第 6 章 対人関係に応じた「共話的反応の型」の使い分け
6.4. 分析と考察
103
104 については出現数がさほど多くなかった。
次に、対人関係別の使用状況を見た場合、20代女性と20代男性の年上相手への使用と同 年相手への使用には違いがあることが確認できた。その傾向は次の通りである。
まず、対話相手が年上か同年かによる差が最も大きいのは20代女性であることが分かっ
た。20代女性は特に対年上と話す場合に対同年の倍以上多い13例で「先取り」を行ってい
ることから、年上と話す場合は「先取り」の共話的反応の型を用いて積極的に会話に参加 し話を進めていく傾向がより強いことが分かった。共話の反応の型のうち、会話に意味内 容を付け足し、会話の内容を進めていくのは「先取り」と「遮り」である。20代女性は「先 取り」を用いることで相手の発話に意味内容を付け足し、談話が円滑に展開できるように 会話内容を進めていくことが確認できた。「繰り返し」の共話的反応の型も年上相手の使用 のみが6例見られた。
続いて、20代男性の年上相手の会話での使用と同年相手の会話の使用の違いに注目する
と、同年相手には「問い返し」が3例、年上相手には「言い換え」が5例それぞれ確認でき た。先述したように、古内は本章でいう共話的反応は、対話相手が異性の場合、特に男性 の使用においてその出現数が多くなることを、植野は年上が年下への使用が多くなること をそれぞれ報告している。しかし、今回の調査では、同性同士(特に女性同士)の談話で、男 女共に年上相手に対して使用数が多くなるという、従来の古内、植野の主張をくつがえす 結果が出た。
一方、30代男性の共話的反応の型の使用は、対話相手が同年、年上か、同性、異性かに 問わずあまり見られなかった。この結果から、30代男性は初対面会話において共話的反応 の型を用いた談話の展開をあまり好まないことが窺える。この傾向から、30代男性の場合 は、共話的反応の型ではない「あいづち表現」などによる聞き手言語行動を多用している ことが推測されるが、これについては第5章ですでに述べた通りである。
6.4.2. 対話相手による「共話的反応の型」の機能別使い分け
6.4.1.で4つの異なる人間関係において共話的反応の型の使用傾向に相違が確認できた
のは、20代女性同士と20代男性同士のみであった。30代男性においては共話的反応の出現
自体が少なく、対話相手に応じた使用変化を述べるまでには至らなかった。本節では、出 現傾向をもとに、20代の男女による共話的反応の型がどのような機能を担っているのかを 考察する。まず、次の表30は、20代女性の同年相手および年上相手の共話的反応の型と機能の使 用状況を示したものである。
105
表 30 機能別にみた共話的反応の型 (20 代女性グループ) 機能
反応 の型
確認 相手助け 同意 補足 共感 理解
合 計 対 同
年 対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上 先取り 2 4 2 1 0 2 3 2 0 4 0 0 20 言い換え 4 1 0 1 0 1 0 1 0 2 1 0 11 繰り返し 0 1 0 0 0 2 0 0 0 3 0 0 6 問い返し 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 遮り 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 合計 6 7 2 2 0 5 3 3 0 9 1 0 38
20代の女性の場合は、「先取り」「言い換え」「繰り返し」の型の使用が目立つ。また、機
能としては、対同年、対年上ともに「確認」の機能が多用されることが分かった。これは、
共通理解の少ない初対面会話であるために、会話において「確認」がより多く必要になっ たためであると考えられる。さらに対同年か対年上かの対人関係の相違からみると、「先取 り」と「繰り返し」における「同意」と「共感」はそれぞれ5例と9例で、対年上への使用 のみが確認できた。この結果から、20代の女性は年上相手の発話内容に対し「同意」や「共 感」を示すために積極的に共話的反応の型を使用することが確認できた。こうした傾向は、
ブラウンとレビンソン(Brown & Levinson1987)のポライトネス理論で示されたポジティ ブ・ポライトネス・ストラテジー2「H(聞き手)への興味、賛意、共感を誇張せよ(Exaggerate
interest, approval, sympathy with H)」に基づいて、年上の相手に「同意」「共感」の機能
の共話的反応を積極的に示すことにより相手に同調の気持ちを伝え、相手との心理的距離 を縮めようとしているのだと理論づけることができ、いわゆるポジティブ・ポライトネス を尊重する態度として理解できる。
ここで、20代女性(JBF03)と20代男性(JBM03)の用いる共話的反応の型の具体例を見て みたい。次の女性同士の会話例42)で2JOF01の「何でもね、こう、語学の勉強になる場は 沢山あるから、うん」という発話を引き取り、「あ、じゃあ暮らしやすそうですね、台湾っ て、すごく」と「先取り」し、相手に対する「共感」の気持ちを表している。
106
会話例 42) 台湾での暮らしの話:BF01(20代前半女性)-OF01(年上女性)の会話
