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第4章 待遇調整による依頼会話の展開の特徴

4.3 場面 3(お金の貸し借り)における待遇調整

4.3.3 場面 3 の待遇調整3(働きかけ)

4.3.3.1 日本語依頼会話における待遇調整3(場面 3)

(ア) 《働きかけと働きかけられ》に関わる待遇ストラテジー

① 依頼の予告をしようとする【前置き】(依)

負担度が中程度の場面 2 と同様に、場面 3 の待遇調整3において観察された【前置き】

は、 待遇調整1 において観察された【前置き】と異なり、以下のような聞き手との人間 関係を保つための配慮である「対人配慮型」が見られた。

まず、会話例 81 のように「恥ずかしいんだけど」、「〜すみませんが」、「悪いんだ けど」といった「詫び」の言語形式を用いることで対人的配慮を表している。また、この 類の【前置き】が用いられる場合、 その対象となる言語行動は聞き手にとって多少負担 のある行動で、次の行動を促そうとすることがこの【前置き】を用いる目的となる。

会話例 81 (JP15)依頼者:JM3 被依頼者:JM4

09 JM3: 同僚にこんな願いするのがすげー恥ずかしいんだけど [: ] 前置き 待遇調整3

10 JM4: [うん]受け入れ

11 JM3: 一万貸してくれないかな:: 依頼

12 JM4: 一万円..h[.h 保留

また、会話例 82 で用いられている【前置き】は、「別にそのためだけに呼んだんじゃ ない」といった【釈明】であり、依頼者が自分の行動について補足説明を行うことで対人 的配慮が表されると考えられる。依頼者は自分のこれから行う依頼が聞き手にとっては望 ましくないかもしれないと考え、聞き手に不快感を与えてしまうのを前もって避けようと している。それによって、被依頼者との人間関係の維持を図ることができると期待される。

会話例 82 (JP14)依頼者:JM1 被依頼者:JM2

67 JM1: (0.8)頼るところは持つべきものでは:? 状況説明 待遇調整2

68 JM2: hhh[h 理解

69 JM1: [友達だということで:. 状況説明

70 JM2: [おう. 受け入れ

71 JM1: [>別に<そのためだけに呼んだんじゃ [(ないからね). 前置き 待遇調整3

72 JM2: [あ::hh分か(h)るよ

(h),全然.

受け入れ

73 JM1: もしもし持ってたら:, [ ](1.3)その:,資金援助してく

れないかなと [思って.貸して(.)くれ [ないかなと(思っ て).>でも,<

依頼

74 JM2: [う:ん.]

[hh [あ:,そうなんだ..

保留

② 被依頼者に明示的に働きかける【依頼】(依)

ベトナム語母語話者による依頼会話では被依頼者による【依頼申し出】が期待されるが、

日本語母語話者による依頼会話では、負担度が非常に高い場面3でも【依頼】が欠落して いる会話が見られることはなかった。このことから、日本語母語話者は、明示的な【依頼】

のみが被依頼者に依頼行動を促す待遇ストラテジーとして行われることが分かる。【依頼】

の際は、言語形式を慎重に選ぶことにより、依頼によって与える負担を緩和でき、負担が 重いほど、【依頼】は複雑に構成されると予想されたが、実際場面3では会話例83の「一 万円貸してくれへんかな」や「できたら,1 万円貸してほしいんだけど」のように単純な構 造となっていた。【依頼】の直前に用いられる【前置き】は【依頼】を予告するもので、

その【前置き】によって依頼者が自分の行動について依頼内容説明の前段階を示し、被依 頼者との人間関係の維持を図ることができるからであると考えられる。

会話例 83 (JP15)依頼者:JM3 被依頼者:JM4

09 JM3: 同僚にこんな願いするのがすげー恥ずかしいんだけど[: ] 前置き 待遇調整3

10 JM4: [うん ] 受け入れ

11 JM3: 一万貸してくれないかな:: 依頼

12 JM4: 一万円..h[.h 保留

③ 【依頼】を引き受けることを明示的に表す【承諾】(被)

場面 2のように、明示的な【承諾】を用いることにより、被依頼者は、依頼者の面子を 保つことができ、依頼者との対人関係を良好にすることができると考えられる。場面3で は【依頼】を明言してからすぐに【承諾】を行った会話が1例(JP13)、【依頼】を【保 留】したままで【状況詳細要求】、【約束要求】といった連鎖などがなされてから【承諾】

