第 9 章 韓国人日本語学習者の言語能力レベル別にみた共話的反応の使用実態
第 4 部 談話展開の観点
10.5. 分析と考察
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会話例 94)大学からの連絡方法の話:A(40代男性)-B(30代男性)の会話 1 A: で、普通に、もうメールで。
2 B: メールで、来ますもんね。
3 A: で、いち、最近驚くのはあの、大学でもう、ね、あの、なんかもう連絡はメールでね。
以上から、共話をなす聞き手の共話的反応の型として「先取り」、「言い換え」、「問い返
し」、「遮り」、「繰り返し」などが確認できた。また、それぞれの共話的反応の型は「確認」、
「相手助け」、「同意」、「補足」、「共感」、「反論」、「理解の表明」などの機能を果たすこと が分かった。さらに、「予測」、「理解不足」、「理解」、「納得不足」、「納得」などが成立要因 として働いていることが分かった26。
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母語話者同士の談話を分析した宇佐美・木林(2002)、木林(2014)もそれぞれ1.3%、2.2%
という割合で共話が起こるということを報告しており、これらの研究を支持する結果が出 たといえる。ただし、①初対面男性ベース雑談の自然談話では18会話のうち13会話で共話 が見られ、②初対面同性同士雑談の自然談話では全16会話全てで共話が確認できた。この ように、共話の出現率は2%台に留まり低いものの、全34会話の中29会話で共話が出現し ていることが分かった。
先述の10.2.1.の成立要因の観点で述べたように、初対面のような共通理解を前提としな い場面での共話の運用を探り、成立前提を再考したのは、共話が成立するために「共通理 解が前提となる(水谷1993)」とする主張に対し、「相手との共通理解を求めない場合にあえ て用いる(嶺川2001)」のように相反する主張が見られたためである。ここでの結果からは、
共話は水谷の主張するように必ずしも共通理解を前提とするわけではなく、初対面のよう な共通理解を前提としない場面でも共話により互いに共通理解を図っていることが窺える。
10.5.2. 使用頻度からみた先行発話と共話的反応の有機的関係
10.1.で言及したように、従来の研究では、共話の展開構造について話し手、聞き手とい ったそれぞれの立場からの分析はなされていないのが現状である。次の表43は、初対面会 話における共話をなす話し手の先行発話と聞き手の共話的反応の関係について、その使用 頻度に応じてまとめたものである。
表 43 使用頻度からみた先行発話と共話的反応との関係
言 い さ し
150
先取り 83
確認 36 共感 15 同意 19 補足 8 相手助け 5
言い換え 31
確認 14 同意 10 共感 4 補足 3
問い返し 17
確認 15 共感 2
繰り返し 10
確認 4 共感 3 同意 2 補足 1
遮り 9
補足 6 反論 2 相手助け 1
言 い よ ど み
43
先取り 30
相手助け 28 確認 2
言い換え 6
相手助け 4
同意 1
理解の表明 1
遮り 4 補足 4
問い返し 2 相手助け 2
繰り返し 1 相手助け 1 遮 ら れ 中 止
26
先取り 11
補足 4 共感 2 同意 2 相手助け 1 反論 1 確認 1
繰り返し 6 同意 3 確認 3 問い返し 3 確認 3 言い換え 1 同意 1
遮り 5
補足 3 反論 1 共感 1 話し手の先行
発話 聞き手の共話的反応 形式 回数 共話的反応の型 回数 機能 回数 話し手の先行
発話 聞き手の共話的反応 形式 回数 共話的反応の型 回数 機能 回数
話し手の先行
発話 聞き手の共話的反応 形式 回数 共話的反応の型 回数 機能 回数
合計 150 合計 150 合計 43 合計 43 合計 26 合計 26
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先行研究で言及のあった「言いさし」が219例のうち150例で一番多いことが確認できた。
しかし、これまであまり言及されたことのない「言いよどみ」や「遮られ中止」による話 し手発話の表現形式も69例確認できた。また、共話をなす聞き手発話の反応の型と機能を 探ったところ、聞き手発話の反応の型としては「先取り」が最も多いことが分かった。5種 類の分類の中で「先取り」と「遮り」だけが、会話に意味内容を積極的に付け足すことが できる。共話の反応の型のなかでも、会話の内容を進めていくのがこれらの型である。た だし、「遮り」は、相手が話しているところに割って入ることから、相手に不快感を与える 場合もあるため、多用されないのだと考えられる。実際、「遮り」が使われる場合には、「補 足」のための使用が最多である。
全体的に「先取り」の共話的反応の型が多いが、機能においては一様ではないことは注 目に値する。具体的には、話し手発話を引き取る「先取り」の共話的反応の型が「言いさ し」の場合は「確認」の機能、「言いよどみ」の場合は「相手助け」の機能、「遮られ中止」
の場合は「補足」の機能を主に果たすことが分かった。「言いさし」の話し手発話を引き取 る「遮り」以外のほとんどの共話的反応の型では、「確認」のための使用が多く見られた。
これは共通理解の少ない初対面での談話であるために、会話において「確認」がより多く 必要になったためだと考えられる。また、「言いよどみ」の話し手発話を引き取る「遮り」
以外のほとんどの共話的反応の型では、「相手助け」のための使用が多く見られた。これは 適当な表現がすぐに出てこず口ごもっているところを、聞き手が助けようとしたためだと 考えられる。さらに、話し手が話している途中に聞き手が入り込んで中断させられる「遮 られ中止」の話し手発話を引き取る共話的反応の型では、「遮り」と同様に「先取り」でも 話し手の発話内容に対し知らない情報を付け加える「補足」のための使用が多く見られた。
以上の結果は、共話の展開構造を明らかにするためには、共話的反応の型だけではなく、
