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第4章 待遇調整による依頼会話の展開の特徴

4.1 場面 1 (小説の貸し借り)における待遇調整

4.1.5 場面 1 の待遇調整5(会話終了)

本節の日本語の依頼会話では、会話を終らせるために、いずれの会話においても人間関 係を修復する待遇ストラテジーが使用されている。ここで使用されている待遇ストラテジ ーは、①依頼を承諾してくれたことへ感謝の気持ちを表す【感謝】、②依頼を行ったこと に恐縮の意を表明する【謝罪】である。それに対して、ベトナム語の依頼会話は、この 待遇調整5 が欠落しており、 待遇調整4 を終えた時点で会話も終了させていることが観 察された。小説の貸し借りは、ベトナム語母語話者にとっては大変軽いものであり、【負 担軽減】【感謝】【謝罪】などを相手に表明すると、かえって両者の間に距離を置いてし まうことになるので、改まった場面や親しくない相手以外には使用するのを避ける傾向に ある。以下では日本語のデータのみを分析するが、日本語の 待遇調整5 の流れは以下の 図15のようにまとめられる。

待遇調整5

被依頼者とのと人間関係を修復しようとする【謝罪】

被依頼者への恩恵を明示的に表す【感謝】

被依頼者が意図に納得した【同意】【受け入れ】

【受け入れ】 【受け入れ】

15 場面1の日本語依頼会話の待遇調整5の展開

4.1.5.1 日本語依頼会話における待遇調整5(場面 1)

(ア) 《人間関係》に関わる待遇ストラテジー

① 被依頼者への恩恵を明示的に表す【感謝】(依)

頼(2008,p.22)によると、「依頼会話における感謝は、依頼者が依頼時に「依頼が成 立したらありがたい」という気持ち、そして、依頼成立時の喜び・感謝の気持ちを表わ す行為を依頼における感謝としている」と述べている。本節の依頼会話においても、依頼 が成立したらありがたいという気持ちを表す【感謝】と、依頼遂行に対する喜び・感謝の 気持ちを表わす【感謝】の2種類が観察された。

会話例 28 (JP4)依頼者:JM1 被依頼者:JM2

25 JM1: 読み終わったら連絡してくれたら,ま-買って r-たらあれ-ま

た[一週間

解決案提示 待遇調整4

26 JM2: [あ: :オッケオッケー. わかったわかった. 同意

27 JM1: ありがとう. 感謝 待遇調整5

《人間関係》

28 JM2: うん.はいは::い. 受け入れ

会話例 29 (JP2)依頼者:JF3 被依頼者:JF4

23 JF3: [また会った時に[でも一回貸してくれ[へんかな.= 解決案提示 待遇調整4

24 JF4: [(うん) [そうやんね. [そうやんね. 同意

25 JF4: =じゃあの読み終わったらまた連 [絡するわ. 解決案提示

26 JF3: [うん. 同意

27 JF3: 助[かった:買わなくて済んだ[:::hhhhhh ] 感謝 待遇調整5

《人間関係》

28 JF4: [ふ:ん. [そやねhhhh] .hh- 受け入れ

29 JF4: あの,最後までちゃんと教えてあげようか:.

[(このこれこんなんこんなんこんはやって:.) ]

冗談

30 JF3: [¥いやいやいやいやそれ聞かへん聞かへん¥ ] 回避

前者にあたる会話例 28の27JM1の【感謝】は、依頼遂行の際に何らかの利益を得るこ とができるため、「依頼が成立したらありがたい」という感謝の意を表わすものであるの に対して、後者にあたる会話例 29の 27JF3 のような【感謝】は、その気持ちの他、被依

頼者の依頼承諾に対するその場の喜びを伝えるものである。これらの【感謝】は、依頼者 が被依頼者から受ける恩恵を強調して会話を終了させることで、これからの人間関係を大 事にしようとするための待遇ストラテジーとして使用されている。

さらに、ベトナム語話者が冗談を【依頼-承諾】の間に入れるのに対し、日本語話者は

【依頼-承諾】に邪魔にならないような形で29JF4を【冗談】として承諾後に言っている。

これは日本語とベトナム語の待遇ストラテジーに関する言語文化的違いではないかと考え られる。

② 被依頼者との人間関係を修復しようとする【謝罪】

頼(2008)によると、依頼者がこれから被依頼者に迷惑・負担をかけることを予想し て【謝罪(詫び、恐縮の意の表明)】を行うこともあるという。また、頼(2008,p.17)

は、「依頼の会話では被依頼者が依頼内容を実行する際に労力・時間・心理的な負担を受 けるため、依頼は被依頼者にとって不快な状況であり、依頼者と被依頼者の人間関係にお いて「不均衡な状態」が生じている。その認識によって、恐縮の意を感じ、依頼の際に何 らかの形でその恐縮の意を被依頼者に伝え、人間関係における「不均衡な状態」が修復さ れる」と主張している。本稿もこの立場に立っている。

会話例 30 (JP2)依頼者:JF1 被依頼者:JF2

14 JF1: (2.5)へ:えー:::.いつ?いつごろ(.)どうやって借りようか. 問題提起 待遇調整4

15 JF2: ああ,どうやって借りようか.えー,そうですね.どうしましょう. 受け入れ

16 JF2: うーん::: (1.2)え↑今度はいつ会える? 問題提起

17 JF1: 今度? 確認要求

18 JF2: うん= 確認

19 JF1: =う::: ん.来週のこれぐらいの時間? 解決案提示

20 JF2: あ,じゃあそれまでには読んでる-と [思う. [ん 同意

21 JF1: [あ,ごめんね急[がせて. 謝罪 待遇調整5

《人間関係》

22 JF2: いいえ.大丈夫. 受け入れ

23 JF1: じゃ. 終結

会話例 30 では、依頼を承諾することによって「本をゆっくり読めない」という労力・

時間・心理的な負担を受ける被依頼者のJF2に対して、依頼者はその恐縮の意を21JF1の

【謝罪】によって被依頼者に伝えようとしている。このように、【謝罪】は、会話参加者 の人間関係を修復するための待遇ストラテジーとして用いられている。

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