第二章 日中国交正常化以降の中国における日本語教育と日本人教師
第二節 日本における日本語教師の養成と海外派遣
2.2 日本語教師の海外派遣制度
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本語の海外普及事業は急速に発展した。1984 年には、国際交流基金と財団法人日 本国際教育協会が初の日本語能力検定試験を実施し、海外で約4500人、国内では 約2500人の外国人が受験した。日本の政策も積極的に日本語に対する需要の変化 に応えた。1989 年には、日本語教師の研修・招聘・日本語教材の開発・寄贈を行 なう日本語国際センターが国際交流基金の付属機関として設立された 215。
90 年代に入ってから、日本経済の長期低迷を背景として、日本語学習者の人数 が減少する国も目立つようになった。しかし、海外全体から見れば、日本語学習 人口は拡大し続けた。国際交流基金は日本語学習者に対して「支援型」事業形態 から「推進型」事業形態への方向転換を表明するようになった。2000 年 12 月 8 日に文部科学省で行われた国語審議会「国際社会に対応する日本語のあり方」に おいて、次のような見解が示された。
日本語による情報発信は、日本人の思考や広い意味での日本文化の発信 である。日本語を通じた様々な情報の受容や、日本語によるコミュニケー ションを通して、世界の人々に日本や日本人についての理解を深めてもら うことが大切である。
(中略)今後とも、教師の派遣、研修会の開催、留学生の受け入れ、教 材や情報の提供、新しい通信手段の活用など、海外における多様な学習需 要に応じたきめ細かな支援を推進するとともに、各国が主体的に日本語教 育体制を整え、自律的に日本語教育を実施していけるよう、協力を行って いくことが必要である 216。
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着手するようになった 217。1973 年度(昭和 48)から、国際交流基金は海外派遣 候補となっている国内の日本語教育専門家を対象とした海外派遣日本語教師研修 会を始めている。さらに1977年(昭和52)からは、日本語教育学会との協力関係 のもとに、よりきめ細かい研修プログラムが作成されるようになった。こうした 各種の研修を通じて、基金は学会への日本語教師研修の委託を開始して以来、延 べ791名の日本語専門家の育成を行なってきた 218。
表2-9 日本語教育派遣専門家の分類とその果たすべき業務内容
派遣先機関 業務内容 対象者
アド バイ ザー 型
教育省、海外日本語 センター、基金海外 事務所、日本センタ ーなど
教師研修、教材、カリ キュラム開発協力、学 校訪問、教師間のネッ トワーク構築支援等
現 地 教 師 、 時 と し てモデル授業
直接教授型 大学、文化団体 授業担当、教材・カリ キュラム作成、現地教 師への助言・指導など
生 徒 、 学 生 、 社 会 人 、 時 と し て 現 地 教師
出所: 国際交流基金 30年史編纂室『国際交流基金30年のあゆみ』、2006年、125 頁。
国際交流基金では、1990 年(平成 2)より海外の日本語教師不足を補い、若手 教師に知識と経験を積む機会を提供し育成を図ることを目的に青年日本語教師派 遣事業を開始した。また、1999年(平成 11)以降は現地教師支援のため派遣先国・
地域全体を視野に入れ現地教師を対象とした研修会や相談などを主要業務とする アドバイザーを海外事務所等に派遣している。
派遣者数は 30 年間で長期・短期合わせて延べ 4289 人となった。基金の日本語 教育支援事業の下で、その国の正規のシステムに基づいて養成された教師が中心 となる教師供給体制が整備されてきた。また、シラバス・カリキュラム・教材に ついても、それぞれの国や機関の教育方針を尊重し、それを支援していく「現地 化」を基本原則とし、国内外の事情を勘案して、派遣事業を実施してきた。
国際交流基金の日本語専門家の海外派遣サイト 219によると、現在は、国際交流 基金は各国教育省、国際交流基金海外拠点、中等・高等教育機関などに、日本語 上級専門家・日本語専門家・日本語指導助手を派遣している。日本語上級専門家・
217 国際交流基金30年史編纂室『国際交流基金30年のあゆみ』、2006年、120頁。
218 同上、61頁。
219 http://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/index.html。2017年6月10日閲 覧。
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日本語専門家は、日本語教育のスペシャリストである。各地の日本語教育が自立 して行われていくようにするため、カリキュラムや教材作成の助言をしたり、現 地教師の育成や教師間のネットワークづくりを促進したり、海外拠点等の日本語 講座の運営・授業を行う業務を担っている。日本語指導助手は、日本語専門家等 の指導の下でさまざまな日本語教育支援事業に従事する。海外の日本語教育支援 と合わせて、将来、海外で活躍できる人材として日本の青年を育成することも派 遣の目的の1つになっている。平成28年度派遣実績は東アジア 9人、東南アジア 47人、南アジア7 人、中東2 人、東欧 20人、西欧12 人、北アフリカ4人、アフ リカ1人、北米 23人 220、中米3人、南米 4人、大洋州5人である。
国際交流基金の他に、国際協力事業団(JICA)の派遣事業部も年間約1200名の 日本人専門家を海外に派遣している。その中には日本語教育専門家も含まれてお り、日本語教師以外の派遣専門家が技術指導のかたわら日本語を教える例もある。
中国の場合は、1986年から JICA所属の青年海外協力隊員を対中派遣しはじめた。
2017年 8月1 日までに、累計818名のボランティアが各部門に派遣されてきた。
そのうち412名が日本語教育の分野に携わり、全体の50.4%を占めている 221。 文部省学術国際局国際教育文化課は、1984 年の機構改革の前まで、中等教育レ ベルの学校教育において日本語を正規の外国語科目として教授する教員派遣の要 請がある国々に、中等教育教員交流事業の一環として日本語教師を派遣してきた
222。
国レベルの派遣制度の他、地方自治体から日本語教師を海外へ派遣する事業も ある 223。「地方自治体による日本語教育事業の実態調査」によると、地方自治体 による日本語教育事業には、次の五つの分野がある。第1は中国帰国者関係、第 2 は技術研修員の受入れ関係、第 3 は一般外国人関係、第 4 は外国に対する日本語 教員の派遣、第 5 は日本語研修生の受け入れ関係である。派遣先としては中国が
220 そのうち、カナダに1名上級専門家を派遣している。他の22人は、「米国若手日 本語教員」という派遣事業により、米国初中等教育機関でティーチングアシスタント として勤めている。
221 中華人民共和国 JICAボランティア派遣事業。
https://www.jica.go.jp/china/office/activities/volunteer/ku57pq00002261f6-att/result_201708 01.pdf。2017年6月14日閲覧。
JICAに所属したボランティア事業は青年海外協力隊、青年海外協力隊短期隊員、青年 海外協力隊シニア隊員、シニア海外ボランティア(長期・短期)を指す。
222 シィー・ティーアイ(編)『日本語教育および日本語普及活動の現状と課題』、総 合研究開発機構、1985年、75頁。
223 田中祐輔が2012年に実施した調査によると、教育委員会派遣事業はその後、東京 都、埼玉県、山梨県、三重県、奈良県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県、長崎県で も実施された。