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第 9 章 韓国人日本語学習者の言語能力レベル別にみた共話的反応の使用実態

第 4 部 談話展開の観点

10.4. 共話をなす話し手の先行発話と聞き手の共話的反応の表現形式機能

10.4.1. 共話をなす先行発話の表現形式

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(3) 聞き手の共話的反応の成立要因と共話の展開構造はどう関係しているのか。

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会話例 77) ベトナム留学の話:A-B(20代女性同士) の会話

1 A:あ、1年明けて、(ふぅーん)2年生が終わってからベトナム行って。

2 B:うん、3年生をやって,,

3 A:やって。

会話例 78)中国生活の話: A(年上女性)-B(20代女性)の会話

1 A:うーんそうするとね、なんかすごい高い豆腐とか。

2 B:あーいいやつをー<笑い>。

3 A:そー<笑い>、買うことになっちゃうからねー。

会話例 79)大学実習の話: A-B(20代男性同士)の会話

1 A:それはそれでやって、それとはまた<別でという>{<}感じで。

2 B: <個別で>{>}。

3 A:はーー。

上記の会話例は20代の初対面談話からの共話例である。メイナード(2004)は「最近の若者 の間で「というか」、「ていうか」という言葉の使用が目立つが、この表現は話し手が感じ る「不確かさ」を単純に示しているというだけではなく、もっと積極的に話し手が相手と の相互関係、人間関係を交渉するために使っている表現である」と指摘している。上記の 会話例からは、「ていうか」だけでなく、「とか」、「感じで」などの表現についても同様で あることが窺える。会話例78)、79)では、「(前略)すごい高い豆腐とか」「それとはまた別で という感じで」と、発話を全部言い切らずに途中で止め、聞き手と共にひとつの発話を作 り上げようとしている。すなわち、「言いさし」の表現にみられる「とか」、「という感じで」、

「ていうか」などは、聞き手に気を配り、聞き手とともにひとつの発話を作りあげること で、協調的人間関係を構築するための一種の手段として働いていることが考えられる。

また「言いよどみ」は、次の会話例80)、81)のように回答を考えている途中であること を表す場合が多く、聞き手への遠慮の気持ちを示すとともに、聞き手の意向を伺い聞き手 に話し手の意図を察してもらえるように仕向ける際に使用される傾向があることが分かっ た25

25 先述の注釈11、表16でも説明したようにBTSJでは、①文中、文末に関係なく、音声的 に言いよどんだように聞こえるものには「…」の記号を、②同時発話され重ねられた発 話には、「< >{<}」を、③先行話者の発話が完結する前に途中に挿入される形で後行 話者の発話が始まり、結果的に先行話者の発話が終了した場合は、「【【】】」がつけられ ている。本章では論証のために必要と判断したため凡例記号をできるだけ省略せず提示

156 会話例 80)海外研修の話:A-B(20代女性同士)の会話

1 A: えっ、その研修っていうのはその授業で、参加者で行ける…。

2 B: 行ける…んですよ。

3 A: あー、 そうなんだ=。

会話例 81)出身地の話:A(30代男性)-B(30代女性)の会話

1 A: で、あと、あのー、石垣島の、何の島でしたっけ、あの…、<彼女の出身、えーっと

>{<}【【。

2 B: 】】<あ、そうそうそう、えっとー>{>}、ゆふ、ゆふいんじゃない、あ、なに言って んだ、湯布院じゃなくてえーと,,

3 A: 何島‘なにじま’でしたっけ?。

さらに、次の会話例82)~84)のような「遮られ中止」の表現形式もある。これは、話し 手が話している途中に聞き手側の発話が入り込み遮られて中止になり、発話の主導権が円 滑に移行しているものである。話し手と聞き手の発話の声が重なる場合が多い。

会話例 82) できる外国語の話:A-B(20代女性同士)の会話

1 A: あの、研究言語で【【。

2 B: 】】うん、スウェーデン語やっててー。

3 A: あ、ありましたよね? 。

会話例 83) 山登りの話:A-B(30代男性同士)の会話 1 A: もっと山に<行くなら>{<}【【。

2 B: 】】<ま>{>}、北海道に比べればないと<笑い>。

3 A: いやでも埼玉でも、友達がいう、なんかあっちの何だっけ、東松山とか,,

会話例 84) 場所の説明の話:A(20代女性)-B (30代男性)の会話

1 A: 東京に来た私が来たのは【【。

2 B: 】】あ、いや、私も7前にと、東京に戻ってきたので,,

3 A: あっ、<そうなんですか>{<}。

以上、共話をなす話し手の先行発話の表現形式として「言いさし」、「言いよどみ」、「遮 られ中止」などが確認できた。そして、これらの表現形式は「聞き手への遠慮の気持ちを

した。

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表示」、「聞き手の意向を窺う」、「聞き手にこちらの意図を察してもらえるように仕向ける」

などの機能を果たすことが分かった。