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伝達比の定義

ドキュメント内 Microsoft Word - E-1-15v3.1.doc (ページ 31-36)

第2章 遊星歯車機構の速度の関係

1.2 伝達比の定義

規格で定められた歯車列の速度または歯数の比は上述のように歯車列の動きを扱うとき に十分な表現力を持っていない。そこで動力の流れの方向とは関係なく、また歯数の大小 を吟味しなくてもよい比率を考える。そのため歯車列の回転方向を考えた角速度の比で伝 達比を定義する。

さらに JIS で定義されている速度伝達比と区別するために、記号jで表すことにする。

そしてこれに添字をつけ、例えばj12のように表す。この添字の意味は添字第1項の1は 伝達比の分子の角速度を持つ要素を、第2項の2は分母の角速度を持つ要素をあらわす。

さらに角速度に正方向を定める。ここではスケルトン図において左方向から見て時計回転 方向を正とする。つまり角速度ベクトルを考えれば、スケルトン図において左から右に向 かう角速度ベクトルが正となる(図 2.2-2)。またこの伝達比の定義から次のような一連の関

24 係が導かれる。

j j j j

12 1 j

2

12 21 12

21

1 1

 

, , ・・・・・・・・・・・(2.1.5)

正方向

正方向

図2.2-2 速度の正方向

このように定義された伝達比を図2.2-1の機構に適用し、それぞれの歯数との関係を求め ると次のようになる。

j z

z j z

z j z

ab a z

b b a

bc b

c c b

cd c

d d c

     

, ,

・・・・・(2.1.6) 上式においてZb/Zに負符号がついているのは、ωは正負の値を持つため外歯歯車同士の かみ合いで回転方向が逆転することを示している。これを一対の歯車の組み合わせに対し てさらに一般的な形で歯数と伝達比の関係を示すと、

j z

12 z2

1

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.1.7)

(複号:+ 外歯歯車と内歯歯車の組み合わせ、- 外歯歯車同士の組み合わせ)

このjによる表現法を使えば歯車の大小、動力の伝達方向をあらかじめ決めなくても機 構の構成や、運動状態を解析できるので数学的に取り扱いやすくなる。遊星歯車機構を取 り扱っている文献にはここでのjと同じような考えを採用しながら i を用いて記述してい る例を見かける。しかしそれでは規格で定められた速度伝達比との区別がつかなくなり、

かえって紛らわしくなる。ここでjを用いたのは速度伝達比とその定義そのものが異なる ことをはっきりさせるためであり、それを伝達比と呼ぶことにした。

さて図2.2-1の歯車列の伝達比jは次のようにして決定される。

j

z z

z z

z z z z

ad a

d a b

b c

c d b

a c b

d c d a

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・(2.1.8)

これを伝達比の関係で示すと次のようになる。

25

j =j j j ad a b bc c d

消去できる部分 伝達比の添字の関係

つまり一連の歯車列の伝達比は、個々の歯車の伝達比の積で表され、速度が伝達される順 番に伝達比の積を記述したとき、先頭の添字と最後尾の添字の間は消去されることがわか る。規格の定義ではこのような形で定義できない。

26 2 のり付け法

2.1 考え方

トラクションドライブ式の遊星機構では接触部分での滑りは避けられない。そのため速 度変換要素の間での速度関係を簡単に定めることはできない。しかし、歯車で構成された 遊星歯車機構においては、速度が変換される要素の間では歯数で決まる速度変換比率は変 わることはなく、歯車列の構成が決まれば決定される。したがってここでは遊星機構とし てはトラクションドライブ式ではなく、歯車で構成された遊星歯車機構を対象とする。

まずこのように歯車で構成された遊星歯車機構の運動はその幾何学的関係で決めること ができるが、遊星運動をともなって速度関係は直感的に分かりにくくなる。そのために速 度の計算の為の手法にも幾つかの方法が考えられる。ここでは最初に遊星歯車機構の伝達 比を求める最も単純な方法であるのり付け法について述べる。、

この方法を図2.2-1に示す2K-H型の例で説明する。まずここで内歯歯車Iを固定し、太 陽歯車Sを回転した時、キャリアHの回転数を求める。この状態を考えるとき、最初にキ ャリアを固定した場合を考える。この状態は太陽歯車と内歯歯車が中間歯車でかみ合って いる状態に相当し、通常の歯車列になるので回転の比率は容易に求めることができる。す なわち太陽歯車Sが ns で回転すれば内歯歯車Iの回転はこの2個の歯車の歯数の比で決 り、回転方向は逆向きになるので、ni=-(zs/zi)nsである。

