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初期の作品のためか構成などの面で若干の拙さがあるのは否定し難いが、以上のような 内容は安懐南の小説中では戦後の作品を含めても類例を見出しにくいほどの衝撃的で異質 なものと言えよう。以下では本作品の主人公

A

の性格と彼の見せる恋愛の特徴について、

A

自身、

K、そして P

の視点から描かれた場面をそれぞれ引用しつつ、分析・考察を加えるこ

とにしたい。

A

という人物について見る時に第一に注目されるのが、彼の非社交的な性格と孤独、陰気 で無口な姿である。彼が十代前半の

W

高等普通学校の学生時代から現在に至るまで、ずっ とこのような性格の持ち主であることを

K

は以下のように語っている。

(57)〔…〕녯날학생시대에 그와가티 종로(鍾路)를 산뽀하다가 소위 「모던껄」을 맛나면 그는거 규칙적으로 침을배텃다 울긋불긋한치마자락이 우리압헤서 번뜩어리면 그는전차길을건너저쪽길 로달어나는성질이었다 해필여자뿐이아니라 사람이라면 무슨종유어느게급을물론하고 통틀어 미워 하고 욕을하엿다 지금도 그는 자긔의부모형제가 자긔 병실을 방문하는것을실허하는 것이엇다〔…〕

〔…〕昔学生時代に彼と一緒に鍾路を散歩している時、いわゆる「モダン・ガール」に会うと彼はほぼ 規則的に唾を吐き捨てていた。派手なスカートの裾が私たちの前でちらつこうものなら、彼は〔路面電 車の〕線路を渡り向こうの道へと逃げていくような性質の持ち主であった。彼はなぜか決まって、女性 のみならず人というものならば種類階級を問わず全てひっくるめて憎悪し、罵倒していた。今も彼は自 らの父母兄弟が自分の病室にやってくるのを嫌がっているのだった。〔…〕384

このように彼は他人という他人全てを嫌っており、その中でも特に若い女性と自らの家 族に対する嫌悪感や敵対心を露わにして意図的に避ける傾向にある。他の例としては、前 者では「ふざけて笑いながら歩き回る看護婦を見るのが嫌で」385

S

病院の看護婦らに対 する嫌悪感が述べられている一節があり、後者では上のように自分の家族すら病室に入っ

383 前編の最初の部分のみ【一】【二】【三】…という段落分けがなされているが、作品全体に渡ってこの ような細分がなされているわけではないため【一】【二】【三】…の区分はここでは全て省略してある。

384‘寂滅’前掲書、19321119日付

385‘寂滅’前掲書、19321125日付

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てくることを禁じ、親しい

K

P

にばかり看病や身の回りの世話を任せて話し相手になっ てもらっている場面386が何度も出てくる。A・K・Pは昔から「互いに恋人のような愛情を 抱きながら過ごす仲」387であったのだが、それにも拘わらず

A

は親友の

K

P

に対してさ え以下のようなあまりにも冷淡な言動を見せている場面がある。次のうち(58)が

K

に対 して

A

が見せた態度、(59)が

P

に対して見せた態度である。

(58)〔…〕A 는물론언제나한모양으로 누어잇섯다 간혹그를위로하는말이나 성숙이또는물레방아깐의 처녀에게대한 의견을들어보면 대답은고사하고 그는얼골을찡그리는것이엇다 그래서어느때에는 그의비위에마즐만한말가령

「아아 세상은참허무하다 사람은무엇때문에사나?」

슬적이런말을하고나서는 그의 눈치를살펴가지고

「A―너성숙이생각안나니」

하고물으면 그는알엇다는드시 얼골을돌리며

「다―고만둬 뭇지말어―」

하는것이엇다

이러케늘그의무거운 침묵주의(沈默主義)에 눌려지냇다〔…〕

〔…〕もちろん A はいつも同じ姿で横になっていた。たまに慰めてやろうと思って声をかけたり、聖 淑や水車小屋の少女についての意見を訊いてみたりしても、彼は答えてくれるどころか顔をしかめるの だった。そのため、時々彼の機嫌がよくなりそうな言葉、例えば、

「ああ、この世は儚いものだ、人は何のために生きてるんだろうか?」

何気なくこんなふうに言っておいて彼の顔色を窺い、

「A、お前聖淑のこと思い出したりしないのか」

と尋ねてみても、彼は分かったというように顔をそむけて、

「もう止めろ、訊くな」

と言うのだった。

こんなふうに〔私(K)は〕始終彼の重苦しい沈黙主義に押しつぶされながら過ごしていた。〔…〕388

(59)〔…〕허둥지둥A가누어잇는방엘들어오니 물론A가쪼차보낸것이겟지마는 그의가족들은모다돌아

386‘寂滅’前掲書、19321125日付 など

387‘寂滅’前掲書、19321125日付

388‘寂滅’前掲書、19321125日付

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간모양이고 여전히A는멀거니누어잇는대 술김에도방에서 여태껏맛허보지못한 괴악한내음새가확 끼치드라〔…〕방이캄캄하기에 불을킬냐고 석냥을찻다가 더듬더듬A의밧작말은 팔을만젓다 엇전지 긔분이조치못하더라 그리고A는 일상버릇으로불을못키게햇스며 이야기도안하고 내가말하는대 답도 안햇다〔…〕

〔…〕慌ててAが横になっている部屋に入ってみると、無論Aが追い出したのだろうが彼の家族は皆 帰った後だったと見え、Aは依然として横になり呆然としていた。今まで嗅いでみたことのない怪しい 臭いが部屋に立ち込めていたのが酔いながらでも分かったな。〔…〕部屋が真っ暗だったから灯りを点 けようと思ってマッチを手探りしていたんだが、その手が A のめっきり痩せた腕に触れた。何だかい い気はしなかったな。それにAはいつものように灯りを点けさせてくれず話もせず、俺〔P〕が話すの にも答えてくれなかった。〔…〕389

また

A

自身までもが「K、お前がよく知っているように俺は「厭人症」の人間だし、も ちろん女に対してもすごく憎悪を感じているんだ」390と言っていることから、A の非社交 的で「厭人症」な性格は彼自身も認めるほどの目立った特徴であることが分かる。このよ うな性格の特徴と「沈黙主義」者としての姿は、前節で見た短編小説四作品の中の知識人 男性主人公らが見せていた陰気で孤独な姿とよく類似しているばかりでなく、安懐南自身 が自らを無口な人間と考えていたことにも通じるものでもある。

次に特徴的な

A

の性格の特徴として「センチメンタル」で悲観的な側面を挙げることが できる。まずは彼が少年期に聖淑と生き別れた痛ましい記憶を習作として小説化したり、

あるいは日記に書き留めたりしたことがあったという話を

K

に聞かせている以下の場面か ら見てみることにする。

(60)〔…〕그것은네가비평한바와가티 퍽도 「센티멘탈」하고 염세적(厭世的)이엇다 하나나는이속 에서만 위안을엇고살엇든것이다

그러나일변시시때때 성숙이가 안타까웁게도생각낫스니 어느날 나는일긔(日記)책에다가 이러한감 상을써노엇다

「봇도랑물이 흘으고흘으다가 우연(偶然)이라는커다란바위에 부닷치고마럿다 그래서그것은지금 두갈래로흘은다 하나는동편으로 하나는서편으로 그것은흘러갈수록점점 멀어간다 하나는 동해(東

389‘寂滅’前掲書、1932128日付

390‘寂滅’前掲書、19321121日付

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