第4章 待遇調整による依頼会話の展開の特徴
4.1 場面 1 (小説の貸し借り)における待遇調整
4.1.4 場面 1 の待遇調整4(交渉)
22 VF3: Rứa lấy việc cho mình mư ợn làm động lực. đọc nhanh đi rồi cho mình mượn
そ れ じ ゃ 、 私 に 貸 す こ と を 目 標 に し て 、 早 く 読 ん で、私に貸して。
再依頼
(懇願)
23 VF4: Ủa¥mà¥chưa¥biết nội dung nhìn cái đề thôi mà↑muốn↑đọc [↑rồi à? ]
ち ょ っ と 待 っ て 。 内 容 な ん て 知 ら な い の に 、 そ ん なに読みたいの?
状況詳細要求
24 VF3: [Thì thường:] người ta đi mua sách:người ta↑đâu coi↑ chi↑tiết nội dung phía trong. Người ta thấy cái đề rồi người ta mua sách [rồi đúng không.]
だ っ て ・ ・ ・ 本 を 買 う と き 内 容 ま で 詳 し く 考 え な い じ ゃ な い 。 面 白 そ う な タ イ ト ル を パ ッ と 見 て 買 っ ちゃうじゃん。
状況詳細説明
25 VF4: [Ờ, có lý. có lý. ] ああ、その通りだね。 理解
26 VF3: Như VF4,VF4 mua::[quyển sách mà đã đọc hết nội dung đâu.:
VF4 の場合も買 ってから ま だ 全 部 読 み き れ て な い でしょう。
非難
27 VF4: [Được rồi, tui
đọc: được nửa cuốn rồi.
ひ ど い 。 も う 半 分 ま で 読 んだよ。
非難否定 28 VF4: =Ngày mai hay ngày mốt↑chi↑đó↑
tui¥đem¥cho¥bà mượn.
明 日 か 明 後 日 く ら い に 貸 すよ。
(承諾)
解決案申し出
待遇調整4
このように、被依頼者は【保留】によって依頼者に条件の交渉を促しており、【保留】
は【拒否】といったネガティブな態度を表すものではなく、【承諾】に向けて交渉を行う ポジティブな態度を表すものである。
⑤ 交渉後再び依頼を明示的に行う【再依頼(懇願)】(依)
更に、会話例 21 では、日本語の依頼会話には現れなかった【再依頼(懇願)】も見ら れた。会話例 21 では、25VF1 の【再依頼】は拒否されたからこそ必要となった発話であ るが、「読み終わってから貸してくれてもいいのに」という発話で依頼者が依頼の条件を 付けて再び依頼を行っている。この【再依頼】は、柔らかい声で冗談めいて発話され、
【承諾】を間接的に伝えようとする【拒否】を受けた後に行われていることから、被依頼 者が快く承諾してくれたことへの感謝の意を込め、相手の善意を引き受ける待遇ストラテ ジーであると考えられる。また、【再依頼】に対して、被依頼者は【再承諾】を行ってお り、待遇調整3を終えている。このように、依頼者と被依頼者は、両者間の人間関係を 良好に保ちながらスムーズに依頼を達成させようとしている。
被依頼者が依頼の妥当性に納得した【承諾】
待 遇 調 整 4 依頼遂行のための問題への解決案を依頼者
に提示する【解決案申し出】
被依頼者が依頼の妥当性に納得した【承諾】
会話を終了する【同意】【受け入れ】
依頼遂行のための問題を被依頼者に求める
【問題提起】
依頼遂行を促す【疑念】【念押し】
依頼遂行のための問題への解決案を提示す る【解決案提示】
依頼遂行のための問題への解決案を提示す る【解決案提示】【受け入れ】
待 遇 調 整 4
【解決案提示】
依頼遂行のための問題への解決方法を依頼者に 求める【問題提起】
【解決案申し出】に対する【負担軽減】
依頼遂行のための問題への解決案を依頼者に 提示する【解決案申し出】
ような展開によって、依頼者の心理的な負担を取り消し、貸してあげたいことを再度伝え ようとするものが見られると考えられる。また、被依頼者の【解決案申し出】に対して
【感謝】や【負担軽減】などが使用される傾向がある。
図13 場面1の日本語依頼会話の待遇調整4の展開
