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従来あいづち研究、共話研究としてそれぞれ行われてきたものを本研究では両者を聞き 手言語行動としてまとめ分析の対象とした。先述の第2章(2.6.)で言及した通り本研究の課 題は、「1.母語話者の聞き手言語行動が、対話相手との社会的関係とどのように関わって いるか」、「2.日本語学習者の聞き手言語行動が、言語能力レベルによってどのように異な るのか」、「3.母語話者同士の会話における共話の展開構造はいかなるものであるか」、「4.

接触場面における日本語学習者と母語話者の共話的反応の展開パターンはいかなるもので あるか」の4点を明らかにすることである。本研究では、以上の課題を解決するために、次 の(1)~(4)のような特徴を持つデータを使用・収集することとした。各データが持つ詳細な 特色については3.1.1.~3.1.4.で述べる。

(1) 聞き手言語行動と対話相手との社会的関係(性別差・年齢差)を考慮したデータ

会話において、対話相手との性別差・年齢差という社会的要因によって聞き手言語行 動がどのように違ってくるのかを論じるためのデータを使用する。

(2) 日本語学習者の言語能力レベルによる聞き手言語行動の違いを論じるためのデータ

日本語学習者の言語能力レベルの差による聞き手言語行動の違いを明らかにするため、

初級、中級、上級、超級という言語能力レベルの差が確認できるデータを使用する。

その際、母語話者の使用傾向も合わせてみるために同様な状況で行われた母語話者の データも使用する。

(3) 母語話者同士の会話における共話の展開構造が把握できるデータ

共通理解が少ない初対面母語話者同士の会話における母語話者の共話の展開構造を 明らかにできるデータを使用する。

(4) 接触場面における日本語学習者と母語話者の共話の展開パターンが把握できるデータ 共通理解の少ない初対面接触場面における日本語学習者と母語話者の共話の展開パ

43 ターンが把握できるデータを収集する。

特に、日本語母語話者のデータを使用する際は、以下(5)~(9)のような言語学研究の応用や 日本語のコミュニケーション教育のための実践方法に関する提言も考慮した。

(5) 外国語教育における言語学研究の応用を考える際に、教師の主観的、印象的な説明で はなく、客観的なデータ分析に基づいた談話分析などの研究成果の応用が有効(ロング 2003:10-11)

(6) 言語には使う者の年齢相応の表現があり、世代の異なる教師が使う日本語をそのまま 学習者に強いることは避けなければならない(メイナード2005:15)

(7) 大学生くらいの若者にも男女差が依然としてある、適切なコミュニケーションのため には、話しことばの男女差を知っていることは必須(小川2006:50)

(8) 母語話者の自然談話を素材とする「自然会話」の教材化(宇佐美2012:80-81) (9) 作り物ではなく本物を使う、現実のコミュニケーションを観察する(品田2012:148-155) また、談話分析のために本研究でコーパス12を使用する際には、既成の公開されたコー パスを使用しつつ、公開コーパスで得られない資料については直接収集する手法をとるこ とにする。本研究では第4章~第6章、第10章では公開されている「基本的な文字化の原則

(BTSJ:Basic Transcription System for Japanese)による日本語話しことばコーパス(ト

ランスクリプト・音声)2011年版」の音声付き文字化資料を使用した(以下、使用データ①と 称する)。また、第7章~9章では公開されている国立国語研究所の学習者会話データベース (使用データ②と称する)と上村コーパスの音声付き文字化資料を使用した(使用データ③ と称する)。次に、第11章と第12章では筆者が調査のための録取した音声を文字化したデー タも採用した(以下、収集データと称する)。これらの資料を表にまとめると以下の表15の 通りである。ここでは使用・収集したデータの種類を示すだけに止め、データの詳細な特 色に関しては3.1.1.以降で述べる。

12 コーパスの用語については斎藤ほか(2005)が詳しい。斎藤ほかでは「言語分析のため に、分析対象となる言語またはさまざまな言語変種を代表するように収集され、コン ピュータ処理可能な状態にされた実際に話されたり書かれたりしたテキストの集合 体」と定義している。

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表 15 各章における使用・収集したデータ

使用データ①(BTSJ) 第4章、第5章、第6章、第10章 使用データ②(国研学習者コーパス) 第7章、第8章、第9章

使用データ③(上村コーパス) 第7章、第8章、第9章 収集データ(TMU-UPIデータ) 第11章、第12章

そして、本研究の各章で使用するデータについては、いずれも次の図6のような流れに沿 って分析、考察を行った。

図 6 調査・分析の流れ

さらに、本研究で対象としている聞き手言語行動のうち、あいづちの文字化については、

使用データ①、②などでその原則について以下のように定められているので、記しておく。

使用データ①(BTSJ)の場合:

あいづちの場合、話者の発話に重なる短い、小声のあいづち(えーえー、あー等)は、それ が相互作用において、相手の話を聞いているということを示す以上の積極的な機能を持た ない限り、( )に入れて、発話中の最も近いと思われる場所に挿入する(以下の具体例で、

波線( )で示す)。ただし、あいづちの中でも、発話者の発話と重ならないものや、理解 や感嘆を示すなどの積極的な機能を持っていると判断されるもの(以下の具体例で→で示 す)は、改行して1行取る。

