第 3 章 安全管理推進のために
3.2 現場監督者の安全面での役割
近代の工業化社会は、科学技術の開発利用によって産業が発展し、われわれ人類に豊かな生活 をもたらした。しかしその反面エネルギーの暴走は人類を災害や公害に巻き込み、不幸な人々を つくっている事実もある。
労働安全の目的はエネルギーの暴走を抑制し、災害や公害のない、人間の幸せを考えた健康で 明るい社会を創ることである。企業においてはこのような安全衛生を実現するためにラインの組 織を構成するすべての人たちが、それぞれの立場で安全衛生を考え、それを実践に移すことが必 要である。
安全衛生の確保はこうした各級管理・監督者や作業者の努力の集大成として実現されるもので ある。その中でも特に、現場と直接に結びついている現場監督者が、安全面に果す役割はきわめ て大きい。
(1) 現場監督者とは
現場監督者とは、何名かの部下を直接指揮して、ある単位の作業の遂行にあたっている者で、
いわばラインの最前線の監督者である。
企業や社会において必ずしも同じ呼び方はされていないが、いま現場作業の組織では下位から 作業者、機長、現場代理人の順で構成されている。機長や作業者は広い意味での作業者に属し、
その上にいる現場代理人がここでいう現場監督者に属する。また安全衛生法でいう監督者はこの 現場代理人に相当する。(図 3.2.1)
課 長
図 3.2.1 現場組織図の一例
企業の組織を構成する人々を大別すると、①経営者、②管理者、③監督者、④作業者の四つに なる。現場作業に限ってみると。監督者はこの、かなめの位置に
相当し、このかなめがグラつくと扇、即ち組織全体がダメになる 重要な位置に属しているのが監督者である。(図 3.2.2)
このように現場監督者は直接作業者を指揮する立場にあり、
組織の中で最も重要な位置にあるので、安全管理上で大きく期 待されている。
災害の多くは工事現場で起きている。労働災害は結果として 起きる現象であるから、労働災害をもたらすであろう危険性が これに先行する。しかだって危険性の段階でこれを現場から排 除し、また危険が生じないように管理することが労働災害を防 止する要諦である。
作業者 作業者 作業者 現場代理人 現場代理人 現場代理人
機長 機長 機長
管理者
監督者
作業者
図 3.2.2 現場管理組織の中 での監督者の位置
労働災害の原因は、物の側と人の側との両面にある。即ち災害の危険性もこの両側に存在して いる。現場は時々刻々と変化しているので、昨日現場の安全を確認したからといって、今日も決 して安全であるとはかぎらない。
作業内容の変更、天候の悪化等で常に新しい災害の危険性が発生してくる。これを組織の中で 誰よりも早く知ることができるのは、直接作業者と接している現場監督者である。現場監督者が 安全管理上で大きく期待される理由はここにある。
(2) 現場監督者の役割
現場監督者はつねに工事現場にいるので、労働災害防止についての問題点は、だれよりも早く キャッチすることができるので、その解決についてもただちに手を打つことが出来る。しかし現 場監督者の権限には限界がある。設備の改善等については上司の決裁がないとできない場合が多 い。この様な場合にはその危険性の度合に応じて、直ちに設備の使用や作業の一時停止をし、改 善策について意見を具申することが必要である。みづからの権限で処理しきれない問題について も、監督者は問題の発見と解決策の提言という重要な役割を担っている。
安全は生産と離れて存在するものではない。生産と混然一体の形で進められるべきものである。
安全、生産、品質の 3 つは相互にカバーし合うものであり、「安全を織り込んだ生産」でなければ ならない。
(3) 現場監督者の職務
現場監督者は労働安全の面でも、また作業の成果の面でも大きな期待がよせられている。この 期待に応えるためにも監督者には多くの職務が課せられている。すなわち、
① 作業員の適正な配置
作業者はそれぞれ固有の知識、技能、経験、適性をもっている。
また作業者が要求する特性とも適合させ、その能力がフルに発揮できるような配置を考慮して、
作業配置を行なうことが大切である。
② 指導及び監督