I

H

I

Z Z

Z

s i p

S S

図2.2-1 のり付け法を示す 2K-H型

次に各ピッチ点を「のり付け」して全体をni =(zs/zi)ns で正回転させると、この 二つの操作によって、内歯歯車は最初に逆転した分だけ、正回転方向に元に戻したので、

その回転は0になる。つまり固定したと同じ状態となる。しかしこの様な操作をしてもキ ャリアと遊星歯車の相対的な関係は乱されない。またこの時太陽歯車、キャリア共(zs/ zi)ns で同時に回転するので、太陽歯車の回転は、この2通りの操作後には(1+zs/z

i)ns となる。

これらの操作の状態を表2.2-1にしめす。ここで求めようとする値はキャリアHの回転を 太陽歯車の回転の比としてで解いた最下段の値で求められる。したがって伝達比としては 次式で表される。

27 n

n z z z

i s

s

s i

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2.2-1)

表 2.2-1 2K-H型ののり付け法

太陽歯車 内歯歯車 キャリア

キャリア固定 nsz

zsn

i

s

のり付け z

zs n

i s

z zsn

i s

z zs n

i s

計 (1z ) zs n

i

sz

zs n

i s

速度変換比率 1 0 z

z z

s

i s

(  )

この方法の特徴は遊星歯車機構をキャリアに固定することによって、通常の歯車列の状 態で速度の変換状態を考えることと、全体を相対的に動かない状態にしてキャリアを固定 して考えたときに動いた移動量を元に戻すことにある。このように全体をのり付けしたよ うな状態で反転運動を行わせることから、この方法をのり付け法と呼んでいる。

2.2 運動の重ね合わせ

のり付け法のような状態が成立するのは歯車のかみ合いが保たれていることが必要条件 である。そしてこの条件の下ではどのような経過を経て到達しても、目的とする状態と同 じ運動状態が実現できれば、その経過の途中の変位関係は重ね合わせることができる18。こ のような手続きを経ることの妥当性は、ここでは力を考えず変位だけを考えていることか ら次のように考えると理解しやすい。

まず電車の中で進行方向に歩いている人の単位時間内での動きを、地面から見たときど のように見えるかを考える。図 2.2-2 のように電車の1秒間の移動速度がSc、人のそれが Smとすれば、1秒後の地面に対する人の移動速度はSm+Scであることが直感的に理解で きるであろう。この直感はどのような論理で感じ取ったものだろうか。

このことは次のように考えたのではないかと思われる。つまり電車が止まっていて(Sc

=0)、人が1秒間にSm の距離歩いたとする。これは電車の中では電車の動きとは、無 関係に人の移動距離として車内では観測される。一方、人が立ち止まっていて(Sm=0)、

電車だけが1秒間にSc動いた場合に、この大きさは人の動きとは関係なく電車の地面に対 する移動距離として観測される。

18 力が作用している状態でも重ね合わせが可能であるかどうかは後に述べる。

28 S m

S m

S

c

S m + Sc

S = 0m S = 0

c

Sc (a)

(b)

(Ⅰ) (Ⅱ)

図2.2-2 運動の重ね合わせ

ここで1秒という時間を考えないで、その間に移動した距離だけを考えれば、人は車内 ではSm移動し、電車はSc移動したので、車内で歩いた人の地面に対する移動距離は 全体としてその和Sm+Sc となる。上で述べた直感はこの様な思考プロセスが裏にある。

そして遊星歯車機構ののり付け法はこの考え方からきている。

すなわちキャリアを固定して考えたのは、電車が止まっていて、人の動きだけに注目し た状態である。またキャリアを固定したことの意味はこの状態では遊星歯車機構が通常の 歯車列と同じ状態になり、歯車相互の運動が理解しやすいことからきている。そして歯車 全体の動きを止め、つまりのり付けして全体を動かしたのは人を静止さして電車の動きだ けに注目していることに相当する。ここでは電車とキャリアが同じ役割をしている。

なお上述の論理の中で重要な問題を脇に置いている。つまりここでは時間を無視して距 離だけを考えたことである。実は動きを分解した図2.2-2(b)の状態も(a)の状態も同 じ時間1秒の間に起こった事柄である。また(b)の状態で(I)の状態の後に(II)の状 態が起こったと考えているのでもない。(I)、(II)の状態は同時に起こっている。そし てこの状態は現実の動きではなく仮装の状態である。

したがってここに時間を持ち込むと地面に対する人の速度は秒速Sm+Scであり、電車の 中での人の速度は秒速Smである。これは電車に対する人の相対速度である。当然のことな がら電車の地面に対する速度は秒速Scとなる。

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