それらが担っている成立要因まで注目する必要があることを示唆している。そこで、次の 10.5.3.では、共話的反応の型の成立要因に注目し、共話の展開構造を明らかにする。
10.5.3. 成立要因からみた共話の展開構造
10.4.2.で共話的反応の型を分類するにあたって、話し手の先行発話における省略された 部分ないしは明示された部分に対して共話的反応が行われることを確認した。その際、共 話的反応の型が果たすそれぞれの成立要因に注目した結果、聞き手が「予測していること (以下、「予測」と称する)」、「理解していること(以下、「理解」と称する)」、「理解していな いこと(以下、「理解不足」と称する)」、「納得していること(以下、「納得」と称する)」、「納 得していないこと(以下、「納得不足」と称する)」を示すために共話的反応をすることを指
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摘することができた。共話的反応の型では全体的に「確認」のための使用が多いことは、
お互いの共通理解が少ないことの表れであり、聞き手が何度も話し手の意図を推測、予測 して確認を求めた結果であると考えられる。
共話的反応が話し手の先行発話を引き取る形で行われるのは、聞き手が話し手の発話を
「予測」するからだということは、従来の研究でも指摘されている(堀口1997)。たとえば、
先述の授業担当の先生の話である会話例85)は、この主張に合致する典型的な例である。宇 佐美・木林(2002:19)はそれに加えて、聞き手が後行発話(本章でいう共話的反応)を発する ことは、相手の発話を単に「予測」するだけではなく、その「予測」を相手に示すことに なるという。理解したことを示すために「言い換え」や「繰り返し」はしないとする西阪 (1997)の指摘を支持する立場から、共話的反応は相手の言いたいことを「予測」したため ではなく、「理解したことを示す」ために起こると主張しているのである。宇佐美・木林は、
共話的反応として「繰り返し」の出現率が低いことをその主張の根拠としている。共話は
「理解したことを示す」というこの主張を支える研究としては、他にもHayashi&Mori(1
998)、森本(2002)、宇佐美(2006a)などが挙げられる。10.4.2.で確認した受講したツングー
ス語についての会話例86)、海外で日本語を教える話の会話例88)、優勝野球チーム所属選 手の話の会話例89)、傷跡の話の会話例90)などは、こうした主張を裏付けるといえよう。
しかし、今回の調査では、先述の表43の通り、「言い換え」の出現数は「先取り」の次に 多いことが確認された。それに対し「繰り返し」は出現数が少ない。しかしながら、「繰り 返し」も「言い換え」も、ともに「同意」と「共感」の機能を果たす場合が多く、これら
「同意」や「共感」の機能は「理解」と密接な関連がある。このことは、西阪の「『自分が なにかを理解したことを示すこと』をするためには、かえって、その当のものについて語 ったり、それを繰り返したり、それを言い換えたりしてはいけない(西阪1997: 170)」とい う指摘とは相容れない。西阪を支持する宇佐美・木林(2002)などの主張も、調査結果とは 食い違っている。こうした「言い換え」や「繰り返し」は、「理解したことを示す場合には 使われない」と一括りにするべきではない。その成立要因は、話し手の先行発話の省略さ れた部分と明示された部分のいずれに対してその共話的反応がなされたのかによって、そ してまた、その共話的反応が「確認」の機能を果たすかどうかによって、それぞれ異なる と考えられる。また、省略された部分に対しては相手の言っていることの意味が理解でき ているかどうかによって、明示された部分に対しては相手の言っていることについて納得 できているかどうかによって異なる共話的反応が行われると考えられる。今回の調査対象 資料は母語話者同士の会話を対象としたため、明示されている部分に対し理解できていな いことを示す共話的反応の例はみられなかったが、そうした反応も想定される。たとえば、
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非母語話者との会話や母語話者であってもお年寄りとの会話で、相手の言っていることが 明示されても意味が分からない場合になされる共話的反応がそれに当たる。
これまで明らかになった話し手の先行発話の省略された部分に対して行われる共話的反応 について整理すると次の通りである。
「先取り」を用いた共話的反応が「確認」の機能を果たす場合、これは「予測」を示す。
「問い返し」を用いた共話的反応が「確認」の機能を果たす場合、これは「理解不足」を 表す。さらに、「先取り」、「遮り」、「問い返し」を用いた共話的反応が、「同意」、「相手助 け」、「補足」、「共感」、「反論」の機能を果たす場合、これは「理解」を表す。
次に、話し手の先行発話の明示された部分に対して行われる共話的反応についてまとめる 次の通りである。
「繰り返し」、「言い換え」を用いた共話的反応が「確認」の機能を果たす場合、これは「納 得不足」を表す。また、「繰り返し」、「言い換え」を用い「共感」、「同意」、「補足」、「相手 助け」、「理解の表明」の機能を果たす場合、これは話し手の言っていることに対しての「納 得」を表す。
次の表44は、このような話し手の先行発話の省略されている部分と明示されている部分 に対する共話的反応の成立要因ごとの出現回数を示したものである。
表 44 先行発話の省略・明示に対する共話的反応の成立要因
自然談話における共話的反応では、話し手の先行発話の省略された部分に対する「理解」
を表す場合が出現頻度107回で最も多いことが分かった。宇佐美・木林(2002)はもちろん、
Hayashi&Mori(1998)、森本(2002)などの研究とも合致する定量的な傾向が示されたが、
先述の通り、その理由はこれらの研究が主張するものとは異なる。
次の図40は、以上の共話の展開構造に関して、今回、確認できた主な結果をまとめたも のである。
先行発話の部分 成立要因 回数
省略
予測 39
理解不足 18
理解 107
明示 納得不足 21
納得 34