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第 2 部 変異生起要因の観点

4.5. 分析と考察

4.5.2. 対話相手が年上の場合のあいづち表現の使用

本節では対話相手が年上の場合のあいづち表現の使用傾向をみるため、「上下女性同士」

のグループと「上下男性同士」のグループの使用傾向を比較考察した。次の図17と図18は、

年齢および社会的地位(大学生か教師・社会人か)の差がある上下女性同士、上下男性同士 のあいづち表現の使用状況を示した上で、下の立場の話者(目下)と上の立場の話者(目上)が 用いるあいづち表現の使用状況をさらに詳細した。

まず、次の図17の上下女性同士の場合から見てみよう。全体的傾向としては、白で示し た感声的普通体あいづち表現の使用が目立つ。しかし、吹き出しの中に示した目下女性の グラフをみると、使用頻度が高いものから順に、「感声的普通体あいづち表現(23.8%)>感 声的丁寧体あいづち表現(23.1%)>概念的普通体あいづち表現(12.7%)>概念的丁寧体あい づち表現(11.3%)」という結果になった。このような結果から、対話相手が年上の場合、目 下女性は目上女性に対し丁寧体であれ普通体であれ、感声的あいづち表現(46.9%)をより 多く使用する傾向があることが分かった。

図 17 年上に対する年下女性のあいづち表現の使用状況

具体的には、次の会話例34)からも分かるように目下女性の場合、目上女性に対し初対面 という堅苦しいそれも目上の対話相手という負担の度合が増した場面で、「はい」系、「え

3.6 (24)

23.1(109)

5.3 (36)

11.3(53)

56.5(381) 23.8(112)

9.8(66) 12 .7(60)

17.7(119) 27.4(129)

7.1 (48) 1.7 (8) 目上女性

目下女性 11.6 (133)

7.8

(89) 43.1(493) 11.0

(126) 21.7(248) 4.9 (56) 上下女性

感性的丁寧体あいづち(はい、ええ)

概念的丁寧体あいづち(そうです系など)

感性的普通体あいづち(うん)

概念的普通体あいづち(そう系など)

感性的あいづち(ふーん、へー、あーなど) 概念的あいづち(いや、なるほどなど)

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え」系や「うん」系の感声的あいづち表現を多用していることが分かった。特に会話例32) の目上の5JOFの発話の際、年下相手であるJBFは、「えぇえぇえぇ」の感声的丁寧体あい づち表現を反復することによって同意の程度を強調して相手に伝達していることが窺える。

会話例34) 仕事の話:JBF(年下女性)-JOF(年上女性)の会話

1 JOF 私、1番最初は、(はい)あの、それこそ家電メーカーで、(はい)うん、勤務して

たんですけど。

2 JBF あ、そうなんですか。

3 JOF うん、10年弱くらいね<笑い>。

4 JBF へぇー。

→5 JOF そう、でも、(はい)その時はー、うん…やっぱり景気がよかったからか、すご

い大量に採用されてたんですよね(えぇえぇえぇ)、うん。

また、次の会話例35)の目上1OFの「~自分も勉強になりますよね」という発話に対する 目下2BFのあいづち、「うんうんうん」は、実際に音声を聞いてみると、反復はしているも のの声が高くなっているわけでもないことから、聞き手の存在を意識したものではなく、

相手の話に対する自分の中での納得が自然と表れたものであることが分かる。感声的普通 体あいづち表現「うんうんうん」が独話的な用法で使われている一例である。これは、そ の次の4JBF01における目下のBFの自己納得を表すあいづちである「そっか」に繋がって いて、これも同様に対話相手に自分の意図を伝達しているわけではないようである。

会話例35) 日本語教師体験の話:BF(年下女性)-OF(年上女性)の会話

1 JOF01 うん、そのほうが、うん、なんかやっぱり自分も勉強になりますよね。

→2 JBF01 うんうんうん。

→3 JOF01 あ、だから『間違えるんだ』、とか(うん)ねぇー、うん。

→4 JBF01 そっか。

さらに、感声的普通体あいづち表現「うんうんうん」は次の会話例36)でも確認できる。

この場合は目上が目下の相手にあいづちを打っているが、先ほどの会話例35)とは異なり目 下の発話に対する同意と理解を伝達している。1BFの「~中国から来てる人多いんで」と いう発話に対する2OFの「うんうんうん」は「分かる、そうだよね、多いよね」の意味で ある。また、3BFの発話に現れる「うんうんうん」も「あなたの話し聞いているよ、話を 続けて」という意図を伝えていることが窺える。

