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第4章 待遇調整による依頼会話の展開の特徴

4.3 場面 3(お金の貸し借り)における待遇調整

4.3.5 場面 3 の待遇調整5(会話終了)

4.3.5.1 日本語依頼会話における待遇調整5(場面 3)

(ア) 《人間関係》に関わる待遇ストラテジー

① 被依頼者への恩恵を明示的に表す【感謝】(依)

頼(2008,p.134)では、「人間関係や依頼内容を問わず、依頼が成立した際に依頼者 が利益を受けることになるため、「感謝型表現」の使用率が高いという結果になったと考 えられる。」と主張している。本研究でも、会話を終了するためにいずれの会話において も使用されていることが見られ、頼と同様の結果が観察された。また、【感謝】の言語形 式は「ありがとう」(JP12・JP13・JP14・JP15)、「助かった」(JP12・JP14・JP15)、

「これでノートパソコンが買えます」などのように、依頼者が受けた恩恵への言及が見ら れた。また「給料入ったら飲みに行こう」(JP14)など何らかの形で恩を返したいと申 し出る場合もあった。

会話例 97 (JP12) 依頼者:JF3 被依頼者:JF4

47 JF4: う:ん,まあまあまあ,私はうん,あの:(0.8)大丈夫.ちょっ

と今月余裕あるから.

承諾理由説明 待遇調整3

48 JF3: ゜本当?ありがとう. 感謝 待遇調整5

49 JF3: お願いします.゜ 再依頼(関係修復)

50 JF4: は:い. 受け入れ

51 JF3: (0.5)゜ありがとうございます.゜ 感謝

52 JF4: いいえ.この,この,(1.2)何-<何倍返しで>してもらえる んかな,このお礼は.

感謝要求

=冗談

53 JF3: う:::ん,(0.5)考えておきます.hh [hh 受け入れ

54 JF4: [hhhh 笑い

被依頼者への恩恵を明示的に表す

【感謝】

② これからの人間関係を良好に継続するため【再依頼(関係修復)】(依)

【関係修復】は、小説の貸し借りの場面 1には現れなかったが、それより負担度が重い ビデオカメラの貸し借りにおいては、「お願いします」「じゃ、またよろしく」のような

【関係修復】で会話が終了されていた。

会話例97のように、【関係修復】は【依頼】の言語形式をとっており、依頼の発話で はあるが、依頼が承諾された後の段階では依頼遂行を完了した後の会話参加者の間の関係 を再度確認するという役割も果たしている。これは、今後も良好な関係を続けていくこと の確認として、このような発話が行われるのだと考えられる。

③ 被依頼者との信頼関係を保とうとする【約束】 (依)

場面3では依頼対象であるお金を貸しても返してもらえなかった場合、その後お互いの 関係が壊れてしまう恐れがある。それゆえ、【承諾】を受けた時点で依頼者は【約束】を することで責任を持ってお金を返すようにすることを伝え、大金を貸す被依頼者を安心さ せようとしている。 待遇調整2 における依頼を達成するための【約束】とは異なり、こ の段階で出現していた【約束】は、依頼を引き受ける【承諾】で重い負担を受ける被依頼 者への配慮として少なくとも心理的な負担を軽くしようとするものである。

さらに、会話例 98では、【承諾】をした後でも 104JM2 で、依頼者がお金の貸し借り についての【約束要求】を行っており、105JM1、107JM1において依頼者から【約束】を 得たうえで、「あ,いいよ全然」の108JM2で快く貸すことを表明している。その後、依頼 者はさらに二人の関係の持続に向けた【感謝】と同時に、113JM1 の【再約束】で再び約 束を行って依頼会話を収束させている。このようなやりとりは、「お金の貸し借り」によ ってこれからの二人の関係に支障を来さないように、被依頼者との信頼関係を保つための ものだと考えられる。

会話例 98 (JP14)依頼者:JM1 被依頼者:JM2

102 JM2: .hhあ:一万円ぐらい-(0.7)一万円>ぐらい<だったらま大丈

夫かな.

承諾 待遇調整3

103 JM1: い::や,<助かっ [た::.> 感謝

104 JM2: [え次の給料日までだって,え,2週間ぐら

いでしょう. [ ](0.8)あれだったら,[( )]

約束要求 待遇調整5 105 JM1: [うん. ] [( )]

自動的にその,貯金口座に2,3万円 [( )てなってるから:

約束

106 JM2: [hhhh

うん.

受け入れ

107 JM1: そっからまた,ペッと [ペッとやるから:,]

[うん.

約束

108 JM2: [あ:hhh ]オッケーオ

ッケーオッケー [オッケー.あ,いいよ全然.

受け入れ

109 JM1: うん.じゃ,それだったら,せっかくだ [し,

[買って:, ](0.8)給料入ったら飲みに行こう.

感謝

110 JM2: [おん.いいよいい

[よ.は:い.]お:.

