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道化師など様々であり、聖母への祈りのテクストの内容とは無関係と思われ、形象アルファベットはここ では物語イニシアルではなく、ゴシック写本のバ・ド・パージュと同様にドロレリーとなっている。イニ シアルの形体は単に芸術上の自己目的となり、書物の内容を挿絵的に図解する、或いはそこから連想され る内容を想起させる、即ち読解の為の指標という機能としてのイニシアル芸術は幕を下ろしたのである77。  

  古代末期に誕生したイニシアルは、次第に鳥や魚というモティーフを得て、プレ・カロリング期の写本 芸術、即ちインスラーやメロヴィング朝期の写本でそれぞれ、図像を包囲するイニシアルと形象イニシア ルという二つの物語イニシアルの形式によって、図像と文字との共生に成功した。その双方の潮流を組む のが本写本《コルビー詩編》であり、加えて人物像の棲み込む唐草を起源とするイニシアルや、カレイド スコープのように変化する形象イニシアル、そしてオム・アルカードのように機能するイニシアル等、人 物と文字との共生を可能にする装飾システムを多様に発展させていた。本写本で示されたこの多彩な装飾 語彙はカロリング朝期には決して流行はしなかったものの、紀元千年前後の西欧各地のイニシアルを経て、

ペヒトやポルシェ、ノルデンファルクが正しく指摘したように、ロマネスク写本に於いて十二分に開花す ることとなった。ゴシック期に入ると、文字と絵の共生、装飾と文字との融合という点で物語イニシアル は衰退を見せた。像は枠組みの中で自由に動くか、或いは支持体に密集し始め、黎明期の《コルビー詩編》

で成功していた、再現的要素と装飾的構造体との均衡は失われたのである。

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  前節で論じた通り、《コルビー詩編》は先行する時代の写本芸術で成立したイニシアルの装飾語彙、即ち 図像を包囲するイニシアルと形象イニシアルという2つの系統の形式を取り入れた。それは、詩編内容を 想起させる図像を持つ物語イニシアルや、様々な装飾イニシアルを展開し、後のオットー朝芸術を経て開 花したロマネスク美術の基本形となった。しかし同写本ではメロヴィング朝やインスラーの写本と比較す ると、特に物語イニシアルではその装飾方法が複雑化し、系譜の異なる装飾形式を一つのイニシアルのう ちに併用する例も見られる。本節では、《コルビー詩編》の全156点のイニシアルをその装飾形式別に分類 し、先行するイニシアルの装飾語彙をどのように受け継いでいるのかをより具体的に論じる。

1)  全身像を開口部に表すアンシャル体のイニシアル D 

  人物の全身像を文字の開口部に表す形式のイニシアルであり、図像を包囲するイニシアルの基本形であ る。このタイプに分類されるのは、以下の3点のイニシアルである。

・第7編イニシアルD(fol. 6r, 図3-128)

・第21編イニシアルD(fol. 18v, 図3-129)

・第101編イニシアルD(fol. 82r, 図3-130)

  上記のうち、第7編イニシアルDのみが、リボンの形作るイニシアルの楕円形の開口部に旧約聖書のダ ヴィデ伝「ライオンと闘うダヴィデ」の場面を表しており、図像を包囲する形式の物語イニシアルの最初 期の作例である8世紀第2四半期のインスラー写本《ヴェスパシアン詩編》の第52編の第52編イニシア

ル D(図 3-131)と類似している。但し《コルビー詩編》では、人物像も四足獣も側面観で表され、文字

の開口部に対してこれらの形象モティーフの占める割合が大きくなっている。アンシャル体のイニシアル Dの楕円形の開口部に形象モティーフを表すという例は、同じく8世紀前半のインスラー写本《ハミルト ン詩編》の第101編イニシアルD(図3-132)にも見られ、ここではそのリボンの一端が鳥頭或いは獣頭 となっている点も共通している。リボン状モティーフによるアンシャル体のDは、インスラーの彩飾写本 で多く見られるものである。