1 JOF01 生活レベルの、でも中国語だったら、(うん)あのー、向こうの人本当に親切
なんで、(うん)あのどんどん話しかけてきてくれるし(あー)お店の人とか(へぇ
ー)うん、何でもね、こう、語学の勉強になる場は沢山あるから、(あー)うん。
2 JBF01 あ、じゃあ暮らしやすそうですね、<台湾って、すごく>{<}。
3 JOF01 <あ、本当に、>{>}うん、本当にフレンドリーでね、すごく、うん、いいとこ ろだと思いますよ。うですね<2人で笑い>。
4 JBF01 近いしね。
次の男性同士の会話例43)でも2JBM03と4JBM03の発話で年上のJOM02の発話を引き 取り、同じ内容を言い換えている。JOM02の「98‘きゅうはち’でもね、間に合う」という 発話を、「最新の買わなくても」と言い換えたり、「数週間後にはまた数年後の新しいやつ」
を「次々に新しいの」のように言い換える等して、年上の相手に「同意」を示している。
会話例43) パソコン使用の話:JBM03(20代前半男性)-JOM02(年上男性)の会話
1 JOM02 あーでも今98きゅうはちでもね、間に合う(うーん)、間に合うように…。
2 JBM03 そうですね、もう性能的にも全然、最新の買わなくても。
3 JOM02 やっぱXPの、やっと出て、すーう(数)週間後にはまた数年後の新しいやつが
出ますよみたいなこと、新聞また書いて…。
4 JBM03 そうですね、ああいうの次々に新しいの、
5 JOM02 あ、メールはexpress使ってます?
次の表31は、20代男性の年上相手と同年相手の共話的反応の型を示したものである。
表 31 機能別にみた共話的反応の型 (20 代男性グループ) 機能
反応の 型
確認 相手助け 同意 補足 共感 理解
合 計 対
同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上
対 同 年
対 年 上 先取り 1 0 3 2 0 3 1 0 1 2 0 0 13 言い換え 0 0 0 2 0 3 0 0 0 0 0 0 5 繰り返し 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 1 問い返し 2 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3 遮り 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 合計 3 0 4 4 0 7 2 0 1 2 0 0 23 20代の男性の共話的反応は、同年相手の場合と年上相手の場合とで型と機能に相違が見
107
られた。同年相手には次の会話例44)のように、「先取り」と「問い返し」をお互いにもっ ている情報について発話内容を「確認」するために用いる一方、年上相手には先述の会話 例43)のように、主に「先取り」と「言い換え」の共話的反応の型を「同意」のために用い、
年上に自分の考えや意見が同様であることを示すために使用していることが分かった。こ のような結果から、20代女性の場合と同様、ポジティブ・ポライトネスを尊重する態度(ポ ジティブ・ポライトネス・ストラテジー2)が読み取れる。
会話例44) 交通手段の話:JSM02(20代前半男性)-JBM01(20代前半男性)の会話
1 JSM02 で、「路線名1」線で来てるんで、(あー)はい、
2 JBM01 けっこう歩きますよね、「駅名1」までは。
3 JSM02 「駅名1」…そ、そうですね、「駅名1」、歩くときは「駅名2」
一方、30代男性の場合、共話的反応の型の使用数自体が少なく、年上相手の場合と同年 相手の場合の違いについて言及するのは難しい。ただし、年上男性に対しても年上女性に 対しても次のような「遮り」が見られたのは注目に値する。「遮り」は、相手が話している ところに割って入ることから、相手に不快感を与える場合もあるため、多用されないと考 えられるが、30代男性は年上の男女いずれに対しても使用していることが分かった。次の 会話例45)では24BM01では「あー、ですけど大学生相手ですからね」と遮り、年上の女性 を相手に「反論」している。また、4BM01では「やっぱり育てるというんだったら、小学 校か中学校でしょう」と遮り、相手の発話を「補足」している。
会話例45) 教師の立場の話:BM01(30代男性)-OF01(40代女性)の会話
1 OF01 でも、いいですね、こう、なんでもフランクに話せる<先生というのは>{<}
2 BM01 <あー>{>}、ですけど大学生相手ですからね。
3 OF01 やっぱり【【。
4 BM01 】】やっぱり育てるというんだったら(<笑い>)、小学校か中学校でしょう。
5 OF01 んー。
6 BM01 ん、特に、ね、やっぱりそっちのほうがやりたかったんで(ん)、ん、結局【【。
以上から、20代女性同士、20代男性同士は初対面会話における共話的反応を相手との年 齢の関係に応じて使い分けていることが明らかになった。ただし、30代男性の場合、対話 相手の性別差の影響をみることはできなかった。その理由は、初対面会話における共話的 反応の型の出現数自体があまり多くなかったからである。30代男性は、対話相手の年齢に
108
関係なく、共話的反応の型をあまり示さないことも推察される。