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第 2 部 変異生起要因の観点

4.6. 本章のまとめ

本章では、日本語学習者の日本語コミュニケーションの向上のために、現実の母語話者 のコミュニケーションを観察することが重要であるという観点に立ち、その一例として、

初対面20代の同性同士を対象に、同年対話相手、目上対話相手といった対人関係における あいづち表現の使用について分析した。

まず、丁寧体と普通体のスタイルの対応があるあいづち表現については、以下のことが 明らかになった。

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1. 同年対話相手のあいづち表現使用については、同年女性同士は、「うん」系、「そう」系 などによる普通体あいづち表現の使用により相手と良好な関係を保つために仲間意識 を示すことで相手との心的距離を縮めようとするのに対し、同年男性同士は「はい」系、

「ええ」系、「そうです」系などによる丁寧体あいづち表現を多用することにより、相手 との距離を保持し丁寧さを保とうとすることが確認できた。また、同年対話相手のあい づち表現の使用傾向には性別による、選択されるあいづち表現には上記の違いがあるも のの、円満な対人関係を維持するために用いられる言語行動であるという点では共通し ていることが明らかになった。

2. 年上対話相手に対するあいづち表現の使用については、女性が、「うん」系の感声的普 通体や「はい」系、「ええ」系の感声的丁寧体といった、スタイルにかまわず感声的あい づち表現を多用している一方、男性は、「はい」系、「ええ」系といった感声的か、「そう です」系といった概念的かに関係なく、丁寧体あいづち表現を多用していることが明ら かになった。そして、丁寧体と普通体のスタイルの対応がないあいづち表現については、

以下のことが明らかになった。

3.「あ」系や「ふーん、へー、ほー…」など、意味内容のない感声的あいづち表現の使用が 男女共に目立った。親密な関係でより多く使われるこれらのあいづち表現を用いること で、相手との良好な関係を保とうとしていることが分かった。

実際、本章で着目した聞き手言語行動である「あいづち表現」はこれまで日本語教育現場 で教えられることが少なく、後回しにされてきた18。その理由は、定形化した文法項目な どの言語形式すら定着していない学習者に対して、相手との対人関係にかかわる言語形式 を導入すると、男女差・上下差・年齢差など複雑な要因が絡むために、学習者の負担が大 きくなり、混乱が生じかねないことへの配慮があるのではないかと考えられる。

近年、日本語のコミュニケーション教育の方法として「作り物ではなく本物を使う、現 実のコミュニケーションを観察する(品田2012:148-155)」、「言語には使う者の年齢相応の 表現があり、世代の異なる教師が使う日本語をそのまま学習者に強いることは避けなけれ ばならない(メイナード2005:15)」、「大学生くらいの若者にも男女差が依然としてある、

適切なコミュニケーションのためには、話しことばの男女差を知っていることは必須(小川

2006:50)」、「母語話者の自然談話を素材とする『自然会話』の教材化(宇佐美2012:80‐8

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18 最近、実際的なコミュニケーション指導を目指す教科書では、学習項目として取り上げら れているようである。

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ち表現の選択様相も、現実の母語話者の自然談話という本物から得られた、会話参加者の 性別や社会的地位の上下(年齢の上下)を考慮した上で把握されたものである。本章で確認 した次の図19のような結果は、何を教えるか(シラバス)を考える際に参考になるであろう。

特に20代の日本語母語話者が現実で使用しているあいづち表現を同年代の学習者も使い 分けができるようにするのは、日本語教育におけるひとつの学習目標でもあろう。

図 19 20代のスタイルによるあいづち表現の使用傾向

今回の結果をどの学習段階でどのように教えるか、今後、研究を具体的に反映した教材 作成にも取り組んで行く必要がある。そのためにも、母語話者の範囲を大学生・大学院生 に限らず、社会人などに広げてさらに分析を進める必要があろう。今回は、感声的丁寧体 あいづち表現として「はい」系、「ええ」系を一まとめにして使用数をカウントしたが、実 際には、「ええ」は「はい」に比べて使用頻度がかなり少ないことが分かった。これについ ても再検討する必要があろう。そこで、次章では、会話者の対象を広げ、あいづち表現の 調査項目を個別に分けて分析、考察する。

対同年相手へ

「はい系」「ええ系」「そうです系」などによる丁 寧体あいづち表現を多用.

対同年相手へ

「うん系」「そう系」などによる普通体 あいづち表現を多用.

対年上相手へ

「はい系」「ええ系」「そうです系」の丁寧体あ いづち表現を多用.

丁寧体あいづち表現を多用することにより、相 手と一定の距離をおき、相手との摩擦をさけ、相 手を尊重する態度で、相手と良好な人間関係構

築. 親密な関係で使われる感声的あいづ

ち表現を多用することにより、相手との 良好な関係を構築.

B&Lのネガティブ・ポライトネス・ストラテジー 5.「敬意を示せ(Give deference)」

普通体あいづち表現を多用することにより、相手と良 好な関係を保つために仲間意識を示し、相手との心 的距離を縮め相手と良好な人間関係を構築.

B&Lのポジティブ・ポライトネス・ストラテジー 4.「仲間ウチであることを示す指標を用いよ (Use in-group identity markers)」

初対面会話における良好な対人関係志向

対同年、対年上にかかわらず、「あー、

ふーん、へー、ほー」などの感声的あ いづち表現を多用.

スタイルの対立があるあいづち表現の場合 スタイルの対立がないあいづち表現の場合 20代

B&Lのポジティブ・ポライトネス・ストラテジー 2.「H(聞き手)への興味、賛意、共感を誇張せよ (Exaggerate interest, approval, sympathy with H)」

20代

20代 20代

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