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第 9 章 韓国人日本語学習者の言語能力レベル別にみた共話的反応の使用実態

第 4 部 談話展開の観点

10.4. 共話をなす話し手の先行発話と聞き手の共話的反応の表現形式機能

10.4.2. 共話をなす共話的反応の型および機能

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表示」、「聞き手の意向を窺う」、「聞き手にこちらの意図を察してもらえるように仕向ける」

などの機能を果たすことが分かった。

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会話例 86)=27)受講した言語の授業の話 A-B(20代女性同士)の会話

1 A: あのー、あっちの、なんだっけ??、オロチョン語とかなんか(うんうんうん)、なんか。

2 B: ツングース語ね。

3 A: ツングース言語,,

ここでは、波線( )の省略されている部分に対し、それぞれ「予測」または「理解」でき ていることが成立要因として働いている。

10.4.2.1.2. 問い返し

話し手発話について質問する「問い返し」は、次の会話例87)、88)のように、「確認」の 機能で使われる場合が圧倒的に多いことが分かった。会話例87)の場合、前略された前の部 分で食事の話が出てベトナム料理のフォーを話題に出したのは聞き手である話者Bである が、これに対し話し手である話者Aは1Aでみられるように、フォー以外にもおいしい食べ 物があることを言いかけている。そこで、2Bは「おいしい食べ物というのはフォーのよう に麺類」なのかどうかが理解できてないため、2Bで「あ、麺類で?」と「問い返し」の共話 的反応の型を用い、相手に確認をとっている。また、出現数が多くはないが、会話例88)で も同様に話し手である話者Aが「(前略) なかなかぜんぜんなんか…」のように言いよどん でいる発話を引き継ぎ、聞き手である話者Bは話者Aが言おうとした発話内容が理解でき、

2Bのように「なんかペースとかも、質問とかも変じゃないですか?」と具体的な発話内容 で「問い返し」の共話的反応を行い、「相手助け」の機能を果たしている。

会話例 87=(28))ベトナムの食べ物の話: A-B(20代女性同士)の会話

1 A: でもフォーよりもっとおいしいものとかも、あるんですけどー。

2 B: あー、(うん)麺類で?

3 A: うん麺類で(へー)。

会話例 88)海外で日本語を教える話:A-B(20代女性同士)の会話

1 A: うん、えーなんか、向こうでなんか交流してた(うん)日本語を学んでる人に教えよ

うと思っても、(うんうん)なかなかぜんぜんなんか…。

2 B: なんかペースとかも、(<笑い>)質問とかも変じゃないですか?<笑い>。

3 A: ってかもうね、お、教えることはできない、分かんない、日本語が。

ここでは、波線( )の省略されている部分に対し、それぞれ「理解できていないこと」

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「理解できたこと」が成立要因として働いている。

10.4.2.1.3. 遮り

「遮り」の共話的反応の型は、話し手の発話と重なるのを承知の上で、聞き手が発話を 開始し、その結果、話し手の発話を途中で中止に追い込む発話であるが、主に会話例89)で みるように、「補足」の機能として使用されていることが確認できた。ここでは、1Aの話 し手の先行発話が「あのう…」と言いよどんでいるところを聞き手が「なんか」と遮った あと、「紫のユニホーム姿で…」という発話で補足の機能を果たしている。会話例90)では、

小さい頃遊びでよくできた傷跡の話しをしていて「(前略) ここら辺にありますねー、これ が」という話し手の先行発話を「こっちー」という表現で遮り、「反対ですね」という発 話で「反論」の機能を果たしている。