一方、ベトナム語の場合、依頼遂行に必要な事柄に関するやりとりには 2 種類の展開パ ターンが見られた。ベトナム語では、【解決案申し出】は日本語と同様被依頼者による展 開の方が待遇上適切であるが、依頼者から【問題提起】を行い会話を進めようとしても待 遇上の問題は生じない。さらに、その後【感謝】や【謝罪】や【関係修復】などは、ベト ナム語にはまったく現れなかった。小説の貸し借りはベトナム語母語話者にとっては負担 が大変軽いものであるため、相手に感謝を表明するとかえって両者の間に距離を置いてし まうことにつながるのである。また、日本語の場合は【解決案申し出】と【解決案提示】
の後に来る発話は【同意】のみだったが、ベトナム語の場合は解決案通りになるかどうか を疑う【疑念】や、相手に早く依頼行動に移るように促す【念押し】も相手の人間関係が 親密であるために用いられている。
図14 場面1のベトナム語依頼会話の待遇調整4 の展開
意図に納得した【同意】【受け入れ】
両言語の会話において使用されている待遇ストラテジーは以下のような特徴が見られた。
4.1.4.1 日本語依頼会話における待遇調整4(場面 1)
場面1の日本語のデータでは、以下のような待遇ストラテジーが観察された。
(ア) 《行動遂行条件の伝達と理解》に関わる待遇ストラテジー
① 依頼遂行のための問題への解決方法を依頼者に求める【問題提起】(被)
② 依頼遂行のための問題への解決方法を依頼者に提示する【解決案申し出】(被)
これらは、会話参加者が「いつ」「どこで」「何をする」「どのようにする」などの依 頼遂行における条件をお互いに取り決める際、用いられる待遇ストラテジーである。
まず、①にあたる会話例 23では、被依頼者は【承諾】がなされた直後の 20JF4 で「い つ」という問題を出している。被依頼者が依頼遂行のための条件を自分で提起するという 待遇ストラテジーを用いることで、被依頼者は依頼を快く引き受けられることを示すこと ができ、その後のスムーズな条件の解消へとつながっている。
会話例 23 (JP2)依頼者:JF3 被依頼者:JF4
18 JF3: も↑し↑よかったら,おわっ-読み終わってからで全然大丈夫や
から [:,それ貸してくれへんかな[:.
依頼 待遇調整3
19 JF4: [う::ん [.hhh 承諾
20 JF4: うんでも,いつ読み終える- [られるかちょっと分かれへん
[ねんけど:
問題提起 待遇調整4
21 JF3: [ああ,全然
[だって,買わへんかも [と思って [たぐらいの奴やから
[: [うん,全然いつでもいいねんけど
負担軽減
22 JF4: [h [hhhh
[そう [なんや,あ-あ-
受け入れ
23 JF3: [また会った時に [でも一回貸してくれ [へんかな.= 解決案提示
24 JF4: [(うん) [そうやんね. [そうやんね. 同意
25 JF4: =じゃあの読み終わったらまた連[絡するわ. 同意
26 JF3: [うん. 同意
また、②に関して会話例 24 では、22JM2 の【解決案申し出】で課題の解決案を申し出 ることで、依頼を進めやすくするための条件をつけようとしている。この申し出によって、
依頼者の恐縮の意を打ち消し、貸してあげたいことを伝えることになり、その後のやりと りが順調に行えるような足場が用意できると考えられる。
会話例 24 (JP4)依頼者:JM1 被依頼者:JM2
21 JM2: [あ:や-いいよいいよ.] 再承諾 待遇調整3
22 JM2: =いいけどでも:,.hhs いつ読み終るかな,後-えっ?(.)どうしよ
かな::ま一週間くらいあったら読み終わる [(から:)
解決案申し出 待遇調整4
23 JM1: [ あ , 全 然 急
がなくてもいいか [ら:
負担軽減
24 JM2: [あ,本当? 受け入れ
25 JM1: 読み終わったら連絡してくれたら,ま-買って
r-たらあれ-また[一週間
解決案提示
26 JM2: [あ::オッケオッケー.わかったわかった. 同意
(イ) 《人間関係》に関わる待遇ストラテジー
① 【解決案申し出】に対する【負担軽減】(依)
会話例 24のように、被依頼者は 22JM2の【解決案申し出】で承諾した依頼を期待どお りに遂行できるわけではないということを伝えていえる。また、「一週間あったら」とい う条件をつけて依頼遂行の期日について交渉しようとしていることが伝わる。それに対し、