作業者に適切な作業を行わせるためには、そのよりどころとなる作業手順が定められなけれ ばならない。従来から行われている作業について、作業手順が定められていなければ、その作 業手順の案を作成するのも監督者の役目である。また時々行なう作業や、始めて行う作業に対 しては、作業開始前にその進め方を定めて作業者に教えなければならない。
すでに作業手順が定められている作業に対しては、監督者はこれが守られるよう最大の努力 を払うべきである。その第一の手順が教育である。作業手順をよく教え、安全のポイントを強 調して、作業者に教えるのも重要な職務である。 この教えたことがその通りに実行されている かを常にチェックし、不適個所は追加指導することも大切である。このフォローアップこそ教 育の本命である。
③ 設備及び環境の保守管理
設備や作業環境について保守管理するのは、現場監督者の役目である。しかし保守管理する だけでは進歩は期待し得ない。これからの監督者は設備や作業環境そのものを安全にするため に、設備を根本的に検討し、所要の改善をはからねばならない。しかし監督者としてなし得る 改善には限度があり、大きな改善は上司の理解を得てから実行することが必要である。
設備や作業環境の改善にあたっては、単に安全装置などを取りつければ足りるという考え方
ではなく、本質的に安全化、もしくは環境を無害化するという観点に立つことが大切である。
④ 作業改善
与えられた仕事を予定期日までに安全に、かつ出来ばえよく仕上げるにはどの様な作業方法 を選んだらよいかを定めなければならない。このためには従来の慣行にとらわれず思いきった 発想の転換が必要である。作業方法について改善策を提出できるのは、最もその作業に精通し ている監督者である。またその改善案を常に問題意識を持つことによって生まれてくるもので ある。
⑤ 災害防止の意識の高揚
労働災害は物(設備)と人(作業者)との異状な接触で起こる。従って作業を実際に行っている 作業者の理解と努力がなければ、これを防ぐことは出来ない。安全は二の次という考を持って いる人もいるが、人間である以上本能的に生命の安全や健康を願わない人はいないはずである。
安全を二の次と考える人でも、ただそういう気持が心の底に眠っているにすぎない。
この埋没した意識をさまして、安全に対する関心を掘り起こすのが、現場監督者の大切な仕 事である。そのためには常に作業者と対話して、安全についての彼らの考えを引き出し、これ を伸ばし、良いアイディアはどんどん採用してゆくべきである。
⑥ 異常事態に際してとるべき措置
労働災害の起こる前には必ず異状な事態(安全措置や制御装置の故障、異常な加熱、騒音、振 動など)が先行する。この段階で異常事態を解消すれば、災害は防ぎ得るはずである。そのため には故障の起しやすい個所や、損耗する個所に注意して、発生時には適切な措置を講ずること が大切である。
不幸にして災害が発生した場合は、被害者の応急措置を行い、二次災害防止に努める。それ が終ったら災害調査、検討をする。この場合災害の背景的な要因も検討し、対策を考えること、
どんな小さな災害についても綿密に原因分析を忘れてはならない。
(4) 現場監督者の心構え
現場監督者は常に「12 の安全の鍵」について自問自答し、安全の鍵に従って自分の職務を遂行 し、役割を果す心構えが必要である。(表 3.2.1)
表 3.2.1 現場監督者の職務と「12 の安全の鍵」
監 督 者 の 職 務 1 2 の 安 全 の 鍵
(監督者の役割) (1) 監督者の役割を果たしているか。
1.作業の改善と作業者の適正な配置 (2) 作業方法に改善すべき点はないか。
(3) 作業手順を正しく定めているか。
(4) 作業者を適正に配置しているか。
2. 作業者に対する指導及び監督 (5) 作業者への指導教育は充分か。
(6) 作業中の監督及指示はよいか。
3. 設備及び環境の保守管理 (7) 設備の安全化につとめているか。
(8) 環境の改善、保持に努めているか。
(9) 安全点検をよくやっているか。
4. 異常事態に対しとるべき措置 (10) 異常時の措置はよく守られているか。
(11) 過去に起った災害の防止対策はよく守られているか。
5. 労働災害防止に関する作業者の意識の高揚 (12) 作業者の安全衛生意識の高揚に努めているか。