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第 4 章 実験装置と手法 77

4.4 リチウム原子の冷却

4.4.5 原子線のコリメート

原子ソースからでた原子は細いノズルや小さい穴,あるいはゼーマン減速器の細 管を通過するので立体角は大きく制限されており,原子線の伝播方向以外の二方向 の速度成分は小さい.しかしながら原子線は少しづつ広がる.原子線の伝播方向以 外の速度を冷却し,膨らみを抑えるほうがより効果的に原子を捕獲できる.そこで キューブ型のチャンバーで原子線の伝播方向以外の二方向の速度を抑え原子線を平 行になるように補正した.図 20に原子線をコリメートした時の光学系を示す.約

10 mWの671 nmレーザー光をミラーで折り返すことにより二軸四方向から入射

した.入射した光は磁気光学トラップに用いた光と同様の離調である.

20 6Li原子線のコリメート.ゼーマン減速器を通過した原子線に対して4方 向から入射したレーザーを照射し,原子線の広がりを抑えてMOTへのローディ ング効率を上昇させた.原子線の伝搬先でMOTを行った.

磁気光学トラップの原理

磁気光学トラップ(MOT)とは3次元的に原子を冷却する手法であるオプティカ ルモラセスに四重極磁場を組み合わせることで原子に与える輻射圧に位置依存性を 与えたトラップ手法である.

アンチヘルムホルツコイルによってつくられる四重極磁場はコイルの中心におい て最小で,中心から離れるほどに磁場は強くなる.すなわち,原子はコイルの中心 から離れるほどに磁気副準位の分裂が大きくなる.この磁場中に存在する原子に対 して3軸の6方向からレーザーを照射する.このとき,レーザー周波数は原子の共 鳴線に対して負に離調することでドップラー冷却が行われる.ただし,MOTでは 入射レーザーを円偏光に設定しておき,偏光による遷移選択を用いる.すると中心 から離れる原子ほど輻射圧を受けるため原子を閉じ込めることができる.原理に関 しては例えば文献[111, 112]に詳しい.

コイル構成

MOTは原子の共鳴周波数に対して調整されたレーザーに加えて四重極磁場が必 要である.この四重極磁場は原子チャンバーの上下に準備したコイルペアに電流を 流すことで実現した.さらに蒸発冷却の際には効率的な熱平衡化を行うため均一磁 場を印加する必要がある.すなわちコイルペアは四重極磁場と均一磁場の両方を発 生させるために用いた.

こうしたコイルに要求されるスペックを考えてみる.実験に必要な四重極磁場は

30 G/cm程度の磁場勾配である.一方で均一磁場は蒸発冷却では300 G 程度必要

であり,本実験では行わなかったものの将来的に行いたいと考えているフェッシュ バッハ共鳴を考慮すると数百Gの磁場を印加できるスペックが望ましいと考えられ る.少ない電流量で大きな磁場を発生させるためにはコイルペアの距離を小さくす るほうが有利である.一方で均一磁場を印加するときに一般に用いられる手法とし てヘルムホルツ配置があげられる.これは二つのコイルを同軸上にコイルの半径だ け離して配置し,電流を同方向に流す手法のことである.以上のような要素を考慮 してコイルを設計した.

MOTを行った多角柱のチャンバーの高さを考慮し,コイル間距離は13 cmとし た.ヘルムホルツ配置を取るには直径26 cm程度のコイルを作る必要があるが,実 験に用いたコイルは直径25 cmとした.原子の磁場によるトラップの観点から考え

るとコイル間距離はむしろヘルムホルツ配置よりも近い方が有利である.しかしな がら,多角柱チャンバーから枝分かれした他のチャンバーとの干渉の関係から今回 はコイル間距離がヘルムホルツ配置から遠くなっている.

上記のような大きさのコイルは円筒形の太さ6 mmの銅なまし管で作製した.こ れは内径4 mmの穴が空いているが大電流を駆動した際,冷却水を流すためである.

また電流の駆動は制御コンピュータで行えるようにした.しかし,冷却水を流さず に大電流を流し続けると危険なため,冷却水の配管途中にフローメーターを取り付 け安全装置とした.銅なまし管は熱収縮チューブで覆って導通を防いだ上で23回 巻いてコイルを作製した.

電流の制御

作製したコイルに電流を流すための駆動回路について記述する.実験では大電流

を高速でON/OFFしたため,IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を用い

た.四重極磁場と均一磁場を一つのコイルペアで実現するために4つのIGBTを用 意し,切り替えることでコイルに互いに逆向きの電流と同じ向きの電流を作り出し 四重極磁場と均一磁場の発生を制御した.

MOTの光学配置

MOTに用いた光学系を示す.図 19中のMOT用ファイバーの出射をリポンプ 光を発生させるためにEOMで250 MHz の変調を加え,図 21(b)に示すように5 方向に分岐した.このうち一方向は前述の原子線をコリメートするために用い,一 つはフォトディテクターに入射し,MOT 光の強度をモニターするために用いた.

残り3つをMOTに使用した.図 21(a)は実際に構築した磁気光学トラップの配置 を示す.(b)に示した1, 2 , 3 の光を拡大した後,図 21(a)に示した3方向から 入射し,それぞれを折り返すことで6方向からの入射を実現した.また,四分の一 波長板(図中QWP)を通過させ,各入射に要求される円偏光を作り出した.また 図中の黒矢印はそれぞれのコイルに流した電流の方向を示す.

Compress MOT

通常のMOT は多数の原子を捕獲冷却することに重点を置いている.そのため,

レーザー周波数を最も冷却効率の良い離調よりも負に離調し,磁場勾配を緩やかにし ており,多数の原子を捕獲・冷却できるパラメータになっている.一方でCompress

21 MOTの配置.(a)MOTに使った光の分岐.(b)MOTの配置.(a)中の

1,2,3 のレーザーを拡大した上で各軸から入射した.円偏光は四分の一波長 板を使って制御した.四重極磁場を発生させるため黒矢印のようにコイルに互い に逆向きの電流を流した.八角柱のチャンバー中心部に冷却された原子が捕獲さ れた.

MOT(CMOT)は原子の密度を上昇させ,原子の温度をより低くすることに重点が

置かれている.

CMOTでは20 ms間に原子の冷却温度を下げるためMOT光の離調を30 MHz から6 MHzへ近づけ,また磁場勾配を20 G/cmから38 G/cmまで上昇させた.

こうして原子温度は下がり,密度は上昇するが,MOT光による加熱を回避するた め,MOT光の強度を下げた.また,EOMの変調周波数を変化させることでリポン

プ光の調整も同時に行い,基底状態|S1/2, F = 1/2の原子集団を光トラップに移行 させた.