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第5章 日本語とベトナム語依頼会話の待遇調整の考察

5.2 ベトナム語会話依頼会話における待遇調整の考察

ベトナム語の依頼会話における待遇調整の展開は、日本語の依頼会話と異なり、依頼の 負担度を問わず、心理的な準備を行う 待遇調整1 の後、 待遇調整2 と 待遇調整3 を繰り 返し、その後、 待遇調整4 で会話を終了させ、 待遇調整5 は欠落するという展開が観察 されたのが特徴である。

まず、 待遇調整1 で被依頼者への心理的な準備を行った後、依頼者は自分の陥ってい る状況に関する【状況説明】、また被依頼者の現在の状況に関する【状況確認要求】を行 うことで、依頼を行う前提条件を確認する 待遇調整2 が行われた。その後、《働きかけ と働きかけられ》の待遇ストラテジーとして、依頼者が【依頼】を行い、依頼の意図を明 示しようとする 待遇調整3 を遂行していた。ただし、負担度を問わず、被依頼者からの

【状況説明要求】や【依頼申し出】など、【依頼】を行わなくても依頼目的を遂行できる ようにする展開パターンの方が好まれるようであった。そのため、 待遇調整2 での依頼 対象に関する情報を交換する段階では、依頼者が被依頼者から【状況説明要求】が得られ るように、自分の目的に添った方向へ話を展開させ被依頼者に好奇心を抱かせるような終 了の仕方になるように工夫したり、また依頼を行う 待遇調整3 で被依頼者の【依頼申し 出】が得られるように、【状況説明】の際に自分の困っている状況をできる限り理解させ ることにも重視していた。これは、ベトナム語では、いったん【依頼】を行ってしまうと 被依頼者が依頼者の面目などを考えて無理矢理承諾することもあるため、そのような被依 頼者への配慮として依頼会話成立の決定権を被依頼者に譲ろうとするからである。すなわ ち、被依頼者は会話の中でその依頼を遂行する能力が自分にあるかどうかを判断し、【依 頼申し出】をするか、あるいは別の話題に移る決定権を持つことになるのである。

次に、依頼を【承諾】するか【拒否】するかが決まった後、いつ返すか、どこで渡すか のような問題をお互いに解決して依頼の行動を遂行しようとする 待遇調整4 を行ってい た。待遇調整4の使用に関しては、場面3で両言語において大きな相違点が見られた。日 本語の場合は、場面3では待遇調整4が欠落してしまったのに対して、ベトナム語の場合

《 場 の 安 定

》 会話開始【挨拶】【情報要求】

会話の意図の認識【理解】

【依頼申し出】を引き出そうとする【関連情報評価】

は、場面1と場面2と同様、場面3においても、会話参加者によって【問題提起-解決案 提示-同意】や【解決案申し出-受け入れ】の連鎖を通して貸し借りの条件をめぐる問題 を解決し、会話を終了させるという展開が一般的であった。

待遇調整5は、負担度が軽い場面1では見られなかったが、場面2や場面3になると、

【依頼申し出】、【解決案申し出】の出現により、【負担軽減】、【感謝】などのこれか らの両者の人間関係を良好に保とうするストラテジーを用いて依頼を終了させていた。

以下では、それぞれの待遇調整の特徴を考察していく。

5.2.1 ベトナム語の待遇調整1(会話開始)

ベトナム語の会話データでは、日本語と異なり依頼の負担度を問わず、 待遇調整1 の 終了後、被依頼者から【状況説明要求】や【依頼申し出】を申し出てもらう展開パターン が望ましい。それゆえ、 待遇調整1 の段階で依頼対象を話題にし被依頼者に好奇心を与 えることで、【状況説明要求】を得て、依頼の理由をスムーズに言いやすい場を作ること ができる。とりわけ、場面3のような依頼しにくい場面では、このような展開で、待遇調 整1 をうまく終了させることによって 待遇調整2 への足がかりを上手に作ることができ、

言いにくい依頼理由を前もって知らせる実質的な準備のステップになると考えられる。

45 ベトナム語依頼会話の待遇調整1の展開

まず、場面1では、依頼対象の情報(小説の内容)を詳しく聞き出し、「Đúng gu mình luôn.(ちょうど読みたいジャンル)」という【依頼対象への評価】で依頼対象に関する 興味を示し「私も読んでみたい」と伝えることによって、依頼を行うのに適した環境を作 ろうとしていることが分かった。

前提条件の共有によって被 依頼者の状況を把握しよう とする【所有確認要求】

【所有申し出】の活用 依頼の場を作ろうとする

【依頼対象の情報要求-提供】

【依頼対象への評価要求―評価】

依頼者の方向性を示唆 する

【前置き】

2 3

1 2 3 3

負担が中程度の場面 2では、ビデオカメラの貸し借りに関しては、依頼対象に直接言及 するのではなく、依頼対象と関連のある情報を相手に提供する【関連情報要求】や【所有 確認要求】によって、相手に自分の会話の目的に気づかせようとしていた。また、被依頼 者が依頼対象の所有について話題にする【所有申し出】のパターンは場面2の特徴であり、

その【所有申し出】を受けて自分の状況を説明し、依頼へ展開している。さらに、 待遇 調整1 の【前置き】は依頼者の方向性を示唆するもので、依頼の具体的負担を軽減させ ることにおいて有効であり、本稿のデータの日本語母語話者の会話ではよく使用されてい る。それに対して、ベトナム語母語話者にとっては、【前置き】によって依頼を行う予告 をすると、負担度が非常に大きな依頼が行われると解釈されてしまうこともある。特に友 人関係の場合、被依頼者によそよそしさを与えてしまい、距離を置かれてしまう可能性が 高いため、使用されないと考えられる。

最後に、場面3の依頼対象であるお金は、相手のお金に関する状況を直接確認する【所 有確認要求】や【所有確認申し出】が用いられず、①【関連情報要求-提供】と②【前置 き】で会話が開始されている。①【関連情報要求-提供】の連鎖の中では、依頼対象と関 連づけやすい話題をめぐって雑談と依頼目的とのバランスを調整しようとしている。さら に、依頼会話を始める話題の選び方は、それぞれの文化背景と関わっている。【関連情報 要求-提供-理解】の話題として、日本語母語話者には「パソコンの買い換え」「仕事の 最終目的」といった間接的な話題が好まれ、ベトナム語母語話者には「給料日」「貯金の 状況」といった直接的な話題が多く使用されるという相違が見られた。また、【前置き】

は場面2に見られなかったが、場面3になると使用されるようになった。しかし、【前置 き】は、被依頼者にこれから依頼を行うという心理的準備を与えるものであり、依頼へ向 けた雑談である【関連情報要求-提供】と同様の役割を果たしているため、【前置き】の 出現によって依頼対象に関する雑談を省略することが可能である。また、友人関係の場合、

「ちょっとお願いがあるんだけど」という【前置き】は、よそよそしさを与えてしまうた め、依頼の負担を軽減させることに有効であるどころか、相手に負担を重く感じさせる可 能性が高く、使用されにくい傾向にあると考えられる。

以上より、日本語では、負担度が重いほどより【関連情報要求-提供】の連鎖が複雑に 展開されるようになる一方、ベトナム語では負担度が重いほど、【前置き】によって展開 されるようになることが明らかとなった。

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