第3章 奢侈是認論と消費者概念の脱道徳化
M. プーヴィによれば、市場経済を中心とする新しい社会構造の発達に伴い、統治の原理 もまた変化しているという事実にデフォー(およびヒューム)は気づいており、その新た
とは、富裕という経済力、およびその経済力を獲得する途上で獲得された勤勉・節倹・信 用といった有徳な資質、この両方を兼ね備えた諸個人の集合である正真のジェントルマン 層が社会の中での牽引役を務めることで、その経済力の優位を規準とする階序が形成され るといった社会をその理念型とするものであったことが分かる。そして、このジェントル マン支配の社会にあっては、消費が、その秩序を形成するための枢要な機能を果たすこと となる。次にその論理を見ていく。
M.プーヴィによれば、市場経済を中心とする新しい社会構造の発達に伴い、統治の原理
5.借地農その他の地方住民、過不足なく暮らす人々 6.貧民層、厳しい暮らしの人々
7.困窮層、悲惨な状態にあり、生活が窮乏している人々
この階層区分の仕方について、P.J.コーフィールドは、「伝統的な社会階層区分ではなく、
デフォーは職業や所得水準、それに消費様式に基づいて実質的な区分をしている」(Corfield,
1991:115)点に注目している。梅津もまた、この同じ点を強調する(梅津,1999:8)。
川北が指摘するように、デフォーが目にした
18
世紀のイギリス社会では、「一方での所得 の高と質、他方での消費の型こそが社会的地位の基準」(川北,1983:275)とされたので ある。デフォーは、こうした貨幣経済における諸個人の経済的影響力に基づく階層的秩序 の再編過程という新たな社会秩序の出現を的確に把握していたといえる。経済力に裏打ちされた有能かつ有徳な諸個人による支配というものに、デフォーは新し い社会秩序の可能性を見ていた。その秩序の統治原理は、諸個人の行為の自由に基づくも のである。それはまた、経済活動の自由として、勤労を拡大し、消費を洗練化することで 社会の経済発展を主導する原動力ともなる(18)。この社会にあっては、富という経済力の優 位性を基準とする階層区分が諸個人の社会的地位を支配する。諸個人は、その消費の仕方 においてその優位性を顕示することが可能となる。ここに消費様式の差異によって成立す るひとつの社会秩序、すなわち、消費の階序という制度が構築されることとなるのである。
3.2.4. 小 括
以上、ここまでデフォーの奢侈論にまつわる議論の二面性について考察してきた。それ は、デフォーのジェントルマン論を導きの糸として、社会秩序との関係において、奢侈(消 費)についてのデフォーの所論を検討するものであった。そこからは、市場経済を中心と する新たなイギリス社会の枠組みにあって、諸個人の消費行為が道徳的および経済的な2 つの機能を併せもつことが明確になった。デフォーの奢侈論は消費のもつこの2つの社会 的機能の論理をひとつの社会理論として的確に捉えるものであることが論証できたと考え る。道徳論と経済論とは、デフォー思想の基底において経済発展論というかたちを取って 整合的に結びついている。というよりも、論理としての強固な連結は、むしろその奢侈論 の展開において最も顕著であるとさえいえる。デフォーは、奢侈という問題を考える中か ら、諸個人の消費行為を中心とする新たな社会秩序の構成原理を見出すこととなったので ある。
デフォーはその奢侈論において、経済論の中に道徳論を包摂する。そのことにより、デ フォーは奢侈の問題を消費論として論じることが可能となったといえる。このデフォーの 消費論は、18 世紀イギリスの経済思想史に照らしたとき、消費の議論における脱道徳化の 傾向を助長するものである。ただし、それは経済論から道徳論を完全に放棄するというこ とではなく、社会構造の変化が要請する新たな社会秩序の構築を模索する中で、経済論と 道徳論との整合的な接合を可能とするものである。デフォーの消費論は、諸個人の消費と いう経済行為のうちに、社会秩序の安定化に寄与する道徳的な規制力が作用する可能性を 見出すものである。