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第4章 待遇調整による依頼会話の展開の特徴

4.2 場面 2(ビデオカメラの貸し借り)における待遇調整

4.2.6 まとめ

(イ)《人間関係》

① 【感謝】※

② 【約束】

(イ) 《人間関係》

① 【感謝】※

待遇調整5 (ア) 《人間関係》

① 【感謝】

② 【関係修復】※

(ウ) 《人間関係》

① 【感謝】

② 【関係修復】※

以下、日本語とベトナム語の依頼会話の各段階の待遇調整における使用されている待遇 ストラテジーの共通点と相違点をまとめる。

(1) 待遇調整1《場の安定》に関する待遇ストラテジー

場面 2のビデオカメラの貸し借りに関しては、依頼者は依頼対象のビデオカメラがその 場にないため、【関連情報要求】や【所有確認要求】によって間接的に依頼対象と関連の ある情報を相手に提供し、相手に自分の会話の目的に気づかせようとしていた。また、

【所有申し出】を利用するパターンはこの場面の特徴である。被依頼者が依頼対象の所有 について話題にするもので、これはちょうど依頼者にとって都合の良い話題であり、その 所有申し出を受けて自分の状況を説明し、依頼の方向へと展開している。これらの待遇ス トラテジーはどれも両言語とも用いられており、会話の「場」を整えていこうとしている。

(2) 【前置き】の有無

【前置き】は本稿のデータの日本語母語話者の会話ではよく使用され、三井(1997)

では、「依頼を行う」という言語行動について言及するメタ言語的な発話は、依頼者の方 向性を示唆するもので、依頼の具体的負担を軽減させることにおいて有効であると指摘し ている。それに対して、べトナム語母語話者にとっては、【前置き】によって依頼を行う 予告をすると、負担度が非常に大きな依頼が行われると解釈されてしまうこともある。特 に友人関係の場合、被依頼者によそよそしさを与えてしまい、距離を置かれてしまう可能 性が高いため、使用されないと考えられる。

(3) 待遇調整2における【状況説明】と【状況確認要求】

負担度が中である場面2では、【状況確認要求】で被依頼者が置かれている状況を確 認すると共に、【状況説明】で①依頼を行いたいという自分の願望・意思と②依頼を行う 必要があるので依頼を行いたいという動機のほかに、場面2の特徴となる③被依頼者を頼 らざるを得ない状況にあるという依頼の行動前提のバリエーションが増える。しかし、場

面2では【状況確認要求】の欠落している場面も観察された。その理由としては【所有確 認要求-確認】の出現と、毎日使うものでなく、【依頼】を受けてしばらく貸すことに特 に差し障りがないビデオカメラの依頼対象、という二つが挙げられる。すなわち、依頼を 行う「妥当性」が高い場面で【状況確認要求】が欠落しても支障がないと考えられる。

(4) 被依頼者を説得しようとする待遇ストラテジーの使用

さらに負担度が中程度の場面2では、待遇調整2 の後、依頼行動を働きかける待遇調整 3 を行っても「妥当性」が満たされず、被依頼者を説得できないこともある。このよう な場合は両言語とも 待遇調整2 に戻り、さらに工夫して再度依頼を行う必要がある。し かし、被依頼者を説得しようとする待遇ストラテジーの使用に関しては、両言語において 相違点が見られた。

日本語の場合、場面2では、被依頼者は依頼された行為を行う場合の負担が比較的重い ため、その依頼を受けるべきかどうかを【状況詳細要求-説明】で確かめようとしている。

【状況詳細要求】とは 待遇調整2 の【状況説明】で説明されなかった情報や、説明され た情報の詳細を被依頼者が求めるものである。それに加え、依頼行為の条件を自分の能力 に合うように緩和してもらおうとする【条件緩和要求】も見られた。

一方、ベトナム語では、依頼者側が【依頼】を拒否した被依頼者の【承諾】を得るため の待遇ストラテジーとして、【状況詳細説明】、【約束】、【条件緩和】などを用い、依 頼の条件を調整しながら被依頼者を説得しようとする。ベトナム語母語話者の間では、依 頼が断られた場合、依頼者が相手の【承諾】を得ようと依頼の条件を緩和し、交渉するこ とが一般的である。フォローアップによると、被依頼者は「遂行できる能力が足りないと しても、断ることは相手にとって不愉快なことでもある」「自分のことを信じてせっかく 依頼を行ってくれたのに、こちらから何も役に立てなくて、申し訳なくなるから」という 理由で、【条件緩和要求】【約束】などを使用しているということである。それに対し、