依頼者は、23JM1で急いでいないということを伝える【負担軽減】を行っており、依頼者 はそれに対する配慮として、「全然急がなくてもいいから」と言い、被依頼者の心理的な 負担を減らしている。このように、【負担軽減】は会話参加者同士が互いにやりとりをす る中で両者間の人間関係を良好に保つための待遇ストラテジーとして用いられている。
4.1.4.2 ベトナム語依頼会話における待遇調整4(場面 1)
場面 1のデータでは、日本語では、依頼を行うと、依頼者がその依頼の遂行を促す【問 題提起】の使用を避ける傾向にあるということが前節で明らかになったが、ベトナム語で は、依頼者による【問題提起】が多く見られるということが明らかとなった。 待遇調整 4の場面1の待遇ストラテジーは、以下のようなものが見られた。
(ア) 《行動遂行条件の伝達と理解》に関わる待遇ストラテジー
① 依頼遂行のための問題への解決方法を被依頼者に求める【問題提起】(被)
① 依頼遂行のための問題への解決方法を依頼者に提示する【解決案申し出】(被)
まず、①に当たる会話例 25 では、被依頼者からの【承諾】を受けた依頼者は、自ら依 頼を遂行するための問題を 27VF1(「いつ」「どうやって」)で提起して、その解決案 を求めようとしている。被依頼者は、28VF2 でその問題に対して提案している。 その後、
依頼者は30VF2で小説を渡す方法の問題を続けて提示し、31VF1の確認を受け、32VF2
で解決案を提示している。
会話例 25 (VN1)依頼者:VF1 被依頼者:VF2 25 VF1: =Thì mi↑đọc↑xong đi rồi mi↑
cho↑tau↑mượn↑ .
読み終わってから貸して くれてもいいのに。
再依頼(懇願) 待遇調整3
26 VF2: Ừ はい。 承諾
27 VF1: ↓Khi↓mô--Cỡ khoảng::khi mô mi đọc xong↓tau sang nhà mi lấy↑
いつ?読み終わったらう ちまで取りに行く。
問題提起 待遇調整4 28 VF2: (0.3)Ừ:::, chắc↑cũng↓phải↑tuần
sau.
うん、来週ぐらいかもし れない
解決案提示
29 VF1: ↓Ừ↓ うん。 同意
30 VF2: :Mi vẫn ở chỗ cũ đúng không? まだ前のアパートに住ん でるよね?
問題提起
31 VF1: =[Ừ うん。 受け入れ
32 VF2: [Ừ::::Rứa có chi vài bữa tơ-tơ sang thì tau gọi điện trước hỉ.
それじゃ、行く前に前も って電話をかけるね。
解決案提示
続いて、②にあたる会話例 26 では、日本語と異なり、依頼の【承諾】の代わりに、
28VF4 の【解決案申し出】 が用いられる。被依頼者から小説を貸す日についての問題を
自分から申し出、日時が付属した形で【承諾】を行っている。一方、依頼者はそれを受け て、30VF3で被依頼者が提示した問題の解決案に同意を表し、依頼遂行へと向かう。
会話例 26 (VN2)依頼者:VF3 被依頼者:VF4 27 VF4: [Được rồi,tui đọc:được nửa cuốn
rồi.
ひ ど い よ 。 も う 半 分 ま で 読んだよ。
非難否定
待遇調整3 28 VF4: =Ngày mai hay ngày mốt↑chi↑
đó↑tui¥đem¥cho¥bà¥mượn
明 日 か 明 後 日 く ら い に 貸 すよ。
(承諾)
解決案申し出
待遇調整4
29 VF4: = Nói¥nhiều¥quá. Hhhh うるさいな。 非難
30 VF3: [Rồi ] ↑Rứa↑ngàymốt↑hỉ↑. じゃ、明後日でいい。 受け入れ 31 VF3: =Deadline là ngày mốt đó hỉ.
Nhanh nhanh hỉ.
明 後 日 が 締 め 切 り だ よ 。 早く読んでおいてね
念押し
32 VF4: [hhhhhhhhh]Rồi,biết rồi. 分かった。分かったよ。 受け入れ
このように、日本語と同様ベトナム語の会話においても、被依頼者は、依頼者から依 頼遂行のための問題を出すまで待つより、自ら【解決案申し出】の展開の方が待遇上適切 であるが、ベトナム語では依頼者からの【問題提起】によって会話を進めようとしても待 遇上の問題を生じさせることなくスムーズに交渉を行えることが分かる。
② 依頼遂行を促そうとする依頼者の【念押し】【疑念】(依)
会話例27では、依頼者は16VF5の【解決案申し出】に対し、相手に依頼行動の遂行を