第5章 日本語とベトナム語依頼会話の待遇調整の考察
5.1 日本語依頼会話における待遇調調整の考察
5.1.2 日本語の待遇調整2(説得)
待遇調整2 は、依頼者は自分の陥っている状況についての【状況説明】、被依頼者の 現在の状況に関する【状況確認要求】を行うことで、依頼者が被依頼者に依頼を行う前提 条件を理解してもらい、被依頼者を説得しようとする段階である。本稿で扱う会話資料を 分析した結果として、 待遇調整2 は、日本語の依頼会話のいずれの場面においてもほぼ すべての会話に現れ、負担度が重いほどより多くの待遇ストラテジーを用いて展開するこ とが明らかとなった。
待遇調整2《行動前提伝達と理解》
依頼者が陥っている状況を被依頼者に伝える
【状況説明】
2 1 3
被依頼者の依頼遂行能 力を把握しようとする
【状況確認要求】
1 2 1 2 3
頼らざるを得ない状況 緊急性表明 2
1 3 2 3
待 遇 調 整 3
《 働 き か け
》
3
図40 日本語依頼会話の待遇調整2の展開
待遇調整2 では、高木(2009,p.67)の行動前提の分類を参考として分析した結果、
以下のような行動前提に関わる待遇ストラテジーが見られた。これらの行動前提に関わる 待遇ストラテジーは、依頼者が依頼の負担度に適切な展開であるかどうか判断して用いる ことで、依頼の「妥当性」を高めようとするものである。以下のようにまとめられる。
(ア) 環境的な前提:① 依頼者が置かれている状況➡【状況確認要求】(場面1・2)
(イ) 動機的前提 :② 依頼者の願望・意思 ➡【状況説明】(場面1・2)
③ 依頼行動の必要性 ➡【状況説明】 (場面1・2・3)
(ウ) 事実的前提 : ④ 頼らざるを得ない状況 ➡【状況説明】 (場面2・3)
➡【状況詳細説明】 (場面2・3)
⑤ 緊急性 ➡【状況説明】 (場面3)
待遇調整2 依頼の妥当性を高めるよう求める
【状況詳細要求】
2 2
依頼の妥当性を高めて被依頼者を説 得しようとする【状況詳細説明】
被依頼者を安心させて依 頼の妥当性を高めようと
する【約束】
依頼内容を調整しようと する【条件緩和要求】
3
【条件緩和】
願望・意思表明 必要性表明
被依頼者の会話の意図の認識【理解】
被依頼者の依頼の妥当性の高低の認識【理解】
被依頼者に明示的に働きかける【依頼】
1 2 3
被依頼者が依頼の妥当性に納得した 被依頼者が依頼の妥当性に納得しない 1
依頼を引き受けることを明示的に表す【承諾】
被依頼者が依頼の妥当性に納得した
3
➡【状況詳細説明】 (場面3)
(エ) 責任的前提 : ⑥ 依頼遂行後の責任 ➡【約束】 (場面3)
日本語依頼会話の待遇調整2の特徴は以下のように2点にまとめられる。
(1) 負担度が重いほど複雑に展開される。
(2) 負担度が重いほど行動前提を伝えようとする待遇ストラテジーが多様化する。
まず、負担度が軽い場面1では、依頼対象が小説であるため、依頼者は、①依頼対象の 所有を確認すると同時に、②依頼を生じさせたいという願望・意思と③依頼を行う必要性 という動機といった依頼行動の前提を提示して被依頼者を説得しようとしている。
負担度が中である場面2では、①【状況確認要求】で被依頼者が置かれている状況を確 認するとともに、【状況説明】で②願望・意思、③依頼の必要性のほか、場面2の特徴と なる④被依頼者を頼らざるを得ない状況にあるという依頼の行動前提も見られ、行動前提 のバリエーションは場面1より多い。ただし、場面2では【状況確認要求】の欠落した会 話例も観察されたため、依頼を行う「妥当性」が高い場面では【状況確認要求】が欠落し ても支障がないと考えられる。
場面 3 では、依頼対象であるお金について被依頼者に「1 万円持ってる?」といった
【状況確認要求】を行っているが、もしも被依頼者が依頼者の目的を知らずに答えてしま うと、その後の【依頼】を受けたくなくても拒否理由を出せなくなる恐れもあり、被依頼 者には即答しにくいため、場面3では「環境的な前提」を提示せずに、【状況説明】の中 で「動機的前提」と「事実的前提」を待遇ストラテジーとして使用していたのだと考えら れる。実際には、②依頼者が依頼を行いたいという自分の願望・意思、③依頼をしたい動 機といった「動機的前提」より、④被依頼者を頼らざるを得ない状況、⑤緊急性といった
「事実的前提」の方が多く使用されていた。さらに、場面3は緊急ではない場面として設 定したが、1 万円を貸してほしいという依頼の内容が非常に重い負担であるため、依頼者 は依頼を行う「妥当性」を高めようと依頼の緊急性をストラテジーとして用いていた。⑤ 緊急性といった「事実的前提」は、場面1と場面2では見られず、場面 3の特徴となる。
さらに、負担度が中程度の場面2と負担度が重い場面3では、待遇調整2に続いて待遇調 整3 を行っても、依頼の「妥当性」が満たされず、被依頼者を説得できないこともある。
このような場合には、被依頼者が納得するまで待遇調整2を工夫して行う必要がある。