  これに対して第21編と第101編のイニシアルは、開口部は楕円形ではなく正円形をしており、アセンダ ーとして幾何学形体が取り付けられいる。第21編ではアセンダーの先にもう一つの円形の枠があり、その 開口部から人物の手が差し出されているのが観察出来るが、羊皮紙の端が切り取られている為に制作当初 の図像を復元することは出来ない。第101編でもアセンダーの中に四足獣の身体が見えるが、頭の部分で 見切れてしまっている。

2)  胸像を開口部に表すイニシアル 

人物像の胸像を開口部に表すイニシアルである。上述の全身像を表すものと同様に、楕円形によるものと 正円形によるものの2つがある。

・第3編イニシアルD(fol. 3v, 図3-133)

・第8編イニシアルD(fol. 7r, 図3-134)

・第26編イニシアルD(fol. 22v, 図3-135)

・第71編イニシアルD(fol. 63r, 図3-136)

・第6 編イニシアルD(fol. 5v, 図3-137)

・第46編イニシアルO(fol. 41v, 図3-138)

  このうち第3編、第8編の2点が、第7編の「ライオンと闘うダヴィデ」(図3-128)と同様、緑色のリ ボンを文字体とした開口部を持つ。《ヴェスパシアン詩編》の第52編イニシアルD(図3-131)では枠取

りである文字体と開口部に著された図像とが別個のものとして扱われていたが、ここではリボンの一端は それぞれ手と鳥のモティーフへと変化し、その一部が開口部に表された人物のニンブスに接している。

  第26編、第71編、第6編、第46編では正円形のメダイヨンを枠とし、その開口部に胸像が表されてい る。第26編、第71編では、開口部に示されるのは第3編、第8編と同様に正面観の修道士或いはキリス トの胸像だが、第6編、第46編ではそれぞれ、四分の三面観で天使と対話する人物像或いは両手を広げオ ランスの仕草を見せる人物像である。

  文字の開口部に人物像を胸像で表すという形式は、《ヴェスパシアン詩編》と並んで物語イニシアルの最 初期の作例とされる、『イギリス教会史』写本(サンクトペテルブルク、国立図書館、Lat. Q v I 18)の聖ア ウグスティヌス像(図 3-139)が先例として挙げられる他、ローマ或いはその周辺で成立したと思われる

『説教集』写本78(ヴァティカン、教皇庁図書館、Vat. lat. 3836)のイニシアルP(図3-140)にも見られ、

インスラーだけではなく、カロリング朝初期迄には大陸でも知られていた形式といえる。8 世紀末の写本

《ジェローヌの典礼書》(パリ、国立図書館、Ms. lat. 12048)では、鳥を伴うキリストの胸像を表すイニシ

アルO(図3-141)や、神の手と三人の人物の頭部を開口部に持つイニシアルO(図3-142)が表されてお

り、9世紀初頭の《ケルズの書》(ダブリン、トリニティ・カレッジ、Ms. 58)では、オランスを示す天使 がイニシアルOの開口部に示されている(図3-143)。開口部に表される形象モティーフは、《コルビー詩 編》が制作される頃迄には多様化していたようである。

  第26編、第71編、第6編のイニシアルでは、アセンダー部分は神の手のモティーフや天使によって構 成されており、形象イニシアルとしての特徴も部分的に備えているといえる。アンシャル体のイニシアル Dのアセンダーを形象モティーフで代替する例は、《ジェローヌの典礼書》のイニシアルD(図3-144)に その萌芽を見ることが出来る。ここではイニシアルDのアセンダーは組紐文と犬頭を取り付けることで構 成されている。

3)    二つの開口部に図像を持つイニシアル B 

  図像を閉じるイニシアルのうち、上下二段の二つの開口部に人物像による図像表現を持つイニシアルで あり、必然的に大文字のBを用いたものになる。以下6点がこれに数えられる。

