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第 8 章 韓国人日本語学習者のあいづち的反応の運用における問題点

8.3. 母語(韓国語)の影響と考えられるあいづち的反応の問題

8.3.1. 母語(韓国語)の使用

日本語のあいづち的反応の表現形式には、以下の会話例52)~54)のような「相手の話を聞 いている」、「理解している」ことを示す機能を持った「おー/おーおー」、「いえいえ」などの 表現形式によるあいづち的反応は存在しない。これはあくまでも母語(韓国語)の表現形式 の使用であろう。韓国語では理解していることを相手に伝える時に「오-오-오:oh-oh-oh-」

「예-예:ye-ye」という表現形式で反応することができる。しかし、日本語では「感情を表わ す」機能の場合は「おお」という表現形式を、否定を表す場合は「いえいえ」という表現形式 によるあいづち的反応を行うことがあるが、韓国語のように「傾聴」、「理解」機能で「おー」

や「いえいえ」をあいづち的反応として使うことはないようである。したがって、韓国人日 本語学習者が、「傾聴」、「理解」のあいづち的反応が要求される場面で、感情を表わす機能 しか持たないこれらのあいづち的反応を行うことは、いい加減な印象を与え相手を不愉快 にしてしまう恐れがある。つまり、「傾聴」機能であれ、「理解」機能であれ、「おー」や「い えいえ」は母語話者が使用する表現形式ではないので、違和感なしにコミュニケーション を行うためにはそれぞれの機能にふさわしい他の表現形式の使用が要求される。会話例か らもわかるように、母語の影響がもっとも大きい初級はもちろん、日本語能力が母語話者 並みの超級においても、母語話者に違和感を与える「おー」や「いえいえ」の使用が確認 できる。とりわけ超級学習者のそうした使用に対しては、韓国語の影響とは思われず、気

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持ちのこもっていない対応だという誤解を招く可能性さえあるだろう。

会話例 52) 川の話:T1(インタビュアー)- K1 (インタビュイー初級)の会話

1 T1:川<はい>,あ,川があるんですか<はい>,ふーん

→2 K1:おー,あ3年まえー[前]は<はい>,とっても古い<えー>,でしたら[が],今は,

きれいな

3 T1:え,川が,川が古かったんですか

会話例 53) 誘いの電話のロールプレイの話:T6(インタビュアー)-K8 (インタビュイー超 級)の会話

→1 T6:ああさってか<ん>,じゃ,あさってさまた来たとき電話してよ<わかったわかっ

たおー>>,ちょっと,い,1杯ちょっと飲んで<わかったおーおー>話よく聞きたい から<オーケーオーケー,オーケー>,ん,じゃ,またね待っ てるからね,電話ね

2 K8:I:***着いたら連絡するわ〈ん〉,ん

会話例 54)初対面のあいさつの話: T4(インタビュアー)-I(インタビュイー超級)の会話 1 T4: はじめまして【姓A】と申します

→2 K7: いえいえあのーはじめまして,私あの,【姓B】と申します

3 T4: え【姓B】さんでいらっしゃいますか<はい>, え【姓B】さんお国はどちらで しょうか

8.3.2. あいづち的反応が自然と思われる場面での不使用

韓国語の会話では日本語のそれに比べてあいづち的反応の頻度が低く、その種類も多く ないことが知られている。また、表現形式を用いるよりはうなずいたり拍手したりする非 言語行動を用いる場合が多い。そして、賛同・同意した時にはあいづち的反応をよく行う が、反対・否定する時にはあまり行わないと報告されている(生越1988,李善雅2001など)。

以下の会話例55)~57)は、超級のKJLのあいづち的反応のそうした不使用を示した例で ある。もちろん松田(1988)の指摘するように、母語話者にもあいづち的反応の不使用の傾 向はあるが、その背景にはだいぶ差があるようである22。非母語話者である学習者はその

22 松田は「日本語母語話者の場合でも、意図的に聞き手言語行動を行わないことによっ て何かを伝えようとする場合がある。例えば、話し手の言おうとしている意図が分か らないことを伝える時や話し手の意図が聞き手にとって関心のないものであることを 伝える時である。また、聞き手言語行動の不使用などによって消極的に作用させるこ とで、反論を述べる緩衝材としたり、相手にさらに説明をさせたり、話の進む方向を 変更させたりするという効果を発揮することができる(1988:64)」と指摘している。

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場にふさわしいあいづち的反応への知識が欠けていることからあいづち的反応を使用して いないのに対し、母語話者は何らかの意図があってあえて使わないのである。実際、母語 話者の評価によると、会話例55)の「あ、[地名D]の方が寒いんですね」という話し相手の 発話の後は「はい」、「えー」、「そうです」、「そうですね」などのようなあいづち的反応を行 うのが一般的だという。

今回、初級はもちろんのこと母語話者の発話に一番近いといわれる超級学習者でさえ、

あいづち的反応なしで、実質的な発話に直ちに突入する傾向が確認できた。このようにあ いづち的反応が期待されているところで行わなかった場合は、話し相手を不快にさせる可 能性もあろう。

会話例 55)住まいの気候の話:T6(インタビュアー)-K8(インタビュイー超級)の会話

1 T6:あ,【地名D】の方が寒いんですね

→2 K8:Φ→はい/ええ、僕が<ん,ん>今住んでる<あー>ところっていうのも若干あの

<んー>,山じゃないんですね丘ですね<あはい>,もうな,名前自体に「丘」って ついてますんで(省略)

3 T6:あー,そうなんだ

会話例 56)日本の家族の問題の話:T4(インタビュアー)-K5 (インタビュイー上級)の会話

1 T4:はー<はい>,じゃあこ,これは日本の問題ですね

→2 K5:Φ→はい/ええ、それほんとに日本の問題だと思います

3 T4:ん,あのー,どうしてこういうことが起こっていると思いますか

会話例 57)住まいのお天気の話:T2(インタビュアー)- K2(インタビュイー初級)の会話

1 T2:そうですね<{笑}>,あの,{笑}東京はとても暑いので<ん>,いいと思いますよ

{笑}

→2 K2:Φ→そうですね、によん[日本}の天気が,もっと暑いです{笑}

3 T2:あーそうですか,【地名C】より,暑い<あー>,ですか

母語話者のインタビュアーは、会話例55)~57)すべて波線( )で示したように、発話の終 結部を「ね、よ」の終助詞の形で終了していることが確認できる。これに関連して、大塚(2

012)は、初対面の母語話者同士の会話データを調査した結果、「終結ターンのターン末表現

が言い切りの形ではなく、終助詞『よ、ね、よね、かね』が付加される場合が多い。終結 ターンのうち、言い切りの形で終わっているターンの割合は22%、これらの終助詞が付加

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されているターンの割合は46.1%である(2012:22)」と報告している。つまり、あいづち 的反応は、「~です、~ます」のような終結ターンの後よりも、「~けど、~が」の言いさ しのような継続ターンの後に行われることが多く、もし終結ターンの後に行われるとして も「~ですね、~ますね」のように終助詞を伴うことが多いという指摘である。このこと から、母語話者の会話では、あいづち的反応を聞き手がしやすいように話し手が話を運び、

それに応じて、聞き手も、終助詞の直後など、発言の途中のポーズが生まれるところであ いづち的反応を行うことによって会話に参加し、話し手と聞き手が共同作業で会話を作っ ていくことが分かる。

しかし、非母語話者である学習者にはこのような知識が不足しており、上記会話例55)~

57)のようにあいづち的反応が必要な場面でそれを行わないため、母語話者に違和感を与え るのである。