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第3章 研究方法

3.2 データ収集

3.2.1 予備調査の目的及び内容

依頼者と被依頼者が決まった場面において、人間関係に支障を来さないよう何のために何 を考慮し、その意図を表わすにはどのような表現の「形式」、「内容」を選ぶのか、とい う観点から、待遇ストラテジーとしての発話機能を明らかにすることを研究の目的とする。

また、この研究の結果からベトナム語を母語とする日本語学習者への指導案を考え、学習 者が依頼の場面においてコミュニケーションを行う際に参考にできる手がかりを示したい。

7. 車

あなたは、来月の土日の休みに、家族みんなで旅行しようと思っています。しかし、レン タカーを借りるほどお金に余裕がありません。通勤用の車を持っている友達がいますが、

土日にはあまり車を使っていないらしいです。友達に車を貸してほしいと頼みますか。

8. お金

あなたは、ノートパソコンを買うために貯金しており、もう少しで必要な額が貯まるの で、今月の給料が出たら買おうと思っていました。しかし、今なら電気屋のバーゲンで買 えるとわかりました。あと 1 万円あれば買えるのですが、友達に 1 万円を貸してほしいと 頼みますか。月末に給料が出たらお金を返すつもりです。

以上の場面で貸してほしいと頼むか頼まないか、その理由は何かという意識調査を行っ た。それと同時に、同じ物、同じ場面で依頼を受けた時に貸すか貸さないかについての意 識も調べた。調査対象者は、20代後半から 50代の社会人及び社会人を経験した大学院生 を中心とした日本語母語話者とベトナム語母語話者 20 名ずつであり、ベトナム語母語話 者はダナン市、日本語母語話者は大阪府在住である。調査方法としては、質問紙のアンケ ートとフォローアップインタビューを実施した。調査の際、まず、質問紙のアンケートを 行い、回収後その場でフォローアップインタビューを行った。インタビューの音声はデー タとして録音し、文字化の作業を行った。なお、今回の予備調査は、対象者の居住地域が 限られていることから、ベトナムおよび日本全体への一般化が難しい点を、調査の限界と して記しておく。

前述で述べた質問紙調査とフォローアップインタビューを総合的に分析したところ、以 下のような結果が得られた。まず、質問紙調査より、図3は「ものを借りること」に関す るアンケートの結果で、「借りる」を選んだ人数を表したもので、図4は「ものを貸すこ と」に関するアンケートの結果で、「貸す」を選んだ人数を表したものである。

3 「ものを借りる」に関する意識調査の結果

小説 CD お金 スーツ

ケース

フォーマ ルな服

ビデオカ

メラ バイク 車

日本人 16 14 1 5 2 10 3 0

ベトナム人 20 20 16 15 10 14 18 5

0

5

10

15

20

25

4 「ものを貸す」に関する意識調査の結果

これらのアンケート結果、およびフォローアップインタビューから、以下のことが明ら かになった。

(ア) 物の値段による負担度

ものの貸し借りが可能であるかどうかは物の値段によって決まると仮定し項目を設定し たが、実際は必ずしもそういうわけではないようである。表2は貸し借りの対象としたも のを、平均的だと思われる値段の順に並べたものである。

2「ものの貸し借り」に関する意識調査における「もの」の値段設定

車 バイク ビデオカメラ 結婚式の洋服 スーツケース お金 CD 小説

高い 安い

調査前は「ビデオカメラ」と「結婚式の洋服」は値段としての価値において、おおよそ 同等のものとして扱われると予想していたが、結果 40 人中「ビデオカメラを借りる」は 24人、「結婚式の洋服を借りる」は 12人であり、ものの価格が高いほど負担度が重くな るとは限らないということが分かった。その理由として、フォローアップインタビューで は「結婚式の洋服」は個人的なものに属しているため、「人に使われているものはあまり 好きではないから」や「服や靴などは人の好みによるものであるから、自分が必要なら自 分で買ってほしい」「(人に自分の服を着られるのは)気分がちょっと・・・(良くない)」

などの意見が得られた。お金の貸し借りに関しては、現地の物価を鑑み日本の場合は1万 円、ベトナム語母語話者の場合は 100 万ドン(5000 円相当)に設定したが、ベトナム語

小説 CD お金 スーツ

ケース

フォーマ ルな服

ビデオカ

メラ バイク 車

日本人 18 17 16 17 17 16 2 0

ベトナム人 20 20 18 16 15 15 18 4

0

5

10

15

20

25

母語話者の場合は、「借りる」を選択したのが20人中16人であるのに対して、日本語母 語話者の場合は「借りる」を選択したのが 20 人中 1 人で、非常に少ないということが観 察できた。「返すなどの問題で関係を壊したくない」「相手に無理矢理頼むことになって しまうから、借りたくない」「お金が足りなかったら、何とかする。人に借りたくない」

「まずは親、兄弟に借りる」などの理由が、フォローアップインタビューで示されている。

日本語母語話者にとっては、高額のお金の貸し借りは敏感な問題で、負担度が重いと考え られる。

(イ) 「借りる」及び「貸す」ことに対する文化的差異

図3と図 4を比べると、ベトナム語母語話者はどの項目においても頼む側も気楽に頼み、

受ける側も依頼を軽く受けられるのに対し、日本語母語話者は、依頼することをなるべく 避けようとしているが、一方で依頼を気楽に受けるケースが多いということも示している。

例えば、20人中 14人はスーツケースを借りないが、それを貸してほしいと頼まれた時に 引き受けられる人は 20人中 17 人いる。CD、ビデオカメラ、お金、フォーマルな服など も同様である。このことから、日本語母語話者よりベトナム語母語話者の方が依頼できる 事柄の範囲が広いという相違点とともに、両言語とも頼まれたら貸すという共通点がある ことが明らかになった。

(ウ) 社会状況による差異

社会状況による差異は、特にバイク・車の項目に現れていると考えられる。ベトナム語 母語話者の場合、通学、通勤のためによく使う交通手段であるバイクに関しては、友達に

「うちに忘れ物があるから、バイクをちょっと貸してくれる?」「そこまで行きたいから、

バイクをちょっと借りてもいい?」など、きちんとした理由なしに依頼を受けた時でも、

簡単に貸してあげるのが一般的な考え方である。しかし、日本語母語話者の場合はそうで はない。「万が一、交通事故が起きたら、困るから」「相手が無理矢理貸してくれるのは 気を使うから」「人間関係を壊しやすい問題だから」「相手に迷惑をかけたくないから」

など、できるだけ依頼しようとしないことが分かった。その依頼を受けた側は「相手のこ とを考えてあげたいけど、こっちも困る」「保険のことで貸せないが、相手の気持ちを考 えると」「万が一何かあったら自分にも被害が及ぶ」というように、積極的に貸すのは気 が進まない反面、相手の頼みを簡単には断りにくい状況に置かれると考えられる。車の場 合も同様である。実際の問題としては、日本では車・バイクの保険への加入によって乗り

手が制限されているため、他人に車やバイクを貸していて万が一事故が起こると大きな問 題につながる。そのことによって、人間関係が壊れる恐れもある。したがって、このよう なお互いの社会状況をよく知らないまま、自分の社会と同じだと考えて依頼をすると、コ ミュニケーションがうまくいかず、摩擦が起こってしまう場合が少なくないのではないか と考えられる。

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