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会話例36) ゼミの話: BF(年下女性)-OF(年上女性)の話

1 BF 同級生、中国から来てる人多いんで。

→2 OF うんうんうんうん。

→3 BF こう、横で喋ってるいるのを聞いてはいるんですけど、(うんうんうん)なんかあ んまり、すごくみんな日本語が上手な(うん)私は日本語で返すというすごいよく 分からない

4 OF 分かります、分かります。

つまり、会話例35)、36)で目下と目上が使う「うんうんうん」の感声的普通体あいづち 表現はその形式は同様であるが、その使用機能は、前者が「独話的」であるのに対して、

後者は「理解・同意」であるというように、幾分異なっていることが分かった。

日本語教育で活用の際には、このような上下女性同士の会話にみられる感声的普通体あ いづち表現の使用傾向について、形式と機能の双方を合わせて言及する必要があろう。

一方、次の図18に示した通り、上下男性同士の場合、全体的傾向としては、黒で示した 感声的丁寧体あいづち表現の使用が目立つことが分かった。そして、目下男性と目上男性 のそれぞれを確認すると、目下男性のあいづち表現は、「感声的丁寧体あいづち表現(28.1%)

>概念的丁寧体あいづち表現 (22.1%)>感声的普通体あいづち表現(16.3%)>概念的普通 体あいづち表現(1.9%)」の順に多いことがわかった。

図 18 年上に対する年下男性のあいづち表現の使用状況

このような結果から、目下男性は目上男性に対し、感声的であれ概念的であれ、丁寧体 あいづち表現 (50.2 %)をより多く使用する傾向があることが分かった。目下男性は、目 上男性に対し、初対面という心的に堅苦しいそれも目上の対話相手という負担の度合が増 した場面で、「はい」系、「ええ」系、「そうです」系の丁寧体あいづち表現を使用すること により円満な人間関係を維持していることが窺える。

32.6(236) 13.6(98) 16.9(122) 2.9

(21) 30.8(223) 3.2 (23) 上下男性

感声的丁寧体あいづち(はい、ええ)

概念的丁寧体あいづち(そうです系など)

感声的普通体あいづち(うん)

概念的普通体あいづち(そう系など)

感声的あいづち(ふーん、へー、あーなど) 概念的あいづち(いや、なるほどなど)

37.4(133) 28.1(103)

4.8 (17) 22.1(81)

17.4(62) 16.3(60)

3.9 (14)

1.9 (7)

32.9(117) 28.9(106)

3.7 (13) 2.7 (10)

年上男性 年下男性

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ここで、対話相手の同年、上下による男女の違いについて、ブラウンとレビンソン(

Brown & Levinson1987)のポライトネス理論を援用しつつその背景を考えてみたい。

まず、同年女性同士の自然談話に現れた「うんうんうん」、「そうそうそう」などの感声的、

概念的普通体あいづち表現使用が多い傾向は、ポジティブ・ポライトネス・ストラテジー 4の「仲間ウチであることを示す指標を用いよ(Use in-group identity markers)」に該当 するものと考えられる。普通体あいづち表現を多用することにより、相手と良好な関係を 保つために仲間意識を示し、相手との心的距離を縮めようとしているのである。いわゆる ポジティブ・ポライトネスを尊重する態度として理解できる。また、男性同士の「はい」、

「そうです」、「すごいですね」、「ですよね」などの丁寧体あいづち表現の多用については、

ネガティブ・ポライトネス・ストラテジー5の「敬意を示せ(Give deference)」で説明でき る。相手と一定の距離をおき、相手との摩擦をさけ、相手を尊重する態度で、良好な人間 関係を築こうとしていると考えられる。

日本語を学習する韓国の大学生のために作成された教材11種を対象に、教科書のあいづ ち表現の種類と出現頻度を分析した李舜炯(2011a)は、「『はい』のあいづち表現が最も多 く、『そうですか(117例)』のあいづち表現がその次に多い(李舜炯2011a:343)」と指摘した。

このような日本語教育の現場事情を勘案すると、今回明らかになった結果から、初対面20 代の同年男性同士の会話であれ、上下男性同士の会話であれ、日本語教育に活用する際に は、現行の通りに丁寧体あいづち表現による会話構成で問題はなかろう。