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第 7 章 韓国人日本語学習者の言語能力レベル別にみたあいづち的反応の使用実態

7.2. 先行研究

日本語のあいづち的反応は、日常会話での使用頻度が高く、使用される表現形式も多様 であり、水谷(1988a)、堀口(1988、1997)、メイナード(1993)などにより、円滑なコミュニ ケーションのために必要な要素のひとつと考えられてきたこともあって、それに関する研 究成果も膨大である。本節では、従来の研究のうち、本章と関連性が高いと判断される① 学習者の言語能力レベルと表現形式に関する研究と、②学習者のあいづち的反応と機能分 類に関する研究の2つに絞って検討し、問題を提起する。

7.2.1. 学習者の言語能力レベルと表現形式に関する研究

学習者の言語能力レベルを考慮した研究としては、堀口(1990)、渡辺(1994)、窪田(2000 a)、チョイ(2007)、古川・稲熊(2009)などが挙げられる。

堀口(1990)は、上級日本語学習者(韓国、台湾、タイ、エジプト)のデータをもとに、聞き 手としての役割をどのように果たしているか、その聞き手からの働きかけに関する実態を 分析している。学習が進めばあいづち的反応の頻度、種類、適切さの点において、母語話 者に近づくが、学習者があいづち的反応をおこなう頻度は、母語話者のそれと比較して約

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5分の1であること、そして、学習者が一番多く用いるのは「はい」であることを報告して いる。

山本(1992)は、日本語学習者の学習段階とあいづち的反応の使用能力との間には何らか の相関関係があるのではないかと考え、初級、中級、上級日本語学習者(中国語、韓国語)を 対象に実態調査を行い、頻度と種類に注目して分析を行った。その結果、学習段階が上が るにつれ、あいづち的反応の種類と頻度も増えていくことを報告している。また、学習者 の「え系」のあいづち的反応の使用が母語話者に比べ少ないことや、母語話者のみが使用 し、学習者には使用例がないあいづち的反応として「そうですか、ほんと、なるほど」な どの概念的あいづちがあることを指摘している。

渡辺(1994)は、日本語学習者(中国語、韓国語、英語のいずれかを母語とする)と母語話者 を対象に、学習者の発達段階とあいづち的反応の言語能力との相関関係について分析を行 っている。あいづち的反応の頻度に関して、学習者の日本語の発達段階が上がるにつれあ いづち的反応の使用量が増加し、日本語母語話者に近づいていくという仮説は支持されず、

学習段階との間に相関関係はほとんど見られないと主張している。また、学習段階や母語 に関係なく「繰り返し」、「言い換え」、「先取り」のあいづち的反応について学習者の誤用 が共通に現れることを報告している。

窪田(2000a)は、初級と上級の英語母語日本語学習者を対象に、日本語が上達するにつれ、

あいづち的反応の使用がどのように変化していくのかを検証した結果、日本語能力とあい づち的反応の頻度との間には相関関係がなく、影響もみられないと報告している。特に「先 取り」の使用は、日本語能力が上達しても学習者にとって習得しにくいあいづち的反応の 表現形式だと指摘している。

チョイ(2007)は、KYコーパスの中から、韓国語を母語とする日本語学習者のみを対象に あいづち的反応の使用実態を調査した結果、学習者の言語能力のレベルが高まるにつれ、

種類に関係なく、すべてのあいづち的反応が積極的になり、日本語の学習が進行すればす るほどあいづち的反応も上達すると主張している。

古川・稲熊(2009)は、感声的表現のあいづち的反応は、学習者の言語能力レベルによっ て差がないが、概念的あいづちはレベルが上がるごとに「先取り」と「そうですね」の使 用数が増えたこと、一方「繰り返し」は中級以上では使用頻度が減少する上、その質も初 級と中級以上では大きく異なることを指摘している。

以上、学習者の言語能力レベルを考慮した先行研究では、以下のような課題が残されて いる。

(1) あいづち的反応の機能について、学習者の言語能力レベルを考慮した研究を行うこと。

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(2) 先行研究の大部分は上級学習者を対象としており、初級学習者についての検討は十分 になされているとは言い難い。

(3) 各言語能力レベルを考慮した研究としては山本(1992)、渡辺(1994)、チョイ(2007)、古 川・稲熊(2009)があるものの、これらの研究はあいづち的反応の表現形式や頻度を中 心に考察しており、あいづち的反応の学習上もっとも重要である機能については言及 していない。

7.2.2. 学習者のあいづち的反応と機能分類に関する研究

学習者のあいづち的反応と機能分類に関する研究としては、Mukai(1999)、村田(2000)、

楊(2001)などが挙げられる。

Mukai(1999)は、上級英語母語日本語学習者のあいづち的反応の機能を「知らせ(ただ単 に聞いていることまたは理解したことを知らせる)」と「態度(話し手の言ったことに対し てどう感じたかを表す)」の2つに分けて、それぞれの機能でのあいづち的反応の使用傾向 を比較する質的分析を行った。その結果、学習者は「態度」の機能を持つあいづち的反応 よりも、「知らせ」の機能をもつあいづち的反応を多用していることを報告している。

村田(2000)は、初級から上級までの英語母語日本語学習者を対象に自由会話と電話会話 の資料をもとに、あいづち的反応の機能を「聞いている、理解しているという表示」と「共 感や感情の表出」、情報の追加を意味する「感情・態度の表示」の2つに大きく分け、それ ぞれのカテゴリーにおいて学習者のあいづち的反応がどのように機能しているかを会話展 開の中で詳細に分析し、コミュニケーション上の問題点を指摘している。

楊(2001)は、中国語母語日本語学習者を対象に、電話会話のデータをもとに、あいづち 的反応の機能を「聞いている」「理解・了解」「同意・共感」「感情の表出」に分類して、あ いづち的反応の機能別の使用頻度を分析した結果、「理解・了解>聞いている>感情の表出

>同意・共感」の順に高い頻度で使用している日本語母語話者とは違って、学習者の場合 は「聞いている>理解・了解>同意・共感>感情の表出」の順に高い頻度で使用しており、

感情の表出の機能を持つあいづち的反応の使用が一番少ないと報告している。

上記、機能分類の先行研究には、次のような議論の余地が残されている。

(4) 韓国人日本語学習者のあいづち的反応の機能に関する実態については明らかにするこ と。あいづち的反応の機能についての先行研究は、英語母語話者や中国語母語話者を 対象にしたものがほとんどである。

(5) 考察対象資料として、再度、OPIデータを取り扱うこと。OPIデータを用いているのは チョイ(2007)、古川・稲熊(2009)であるが、これらは音声資料のない文字化データを

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対象にしているので正確な判定が難しい。したがって、再度検討する必要がある。