が決まるものが3例(JP12・JP14・JP15)見られた。これにより、場面3の【承諾】の位 置については a)依頼の意図を理解した後すぐに【承諾】を表し、その後交渉を行うパタ

ーンと b)【依頼】を明言した後、問題となる依頼理由となる前提条件あるいは依頼遂行

のための条件(時間・日にち・約束・妥当性など)を交渉した後、条件付きで【承諾】を 行うパターンが見られた。

まず、a)にあたる会話例 84 では、場面 1と場面 2 のように、63JF5 の【依頼】がなさ

れた直後 64JF6 の【承諾】がなされた。この【承諾】における待遇ストラテジーは、明示

的に「いいよ」と返事することで依頼による負担を快く受け入れることを見せ、依頼者の 心理的な負担を軽くしようとしており、【依頼】の直後に【承諾】を行うことでその依頼 による負担をすぐに受け入れられることを相手に伝え、依頼の理由や依頼の表現を工夫す る必要がないと依頼者に伝えようとするといったものが見られる。

会話例 84 (JP13)依頼者:JM1 被依頼者:JM2

63 JF5: [もし:,もし\あれだ(h)ったら\, [ ][その足りない分-貸

して [もらってもい [い?

依頼

待 遇 調 整 3 64 JF6: [え: [う:ん. ][あっ. (0.6)いい

よ.いいよいいよ [うん.うん. [いいよいいよ.

承諾

65 JF5: あの再来週(.)お給料 [が入ったら,すぐ-\すぐ返(h)[すか(h)ら.

すぐ返(h)すから.\]

約束 66 JF6: [あ,>全然全然全然.<うん. [hhhh

].hh [オッケーオッケー.]

受け入れ

67 JF5: [うんうん. ] [本当に? 負担軽減

68 JF6: [全然大丈夫だよ. 受け入れ

62 JF6: [あ(h)h.hあ [:まじか:. 理解

次に、b)に当たる会話例85では、依頼者の【依頼】を受けた後直ちに承諾するかどうか を決めずに【保留】を行っている。それに対して、依頼者は、75JM1 から79JM1までで自 分の状況を詳しく説明し、81JM1・83JM1・85JM1・87JM1 で「いつ返すか」「返す能力」

などの約束を行っていた。その後、89JM1 の【再依頼】を受けた被依頼者は、94JM2から

96JM2 にかけて承諾の理由を説明し、102JM2 で【承諾】を明示的に行っていた。この

【承諾】は、「一万円ぐらいだったらま大丈夫かな」のように条件付きの言語形式で行わ れ、依頼の事情について十分に納得した上での承諾であることが明示されている。

会話例 85 (JP14)依頼者:JM1 被依頼者:JM2

73 JM1: もしもし持ってたら:, [ ](1.3)その:,資金援助して

くれないかなと [思って.貸して(.)くれ[ないかなと(思 って).>でも,<

依頼 待遇調整3

《働きかけ》

74 JM2: [う:ん.]

[hh [あ:,そうなんだ. 保留

75 JM1: (0.8)今,さっきも言ったよね. [ ].h来月は,[ ]

(0.5)なったら 2,3万円高くなると.

状況詳細説明

76 JM2: [うん.]

[うん.] う:ん.

理解

77 JM1: でも,俺は,そのこの-バーゲンを知らず貯めてたから

[:,来月の分の貯金は俺あるんだよ.意味分かる?来月は 絶対貯めれるの.

状況詳細説明

78 JM2: [う:ん.

ああ,うんうん, 分かる分かる.うん.

理解

79 JM1: (0.5)だ:さ,一万差し引いても,2,3万は(1.2)プラスが出るわ

け.

状況詳細説明

80 JM2: う:ん. 理解

81 JM1: >ということは<確実に返せるし, 約束

82 JM2: う:ん. 受け入れ

83 JM1: >その<貯金してた分で [:,なんかこう,楽しいことができ

るんじゃないかみたいな.

約束

84 JM2: [う:ん.

なるほど[ね..

