第三章 日中関係の新たな展開と異文化交流の現場における日本人教師
第三節 日本人教師が直面する新たな課題
1.2 日本人教師に求められる資質
本調査の第二部分では、日本語教師に求められる資質について考察する。学生 が自由欄で書いていることを中心に、頻出するキーワードやフレーズとそれが出 てきた回数を次のように整理して見た。
表3-12 日本人教師として最も重要と思われる資質
資質 キーワードフレーズ
日本語などの知識能力 発音がきれい(144)/日本について詳しく知っている
(131)/日本語以外の幅広い知識(50)
教育能力 教育学の基礎的知識の保有(82)/会話・作文の指導 力が高い(140)
教育への態度 十分な授業準備(101)/教えることに熱心(78)/学 習者のニーズに対応(50)/真面目さ、責任感(120) /学生の活動に積極的に参加する(32)
中国への親近感 中国のことを理解してほしい(123)/中国の文化や習 慣に適応(85)
表3-12に示したように、日本人教師に対して学生が求める資質は日本語などの 知識能力・教育能力・教育への態度・異文化コニュにケーション能力という四つ の種類がある。日本語能力と教育能力は依然として要求レベルの高い資質である が、日本人でさえあれば、日本語・日本についての知識が十分だとは必ずしも言 えない。また、日本語が母語であるとしても外国人に向けて日本語を教える能力 を必ず備えているわけでもない。
「せっかく日本人教師を採用しても、先生は関西の出身みたいで、ちょ っと関西弁の訛りがあります。残念ですね。」
「日本人教師は細かい文法の区別をわかりやすく説明してほしい。日本 人にとって、これらの問題点は語感として当たり前のことですが、われわ れ外国人にはなかなかむずかしいところです。」
学生は教師に対して、教育に取り組む態度を重視している。前述したように、日 本人教師の仕事への態度について学生は満足している。
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一方、本調査で留意すべき点は、現在の学生は日本人教師の対中感情について気 にしていることである。中国人の学生は日本人教師に「中国のことが理解してほ しい」と言っている。中国は世界の他の地域と違って、日本との関係が歴史的・
政治的に複雑かつ微妙である。日本人教師はどんなに高い日本語教育能力をもっ ていたとしても、どんなに仕事に対する情熱があったとしても、中国への誤解や 偏見があれば、学生からすぐに反発される。
「現在教わっている日本人教師は真面目ですけど、いつも中国の悪口を 言います。中国のことをあれこれよくないと言われたら、気分が悪くなり ます。この先生が指摘するような問題点はある程度存在しているかもしれ ませんけど、いつも授業で、偉そうな口調で指摘されたら、みんなはこの 先生が好きになれません。中国に対して友好的な感情を持っている日本人 教師に来てほしい。」
表3-13 日本人教師から学ぶこと 学ぶこと 表現フレーズ
日本語の能力・学術 の能力
日本語のコミュニケーション能力が向上(140)/日本語で書 く能力が向上(101)/研究能力が上がる(50)
日本への認識 日本の文化と風俗を理解する(129)/日本社会を理解する
(92) 日本的なやり方・考
え方
真面目さと勤勉さ(121)/日本人の考え方を理解する(98)
中国について 中国を再認識させられる(32)
表3-13に示したように日本人教師から学ぶことにより、日本語のアウトプット 能力(話す・書く)を向上させた学生が多い。日本人教師は会話と作文の授業を 担当することが圧倒的に多い。学生は日本人教師から「生の日本語」を学び、ネ イティブ・スピーカーから話すこと・書くことを添削してもらうことによって、
日本語らしい日本語を使うようになる。また、日本人教師のもう一つの重要な役 割は日本文化を伝えることである。学生は日本人と直接に交流することによって、
日本人のやり方や考え方を自ら体験することができる。
「ある時、二週間ぐらいにわたって先生がマスクをかけたまま授業をし たことがある。みなさん、申し訳ございません。最近風邪ですが、伝染さ せないようにマスクをかけますって。中国人は風邪をひいてもマスクをか ける人が少ない。なるほど、これは教科書に書かれている「日本人の思い やり」かな、思った。」
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「先生はいつも手帳を持っています。授業のスケジュールや皆の発表順 番など、全部ちゃんと手帳に書いてあります。先生を飲み会に招いたこと がありますが、先生はすぐ手帳を出して、空いている日を確認する。先生 から日本人は幼稚園の子供から社長までみんな手帳をもっていると教え てもらった。いいなあ、と思います。今年わたしも手帳を一冊買いました。」