受け入れ

111 JM1: ありがとう.助かる [わ. 感謝

112 JM2: [いいよ. 受け入れ

113 JM1: 絶対返すから. 再約束

114 JM2: お:オッケーオッケー. 受け入れ

このように、【約束】は「お金の貸し借り」によってこれからの二人の関係に支障を 来さないように、被依頼者との信頼関係を保つためのものであり、単に依頼を遂行するの に必要な事柄に関するやりとりのみではなく、人間関係の維持を図ろうとするものとして 使用されている。

④ 被依頼者との人間関係を修復しようとする【謝罪】(依)

⑤ 依頼者との人間関係を修復しようとする【謝罪】(被)

場面 3 で観察された【謝罪】は、a)無理な依頼をしてしまって被依頼者を困らせて申 し訳ないことを示す【謝罪】と、b) 被依頼者が依頼者の期待に応えられなくて申し訳な いということを示す【謝罪】の2種類に分類できる。

まず、④ に関しては、【依頼】に対する【承諾】が現れた後、相手への配慮を示す

【負担軽減】、【感謝】以外に、会話例 99のように【謝罪】が69JF5、72JF5、74JF5と、

3 回も行われている。これは、場面 3 の特徴の一つと言っても過言ではない。ここでの

【謝罪】は、相手を困らせたことを詫びるために、今後の人間関係を維持しようとする待 遇ストラテジーとして使用されていると考えられる。

会話例 99 (JP13)依頼者:JF5 被依頼者:JF6

64 JF6: [え: [う:ん.][あっ. (0.6)いいよ.い いよいいよ [うん.うん. [いいよいいよ.

承諾 待遇調整3

65 JF5: あの再来週(.)お給料 [が入ったら,すぐ-\すぐ返(h) [すか(h)ら.

すぐ返(h)すから.\]

約束 66 JF6: [あ,>全然全然全然.<うん. [hhhh

].hh[オッケーオッケー]

受け入れ

67 JF5: [うんうん. ][本当に? 負担軽減 待遇調整5

68 JF6: [全然大丈夫だよ. 受け入れ

69 JF5: [ごめんね.[本当に(.)ちょっと,ちょうどほしいや(h)つ(h)が(h). 謝罪

70 JF6: [うん. [う:ん. 受け入れ

71 JF6: =\あ,オッケ(h)ー.\[hhhそれでも[買わないともったいないし 負担軽減

72 JF5: [hhh [申し-申し訳ない.本当に. 謝罪

73 JF6: う:うん. [( ) [は:い. 受け入れ

74 JF5: [( ) [ごめんなさい. 謝罪

75 JF6: うんうん.全然. 受け入れ

さらに、⑤に当たる会話例100の43JF1の【謝罪】は【依頼】を断わった被依頼者が、

依 頼 者 が せ っ か く の 依 頼 を 引 き 受 け ら れ な く て 申 し 訳 な い と い う こ と を 示 す も の で 、

44JF2 の【謝罪】は、依頼者が無理な依頼をしてしまったことを詫びることを示すもので

ある。ここでの【謝罪】はいずれもこれからの関係を良好に保とうとする待遇ストラテジ ーとして用いられていると思われる。

会話例 100 (JP11)依頼者:JF1 被依頼者:JF2

27 JF2: 私も:,給料前だからちょっと今>厳し [いん::だけど:.< ]

[゜う:ん.゜

拒否理由

説明 待遇調整3

《働きかけ》

28 JF1: [あ:そ:そうだよ, ]そ う [だよね:.

理解

29 JF1: うーん,じゃ:,やっぱり::もうちょっと我慢するかな. 負担軽減 待遇調整3

《人間関係》

30 JF2: (1.0)う: [:ん. ] 受け入れ

31 JF1: [う:ん. ] 理解

32 JF2: 使えそう?大丈夫? 負担軽減

33 JF1: .hううん, 受け入れ

34 JF1: まだ(.)使えないっていうわけじゃないんだけど, 負担軽減

35 JF2: う:ん. 同意

36 JF1: ちょっと調子が悪いから,まあ:,安いうちに買おうかな,(0.5)

と,ちょっと思ったんだけど. ん:,

負担軽減

37 JF2: ごめんなさい..h 謝罪

38 JF2: =またあの私も買おうと思ってる [:から,一緒に探しに行こう? 代案提示 待遇調整5

《人間関係》

39 JF1: [うん.

あ,いいね.

同意

40 JF2: うん.また,バーゲンも,また [あるだろうしね. 代案提示

41 JF1: [うん. ネットで探して

もいいのがある [かも. ]ま,探して [みましょ!

代案提示

42 JF2: [ああ,なるほどね.] [はい. 同意

43 JF1: [じゃ,ごめんね. 謝罪

44 JF2: [(に:),ごめんなさい.こちらこ [そ. 謝罪

⑥ 依頼者との人間関係を修復しようとする【代案提示】(被)

【依頼】を断わった被依頼者は、相手への配慮として相手の状況を再確認してそれを解

決するためにやれることがあればやってあげようすることを伝えようとする【代案提示】

を行うことになる。一方、【依頼】を断わられた依頼者は、【代案提示】でほかの解決方 法もあり、そこまで困らないということを被依頼者に伝えようとする。

会話例 100 では、被依頼者は、依頼を引き受けられないという 37JF2 の【謝罪】に加え て、38JF2 で次のバーゲンを待つのも手であるという代案を提示している。それに対して、

依頼者も 39JF1 で、被依頼者の代案に賛成し、41JF1 でその案を具体化した形で【代案提 示】を行っている。このようなやりとりは、これからの会話参加者の人間関係を維持する ための待遇ストラテジーの一つだと言ってもいいだろう。被依頼者は可能な範囲での問題 解決の方法を提示することで、相手への依頼に手を貸したい気持ちがあるということを伝 えようとしているのだと考えられる。このように、【拒否】がなされた場合【代案提示】

は会話参加者の関係の継続に重要な役割を果たしているのではないかと考える。

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