第三章 日中関係の新たな展開と異文化交流の現場における日本人教師
第三節 日本人教師が直面する新たな課題
1.1 日本人教師に対する学生の評価
表3-8 インタビュー調査の質問票 第一部分 質問項目
1 日本語教師として十分な訓練を受けている。日本語教育に関する資格 を持っている。
2 修士号(又はそれ以上の学位)を持っている。
3 標準的な日本語を話すことができる。
4 外国人に向けた日本語教育の経験を持っている。指導経験が長い。
5 異なる言語や文化に対して寛容性がある。
6 授業の前にはきちんと準備し、教育効果が高い 7 明るく、ユーモアがある。思いやりがある。
8 日本語教育に対して情熱を持っている。
9 マンガ、アニメなど若者が興味を持つ分野に詳しい。
10 中国語ができる。
11 日中文化比較の視点から授業をする。
12 中国の文化に興味を持ち、中国での生活に慣れている 13 自らの中国での体験を学習者と分かち合う。
14 中国の政治・経済についてよく知っている。
15 日本の文化・習慣・歴史について幅広い知識を持っている。また、学 生のニーズに応じてこれらの知識を教える。
16 学生の日本語の間違いを適切に訂正することができる。
17 学生が分からないことがあるとき、わかりやすく説明できる。
18 学習者をほめたり、励ましたりする。
19 授業以外の活動に積極的に参加する。学習者の質問に積極的に答えよ うとし、また的確に答えられる。
20 学習者の意見や提案を受け入れる柔軟性を持っている。
第二部分 自由回答欄
1 日本人教師として一番重要な資質は何ですか。例を挙げて説明してく ださい。
2 あなたは日本人教師の授業あるいは普段の交流を通じて、何を学びま したか。例を挙げて説明してください。
3 日本人教師の授業と中国人教師の授業とではどんな違いがあります か。例を挙げて説明してください。
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本調査目的は中国の大学における日本語学習者が「日本人教師」に対してどの ような評価をし、また何を期待していることを明らかにすることにある。実際に 授業を受けた日本語学習者の立場から、望ましい日本人日本語教師像を探して見 たい。調査は 2017 年 9 月から 10 月にかけて行った。日本語科が設置されている 南京の 8 つの大学に在籍する学生を対象として行った。対象とした学生にアンケ ート用紙を渡して質問した。質問は二部分に分けられ、第一部分は質問項目に対 して<1.非常に満足する、2.満足する、3.どちらでもない、4.満足できない。
5.非常に満足できない>の 5 段階ポイント制で答えてもらう方式を取った。第 二部分は自由回答欄である。質問票は表3-8にまとまった。調査用紙は中国語で 作成した。フェイスシートに、性別、日本語学習年数、学年、日本語能力試験合 格の有無、日本人教師から受けた科目などの記入を求めた(資料を参考する)。ア ンケート調査を回収した後、アンケート調査に参加してくれる学生から 6 人を選 択し、アンケート調査の結果を見せながら、感想を聞いた。
第一部分の質問項目は顔幸月他で作成された 41項目を参考にした 345。本調査で は、日本人教師にふさわしい項目の追加や、日本人教師に合致しないと考えられ た項目の削除を行い、20 項目からなる中国語の質問用紙を作成した。発送したア ンケート調査用紙は全部200部で、回収は 156 部で、有効回答は 78%であった。
そのうち、女子学生は 127人で、男子学生29人である。日本語に関する能力試験 に参加したことがある学生は51.3%を占めている。
図3-4 日本人教師の授業を受ける時間数
調査対象の学生は全て日本人教師の授業を受けたことがある。平均は週 2 コマ である。具体的に日本人教師授業を受けた年数は図3-4のとおりである。半分以上 の学生が日本人教師の授業を受けたのは 1 年以下である。調査した 8 ヵ所の大学
345 顔幸月・渡部倫子・小林明子・縫部義憲「台湾の大学生が求める日本語教師の行 動特性」『日本語教育』133号、2007年、67~76頁。
1年及び1年以 下, 63%
1~2年, 28%
2~3年, 8% 3年以上, 1%
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のうち、7ヵ所は 2 年生から日本人教師の授業が開講されている。1 ヵ所だけ 1 年生の発音チェックという授業を日本人教師が担当していた。
アンケート調査の終了後、筆者はアンケート調査を参加する 6 名学生(インタ ビューされた学生リストは序章にある)を選んで、アンケート調査についてさら なる聴き取り調査を行った。
平畑奈美は世界中の41名の日本語教育に関係がある人へのインタビューにより、