・第1編イニシアルB(fol. 1v, 図3-145)

・3人のヘブライ青年のカンティクム イニシアルB(fol. 134v, 図3-146)

・ザカリアのカンティクム イニシアルB(fol. 136r, 図3-147)

・第143編イニシアルB(fol. 118v, 図3-148)

・第33編イニシアルB(fol. 28v, 図3-149)

・第103編イニシアルB(fol. 84v, 図3-150)

78 同写本については、以下の論文がある。OSBORNE, John: The Use of Painted Initials by Greek and Latin Scriptoria in Carolingian Rome, in: Gesta, 29/1, 1990, 76-85.

  第1編では、上下双方の開口部に全身像による人物像が表わされている。上段の著者像ではダヴィデが 足を文字の枠にかけており、開口部に表されたモティーフの一部が文字体より手前に置かれていることに なる。他方、下段の天使の翼は文字体の枠と重なり、枠の向こうに翼が透けているように描かれている。

文字の前後に浅い空間の層が意識されていることが分かる。これに対して、3 人のヘブライ青年のカンテ ィクムのイニシアルでは、上段の天使も、下段の暖炉の中の3人の青年も、枠から突出することなく開口 部内に収められている。上段の天使は両手や膝、足先、そして翼でボウルの半円に内接し、下段では殆ど 隙間なく暖炉の石で開口部が埋め尽くされている為に、文字とその内部に表された形象モティーフは、完 全に同一平面上にあるような印象を与えている。

  ザカリアのカンティクムと第143編では、上段には人物の胸像が、下段には全身像が描かれている。ザ カリアのカンティクムの下段では、天使のニンブスやザカリアの足が枠の上に重なっている一方、天使の 足は枠の下に重なっている。こうした描写は、イニシアルの大枠を先に描いた後に人物像で開口部を埋め るという、制作過程に於ける技術的な問題から発生したとも考えられるが、ここでも第1編イニシアルB と同様に、文字の前後に浅い空間層が生じている。こうした特徴から、《コルビー詩編》の図像を包囲する イニシアルでは、基本的な構造は文字体の形成する開口部に形象モティーフが表されるという形式をとっ ているものの、必ずしもヤコビ=ミアヴァルトが定義するように文字の枠によって図像が完全に閉じられ ているとは限らず、動物/人物の棲み込んだイニシアルに近い造形を示しているものもある。

  第33編、第103編では、上下の開口部双方にニンブスのある人物の胸像が表されている。第33編の下 段の修道士の胸像を除き、これらの人物は四分の三面観で向かって右手を向き、後続のテクストへと視線 を促している。左右対称な正円形や楕円形ではなく、柱身とボウルによって作られる文字の開口部に人物 像の胸像を表し、四分の三面観で後続のテクストを導く例は、《コルビー詩編》とほぼ同時期のイタリアで 成立したと思われる《ユウェニアヌス・コデックス79》(ローマ、ヴァリチェリアナ図書館、Cod. B 25/2)

のイニシアルP(図3-151)が知られている。

4)  開口部に全身像を持つ大文字のイニシアル D 

図像を包囲するイニシアルのうち、カピタリス・クワドラータによるものである。幾何学文から成る柱身 と、幾何学文或いは蛇状のモティーフによるボウルで文字を構成し、その開口部に全身の人物像を表す。

以下8点が挙げられる。

・第17編イニシアルD(fol. 14r, 図3-152)

・第20編イニシアルD(fol. 17v, 図3-153)

・第59編イニシアルD(fol. 52r, 図3-154)

79 《ユウェニアヌス・コデックス》については、以下の論文がある。MESSERER, Wilhelm: Zum Juvenianus-Codex der Biblioteca Vallicelliana, in: Miscellanea Bibliothecae Herzianae, München 1961, 58-68; ZONGHETTI, Alberto: Il codice di Gioveniano, in: Arte medievale, 4.2005, 2006, 1, 21-36.