(MNE)[サプライヤー]に依存する.

上記の命題の直観は,次の通りである.MNE の交渉力が大きく,南北の賃金率にあ まり差がないとき,海外アウトソーシングによるMNEの利潤は,最終財の資本集約度 の大きさに伴って増加するが,部品サプライヤーの利潤は,最終財の資本集約度の大き さに伴って減少する.そのため,最終財の資本集約度が大きいとき,部品サプライヤー は外部委託契約を結ぶインセンティブが弱まる.また,南北の賃金率の格差が大きい場 合,最終財の価格の低下を招くが,MNEの交渉力が大きい場合は,MNEの利潤に大き な影響を及ぼさないので,最終財の資本集約度が極端に大きくない場合に限り,MNEに は海外アウトソーシングを行うインセンティブがある.一方,MNEの交渉力が小さく,

南北の賃金率にあまり差がないときは,最終財の資本集約度が大きくなければ,海外ア ウトソーシングによるMNEの利潤は小さくなる.また,南北の賃金率の格差が大きい 場合,最終財の価格の低下が起こるため,MNEの収益が減少する.したがって,交渉力 が小さい場合,MNEは外部委託契約を結ぶインセンティブを持たない.

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