理解

85 JM1: [>別に<取引してるわけじゃない [(けど:,) 約束

86 JM2: [hhh う:ん. 受け入れ

87 JM1: 安心して貸し-なん-なん-わ-言いたいこと分かる?= 約束

88 JM2 =hh 分(h)か(h)る, [分(h)か(h)るよ.\分かる分かる.

\お:,分かる分かる.=

受け入れ 89 JM1: [hhhh

=そだからもしよかったら:,

再依頼

90 JM2: うん. 受け入れ

91 JM1: かし-今-も今すぐにでも駆け込み [たいぐらいだから[:, 再依頼

92 JM2: [うん. [ あ(h),ほんと(h).

受け入れ

93 JM1: .hできれば持ってたらあれかな:と [思ったんだけど]い

け [る:-

再依頼

94 JM2: [そっか:. ]

[ま確かにね,こ:,在庫とかも限り

[あるかもしんないしね:.]

承諾理由説明 待遇調整3

《人間関係》

95 JM1: [そうそうそうそう. ] 理解

96 JM1: .hh一万あったかな.(3.0)ま俺最近ちょっとね忙しくて金 使う機会ないか [ら: , ]そんなにはまあ:,

承諾理由説明

97 JM2: [まじで? ]= 負担軽減

98 JM1: =゜ありがとう:::.゜ 感謝

99 JM2: て-てないと思う. 受け入れ

100 JM2: (1.0)一万-一万円だよね? 状況詳細要求

101 JM1: ピ-ポッキリ. 状況詳細説明

102 JM2: .hhあ:一万円ぐらい-(0.7)一万円>ぐらい<だったらま大丈

夫かな.

承諾

103 JM1: い::や,<助かっ [た: : .> 感謝

④ 依頼の負担を軽減しようとする【承諾理由説明】(被)

場面 3では、場面2と同様に、【依頼】に対する【承諾】を明確に行う際に、被依頼者

は96JM1「俺最近ちょっとね忙しくて金使う機会ないから」(会話例 85)、47JF4「ちょ

っと今月余裕あるから」(会話例86)のような【承諾理由説明】を行っていた。

会話例 86 (JP12)依頼者:JF3 被依頼者:JF4

46 JF3: [お(h)ね(h)が(h)い(h) ] [.hh\ということで.\ 再依頼 待遇調整3

47 JF4: う:ん,まあまあまあ,私はうん,あの:(0.8)大丈夫.ちょっと今月

余裕あるから.

承諾理由説明

この【承諾理由説明】の発話からも、お金の貸し借りの負担は確かに重いが、余裕があ る状況にあるということが推測でき、依頼によっては迷惑をそれほどかけられていないと いうことを依頼者に伝えるという対人的な配慮が見られた。

⑤ 交渉後再び依頼を明示的に行う【再依頼】(依)

場面 2の日本語では、【再依頼】は被依頼者の【承諾】を受けるための実質的な依頼で はなく、依頼が承諾された後に、会話参加者の関係に配慮し、その関係を保つ役割を果た すためのものとして行われていた。しかし、会話例 85 のように、場面 3 の【再依頼】は、

依頼者が74JM2の【保留】を受けた場合、75JM1から 79JM1までで自分の状況を詳しく

説明したり、81JM1、83JM1、85JM1、87JM1 の【約束】をしたりした後、行っていた。

言い換えれば、場面3における【再依頼】は、依頼の【保留】を受けて交渉を行う段階で 出現し、【承諾】を得るための待遇ストラテジーであると考えられる。

このように、負担度が重い場面 3 では、依頼者は、待遇調整2で依頼の理由となる前提 条件を説明し【依頼】を行っていたが、【承諾】を引き出すことに成功できなかった場合 は、 待遇調整2 を再び行い、被依頼者を説得しようとしていた。被依頼者を説得できた 後に自分から【再依頼】を行うことができる。このような【再依頼】は、被依頼者の【承 諾】を得ようとする交渉であるための待遇ストラテジーの一つだと考えられる。

⑥ 【依頼】を引き受けないことを間接的に表す【拒否理由説明】(被)

日本語の場面3では、依頼を承諾できなかった依頼会話が1例(JP11)見られた。

会話例 87 では、21JF1 の【依頼】の直後、応答が保留されている。しかし、被依頼者 はその依頼を引き受けず、【拒否】を言語形式で表す代わりに、27JF2 の【拒否理由説明】

を行っている。ここでは、27JF1 の「給料前だからちょっと今厳しいんだけど」のように、

依頼者による依頼を遂行する能力、前提条件をもっていないことを理由として依頼を間接 的に拒否していた。

会話例 87 (JP11)依頼者:JF1 被依頼者:JF2

21 JF1: .hできたら,(1.5)貸してほしいんだけど,゜お金゜. 依頼(懇願) 待遇調整3

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