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第 9 章 韓国人日本語学習者の言語能力レベル別にみた共話的反応の使用実態

第 4 部 談話展開の観点

10.2. 先行研究

先述の通り、共話の特徴に関する先行研究としては水谷(1988a、1993、1995)、黒﨑(19 95)、嶺川(2000、2001)、笹川(2007)、宇佐美・木林(2002)、宇佐美(2012)などが上げられ

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る。ここでは、これらの研究で言及された共話の特徴を、①成立要因、②表現形式、③機 能を中心に改めて整理する。

10.2.1. 成立要因の観点

水谷(1993)は,共話が成り立つためには,発話に関する諸形式についての共通の理解が 前提となると指摘している。また,黒﨑(1995)はすべてを言い尽くさず,相手に発話完結 の機会を与える発話について指摘し,話し方と発話完結の前に理解と共感の情を表す聞き 方が共話成立の2大要因であると述べている。さらに,堀口(1997)は,話し手が言おうとす ることを聞き手が予測した場合に先取りあいづちと先取り発話が成り立つと主張している。

それに対し,宇佐美・木林(2002)は,予測ではなく,理解を共話の成立要因として言及し ている。一方,嶺川(2001)は,相手との共通理解を求めない,自分の見解に対する自信の なさや相手との見解の対立を解明したくない場合にあえて共話が用いられるとする。

以上のような成立要因の観点からは、相反する主張もみられるが、「予測」、「理解」が成 立要因として深く関わっていることは間違いないようである。そのため、初対面のような 必ずしも共通理解を前提としない場面での共話の運用を検証し、成立要因を再考する必要 がある。

10.2.2. 表現形式の観点

水谷(1988a、1993)は、共話の形式的な特徴として、「あいづち」、「終助詞の使用」、「言 いさし」、「相手の発話を完結」、「相手の発話内容の復唱」などがあげられるとする。また、

黒﨑(1995)は、共話は先取り型、補足型、助け舟型、言い換え型、共感型、割り込み型、

リレー型の7種類に分類することが可能であると指摘する。さらに、笹川(2007)は、「笑い、

あいづち、パラフレーズ」、「先取り型、共感型、言い換え型」、「補足型・共感表現」、「相 手と協調関係を志向する共話」、「助け舟型」、「何度か、ターンを交換しながら、共感を示 す発話連鎖による複雑な共話」、「自分の話題と相手の話題を交互にとりあげる談話機能レ ベルでの共話」の7種類に分類できることを主張する。そして、宇佐美(2012)は、話者のス トーリー性のあるナラティブ中の、あいづちなどが入りうる区切りのところで共話が出る と指摘する。

表現形式の観点からは、共話をなす聞き手発話の共話的反応の型に関しては、予測や推 測による「先取り」に着目するものが多かった(黒﨑1995、笹川2007など)。また、黒﨑(1 995)、笹川(2007)などにより類型についての指摘はあったものの、やはり形だけで説明し きれないあいまいなところがあることが分かった。たとえば、「助け舟型」の説明では「『先 取り型』とよく似たものであるが、言いよどみまたは長すぎる間を助けるというところに

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この型の特徴が見られる(黒﨑1995:49)」、「共感型」の説明では「この例は形としては『先 取り型』と同じであるが、(中略)話し手の発話(内容)を繰り返すことによって聞き手の強い 共感が表現されたもの(黒﨑1995:50)」という説明がなされている。「助け舟型」も「共感 型」も、「先取り型」と形式上あまり区別がないということである。つまり、従来の「助け 舟型」、「共感型」、「補足型」という類型は、表現形式というより「相手助け」、「共感」、「補 足」という機能を表わす役割を果たしているとも考えられる部分があり、共話の表現形式 と機能の全体を再分類し、体系化する必要がある。また、話し手と聞き手の共同作業が必 要だという指摘があり、分類もある程度されているが、具体的にどのような表現形式が用 いられるのかについて、話し手と聞き手のそれぞれの立場から言語の表現形式に主眼をお き、再考する必要がある。

10.2.3. 機能の観点

黒﨑(1995)は、共話の形を利用した問いかけ表現が、意識的に相手との共感的な雰囲気 を高めるのに効果的な表現であり、一種の気配り表現として使用されているとしている。

また、嶺川(2000)は、「共話」的場面ではコミュニケーション・ブレイクダウンの修復がす みやかであるが、「共話」的でない場面では修復が遅れるまたは修復されないと指摘してい る24。さらに、宇佐美(2012)は、聞き手が話し手の意図を推測し、その意図を理解や共感し ていることを示すと述べている。

共話の機能については、以上の通り、ブレイクダウンの修復がすみやかであること、一 種の気配り表現であること、理解や共感を示すことについての指摘しかない。これを発展 させて、共話に用いられる表現形式がそれぞれどういう機能を果たしているのか、体系的 に考察する必要がある。

10.2.4. 本章の目的

上記の先行研究の成果と、そこで残されている課題をふまえ、本章では共話の表現形式 と機能の全体を再分類し、体系化するために次の3点を論じる。

(1) 話し手の先行発話はどのような表現形式で終了するのか。

(2) 聞き手の後行発話(共話的反応)はどのような表現形式で表わされ、どのような機能を 果たすのか。

24 嶺川(2000)はブレイクダウンについて、「それまで垂直な方向(vertical)に流れていた コミュニケーションが停滞し、コミュニケーションの流れが水平な方向(horizontal) に移る状態 (嶺川2000:105)」と述べている。

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(3) 聞き手の共話的反応の成立要因と共話の展開構造はどう関係しているのか。