質的調査方法で、日本人教師に望まれる「教育能力」「人間性」「職務能力」とい う三つの中核的資質を抽出した。「教育能力」とは、日本語教育を行うことに必要 な知識・教育技術・実践能力等に関わる資質であり、主として教室内で発揮され る資質である。「人間性」とはいわゆる円熟した人間味とか、博愛精神といった、
狭義の人間性を指すものではない。この場合は、外国の、異文化の中で生きてい くための態度、価値観、心のもちよう、メンタリティなどを広く含む。「職務能力」
とは教室外で、その組織の一員として働く職業人としての能力である 346。顔幸月 他の研究は台湾の日本語科の学生を対象として「優秀な日本語教師」として望ま しい資質について調査を行った。その結果、四つの影響因子を見出した。第 1 因 子は学習者への配慮、第 2 因子は専門家としての教職歴、第 3 因子は日本語教師 の専門性、第4因子はインターアクションへの配慮である。
本調査は以上の先行研究を参考にして、20 項目の調査質問を以下の三つに分類 する。第一は教育能力についてである。そのうち、教師としての知識・教育方法 等の資質(Q6、Q11、Q15 、Q16 、Q17、)と日本語教師としての専門知識と能力 である(Q1、Q2、Q3、Q4、Q10)。第二は人間性についてであり、学習者への配 慮(Q7、Q8 、Q18 、Q19 、Q20)、日本人教師の価値観、態度等の資質を指す。
第三は異文化コミュニケション能力(Q5,、Q9、Q12、Q13、Q14 )についてであ る。日本人教師の中国文化の受容性、柔軟性などの能力を指す。
表3-9 南京の8カ所の大学における日本人教師に対する学生の満足度
N(有效) M SD
156 3.90 1.37
有効回収のアンケートのデータはSPSSに入力し、表3-9に示したように、第一 部分の平均値(M)は 3.90 であり、中間値の 3 以上になる。標準偏差 SDは 1.37 である。現時点での日本人教師に対する学生満足度は高い。表3-10に示したよう
346 平畑奈美「ネイティブ」とよばれる日本語教師――海外で教える母語話者日本語教 師の資質を問う」春風社、2014年、118~120頁。
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に、日本人教師への満足度が3.90以上の学生は 106名で、68%を占める。一方、
日本語教師への満足度が3.90以下の学生は 32%を占め、最低の値は 0.95である。
日本人教師への満足度は学生によって大きな差があることが分かる。
表3-10 南京八ヶ所の大学における日本人教師に対する学生満足度の構成比
M=3.90 N(有效) 割合%
≥3.90 106 68
<3.90 50 32
表 3-11 に示したように、各分野で日本人教師に対する学生の満足度は全部 3.8 以上になっている。各資質は学習者にとって満足が高い。SDは1 以上になること は、学習者の日本人教師の資質への満足度の分散率が高いと言える。学生のニー ズが多様化していることがわかる。
次は、インタビューを受けてくれた学生の話を踏まえて、日本人教師それぞれの 資質について、詳しく分析する。
まず、気づくのは日本語教師の専門性についての満足度が一番低い点である。
Q1、Q2 日本語教師の資格についての質問に対して、非常に不満足を選択した学
生が多い。それぞれ19人、17人となった。「私たちは日本人教師がどんな資格を もっているのかわからない。先生の教師としての経験は先生の自己紹介によって 少し理解しました。日本で教師になったことがある先生がどのように授業をする のかわかりました。教室の雰囲気をよりうまくコントロールできます。修士号ま たそれ以上の学位を持っている教師が少ない。でも、これはそんなに重要なこと ではないと思います。」(S2)Q4 外国人に向けて日本語を教えた経験について不 満足の学生は 17.2%を占める。学生は日本人教師が外国語としての日本語を教え たことがあるかどうかを重視していることがと分かる。「現在教えてくれている 日本人教師はもともと日本では英語教師だったそうですが、テストでは、日本語 を英語に訳すという問題が出され、大変です。」(S1)という不満がある。
日本語教師という職業の専門性は80年代以降、次第に求められるようになって きた。日本語教師は今まで統一の国家資格がなかった。日本語教師養成コースを 設置する大学が多くなっても、世界の日本人教師に対する需要の多さに比べれば、
まだ不十分であると言える。中国は2000年までは、日本語がネイティブの者でさ えあれば、採用される場合が多かった。近年、日本人教師の教育経験を重視する ようになってきたが、日本語教育の専門性についてはあまり重視していない。他 方、日本人教師は中国語ができるかどうかという点については、不満に思う学生