日本語母語話者は相手とどんな関係にあっても、いったん断られたら再度依頼することを 避ける傾向にあるようである。「相手がこの依頼を遂行できない事情があるから断ったの で、相手を困らせないようにする」「再度依頼してしまうことで相手に気をつかわせてむ りやり承諾してもらいたくないから」などの理由から、再度依頼を行わないことが多いと 考えられる。

(5) 待遇調整3の【依頼申し出】の有無

本稿のデータでは、ベトナム語母語話者の会話データでは【依頼申し出】が多く見られ た。【依頼申し出】は依頼者が依頼を明言することが苦手であったり、依頼しにくい場面 である場合にはベトナム語母語話者の依頼者が好まれている展開のパターンである。被依 頼者は相手の【状況説明】の間相手の苦境の度合いや自分がその手助けをする能力を持っ ているかどうかを判断し相手の依頼まで待たずに依頼を申し出た方が相手の心理的な負担 を軽減でき、依頼者にとって依頼行為が容易になると考えられる。ただし、フォローアッ プインタビューによると、実際の会話では依頼者が詳しく状況を説明したにもかかわらず 被依頼者から依頼の申し出が得られなかった場合は、途中で依頼行為をやめてしまうこと も少なくないということが分かった。

(6) 明示的な【承諾】の使用

場面 1では、ベトナム語の依頼会話には明示的な【承諾】が現れず、【承諾理由説明】

【解決案提示】または【問題提起】によって、依頼者に間接的に被依頼者の【承諾】を理 解させていた。しかし、場面2では、日本語でもベトナム語でも必ず【承諾】が明示的に なされていることが観察された。

(7) 【再依頼】の使用

本稿の場面2のデータにおいて、日本語の依頼会話では、【再依頼】は被依頼者の【承 諾】を受けるための実質的な【依頼】ではなく、【承諾】を既に受けた後、被依頼者との 関係に配慮し、その関係を保つ役割を果たすためのものとして行われていた。それに対し、

ベトナム語依頼会話における【再依頼】は、【懇願】の役割をもち、依頼の【拒否】また

【保留】を受けた段階で出現し、相手の【承諾】を得るための待遇ストラテジーとして使 用されていた。ベトナム語では、【承諾】が得られない場合、依頼条件を緩和したり、自 分の状況を詳しく説明したり、約束したりして依頼を引き受けやすいものにした後、【再 依頼】を行っていた。

(8) 【負担軽減】の有無

場面2では、【負担軽減】は日本語依頼会話のみに現れた。日本語会話における【負 担軽減】は「いいの?」「ほんとうに?」のような形式であり、実質的な確認というより は相手の心理的な負担を軽くするための発話である。これはベトナム語母語話者の間の依 頼会話には見られなかった。

(9) 【感謝】の使用

【感謝】は「ありがとう」「助かるわ」のような発話を指すが、日本語の場合は、日本 語母語話者が謝罪・感謝表現を多く使用する文化的背景にあるため、いったん【依頼】を 行えば、【承諾】はもとより、【拒否】の際にも必ず【感謝】を行う必要がある。それに 対して、ベトナム語母語話者は、親しい間柄で感謝の気持ちを表したいとき、「ありがと う」という言葉を明示してしまうと、かえってよそよそしく感じられる。それゆえ、ベト ナム語の依頼会話では、【感謝】は、小説の貸し借りの場面 1 には現れなかったが、それ より負担度が重いビデオカメラの貸し借りにおいては、「cảm ơn ông trước nhé!(予めよ ろしくお願いします)」のように使用されていた。それに対して、被依頼者が「Khách sáo mày.(そんなに遠慮するなよ)」のように会話参加者間の関係を修復する発話を行っ て、良好な関係を保とうとしていた。

(10) 会話の締めくくり方

日本語の依頼会話では会話を終らせるために、【承諾】がなされたか【拒否】がなされ たかを問わず、いずれの会話においても人間関係を修復する待遇ストラテジーが使用され ている。依頼を承諾した場合に使用された待遇ストラテジーは、①依頼を承諾してくれた ことへの感謝の気持ちを表す【感謝】、②依頼を行ってくれることに対して恐縮の意を表 明する【謝罪】、③今後も良好な関係を続けていく【関係修復】である。ベトナム語の場 合も、日本語と同様に、【感謝】と【関係修復】によって会話を終了させようとしている。

ただし、【感謝】と【関係修復】は【依頼申し出】や【解決案申し出】がなされた場合の み観察されている。また、 待遇調整4 を終えた時点で会話も終了させようとしていると いう会話も観察された。このように、負担度が比較的重くなる場面2においても、ベトナ ム語母語話者にとっては【負担軽減】、【感謝】、【関係修復】などを相手に表明すると、

かえって両者の間に距離を置いてしまい、改まった場面や親しくない相手以外には使用す るのを避ける傾向にあると考えられる。

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