使用データ 収集データ

あいづち的反応

音声付きデータ

共話的反応

判定が一致した結果のみ データとして選定

質的分析 量的分析

使用実態把握 データ収集

データ分類

データ選定

データ分析

結果

ネイティブによる判定

実証的分析

結果導出 筆者による分類

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使用データ②(国立国語研究所の日本語学習者コーパス):

一般的にあいづちとみなされる発話は、〈 〉で相手の発話の中のおおよその位置に挿 入する。あいづち等の語形は、「ん、んー(んーんー)、はい、はー(はーはー)、えー(えーえ ー)、あー(あーあー)、そう、ほー(ほーほー)」 に示すように統一する。また、相手の発話 と完全に重なるあいづちは、その発話の区切りにまとめて示すか、別々の発話として立て ることも可とする。

なお、文字化記号については以下のような記号凡例が使用されている。使用データ①の

「基本的な文字化の原則(BTSJ:Basic Transcription System for Japanese)による日本 語話しことばコーパス(トランスクリプト・音声)2011年版」から抜粋し、提示すると次の表

16のようにまとめられる13。本研究における会話例の提示の際は、BTSJで用いた凡例記号

を省略し分析に支障がない場合に限って、あいづち的反応を示す記号、( )以外を取り 除いた形となっている。必要な部分についてはBTSJで用いている記号を省略せずの本来 のまま表記してある。

13 「基本的な文字化の原則(BTSJ)2011年版:p.15-16」

http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/btsj.htm(2015年12月25日)より引用し たものである。

BTSJのあいづち表記の具体例

→1A まー、まー自分自身がもう、学校でたら、ねー、こういう学問の世界とは(<笑 い>)<笑いながら>ちょっと関係ない身分にあります(えーえー)ので、実用の世界 にいる関係もありまして(あー)、なんかそういう研究され続けてるというのは。

→2B ははは<笑い>。

3B 研究してるのかなー<笑い>という、ちょっとなんかのほほーんとやっておりま すが。

→4A いえいえいえ。

5B あれですか、どういった関係のお仕事ですか?。

6A あ、あのー会社自体はあのー食品を製造しているということで、ところで。

→7B へー。

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表 16 文字化の記号凡例

● 発話文の認定に関する記号

。 [全角]1発話文の終わりにつける。

,, 発話文の途中に相手の発話が入った場合、前の発話文が終わっていないこと をマークするためにつけ、改行して相手の発話を入力する。

なお、入力の誤りを防ぐために、発話文が終了したラインには「*」、発話文 が終了してないラインには「/」を、「発話文終了」の列に入れる。従って、

「。」と「*」、「,,」と「/」の対応関係をチェックすることができるよう にしてある。

* 発話文が終了するごとに、「*」を「発話文終了」セルに記入する。つまり、

発話文番号と発話内容中の句点「。」と「*」の数は必ず一致する。このよう に、「発話文終了」と「発話内容」と2つのセルで二重に確認する。

/ 発話文が終了していないラインの「発話文終了」セルに記入する。発話内容 中の「,,」と「/」の数は必ず一致する。定できるように、沈黙を破る発話の ラインの冒頭に記す。

● 発話内容の記述に関する記号

、 [全角]1発話文および1ライン中で、日本語表記の慣例の通りに読点をつける。な お、慣例として表記する箇所に短い間がある場合には、「,」をつける。

(次の説明を参照)

, [全角]発話と発話のあいだに短い間がある場合につける。

‘ ’ ①[全角]複数読み方があるものを漢字で表す場合、最も一般的な読み方ではなく、

特別な読み方で発せられたことを示すために、その読み方を平仮名で‘’に入れて示 す。②[全角]通常とは異なる発音がなされた場合など、音の表記だけでは意味が分 かりにくい発話は、‘’の中に正式な表記をする。

『』 [全角]視覚上、区別した方が分かりやすいと思われるもの、たとえば、本や映画の題 名のような固有名詞や、発話者がその発話の中で漢字の読み方を説明したような部 分等は、『』でくくる。

“” [全角]発話中に、話者及び話者以外の者の発話・思考・判断・知覚などの内容が引 用された場合、その部分を“”でくくる。

? 疑問文につける。疑問の終助詞がついた質問形式になっていなくても、語尾を上げ るなどして、疑問の機能を持つ発話には、その部分が文末(発話文末)なら「?。」をつ ける。倒置疑問の機能を持つものには、発話中に「?、」をつける。

?? 確認などのために語尾を上げる、いわゆる「半疑問文」につける。

[↑][→][↓] イントネーションは、特記する必要のあるものを、上昇、平板、下降の略号として、

[↑][→][↓]を用いて表す。

《少し間》 話のテンポの流れの中で、少し「間」が感じられた際につける。

《沈黙秒数》 1秒以上の「間」は、沈黙として、その秒数を左記のように記す。沈黙自体が何かの返 答になっているような場合は1発話文として扱い1ライン取るが、基本的には、沈黙後 に誰が発話したのかを同

= = 改行される発話と発話の間(ま)が、当該の会話の平均的な間(ま)の長さより相対的 に短いか、まったくないことを示すためにつける。これは、2つの発話(文)について、

改行していても音声的につながっていることを示すためである。その場合、最初のラ インの発話の終わりに「=」をつけてから、句点「。」または英語式コンマ2つ「,,」をつけ る。そして、続くラインの冒頭に「=」をつける5。

… 文中、文末に関係なく、音声的に言いよどんだように聞こえるものにつける。