会話例 89) 優勝野球チーム所属の選手の話:A(40代男性)-B(30代男性)の会話

1 A: そのときはさすがにま、盛り上がってね、それ以降はなかなかね、<あのう…>{<}

【【。

2 B: 】】<なんか>{>}紫のユニホーム姿で…。

3 A: そうそうそうそうそうそう<2人笑い>。

会話例 90)傷跡の話 :A(30代男性)-B(20代女性)の会話

1 A: と、あと顔もですねー、うん、ここらへん、こう…、えーと、だー、ここら辺にあ りますねー、<これが>{<}【【。

2 B: 】】<こっちー>{>}反対ー<ですね>{<}。

3 A: <あ、こっちでした>{>}っけ。

ここでは、波線( )の省略されている話し手の非発話部分について聞き手が「理解」でき たことが成立要因となり、それぞれ「補足」や「反論」の機能を果たしている。

10.4.2.2. 明示されている話し手の発話部分に対する共話的反応

10.4.2.2.1. 言い換え

話し手の先行発話と同じ内容のことが、表現を変えて聞き手によって発話されるパター ンである「言い換え」の共話的反応の型は、主に「確認」と「同意」の機能で使われる場 合が多い。会話例91)の場合、1Aの「夕方にでて、行って停泊して、朝8時くらいに、出れ るって形で」の「言いさし」の話し手の先行発話が理解はしているものの、納得まではで きておらず、「船の中泊まるんですね」と「言い換え」の共話的反応の型を用い、話し手に

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「確認」をとっている。また、会話例92)では、1Aの「英語も…できる…」と言いよどんで いるの話し手の先行発話に対し、聞き手が理解した上で納得もでき、聞き手は2Bのように

「英語すごい」と「言い換え」、相手の話に「同意」を示している。

会話例 91)船旅の話:A-B(20代女性同士)の会話

1 A: こっち夕方にでて、行って停泊して(あー)朝8時くらいに(あぁ)出れるって形で。

2 B: 船の中泊まるんですね、じゃあ、そういうと。

3 A: なんかそれもすごかったですよ、なんか。

会話例 92)=25) 授業担当の先生についての話:A-B(20代男性同士)の会話 1 A: でも「先生1姓」先生だったら、英語も…できるから…。

2 B: そうですね、「先生1姓」先生英語すごいですね<笑い>。

3 A: もうホントに、すらすらとこう、原文、読んでいらっしゃるじゃないですか(うーん)?

辞書もこう読まないで<笑い>。

ここでは、波線( )の明示された話し手の発話部分が、それぞれ理解はしたものの、「納 得できていないこと」「納得できていること」が成立要因となっている。

10.4.2.2.2. 繰り返し

話し手の発話(内容)をオウム返しする発話である「繰り返し」は、「同意」と「確認」の 機能で使われることが多いことが分かった。具体的には会話例93) の会話例では、「SARS の騒ぎで」という「言いさし」の先行発話に対し、聞き手が「SARSで」と繰り返して、確 認をとっていることが分かる。ここでは、明示されている話し手の言っていること「SAR

Sの騒ぎで」という発話内容は理解できたものの、SARSの騒ぎで帰されることが納得でき

ず、成立要因として働いている。会話例94)では、1Aの「もうメールで」という「言いさし」

の先行発話に対し、「メールで、来ますもんね」と繰り返すことにより、「同意」を示して いる。ここでは、先ほどの会話例91)のように、明示されている話し手の発話部分に対し、

聞き手が納得できていることが成立要因として働いている。

会話例 93) =26) SARSで一時帰国した時の話:A-B(20代男性同士)の会話 1 A: うん、たまたま、なんかね、<SARSの騒ぎで>{<}<笑い>。

2 B: <SARSで>{>}<笑いながら>。

3 A: そう、1回ね、帰らされたみたいな(あー)感じなんですけど、もうね。

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会話例 94)大学からの連絡方法の話:A(40代男性)-B(30代男性)の会話 1 A: で、普通に、もうメールで。

2 B: メールで、来ますもんね。

3 A: で、いち、最近驚くのはあの、大学でもう、ね、あの、なんかもう連絡はメールでね。

以上から、共話をなす聞き手の共話的反応の型として「先取り」、「言い換え」、「問い返

し」、「遮り」、「繰り返し」などが確認できた。また、それぞれの共話的反応の型は「確認」、

「相手助け」、「同意」、「補足」、「共感」、「反論」、「理解の表明」などの機能を果たすこと が分かった。さらに、「予測」、「理解不足」、「理解」、「納得不足」、「納得」などが成立要因 として働いていることが分かった26