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第 4 章 実験装置と手法 77

4.9 マイクロモーションの補正

4.9.3 RF 光子相関法

蛍光スペクトルは補正の粗調には良い指標となるが,自然幅近くになるとスペク トルのパワー広がりに気をつける必要があり,一見しただけでは変化がわかりに くくなるので補正においては必ずしも最善の手法とは言い難い.そこで,広く用い られているマイクロモーションの補正手段としてRF光子相関法[98]を使用した.

RF光子相関法ではイオンに加えているRFの位相とイオンの蛍光が放出されるタ イミングの相関をマイクロモーションの補正に用いる.以下では使用した機器,手 法の原理,補正の結果等を示す.

TAC

RF光子相関法ではRFの位相と蛍光のタイミングの相関を取るので二つの信号 の時間差を測定する必要がある.そこでTACを用いて測定を行った.TAC(Time to Amplitude Converter,時間電圧変換器)とはスタートパルスとストップパルス の二つの信号の時間差に応じた電圧を出力するデバイスであり,実験ではacam 製の「AM-GPX」を用いた.

スタートパルスとしてPMTのフォトンパルスを入力し,ストップパルスとして RF信号のSYNC信号を入力とした.原理的にはスタートパルスとストップパルス

の入力は逆にしても構わない.しかしながら,ストップパルスにフォトンパルスを 用いるとRFが何周期した後にストップパルスが入るか不確定であり,一つの測定 ごとに時間のばらつきが大きくなり,解析がやや煩雑になる.一方でストップパル スにRFSYNC信号を用いれば,スタートパルスのフォトンパルスが入力されて から必ずRFの一周期以内にストップパルスが入り解析が容易となる.

信号の取得と相関ヒストグラムの作成

TAC信号を元にヒストグラムを作り,補正に使用した.ここでは具体的な実験手 順と相関ヒストグラムの作成方法について述べる.

イオントラップ中にイオンを一個から二,三個捕獲し,冷却する.このときのイ オンの個数は少ない方が,イオン結晶の広がりによるマイクロモーションの影響が 少なく理想的だが,イオン蛍光量とのトレードオフの関係である.冷却光は掃引せ ずに蛍光スペクトルの中腹あたりの離調に設定する.このとき離調が大きすぎると 蛍光量が少なくなりS/Nが悪くなり,離調が小さすぎると冷却効率が落ちてイオン 温度が上昇し,予期せぬ信号が得られたり,イオン加熱されイオントラップからロ スするため注意を要する.

TACから得られる時間差信号を典型的に3000回を取得し,RFの一周期につい て取得回数をヒストグラムに起こした.

相関ヒストグラムとマイクロモーション

図47(a), (b), (c)に典型的なヒストグラムを示した.横軸は信号の時間差を示し,

縦軸は頻度を示す.また点は測定データ点を示し,実線は正弦関数によるフィット を示す.二つの信号の時間差はすなわちRFの位相と蛍光が発せられるタイミング の相関を示す.

イオンの冷却光は共鳴から負に離調がつけられているのでドップラー効果により イオンの運動が冷却光の入射方向に向かって運動しているとき冷却光を吸収しや すくなり,逆方向に運動すると冷却光を吸収しにくくなる.このためマイクロモー ションが大きいと,イオンの冷却光の吸収,放出のタイミングはマイクロモーショ ンの影響を大きくうける.つまりマイクロモーションが大きいほどヒストグラムの 信号の振幅が大きくなり,マイクロモーションが補正されている点では相関が小さ くなる.マイクロモーションが最も補正されている点はイオンの運動に対するRF の影響が最も小さいところである.つまりRFと蛍光の相関が最も見られない場所

がマイクロモーション補正点である.

図 47(a), (c)の信号はRFとイオンの冷却光の散乱のに相関がみられるためマイ

クロモーションが大きい点である.また(a)と(c)では位相がおよそ 半周期 ずれて いるが,これはマイクロモーションの補正点であるRF電場鞍点の逆側で測定して いるため,マイクロモーションの位相が半周期ずれているためである.一方の(b) は相関がみられず,マイクロモーションの補正された点である.

図47(d)に電極に加える電圧を変化させたときのヒストグラムの振幅の変化を示

す.実線はフィッティングである.

図 47(d)のような測定をCOMPENSATION電極とGND電極の各電圧におけ

るヒストグラム振幅から行い,補正点を探した.マイクロモーションはRFでの閉 じ込めを行っているx-y 方向に生じる.一方で前述のようにRF光子相関法のマイ クロモーションに関する感度は冷却光の入射方向にのみ存在するので,x, y軸両方 について補正するために二方向から冷却光を入射し,それぞれヒストグラムによる 補正点の測定を行った.

47 RF光子相関ヒストグラム.(a), (b), (c)各外部電場でのRF光子相関ヒ ストグラム.(d)ヒストグラムの振幅の外部電場による変化.