今回の調査で、注目されるところは、学生が日本人教師から日本のことを学ぶだ けでなく、中国の社会や文化について再認識させられたという点である。中国の いいところとわるいところを、外国人という他者の目でより客観的に把握するこ とができる。
「中国人としては当たり前のことだが、日本人教師という外国人から見れ ば、不思議なことに思われます。例えば、現在、われわれは携帯の APP で電子マネーを支払います。日本人教師はびっくりしています。先生がと ても便利ですね、けど、安全性についてちょっと心配だと言います。そう いう時、わたしはできるだけ日本語で先生に中国のことを説明します。誇 りを感じながら、日本語で中国のことを話す能力もアップさせることがで きます。」
表3-14 日本人教師と中国人教師の違うところ 表現フレーズ
授業のやり方 プリントを用意する(130)/教室での活動がより多 い(98)/ カリキュラムに沿ってやる(65)
人当り 細かいところにこだわる(78)/丁寧さ(43)/黒板・教 壇などを拭く(54)
中国人教師に比べ、日本人教師の授業は教科書どおりにそのまま教えるわけで はない。いろいろな教材を用意し、プリントを学生に配る。
「中国人教師は教材に沿って教えるのが多いが、日本人教師は毎回の授業 でプリントを配るので、一学期を通じると、分厚い資料が集まる。」
「日本人教師はほとんど会話や作文などのアウトプットの授業を担当 する。だから、中国人教師が担当する授業より、教室での活動が多い。学 生も楽しみにしている。」
「日本人教師の会話の授業は水曜日の午後で、毎週一番緊張しながらも 楽しみな授業です。中国人教師の授業は教師が主役で、我々は聞くだけで すが、日本人教師の会話の授業は、私たちが主役でやっています。」
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「日本人教師の授業では発表することが中国人教師の授業より多い。発 表の準備ために、結構時間がかかります。最近、中国人教師の授業でも発 表の回数が増えている。」
近年、日本での留学経験を持っている中国人教師が増えているし、日本語教育専 門家の巡回講座なども多くなっている。そこで、中国人教師は授業のやり方を日 本人教師からいろいろ学ぶようになった。授業のやり方、教育活動や教育技能に 関する日中両国の差は縮小してきた。以上の違いは日中間の教師の違いというよ りも、科目の違いといったほうがいいかもしれない。
しかし、他方、注目すべきところは、日本人の国民性から出てきた違いもある。
例えば、「細かいことへのこだわり」、「黒板、教壇の掃除」などである。
「中国人教師の授業では、小テストがあるので、統一された練習ノート を使うことになった。しかし、毎回練習ノートを忘れてくる学生がいます。
その時は、だれかのノートから一枚ちぎってもらいます。中国人の先生は、
今度は忘れないようにと注意するだけです。これに対して、うちの日本人 教師は、練習ノートを使わないで、一枚の紙で宿題をすると、成績として 評価してくれません。」
「朝一時限の授業では、朝ご飯を食べられなかった学生はパンや豆乳な ど教室に持ちこみ、授業を受けながら朝ご飯を食べます。中国人先生は「今 度から、早めに起きて」と注意するだけです、実際に、朝ご飯を食べなが ら授業を受けることは黙認されています。これに対して、日本人教師の授 業では授業中に絶対に食事をすることができません。」
「日本人教師は一般的に中国人教師より早めに教室に着きます。授業前 は、ちゃんと教壇の机を拭いたり、黒板拭きやチョークなどを整理したり します。授業が終わると、黒板を拭きます。これに対して、中国人教師は そういう授業前後の行動をする人は少ないのです。日本への留学経験を持 っている中国人教師の中には黒板を拭く人もいます。「先生は日本人教師 のようですね。」と尋ねると、先生は「日本にいた時、日本人教師から学 んだのです」と答えた。」
学生は日本語教師の授業のほかに、日本人としての細かい行動を観察しながら、
日本人のやり方、考え方をそっくり学んでいる。この点は先行研究ではあまり論 じられていない。中国の「言葉と自らの行いの両方で教育する」ということわざ のように、日本人教師の役割は授業で言葉を通じて教えるだけではなく、日本人 教師はあらゆる行動を通じて学生に教えている。日本人教師は海外へ行って、異 文化の環境の中で生活するのだから、教師の異文化への寛容性、柔軟性が重視さ